今回の記事では、交通事故被害に遭ってしまった時、いつまで治療費を受け取ることができるのか、受け取れなくなってしまうのはどんなケースなのか、詳しく見ていこう。
目次
症状固定となるまで通院することが大切
症状固定とは
交通事故で傷害を負った場合、症状固定となるまで通院することが大切です。
こういった言葉をよく目にすると思います。
では、症状固定というのは、どういう状態のことをいうのでしょうか。
症状固定とは、医学的観点からは、傷害を負った人の症状が固定し、これ以上の治療効果が見込めなくなった状態のことをいいます。
状態として、治療をして少し良くなってもすぐに元の状態に戻ったり、劇的な治療効果が見込めず、一進一退となった状態となったことをいいます。
また、交通事故における症状固定は、交通事故における治療を終了させることを意味します。
原則として、治療費は症状固定までしか出ませんし、通院交通費も同様です。
入通院慰謝料も症状固定までの期間や通院日数を基に算出します。
そういう意味では、被害者の意思(交通事故としての治療を終了させるという意思)も考慮されるものともいえます。
被害者の意思も考慮するという観点からいえば、例えば、開放骨折等が原因で足の骨が短縮したが、被害者が骨延長手術(イリザロフ手術。足の短縮を改善することのできる治療法)を受けないという決断をした場合、骨延長手術があるからといって、足が短縮した状態で症状固定ではないとまでは言い切れません。
以上からすると、症状固定は、基本的には医学的な観点からこれ以上治療効果が見込めなくなった状態のことをいいますが、状況によっては傷害を負った人の意思(交通事故としての治療を終了させる意思や手術を受けるか否かの選択をする意思等)も考慮したうえで交通事故としての治療を終了させる状態と理解してください。
もう少しいえば、交通事故における症状固定は、医学的観点から見る症状固定の時期を基礎として、被害者の意思によっては、その症状固定の時期を早めることができる場合もあるということになります。
原則として医師が症状固定と診断するまで通院する
症状固定まで通院することが大切といいますが、では、症状固定まで通院することが大切なのはなぜなのでしょうか。
上記でも述べましたが、症状固定まで治療費、通院交通費が賠償の対象となります。
そして、症状固定まで入通院慰謝料が賠償の対象となります。
交通事故で傷害を負って、後遺障害の等級が認定されれば、症状固定となっても、後遺障害慰謝料や逸失利益が出ますが、仮に、症状が残っていても後遺障害の等級が認定されなかった場合には、症状固定までに認められる損害賠償(上記の治療費、通院交通費、入通院慰謝料といった損害等)が全てとなります。
つまり、医学的観点から見る症状固定の時期よりも早い時期において、被害者の意思で症状固定時期を判断してしまうと、本来、もらえるはずの損害賠償がもらえなくなるおそれが出てきます。
そういった意味で、医師が判断する症状固定の時期まで通院をするということは非常に重要となるわけです(被害者の判断だけで早期に症状固定と判断するのは危険な場合があります。)。
ただ、医師は、目の前にある症状を改善しようということに重点を置いています(患者が求めているのも現在の症状の改善ですので、医師の姿勢としては、こちらの方が通常だろうと思います。交通事故の賠償の観点を除けば、患者が医師に対して評論家的な症状固定の判断を求めることはあまりないでしょう。)ので、医学的な観点から見た症状固定時期を過ぎた後も治療を継続するということがあり得ます。
そのような場合は、被害者として、医師に対して症状固定の診断を求めるということも十分にあり得るところです。
症状固定時期の目安は
症状固定の時期は、上記のとおり、医学的な観点からの症状固定の時期を基礎として被害者の意思を考慮するということになりますので、ケースバイケースとなります。
ただ、実務上は、一定程度の時期を症状固定時期の目安とすることがあります。
具体的な時期としては、3か月、6か月、1年です。
症状によって異なりますが、単純な骨折の場合、3か月程度で医学的な治療として終了する場合があります。
また、軽微な頸椎捻挫なども3か月程度で治癒(完全に回復する場合)することもあります。
その他の傷病において、6か月を症状固定の一つの目安とすることがあります。
さらに、高次脳機能障害を代表とした脳に関する症状については1年程度、症状の回復の経緯を見るということが行われます。
実務上、損害賠償の交渉相手となる保険会社の担当者も、交通事故発生から3か月、6か月という時期を目安として、症状固定とするかどうかといった話をしてくることが多いです。
