今回の記事では、納車後すぐの交通事故で受け取れる賠償金について、チェックしていこう。
目次
納車直後の交通事故の場合、新車に変えてもらうことはできるのか
損害賠償は金銭賠償が原則
不法行為(交通事故も不法行為です。)に関する損害賠償に関する民法722条1項は、
「第417条の規定は、不法行為による損害賠償について準用する。」
と規定しています。
そして、準用元となっている民法417条は、
「損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。」
と規定しています。
同条は、金銭賠償の原則を定めていると理解されており、交通事故に代表される不法行為の損害は、金銭評価され、金銭で賠償されることが原則となっています。
なお、「別段の意思表示がないときは」との文言もありますが、交通事故に関する賠償は、実質的に保険会社が保険金をもって行うことがほとんどですので、実務上、別段の意思表示はないと理解していただいて差し支えないでしょう。
新車には変えてもらえない
上記で説明した金銭賠償の原則を踏まえると、損害は金銭で賠償してもらいます。
したがいまして、納車直後の交通事故といえども、加害者に対して、法律上、交通事故に遭った車両を新車に変えてもらうということはできません。
具体的な賠償方法
では、交通事故で車両が損傷した場合、どのように賠償してもらうことになるのでしょうか。
実務的には、交通事故で損傷した車両の修理費を見積もり、加害者に修理費相当額を支払ってもらうという形になります。
ちなみに、交通事故で損傷した車両を修理する必要があるのか(修理をした後でないと、修理費相当額の賠償をしてもらえないのか)という点は問題となりますが、あくまで損傷を受けたことが損害であり、修理費相当額は当該損害を金銭的に評価した内容ということになりますので、損害を賠償してもらうためには、必ずしも車両を修理する必要はありません。
ただし、実際に修理をしていない場合には、被害者が本当に損害を被ったのかという点に疑義が生じますので、実務的には車両を修理した後に賠償してもらう(あるいは、加害者の契約する保険会社が車両の修理をする車両工場に直接修理費を支払う)といった方法をとることが多いと思います。
どうしても新車が欲しいということであれば、賠償とは話が異なりますが、交通事故に遭った車両を業者に売却し、加害者から賠償してもらう金銭を加えて新車を購入する(不足する差額は被害者自身が補填するということになるかと思います。)ということになろうかと思います。
納車直後の車両が交通事故に遭った場合に受け取ることのできる損害賠償金とは
その他にも、修理期間中の代車費用も請求可能だよ。
修理費以外に評価損を請求することはできるか
上記「具体的な賠償方法」において、車両が交通事故で損傷した場合、修理費相当額を賠償してもらえるということを述べましたが、他に加害者から賠償してもらえる損害はあるのでしょうか。
評価損という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
交通事故によって損傷を受けた車両を修理したとしても、完全に交通事故前の状態と同じ状態に戻るとは限りません。
このような交通事故前後で生じた差を埋める損害項目が評価損といえるでしょう。
評価損は、技術上の評価損(修理をしても機能上、外観上に欠陥が残る場合の損害)や取引上の評価損(中古車市場において事故車が安く扱われていることによる損害)があります。
技術上の評価損は、実際に車両の機能や外観に欠陥が生じているため、比較的認められやすいです。
それに対し、取引上の評価損は、必ず認められるというわけではありません。
評価損が発生するかどうかの考慮要素としては、事故車両の車種(外国産車か国産車か、人気車種か否か)、初度登録からの期間、走行距離、損傷の部位や程度、修理の程度等といったもので、それらの事情を総合的に考慮します。
評価損が発生する基準の目安については、文献等にも記載はありますが、個別的な事情による判断といった要素が多いので、一概には言えません。
ただし、国産車よりも外国産車、初度登録が最近の車両、走行距離が少ない車両の方が、評価損が発生する可能性が高いということは言えます。
修理費以外に代車使用料を請求することはできるか
交通事故によって車両が損傷した場合、当該車両を使用できなくなることが多いと思われます。
そのため、代わりの車両を借りて使用する、代わりの車両を使用するための料金を支払うということがあります。
代車使用料の問題ですが、代車使用料はどのような場合に損害として認められるのでしょうか。
代車使用料が認められる基準の一つとして、仕事に必要なものか否かといったものがあります。
仕事のために車両を使用していた場合(営業車、通勤のための車両)には、代車使用料が認められます。
それに対し、プライベートで使用している車両の場合には代車使用料が認められません。
ただし、示談交渉において、保険会社が任意にプライベートの車両の代車使用料を認めてくれることもありますので、プライベートの車両であったとしても、代車使用料の交渉をする価値はあるかと思います。
また、代車使用料が認められるといっても、無限定に認められるわけではありません。
実務的には、代車使用が認められる期間も問題となります。
代車使用料が認められる期間は、交通事故で損傷した車両を修理する期間(修理が可能な場合)と言われています。
