今回の記事では、交通事故における請求書や領収書の書き方や、必要なケースについて、詳しくみていこう。
目次
交通事故における請求書とは
請求書
交通事故において請求書という言葉を使うことがありますが、この場合における請求書も、日常用語における請求書とほぼ同じ意味であると理解していただいて大丈夫です。
交通事故の場合、被害者が被った損害を加害者、加害者の契約している損害保険会社、又は、加害者の代理人弁護士などに請求する場合に請求書を出します。
交通事故の請求書には、一部の損害項目のみ(例えば、既に発生した休業損害のみ)記載することもありますし、損害全体を記載することもあります(治療費、休業損害、通院交通費、慰謝料等)。
請求書が必要なケースとは
被害者が加害者の契約している任意保険会社に損害を請求する場合、敢えて請求書を作成するケースは多くないかもしれません。
損害保険会社は、損害項目ごとの損害をまとめるためのひな形などを準備しており、そのひな形自体が、実質的に損害項目ごとの請求書の役割を果たしているからです。
また、被害者が加害者の契約している自賠責保険会社に対して損害を請求する場合も、決まったひな形があり、被害者が取り立てて請求書などを作成する必要はありません。
では、請求書が必要なケースとはどのような場合でしょうか。
一つ挙げるとすれば、加害者本人を相手にする場合です。
自賠責保険や任意保険に加入していない加害者を相手にする場合には、事実上、上記のような保険会社のひな形を使用することができないので、被害者が損害についての請求書を作成することになります。
また、上記で損害保険会社(任意保険、自賠責保険)に損害を請求する際には、請求書を発行する機会は多くないと述べましたが、請求金額等を明確にするために、請求書を作成することはあります。
請求書を作成するタイミングは
では、請求書はどのようなタイミングで作成するのでしょうか。
回答としては、被害者が交通事故の損害を加害者等に請求するタイミングということになります。
請求書は、被害者が加害者等に対して損害を請求する意思を示すものですので、時期に制限はありません。
特に、損害が確定した時点以後でなければ発行してはいけないといった決まりもありません。
実務的にも、勤務先に休業損害証明書を作成してもらった月ごとに休業損害を請求するということがあります。
ただし、請求書の管理をせずに請求書を発行し続けていると、本来の損害額との確認ができなくなったり、過不足が生じたりすることもありますので、複数の請求書を発行する場合には、きちんと管理しておくことが重要です。
なお、示談書を交わすと、被害者は、示談書を交わした後は、損害を請求できなくなります。
ですので、示談書は、被害者の損害が確定した後に交わす必要があります。
被害者の損害が確定したとは、具体的には、後遺傷害等級認定を行って、後遺障害の等級が確定した段階(非該当が確定した段階も同じです。)となります。
請求書に記載する内容
かかった治療費の領収書の添付も忘れないようにしよう。
項目内容
交通事故において請求書を作成する場合は、請求する内容を明確にする必要があります。
治療費、休業損害、通院交通費、慰謝料等、どの損害項目を請求しているのかを明確にする必要があります。
ただし、明確にどの項目に当てはまるのか分からない場合には、その他といった項目で請求をすることは可能です。
また、損害項目ごとに請求する場合には、資料を添付しなければ、加害者等が請求された損害内容を確認することができません。
資料の例を挙げると、治療費でいうと治療費の領収書、診断書や診療報酬明細書があります。休業損害でいうと休業損害証明書があります。
送付の方法
請求書を送付する方法は、特に制限はありません。
郵送、メール、FAX等、いずれの方法でも加害者等にきちんと伝われば問題はありません。
ただし、後述のとおり、交通事故の損害賠償にも消滅時効がありますので、消滅時効の完成が近づいている時には、内容証明郵便を使用して請求書を送ることが良いでしょう。
消滅時効の完成が近づいている場合の請求書作成上の注意
交通事故の損害賠償は、法律上、不法行為に基づく損害賠償請求といって、民法724条及び724条の2に消滅時効の期間が定められています。
消滅時効の期間は、原則、次の表のとおりです。
損害の内容 |
消滅時効の期間 |
物損 |
事故日の翌日から3年 |
傷害を伴う事故 |
事故日の翌日から5年 |
後遺障害を伴う事故 |
症状固定日の翌日から5年 |
死亡事故 |
死亡の日の翌日から5年 |
ただし、上記表は、あくまで加害者が明確になっている場合の消滅時効期間となります。
