どうやって引かれる点数が決まるの?
今回の記事では、交通違反による点数について、詳しく見ていこう。
目次
交通事故の違反点数とは
交通事故で生ずる法的責任
交通事故が発生すると、民事法上の責任、刑事法上の責任及び行政法上の責任が発生します。
民事法上の責任は損害賠償責任、刑事法上の責任は罰金や懲役刑などを指します。
そして、行政法上の責任は免許停止や免許取消などといったもので、法律用語では、行政処分(免許停止や免許取消は、行政処分の一種です。)と呼んでいます。
違反点数制度
そして、交通違反の違反点数制度は、交通事故に関する行政処分を課する際の基準として働くものです。
交通違反の内容や程度によって、加算される点数が決まっており、一定の点数に達すると免許停止や免許取消といった行政処分が課されます。
ちなみに、「点数が足りない」などと言って、違反点数が減点方式であるかのように話がなされることがありますが、実際は、加算方式です。
違反点数制度の仕組み
違反点数制度は、主に、
- 一般違反行為(信号無視・放置駐車違反等)の基礎点数
- 特定違反行為(酒酔い運転・ひき逃げ等)の基礎点数
- 交通事故を起こした場合の付加点数
- あて逃げ事故の場合の付加点数
からなっています。
なお、平成21年6月1日の道路交通法改正によって、悪質・危険な違反行為が「特定違反行為」と定められました。
そして、特定違反行為以外の違反行為は「一般違反行為」と定められています。
交通事故を起こした場合、基礎点数とその状況(過失の程度や被害者の被害の程度)に基づく付加点数よって、点数が決まります。
交通事故の違反点数-例
ここでは、前方不注視が原因で、追突事故が発生し、被害者に死傷が生じた場合の違反点数を例にとって、違反点数を計算してみましょう。
前方不注視で人身事故を起こした場合、運転者には、安全運転義務違反があると考えられます。
安全運転義務違反の基礎点数は2点となっています。
また、追突の場合、追突した運転者の過失が100%となることが多いので、違反行為者の「専ら」の不注意ということができると考えられます。
そして、被害者の負傷の程度ですが、治療期間15日未満(2週間まで)ということであれば、付加点が3点となります。
そうなると、合計5点の違反(以下「本件事例1」といいます。)ということになります。
仮に、被害者が死亡してしまった場合、付加点は20点となり、合計22点の違反(以下「本件事例2」といいます。)ということになります。
以下、主だった一般違反行為の基礎点、特定違反行為の基礎点、及び、交通事故における付加点をまとめた表をお示しします。
一般違反行為 |
点数 |
||
---|---|---|---|
酒気帯び運転(0.25mg以上) |
25 |
||
酒気帯び運転(0.15~0.24mg) |
13 |
||
過労運転等 |
25 |
||
無車検・無保険運行 |
6 |
||
横断歩行者等妨害等 |
2 |
||
信号無視 |
2 |
||
通行禁止違反 |
2 |
||
指定場所一時不停止等 |
2 |
||
速度違反 |
50km以上 |
12 |
|
一般道 |
30km以上50km未満 |
6 |
|
高速道等 |
40km以上50km未満 |
6 |
|
30km以上40km未満 |
3 |
||
25km以上30km未満 |
3 |
||
20km以上25km未満 |
2 |
||
20km未満 |
1 |
||
座席ベルト装着義務違反 |
1 |
特定違反行為 |
点数 |
---|---|
運転殺人等 |
62 |
運転傷害等 |
45~55 |
危険運転致死 |
62 |
危険運転致傷 |
45~55 |
酒酔い運転 |
35 |
麻薬等運転 |
35 |
救護義務違反 |
35 |
※運転殺人・傷害等とは、自動車等の運転に関し、人を死傷させ、又は建造物を損壊させる行為で、故意によるものを指します。
交通事故の種別(被害の程度) |
不注意の程度 |
点数 |
|
---|---|---|---|
死亡事故 |
専ら |
20 |
|
その他 |
13 |
||
重傷事故 |
治療期間3月以上又は後遺障害 |
専ら |
13 |
その他 |
9 |
||
治療期間30日以上3ヵ月未満 |
専ら |
9 |
|
その他 |
6 |
||
軽傷事故 |
治療期間15日以上30日未満 |
専ら |
6 |
その他 |
4 |
||
治療期間15日未満または建造物損壊 |
専ら |
3 |
|
その他 |
2 |
||
措置義務違反 物損(当て逃げ) |
5 |
※専らとは、交通事故が、専ら違反行為者の不注意によって発生しているものである場合を指します。
(表の引用:愛知県警 行政処分と点数制度)
違反点数と行政処分の内容
前歴があると、それだけ重い行政処分を受ける事になるんだ。