示談交渉は症状固定又は治癒の後となる
示談が完了してしまうと、その後治療費が発生したり、後遺症として認められた場合でも、賠償金を請求できなくなってしまうから注意しよう。
示談交渉は、被害者の損害が確定し、被害者の損害の賠償請求をするところから始まります。
換言すれば、損害が確定しなければ、示談交渉は始まりません。
上記でも述べたとおり、症状固定(又は治癒)しなければ、その後も、治療費、通院交通費、入通院慰謝料が増え続けます。
仮に、症状固定(又は治癒)前に示談交渉を始めた場合、本日100万円の損害賠償請求をしたところ、1か月後には110万円を請求するということになり、話がまとまりません。
ですので、症状固定の診断を受け、損害を確定させた後に示談交渉を始めるということになります。
事件によっては、症状固定後も残存症状がある場合がありますので、症状固定後の残存症状について後遺障害の等級認定の手続きを経る必要があります。
後遺障害等級認定手続きを経て、非該当(後遺障害の等級が認定されない場合)又は後遺障害の等級が認定されて、損害が確定した後に示談交渉を進めていきます。
なお、症状固定の後に治療をしたとしても、治療費を加害者に、追加で請求することはできませんので、その点は注意して下さい。
交通事故で受け取れる賠償金の請求には消滅時効があるため注意
物損の場合は3年、人身事故の場合には5年の時効があるから注意しよう。
消滅時効とは
消滅時効とは、法律上の一定の要件、期間の経過を満たした場合、本来持っていた権利が消滅してしまうという法律上の制度です。
交通事故を例にしてみれば、被害者が加害者に対して、本来100万円の損害賠償請求権を有していたにもかかわらず、消滅時効が完成してしまえば、被害者は加害者に対して損害賠償請求をすることができなくなる(正確には、加害者から消滅時効が完成したとの主張をされた場合に、権利が消滅するということになります。)ということになります。
交通事故における消滅時効の期間は
物損事故で、物のみが破損した場合、被害者は加害者のこと及びその損害を知った時(多くの場合、交通事故発生の時)から3年の経過によって消滅時効が完成します。
また、人身事故で、人が怪我をしている場合、2020年4月1日以降に発生した交通事故の場合、被害者は加害者のこと及びその損害を知った時(多くの場合、交通事故発生の時)から5年の経過によって消滅時効が完成します。
また、交通事故によって負った傷害によって後遺障害が残存した場合、消滅時効の起算点(いつから消滅時効の期間を算定するかの最初の時点)は症状固定時期となります。
つまり、症状が固定した時期から5年の経過によって消滅時効が完成します。
物の破損による損害の場合と人が怪我を負った場合とで、消滅時効の期間が異なり、さらに、後遺障害が残存した場合には症状固定の時期から消滅時効の期間が算定されることになるなど、状況によって少し異なります。
ただ、実務上は、少し余裕をもって、交通事故発生の時から3年又は5年というように動くことが多いです。
なお、消滅時効は、更新、完成猶予ということがあり、消滅時効の期間の経過が途中でリセットされたり、消滅時効の完成時期が少し先になったりすることもあります。
仮に、消滅時効が完成してしまうと、請求権がなくなってしまいますので、示談交渉も意味がなくなり、訴訟も意味がなくなります。
時間の経過という事実は非常に重いものですので、その点は十分に注意してください。
弁護士に依頼するメリット、スムーズに賠償金を受け取るには
その他にも、後遺障害認定取得のサポートもお願いできるから、被害者は治療に専念することができるんだよ。
本コラムでは、症状固定や消滅時効について述べてきました。
その他、被害者からすれば、重要な手続き(後遺障害等級認定手続、示談交渉等)もあります。
被害者の方が、症状固定、消滅時効、その他の重要な手続きのことを気にしながら、治療を続けるというのは、大きな負担となり、交通事故における手続き、又は、治療のいずれかが疎かとなってしまう可能性があります。
交通事故の賠償に関しては、弁護士に依頼をしておけば手続きに関することは弁護士が担当します。
被害者の方は治療に専念することができ、症状固定又は治癒まで治療に専念することができます。
また、症状固定時に残存症状がある場合にも、後遺障害等級認定手続きや示談交渉も弁護士に任せることができます。
スムーズに賠償金を受け取るために、弁護士に委任するということも一つの手段として検討してみてはいかがでしょうか。
阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。