今回の記事では、火山噴火による交通事故の過失割合について、詳しく見ていこう。
目次
火山噴火は自然災害
火山の噴火は、人間が予期できないものです。
基本的に火山の噴火は自然災害として扱われます。
では、火山の噴火がきっかけで交通事故が起きた場合、過失割合はどのようになるでしょうか。
火山の噴火が直接の原因、例えば、火山岩塊が車に当たって、その影響で他の車に接触した場合などは不可抗力として扱われると考えられます。
その場合、損害を被った人が自分の車の修理費を負担することとなり、他人に損害賠償請求することはできません。
それに対し、火山の噴火の影響がそれほど大きくない場合、例えば、日常的に火山灰が降る地域において、少量の火山灰が道路に積もっていたために思うように車を止められず、追突してしまったような場合は、通常の交通事故における過失と変わらないと考えられます。
この場合、追突事故ですので、追突した車両の運転者が100%の過失となります。
なお、火山が噴火している中で車を運転するのは止めた方が良いというのは言うまでもありません。
噴火が原因で事故が起きた場合の注意点
火山の噴火が原因で車に損害が発生したり、事故が起きた場合に注意すべきことは、原則として任意保険が使用できないという点です。
多くの任意保険では、噴火を原因とする損害や事故を補償の対象外としています。
噴火が損害保険の対象外となっている理由は、噴火による損害が甚大なものとなる可能性があり、損害保険会社で補償しきれないという点にあります。
ですので、火山礫が直接の原因でフロントガラスが割れた、ボディが凹んだなどといった車の損傷などは車両保険で修理することはできません。
ただし、一部の特約で火山の噴火を補償の対象とすることができるものもありますので、希望する方は、特約を付してみても良いかもしれません。
噴火による交通事故の過失割合を考えてみる
火山岩塊を避けるために事故を起こしてしまった場合
では、仮に、火山によって飛んできた火山岩塊を避けるために車のハンドルを大きく切ったことによって他の車に接触してしまった場合、接触させた車の運転者と接触された車の運転者との過失割合はどのようになるでしょうか。
火山岩塊は直径64ミリメートル以上とされており、非常に大きなものもあります。
火山岩塊が人や車に衝突した場合、致命傷になりかねません。
そのため、火山岩塊を避けるために車のハンドルを大きく切って、他の車に接触してしまった場合、緊急避難と評価される可能性が高いものと考えられます。
民法における緊急避難は、自分や他人の生命・身体などの利益を守るためにやむを得ずした行為について損害賠償責任を負わないというものです。
緊急避難が成立する場合、接触させた車の運転者の過失や損害賠償責任は問われないこととなります。
結果として、接触された車の運転者は、自分の車の修理費等を自分で負担しなければならなくなります。
緊急避難は、回避行動(ここでは、車のハンドルを大きく切ったこと)が適切な場合に成立します。
では、回避行動が適切ではなかった場合(車のハンドルを切らなくとも、火山岩塊が車に当たることはなかった場合など)はどうでしょうか。
これは事故状況によってケースバイケースだと考えられます。
火山岩塊が車の相当遠くに落ちており、通常の運転手であればハンドルを切ることもないような状況であれば、通常の事故と同様の過失割合と評価されることもあるでしょう。
火山灰による視界不良で追突事故を起こしてしまった場合
火山灰が空気中に漂っている場合、視界が非常に悪くなります。
ただ、火山灰に限らず、台風や吹雪などでも視界不良となることはあります。
火山灰による視界不良を台風や吹雪による視界不良と別に取り扱う必要はなく、過失割合においては同様に扱われると考えられます。
例えば、火山灰による視界不良で追突事故を起こしてしまった場合、追突した車の運転者の過失は90%となる可能性があります。
つまり、通常の追突事故(追突した車の運転者の過失は100%)よりも10%過失が減る可能性があることになります。

阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。