次に、違反点数と行政処分との関係をお話します。
免許停止や免許取消といった行政処分は、処分の対象となった違反又は交通事故の発生した日を基準日として、運転者の過去3年以内の免許停止等の処分回数(以下の表で「前歴」といいます。)及び累積点数によって決めます。
また、処分の対象となった違反が、特定違反行為であるか、又は、一般違反行為であるかによって、処分基準は区別されています。
以下の表に当てはめると、行政処分の内容が分かります。
上記の本件事例1と本件事例2を例として、検討してみます。
【本件事例1】
本件事例1は累積点数が5点です。
運転者が、今まで、免許停止や免許取消といった行政処分を受けていない(表でいうと、「前歴0回」となります。)場合は、行政処分はありません。
【本件事例2】
次に、本件事例2を検討しますが、本件事例2は累積点数が22点です。
22点となると、前歴があってもなくても、免許取消の行政処分が課されます。
仮に、今まで、免許停止や免許取消といった行政処分を受けていない(表でいうと、「前歴0回」となります。)場合は、前歴0回と累積点数22点を確認することになりますので、1年の免許取消の行政処分が課されるということになります。
これは、1年間、免許を取得できないという行政処分で、免許を取得できない1年間のことを欠格期間といいます。
ちなみに、欠格期間中、又は、欠格期間経過後5年以内に、本件事例2のような追突事故を起こした場合(一般違反行為)、その欠格期間は括弧書きの期間に延長されます。
つまり、3年の免許取消の行政処分となります。
前歴がある場合には、前歴の基となった違反行為の違反点数も加算されていくため、より重い行政処分となる可能性が高まります。
また、特定違反行為をした場合は、全て3年以上の免許取消の行政処分の対象となります。
特定違反行為は、悪質・危険な違反行為ですので、当然といえば当然ですが、ひき逃げで問題となる「救護義務違反」も特定違反行為の対象となっている(違反点数は35点です。)ので、その点は、注意が必要です。
1 一般違反行為に対する行政処分の基準点数
前歴 点数 |
0回 |
1回 |
2回 |
3回 |
4回以上 |
---|---|---|---|---|---|
1 |
- |
- |
- |
- |
- |
2 |
90 |
120 |
150 |
||
3 |
120 |
150 |
180 |
||
4 |
60 |
150 |
欠格1(3)年 |
欠格1(3)年 |
|
5 |
欠格1(3)年 |
||||
6 |
30 |
90 |
|||
7 |
|||||
8 |
120 |
||||
9 |
60 |
||||
10 |
欠格1(3)年 |
欠格2(4)年 |
欠格2(4)年 |
||
11 |
|||||
12 |
90 |
||||
13 |
|||||
14 |
|||||
15-19 |
欠格1(3)年 |
欠格2(4)年 |
|||
20-24 |
欠格2(4)年 |
欠格3(5)年 |
欠格3(5)年 |
||
25-29 |
欠格2(4)年 |
欠格3(5)年 |
欠格4(5)年 |
欠格4(5)年 |
|
30-34 |
欠格3(5)年 |
欠格4(5)年 |
欠格5年 |
欠格5年 |
|
35-39 |
欠格3(5)年 |
欠格4(5)年 |
欠格5年 |
||
40-44 |
欠格4(5)年 |
欠格5年 |
|||
45- |
欠格5年 |
※免許取消の行政処分を受けた者が、欠格期間中又はその後5年以内に、一般違反行為をして免許取消の行政処分の対象となった場合、その欠格期間は、括弧書きの期間内に延長されます。
また、違反者講習を受講しなかった者が、さらに一般違反行為をして、免許停止の行政処分の対象となる場合の免許停止期間は、上記の表に30日を加えた期間となります。
(表の引用:愛知県警 行政処分と点数制度)
2 特定違反行為に対する行政処分の基準点数
前歴 点数 |
0回 |
1回 |
2回 |
3回以上 |
---|---|---|---|---|
35-39 |
欠格3(5)年 |
欠格4(6)年 |
欠格5(7)年 |
欠格6(8)年 |
40-44 |
欠格4(6)年 |
欠格5(7)年 |
欠格6(8)年 |
欠格7(9)年 |
45-49 |
欠格5(7)年 |
欠格6(8)年 |
欠格7(9)年 |
欠格8(10)年 |
50-54 |
欠格6(8)年 |
欠格7(9)年 |
欠格8(10)年 |
欠格9(10)年 |
55-59 |
欠格7(9)年 |
欠格8(10)年 |
欠格9(10)年 |
欠格10年 |
60-64 |
欠格8(10)年 |
欠格9(10)年 |
欠格10年 |
|
65-69 |
欠格9(10)年 |
欠格10年 |
