今回の記事では、車種によって変わる過失割合や過失割合の決め方について、詳しく見ていこう。
AT、MT、EVで過失割合は変わるのか?
人の運転は、認知、判断、操作の3つの要素から成り立っていると言われています。
ここにおける認知は、視覚や聴覚などで自分の周囲の状況を把握することをいいます。
判断は、認知した状況に従ってどのような運転をするか決定することをいいます。
そして、操作は、認知と判断を基にして実際にハンドルやブレーキを操作することをいいます。
横断歩道を渡っている歩行者を見落としたという場合は認知の段階にミスが生じたということができますし、車間距離を正確に認知していながらブレーキを踏むのが遅れて追突した場合は判断の段階にミスが生じたということができますし、ブレーキを踏もうとしてアクセルを踏んだという場合は操作の段階でミスが生じたということができます。
AT、MT、EVは、人が運転をしている以上、認知、判断、操作の各段階は変わらないといえます。
そして、どの段階でミスが発生したか、例えば、横断歩道を渡っている歩行者を見落として歩行者を轢いてしまったという場合において(他の条件は全て同一とします。)、AT、MT、EVの車種の違いによって過失割合が異なることはありません。
保険会社もAT、MT、EVの車種の違いによって保険金額を変えていません。
ただし、AT、MT、EVによって構造が異なるため、過失の具体的内容が異なることはあり得ると思います。
例えば、ATにはクラッチがありませんので、クラッチによってギアを変える必要はありません。
MTにおけるクラッチの操作ミスで坂道発進に失敗して事故を起こすといったことはないと思います。
また、今後、実用化される見込みの自動運転車については、過失の考え方が変わってくると考えられています。
自動運転車における過失割合
だけど、完全自動運転の車と事故を起こした場合には、運転者がいないわけだから、過失を問うことが出来ない可能性があるんだよ。
自動運転のレベルは、次のとおり分けられています。
- レベル1【運転支援】
システムが前後・左右のいずれかの車両制御を実施。
例としては、自動ブレーキ、前の車に付いて走る、車線からはみ出さないようにする。 - レベル2【特定条件下での自動運転機能(レベル1の組み合わせ)】
例としては、車線を維持しながら前の車に付いて走る。
特定条件下での自動運転機能(高機能化)
例としては、①遅い車がいれば自動で追い越す、②高速道路の分合流を自動で行う - レベル3【条件付自動運転】
システムがすべての運転タスクを実施するが、システムの介入要求等に対してドライバーが適切に対応することが必要。 - レベル4【特定条件下における完全自動運転】
特定条件においてシステムが全ての運転タスクを実施 - レベル5【完全自動運転】
常にシステムが全ての運転タスクを実施。
これらのレベルのうち、レベル3までは人による運転の介入が予定されています。
その場合、認知、判断、操作の各段階を経ることになりますので、人に対して過失責任を問うことができます。
それに対し、レベル4とレベル5は、(レベル4は特定条件を満たす必要がありますが)人による運転の介入が予定されていません。
そうなると、人に対して過失責任を問うことができない、人の過失や過失割合などについて考えることができないのではないかという問題が生じます。
実際、レベル4とレベル5については、例えば、自動運転車で停車中の他車(人が乗車していない場合)に追突してしまった場合における物損事故の賠償責任をどうするかといった問題が起きることとなります。
物損事故の損害は、民法709条の問題とされており、レベル4とレベル5の自動運転の運転者に過失がないと考えた場合には、運転者に責任を問うことができなくなります。
車種によって過失割合は変わるのか
大型車は、車体も大きく、重量も重いため、交通事故の加害者になると、被害者に大きな損害を与えることが多いです。
では、大型車と普通車とで過失割合が異なるのかを考えてみましょう。
結論からいうと、大型車であることが常に修正要素(大型車に不利に修正)となるわけではありません。
状況によっては、大型車の過失割合が5%程度不利に修正されることがあります。
例えば、赤い本では、双方の対面信号が青信号で発生した右直の事故において、右折車が大型車であった場合、大型車に5%不利に過失割合を修正する旨記載しています。
これは、大型車の車体が大きく、右折などで車体を大きく曲げる運転に危険が伴うためと考えられます。
ちなみに、直進車については、大型車であることは修正要素となっていません。
大型車の車体が長いといっても、普通車と比較しても直進によって危険性が高まることがないと考えられるためと考えられます。
次に、軽自動車と普通自動車では過失割合に違いが出るでしょうか。
軽自動車は特に過失割合の修正要素とされておらず、軽自動車に乗車していたからといって、過失割合が軽自動車に有利に修正されることはないと考えられます。
過失割合の決め方
過失割合は、交通事故が発生した状況によって決まります。
基本的には、道路の状況(左方優先、広路狭路等)、対面信号の有無、対面信号の色、車両の状況(路外からの侵入、右左折、直進等)などによって決まることとなります。
これらの要素に加えて、修正要素などを加味して最終的に過失割合が決まります。
修正要素として挙げられているものの例としては、
- 30キロ以上の速度超過
- 15キロ以下の速度超過
- 合図なし
- 一時停止違反
- 徐行違反
など様々なものがあります。
具体的に挙げられていなくとも、著しい過失や重過失として評価される事項については、同様に修正要素として評価されます。
例えば、居眠りや酒酔いなどは重過失として20%程度過失割合が修正される要素となっています。
過失割合は誰が決めるのか
任意保険に加入していない車と事故を起こしてしまった場合には、当事者で決める事になるよ。
過失割合は、合意で決めることができれば合意で定めます。
多くの場合、交通事故の当事者は任意保険の示談代行サービスを利用しており、保険会社同士や保険会社と加害者の話し合いで決まると考えられます。
仮に、保険に加入していない場合には、当事者同士で合意して定めます。
事故状況や修正要素等に争いがない事故で、かつ、加害者が任意保険に加入している場合には、それほど揉めることなく過失割合が決まることも多いです。
それに対し、事故状況に争いがあったり、相手の過失を指摘しても相手が否定している場合などは過失割合について、なかなか合意で定められないことがあります。
過失割合は、全ての損害に関わることなので、損害が大きいと5%でも10%でも金額が大きく異なることになります。
交通事故によって働けなくなることに対する賠償金のことを休業損害といいますが、過失割合によって、実質的な収入(休業損害)が5%、10%変わると言ったら想像がしやすいと思います。
過失割合について、争いがある場合には弁護士などの専門家に相談するのが良いでしょう。
阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。