今回の記事では自賠責保険の過失割合について、詳しく説明するね。
多くの交通事故は,当事者双方の過失があって起きますが,この事故の結果に対する当事者の責任の割合を「過失割合」といいます。
被害者側の過失が大きい場合には,加害者側から受けられる賠償額も大きく減額されることになります。
では,加害者側からではなく,自賠責からの補償についても,同様に過失割合によって減額されるのでしょうか?
以下で,ご説明します。
目次
自賠責保険とは
任意保険とどう違うの?
交通事故の最低限の補償を受けることができる保険なんだ。
車の所有者は全員加入
自賠責保険とは
『自賠責保険(共済)』とは,自動車損害賠償保障法で定められている自動車損害賠償責任保険(自動車損害賠償責任共済)をいいます。
これは,自動車の事故よって怪我などをされた被害者の被害救済が図れるように,原則としてすべての自動者が契約(加入)することになっております。
そのため,別名「強制保険」といいます。
強制であるため,加入していないと車検が通らず,公道を走行することはできませんし,その状態で走行した場合には無保険運転となり「1年以下の懲役,または50万円以下の罰金」が課せられます。
自賠責保険による補償の内容
自賠責保険で補償されるのは,人身損害だけです。
そのため,任意保険のように,自動車が壊れた,所持品が壊れた等の物的損害については補償されません。
では,具体的にどのような損害が補償されるのでしょうか。
補償される内容は,大きく以下の3つに分かれます。
傷害による損害 |
事故により怪我をされた場合の治療費,通院交通費,休業損害,慰謝料などが補償されます。 |
後遺障害による損害 |
事故が原因で後遺障害が残ってしまったという場合に,慰謝料や逸失利益などが補償されます。 |
死亡による損害 |
事故により死亡したという場合に,葬儀費や逸失利益などが補償されます。 |
自賠責保険から支払われる金額
では,自賠責保険からは,具体的にどの程度補償がされるのでしょうか。
自賠責保険は上で述べた3つの場合それぞれに支払限度額が決められており,さらに個々の損害額によって細かい支払基準が決められております。
【支払限度額(被害者1名あたり)】
①傷害による損害 120万円
②後遺障害による損害 後遺障害の程度によって異なります。
【神経系統の機能や精神,胸腹部臓器への著しい障害で介護を要する障害】
- 常時介護を要する場合(第1級)4,000万円
- 随時介護を要する場合(第2級)3,000万円
- 上記以外の後遺障害3,000万円(第1級)~75万円(第14級)
③死亡による損害3,000万円
種類 |
内容 |
支払限度額 |
①傷害による損害 |
怪我の治療費,通院交通費,休業損害,慰謝料など |
120万円 |
②後遺障害による損害 |
後遺障害慰謝料,逸失利益など |
後遺障害の程度によって,4,000万円~75万円 |
③死亡による損害 |
葬儀費,死亡慰謝料,逸失利益など |
3,000万円 |
このような基準のため,例えば,傷害の場合に治療費だけで120万円を超えてしまうようなケースでは,慰謝料などの補償は受けられないということになります。
自賠責保険は,加入が義務付けられた強制保険ですので,その補償内容も最低限度の補償額になっています。
自賠責保険における過失割合
自賠責保険の過失割合は誰が決めるのか
交通事故の過失割合は,誰がどのように決めるのでしょうか。
まず,過失割合は,被害者と加害者との交渉によって決められ,交渉によって話がまとまらない場合,最終的には裁判所が決定することになります。
その結果,過失があるということになれば,その過失の割合に応じて損害賠償額が減額されます。
(なお,加害者が任意保険に加入している場合,実際の交渉の窓口は任意保険会社になりますので,任意保険会社と交渉して過失割合を決めていくことになります。)
他方で,自賠責保険は,交通事故の被害者保護を目的として作られた公的な保険制度です。
そのため,当事者同士が交渉をして過失割合を決定するということはなく,被害者に重大な過失がある場合を除いて損害賠償額も減額されません。
この重大な過失があるか否かを判断について,まず事故内容を損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所が中立な立場で調査します。
その調査報告を受けて,自賠責保険会社が支払額を決定することになります。
さらに,重大な過失がありそうな場合には,上部機関である地区本部や損害保険料算出機構本部で審査されることになります。
自賠責保険における重過失減額
上でお伝えしたように,自賠責保険の場合は,被害者に重大な過失がある場合に損害賠償額が減額(重過失減額)されることになります。
