今回の記事では多差路での事故の過失割合について、詳しくみていこう。
目次
多差路事故の過失割合
信号による交通整理の行われている交差点
交通事故は、多くの場合、加害者と被害者の二つの車両等で発生します。
ですので、多差路で起きた事故といえども、基本的には、二つの車両の走行車線における信号の色で決まります。
当然、赤信号を無視した車両の過失割合が高くなり、青信号を守った車両の過失割合は小さくなります。
信号による交通整理が行われていない交差点
多差路において、信号による交通整理が行われていない交差点ではどうでしょうか。
信号による交通整理が行われていないとしても、基本的には、加害者と被害者の二つの車両の走行車線を考慮して過失割合を定めることとなります。
また、交通弱者と呼ばれる歩行者や自転車は、四輪車との事故では、過失割合が小さくなる(四輪車の過失が大きくなる)傾向にあります。
丁字路における交通事故
ここでは、信号機による交通整理が行われていない丁字路を前提に過失割合を考えてみましょう。
信号機による交通整理が行われていない交差点の場合、道路幅が過失割合を考えるうえでの一つのポイントとなります。
道路幅が広い方が優先する道路ということになります。
ただし、道路幅は厳密に考えるというよりは、同程度の道路幅か明らかに広い道路かといったある程度大まかな判断基準となっています。
道路幅が同程度の丁字路における直進車と右左折車の事故
道路幅が同程度の丁字路において、直進車と右左折車の過失割合の基本は、直進車3:右左折車7となっています。
一般的に、直進車よりも、右左折をする車両は注意義務が重いので(直進よりも危険な行為をすることになりますので、注意義務も重くなります。)、事故を起こした場合の過失割合も大きくなります。
引用:https://www.hughesluce.com/negligence_proporti/t-junction/
直進車の道路が明らかに広い丁字路における直進車と右左折車の事故
次は、直進車の道路幅が明らかに広い丁字路における事故の過失割合です。
その場合、直進車と右左折車の過失割合の基本は、直進車2:右左折車8となっています。
上記のとおり、道路幅の広い道路が優先する道路となります。
そのため、道路幅が同程度の丁字路における事故よりも直進車(道路幅の広い優先する道路を走行していた車両)の方の過失割合が小さくなっています。
引用:https://www.hughesluce.com/negligence_proporti/t-junction/
道路幅が同程度の丁字路における右折車同士の事故
道路幅が同程度の丁字路において、右折車同士の過失割合の基本は、左方を走行していた車両4:右方を走行していた車両6となっています。
左方優先の原則というのを聞いたことがあるかと思いますが、道路幅が同程度の丁字路(特に優先関係のない道路同士)の場合、左方を走っている車両の方が優先となります。
引用:https://www.hughesluce.com/negligence_proporti/t-junction/
他にも、センターラインが交差点内にも通っているか(交差点内にもセンターラインが通っている道路が優先道路です。)、一時停止の標識や表示があるか(一時停止の標識や表示のない方の道路が優先する道路です。)などでも道路同士の優先関係が決まり、過失割合に影響を与えます。
十字路における事故の過失割合
信号機による交通整理が行われていない十字路を前提に過失割合を考えてみましょう。
ここでは、道路幅が同程度の十字路を想定して過失割合が考えてみます。
道路幅が同程度の直進車同士の事故
道路幅が同程度、直進車同士で事故が発生した場合の過失割合は、左方を走行していた車両4:右方を走行していた車両6となっています。
左方優先の原則に従ったものとなります。
引用:https://www.sonysonpo.co.jp/auto/kashitsu/ac02/akst054.html
道路幅が同程度の右折車と直進車の事故
道路幅が同程度、右折車と直進車で事故が発生した場合の過失割合は、直進車2:右折車8となっています。
直進に比べると、右折車の注意義務が重くなりますので(直進よりも危険な行為をすることになりますので、注意義務も重くなります。)、事故を起こした場合の過失割合も大きくなります。