||
70- |
欠格10年 |
※免許取消の行政処分を受けた者が、欠格期間中又はその後5年以内に、特定違反行為をして免許取消の行政処分の対象となった場合、その欠格期間は、括弧書きの期間内に延長されます。
(表の引用:愛知県警 行政処分と点数制度)
累積点数の計算方法及び例外
原則、3年以内の違反点数
今までは、1回の交通事故を例にとって話をしてきました。
しかしながら、1回の交通事故や違反行為では、免許停止の行政処分の対象とはならなかったが、2回目の交通事故の違反点数を加算すると、免許停止の行政処分の対象となるという場合もあると思われます。
では、累積点数は、どの期間の違反点数を対象としているのでしょうか。
累積点数の対象期間は、原則3年です。
このことは、違反者講習を聞いたことがある人は知っているかもしれません。
ただ、原則というと分かるとおり、例外もあります。
違反点数計算の例外
累積点数については、無事故・無違反の運転者に対する特例があります。
内容は、次のようなものです。
なお、以下の1~3の期間は、免許を受けている期間を指し、免許停止期間がある場合には、免許停止期間は除きます。
- 1年以上、無事故・無違反であった場合、違反行為の点数を累積しません。
つまり、交通事故を1回起こしていたとしても、その後、1年間、無事故・無違反の場合には、違反点数については、累積せず、2回目の交通事故の違反点数を基に行政処分が決まるということになります。 - 2年以上、無事故・無違反であった運転者が、軽微な違反行為をし、さらにその違反行為の後3か月以上、無事故・無違反であった場合、その軽微な違反行為の点数は累積の対象とはなりません。
軽微な違反行為とは、違反点数が3点以下である違反行為のことを指します。
つまり、例えば、時間帯で通行禁止となっている道路(小学生の通学路等)を誤って通行してしまった場合、違反点数は2点(通行禁止違反)となります。
違反をしてしまった運転者が、通行禁止違反をした日の前2年間、無事故・無違反だった場合で、かつ、その日から3か月間、無事故・無違反だった場合は、通行禁止違反の違反点数はなくなるということになります。 - 免許停止の後に、1年以上、無事故・無違反であった場合、免許停止等の前歴は0回の者と同じ扱いとなります。
つまり、免許停止の後、1年間、無事故・無違反で、本件事例1の追突事故を起こした場合、前歴0回と累積点数5点と同じ扱いとなりますので、免許停止等の行政処分の対象とはならないということになります。
上記の1~3の内容は、あくまで違反点数制度との関係での扱いとなります。
実際の違反歴や事故歴は残りますので、その点は、勘違いしないようにして下さい。
違反点数の確認方法
自分の累積違反点数が気になる人は、確認する方法があります。
自動車安全運転センターに書面で申請することによって、「運転経歴に関する各種証明書」を送ってもらうことが可能です。
自動車安全運転センターで発行してもらえる証明書は、
- 無事故・無違反証明書
- 運転記録証明書
- 累積点数等証明書
- 運転免許経歴証明書
の4つがあります。
このうち、3.累積点数等証明書は、現在の違反点数等を確認することができます。
行政処分の軽減を希望する場合には
行政処分に納得できない場合には、弁護士に相談するのがオススメだね。
免許停止の行政処分が90日以上となる(免許取消も含みます。)場合、意見聴取の機会が与えられます。
この際、免許停止等の行政処分を受ける可能性のある人は、口頭や書面で意見を述べたり、証拠を提出することができます。
90日以上の免許停止の行政処分は重い処分となりますので、行政処分を受ける人に意見や証拠を提出する機会を与えることによって、処分が公正に行われるようにという趣旨です。
意見聴取については、あくまで機会であって、意見聴取の機会に出席しなかった場合、再度の意見聴取の機会が設けられることはありませんので、注意をしてください。
なお、意見聴取の日程を変更してもらうこと自体は可能です。
意見聴取の際、弁護士が同席することも可能ですし、弁護士が代理人として出席することも可能です。
当職も、同席をしたことがあります。
その事案では、高速道路での速度超過が問題となっていたのですが、煽り運転の被害を受けており、危険な運転者から逃れるために速度を上げたことを主張・立証して、処分が軽減されたという経験があります。
また、行政処分を受けた後に、当該行政処分に不服がある場合には、都道府県の公安委員会への審査請求や裁判所に対する行政処分の取消訴訟といった手段があります。
行政処分に納得ができず、適切な証拠等がある場合には、弁護士に相談して、対応してもらうのも良いと思います。
阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。