では,具体的にどのような場合に,どの程度減額されるのでしょうか。
自賠責において,重過失減額がされる場合は,下の表のとおりです。
すなわち,被害者に7割以上10割未満(※1)の過失が認められる際には,後遺障害または死亡のケースは2~5割の減額,傷害のケースは2割減額(※2)されることになります。
過失割合 |
減額割合 |
|
後遺障害または死亡のケース |
傷害のケース |
|
7割未満 |
減額なし |
減額なし |
7割以上8割未満 |
2割減額 |
2割減額 |
8割以上9割未満 |
3割減額 |
|
9割以上10割未満 |
5割減額 |
※1被害者の過失割合が10割の場合は,保険金が支払われません。
※2傷害の場合は,20万円以下に減額されることはありません。
自賠責保険の過失割合に納得がいかない場合
だけど、自賠責保険審査会で決定された過失割合を覆すことは非常に難しいんだ。
自賠責が出した重過失減額という判断に納得ができない場合には,どうすれば良いのでしょうか。
不服がある場合には,自賠責保険会社に対して,異議申し立てが可能です。
この申立てがなされると,自賠責保険審査会という専門部門によって再審査されることになります。
この再審査の結果にも不服がある場合は,「一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構」という機関に調停斡旋を申し立てることが可能です(※)。
この機関の判断は,裁判外では最終的な判断になりますので,これを争うには裁判を行わざるを得ません。
もっとも,実際のところ,この機関の判断は,提出資料を十分に検討したうえで出されているものですので,この判断を裁判で争うのは相当難しいでしょう。
※厳密に申し上げると,異議申立てをして再審査を受けた後でないと,自賠責保険・共済紛争処理機構への紛争処理の調停の申請ができないわけではありません。
しかし,自賠責保険・共済紛争処理機構の判断は,裁判外では最終的な判断になってしまう関係で,異議申し立てを行わずに自賠責保険・共済紛争処理機構への申請をすると,できれば自賠責の異議申立てをしてから行って欲しいと要請されます。
まとめ
重大な過失がなければ補償を受けることができるとわかって安心したよ。
重大な過失に当てはまってしまうかも、と不安を感じている場合には、弁護士等専門家に相談してみよう。
- 自賠責保険は車の所有者すべてに加入が義務付けられた保険
- 自賠責保険は,人身損害(①傷害,②後遺障害,③死亡)の場合に補償を受けられる
- 自賠責保険は,支払限度額が決まっており,①傷害の場合は120万円,②後遺障害の場合は,後遺障害の程度によって75万円~4000万円,③死亡の場合は3000万円
- 自賠責保険の過失割合は,当事者同士で決めるのではなく,自賠責損害調査事務所の調査のもと自賠責保険会社が判断する
- 被害者に7割以上10割未満の過失が認められる際には,後遺障害または死亡のケースで2~5割の減額,傷害のケースで2割減額される
- 自賠責が出した重過失減額の判断に不服がある場合には,異議申立てや自賠責保険・共済紛争処理機構に調停斡旋を申し立てることが可能
伊倉吉宣
都内の法律事務所勤務を経て、2013年伊倉総合法律事務所を開設。
借金問題や残業代未払い問題など幅広い案件を担当するほか、企業法務全般を手掛ける。
「弁護士業=サービス業、お客様のご希望を第一に」を基本理念に掲げ、 敷居を下げ相談しやすい環境を整備すると共に、高品質なサービスの提供に力を入れている。
■略歴
2001年 司法書士試験合格
2002年 法政大学法学部法律学科卒業
2004年 中央大学法科大学院入学
2006年 中央大学法科大学院卒業
2006年 司法試験合格
2007年 弁護士登録
2013年 伊倉総合法律事務所開設
■登録番号
弁護士登録番号 36511
■所属弁護士会
第一東京弁護士会
■注力分野
企業法務全般,残業代請求その他労働紛争
債務整理
交通事故
■ご覧のみなさまへのメッセージ
交通事故における賠償請求の問題は、ある程度画一的な基準が用意されており、ご本人が請求するよりも、弁護士が請求した方が、その基準自体が高くなるので、金額的な面ではほぼ必ず得をします。
ご自分の保険に弁護士特約が付いている場合はもちろん、そうでない場合でも、弊事務所では完全成功報酬で対応可能ですし、最終的に、弁護士が入ったことによる上乗せ分が成功報酬を上回る、つまりお客様が損をしない報酬体系で対応させていただいております。
また弁護士への相談は事故直後、早ければ早いほど、その後の通院に関するご相談等にも乗れますので、最終的な結果は良くなると考えられます。
交通事故に遭われたら、まずはお気軽にお電話やメールでご相談いただければと思います。