引用:https://agoora.co.jp/jiko/negligence-percentage/rightturn-accident-failureratio.html
五差路事故の過失割合
五差路など、道路が多く集まる交差点での事故における過失割合はどうなるでしょうか。
五差路での事故でも、基本的には、今まで述べてきたことが当てはまります。
まずは、加害者と被害者がそれぞれ走行していた道路を比較します。
加害者と被害者がそれぞれ走行していた道路の幅、センターラインの有無、一時停止標識や表示の有無などを考慮して、優先関係を判断します(優先する道路を走行している方が過失割合が小さくなります。)。
そして、全ての条件が同じ場合には、左方を走っていた車両が優先する(左方優先の原則)ということになります。
もちろん、走行態様(直進車であったか、右左折車であったか)も過失割合に影響を与えます。
過失割合の修正要素とは
その他、優先道路かどうか、標識の有無も過失割合に影響を与える事になるよ。
上記では、基本的な過失割合について述べてきました。
事故は様々な要因が絡み合って発生するものですので、基本の過失割合だけでは評価しきれないこともあります。
そのような場合、過失割合の修正要素を考慮することとなります。
10%の過失が加算されるケース
修正要素として、10%の過失が加算される著しい過失は、例えば、おおむね時速15キロメートルから30キロメートルの速度超過、わき見運転、著しく不適切なハンドル・ブレーキ操作といったものが考えられます。
20%の過失が加算されるケース
修正要素として、重過失があるとして20%の過失が加算されることがあります。
例えば、居眠り運転、無免許運転、時速30キロメートルを超える速度超過といったものが考えられます。
優先道路
優先道路は、「道路標識等により優先道路として指定されているもの及び当該交差点において当該道路における車両の通行を規制する道路標識等による中央線又は車両通行帯が設けられている道路」(道路交通法36条2項)と定義されています。
上記でも述べたとおり、交差点内にセンターラインが引かれている場合、その道路は優先道路となります。
優先道路を走行している車両には徐行義務はありません。
その名のとおり優先する道路ですので、事故が発生した場合、優先道路を走行している車両の過失割合は小さくなります。
一時停止の標識や表示
交差点の手前で一方の道路に一時停止の標識や表示がある場合があります。
その場合、一時停止の標識や表示のない道路が優先する道路となります。
事故が発生した場合、一時停止の標識や表示のある道路を走行している車両の過失割合が大きくなります。
なお、一時停止をせずに交差点に進入して事故を起こした場合、その車両の過失割合は更に大きくなります。
丁字路の事故で過失割合が0となったケースはあるの?
丁字路において、優先道路を直進している車両と交差道路を右左折しようとする車両との間で事故が発生した場合の基本の過失割合は優先道路を直進している車両1:交差道路を右左折しようとする車両9となっています。
スタートの過失割合が1:9となりますので、交差道路を右左折しようとする車両に著しい過失などの修正要素がある場合には、過失割合が優先道路を直進している車両0:交差道路を右左折しようとする車両10となることがあります。
ただし、過失割合が0となる交通事故は、被害者(過失割合0)に事故を回避する可能性がなかったと評価されるものとなりますので、ハードルは大分高いものとなります。
過失割合に納得できない場合は調べたり、弁護士に相談してみる
自分が当事者となった交通事故の過失割合に納得できない場合には、過去の裁判例、赤本等で過失割合を調べてみるのも良いと思われます。
また、弁護士などの専門家に相談するというのも良いでしょう。
実際のところ、修正要素の評価は難しい点もあります。
例えば、直進車と右折車との事故の場合、右折車の運転者に前方不注視があったとしても、右折車の前方不注視は既に基本の過失割合に評価されているので、修正要素にはなりません。
一概に過失があるからといって、必ず、過失割合が修正されるわけではないということに注意をしましょう。
阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。