ひき逃げなど、加害者が明確になっていない場合には、加害者が明確になった日の翌日から消滅時効が進行します。
なお、交通事故が発生してから20年が経過すると、加害者不明の場合にも消滅時効が完成します。
消滅時効が完成すると、法律上、被害者は、加害者に対して、交通事故の損害賠償請求をすることができなくなります。
法律上、大きな効果となりますので、十分に注意が必要です。
消滅時効との関係で、請求書が法律上、効力を生じる場面があります。
消滅時効が完成する6か月前の時点から消滅時効完成の前日までの間に、交通事故の損害に関する請求書が加害者に到達すると、請求書に記載された内容に関して、消滅時効の完成が猶予されるという効果が発生します。
端的にいうと、最長、消滅時効の完成が6か月延びるということになります。
この延びた期間を利用して、弁護士に相談するなりして対応をすることが可能になるかと思います。
ただし、その場合は、加害者等に請求書がきちんと到達したことを証明しなければなりません。
ですので、消滅時効の完成が近づいている場合には、内容証明郵便を利用するなどして、明確に請求内容及び加害者等への到着日を確認できるようにした方が良いでしょう。
交通事故における領収書とは
領収書が必要なケースとは
交通事故における領収書も、日常用語における領収書と同じ意味です。
ここでは、交通事故の損害について金銭を受け取ったときに、被害者が発行する領収書のことを指すとお考え下さい。
損害保険会社を相手にしている場合、領収書が必要なケースは、ほとんどありません。
示談書をきちんと交わしますし、損害賠償金(損害保険会社からすれば保険金)も、銀行振込でなされますので、きちんと証拠が残ります。
領収書が必要なケースは、請求書同様、加害者本人を相手にする場合になるでしょう。
領収書は、支払った支払わないという争いが生じることを予防することができます。
加害者本人を相手にする場合には、被害者にとって、少し負担になるかもしれませんが、領収書を発行し、上記争いが起きないようにした方が良いでしょう。
領収書の書き方は
領収書の書き方には、特に決まりはありませんし、フォーマットも特に決まりはありません。
ただし、領収書を書く際には、少なくとも、何に対して、いくら受領したのかを明確にする必要があります。
交通事故でいえば、〇年〇月〇日発生の交通事故であること(可能であれば、発生場所や当事者も記載するとより特定できます。)、交通事故の損害賠償金としていくら受領したこと(損害項目ごとの金額を明記できればより良いです。)を記載することとなります。
また、形式面として、受領した日、受領した人(被害者となります。)の署名・捺印や住所等を記載することになろうかと思います。
領収書には印紙税は課税されるのか
交通事故に関する領収書は、営業を行っていない個人に関して印紙税が課税されないことが多いと考えられます。
しかしながら、損害賠償の形をとっても、実質的に売上と評価できる場合や資産の譲渡と評価できる場合などは印紙税が課税されることがあります。
例えば、個人事業主の方が営業に関わる自動車などで被害を受けた場合については、課税される可能性がありますので、心配な方は税理士にご相談することをお勧めします。
なお、印紙税は、印紙税課税の要件を満たしたうえで、領収金額が5万円以上の場合に課税されます。ま
た、紙で発行されたものに課税されますので、その点もご留意ください(データで発行したものは課税対象になりません)。
交通事故の損害賠償は課税されるのか
損害賠償は、あくまでマイナスをゼロにするためのものなので、課税されないのが原則なります。
ただし、内容によっては、所得税の課税や相続税の課税があり得るので、心配な方は、税理士に相談することをお勧めします。
交通事故の請求書は専門家に依頼
弁護士に依頼することで、慰謝料アップを期待できるよ。
上記のとおり、交通事故の請求書は、複数発行する際にはきちんと管理する必要がありますし、損害項目を明記して請求することになります(実際に請求する項目をどう振り分けるかの知識等も必要となります)。
また、消滅時効の完成が迫っている場合、適切に請求書を送る必要もあります。
そういった観点からすると、交通事故の請求書を作成するのは、弁護士等の専門家に依頼するのが良いと思われます。
なお、弁護士に依頼すると、被害者が気付いていなかった損害や慰謝料等の損害額自体が上がるという可能性もあります。
阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。