ただ、実際には、修理工場をどこにするのか、修理工場が修理費を見積もって、その後に車両の修理をするので、それらに要する期間と考えられます。
具体的な期間は2~3週間という程度でしょう。
なお、当職が担当した事案で過失割合に関する話し合いがつかないからといって、修理に着工せず、2か月も3か月も代車を使用していたといった事案がありましたが、さすがに使用していた全期間の代車使用料が認められることはありませんでした。
さらに、代車使用料は、代車の車格(実質的には代車使用料の日額)ということも問題となります。
例えば、交通事故で損傷した車両が軽自動車であるにもかかわらず、高級な外国産車(当然、代車使用料も高額)を代車として借りるというのは釣り合いが取れないでしょう。
多少の車格の違いは許容範囲となるにせよ、大幅に車格の高い代車を使用すると、代車使用料全額が認められないということがあります。
修理費以外に慰謝料を請求することはできるのか
思い入れのある車両であったり、納車直後の車両を交通事故で損傷された場合、被害者としては、加害者に対して慰謝料を請求したいという気持ちになることは分かります。
しかしながら、物損事故(車両等の物のみが損傷した交通事故)の場合、原則として、加害者に対する慰謝料請求権は発生しません。
例外としては、例えば、トラックが自宅に衝突して自宅を損傷し、住んでいた人の平穏な生活が侵害されたような場合です。
実質的に考えれば、物損事故と評価できないのかもしれません(物以外に自宅に住んでいた人たちが平穏な生活を脅かされています。)が、このような例外的な場合でない限り、物損事故では慰謝料は発生しないので、注意してください。
過去に評価損が認められた具体例
評価損を算出する方法としては、修理費を基準とするもの、事故当時の車両の時価額を基準とするもの、事情を勘案して金額を認定するもの、財団法人日本自動車査定協会等の査定等を参考にして決めたものなどがあります。
具体例としては、
- 国産車で初度登録から3年半程度経過しているものの、事故当時の時価額が230万円余り、修理費が190万円余りであることなどを考慮して、修理費の10%を評価損として認めたもの
- 納車から1週間後の高級車が損傷し、機能的な回復がなされていない可能性のあった事案において、修理費の50%を評価損として認めたもの
- 新車登録後2か月のベンツの修理費として55万円弱かかった事案について評価損として25万円を認めたもの
- 評価損として事故車両の時価額の10%である7万7000円余りを認めたもの
- 財団法人日本自動車査定協会の評価損の査定に従って評価損を認めたもの、同査定協会の評価損の査定とは異なる金額の評価損を認めたもの
といったものがあります。
評価損が認められる事案では、比較的、修理費の何%という形で評価されるものが多いように思われます。
割合については様々ですが、修理費の30%程度と言われることが多いように思います。
評価損が発生したと考えられる場合にどのように対応すれば良いか
評価損をつけてもらうためには、弁護士に相談してみよう。
裁判を起こすことで認められる可能性があるよ。
保険会社は評価損を認めないことが多い
示談交渉において、保険会社は、評価損が発生すると思われるような交通事故においても、評価損を認めないことが多いです。
保険会社として評価損を認めない理由は定かではありませんが、一つの理由として、他の損害項目についてはある程度明確な基準や証拠(修理費、レッカー代、代車使用料等の領収書)があるのに対して、評価損には他の項目に比べて明確とまでいえるような基準がなく、明確な証拠が少ないからということができると思います。
財団法人日本自動車査定協会の事故減価額証明書を提示する
財団法人日本自動車査定協会は、査定士による査定を実施しており、交通事故によって評価損が発生したと評価した場合には、事故減価額証明書を発行します。
上記で、保険会社が評価損を認めない理由の一つとして明確な証拠がないということを挙げましたが、事故減価額証明書を提示することによって、保険会社は評価損を認めてくれるでしょうか。
他の事情(高級車であったり、初度登録が最近の車両であったり、走行距離が少なかったり、修理費が高額といった場合等)と相まって、保険会社の担当者が上司を説得できる材料となるのであれば、保険会社も評価損を認める可能性はあるでしょう。
しかしながら、事故減価額証明書は、過去の裁判例において、必ずしも明確な根拠があるわけではないと判断されていることもあり、事故減価額証明書があるからといって、必ず保険会社が評価損を認めるということではないと考えています。
あくまで、事故減価額証明書は、一つの証拠として使用できるものと考えておいた方が良いと思います。
弁護士への相談
基本的なスタンスとして、保険会社は、評価損を認めることに消極的です。
評価損を本気で請求するとなると、訴訟を提起するというのが最も効果的な方法でしょう。
その場合、弁護士に相談するというのが最も良い方法であると考えられます。
弁護士に評価損が発生するかどうかを相談し、評価損が発生する可能性が高いと判断されれば、訴訟提起に踏み切っても良いと思います。
なお、その際、被害者の契約している保険契約に弁護士費用特約が付いていれば、訴訟等の弁護士費用も保険金で賄われます(ただし、弁護士費用特約の内容や委任契約の内容によります。)。
阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。