今回の記事では、車検切れの車と事故を起こしてしまった場合、どんな事に注意が必要となるのか、詳しく見ていこう。
目次
車検切れや自賠責保険切れは違法
車検切れの車の公道走行は道路運送車両法違反
車検の正式名称は自動車検査登録制度といい、車の状態が定期的に国の定める保安基準に適合しているかを確認するための制度です。
車検が切れている車で公道を走行することは違法となります。
道路運送車両法第58条は次のとおり定めています。
第58条「自動車・・・(中略)・・・国土交通大臣の行う検査を受け、有効な自動車検査証の交付を受けているものでなければ、これを運行の用に供してはならない。」
そして、道路運送車両法第108条は、車検切れについて、6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金が科される旨定めています。
また、車検切れの車で公道を走ると、違反点6点となります。
他に何も違反をしていない場合でも、車検切れの違反のみで30日間の免許停止となります。
自賠責保険が切れている車の公道走行は自動車損害賠償保障法違反
自賠責保険が切れている車で公道を走行することも違法となります。
自動車損害賠償保障法第5条は、自賠責保険又は自賠責共済の契約が締結されていなければ、車を公道で走行させてはならない旨定めています。
自賠責保険切れの車で公道を走行した場合、同法第86条の3に基づいて1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金が科される可能性があります。
また、自賠責保険切れの車で公道を走ると、違反点6点となります。
他に何も違反をしていない場合でも、自賠責保険切れの違反のみで30日間の免許停止となります。
車検切れ、かつ、自賠責保険切れの場合
車検と自賠責保険の契約期間は、近い時期であることが多いので、車検切れと自賠責保険切れは、同時に起こる可能性があります。
では、車検切れ、かつ、自賠責保険切れの車で公道を走行した場合の罰則はどのようになるのでしょうか。
その場合は、1年半以下の拘禁刑又は80万円以下の罰金が科される可能性があります。
また、違反点は12点となります。
他に何も違反をしていない場合でも、車検切れと自賠責保険切れの違反で90日間の免許停止となります。
車検切れの車と事故を起こしてしまったら
自賠責保険が切れていると、加害者側に直接請求するか、政府保障事業を利用する事になるよ。
自賠責保険の契約期間を確認する
車検切れの車と事故を起こしてしまった場合、まずは、加害者の自賠責保険の契約期間を確認しましょう。
自賠責保険は、車検期間をカバーするように契約されています。
ですので、車検期間と同期間か少し長め(長めに契約する場合は、1か月長いということが多いようです。)の期間で契約していることが多いです。
車検の期間よりも自賠責保険の契約期間が長い場合、車検切れの車でも、自賠責保険の契約期間が残っているということもあり得ます。
加害者の自賠責保険の契約が有効であれば、被害者のけが等の人身損害については、自賠責保険からその限度額まで保険金を支払ってもらうことができます。
自賠責保険の契約が切れている場合には、自賠責保険を利用することはできません。
自賠責保険が切れている場合には加害者に直接請求、又は、政府保障事業への請求
自賠責保険が切れている場合でも、被害者は加害者に対して自分の損害の賠償請求をすることができます。
ただ、自賠責保険に入っていない加害者がきちんと損害を賠償してくれるかはわかりません。
そのような場合に備えて、国土交通省は政府保障事業を行っています。
政府保障事業は、加害者が自賠責保険に加入していない場合やひき逃げ事故などで加害者が不明な場合に、被害者のけが等の人身損害に対して、国が一定限度額を支払う制度です。
基本的な限度額は、自賠責保険と同じ金額となっていますが、被害者が健康保険や労災保険などを受給した場合、その受給金額は政府保障事業の補填額から控除されます。
そういう点では、政府保障事業は自賠責保険よりも保障の範囲が狭いものといえます。
ちなみに、加害者が自賠責保険に加入していない場合において、政府保障事業に基づいて国が被害者の損害を補填したときは、その補填額について、国は加害者に対して請求(求償といいます。)します。
加害者不明の事故で、後に加害者が判明した場合も同様です。
任意保険は利用できるのか
車の所有者は、一般的に、自賠責保険に加入し、そのうえで任意保険に加入します。
ですので、自賠責保険が切れているにもかかわらず、任意保険の契約期間が残っているということはあまり多くはありません。
しかしながら、任意保険の契約期間は、自賠責保険や車検期間に合わせる必要はなく、期間にずれが生じることがあり得ます。
では、自賠責保険が切れており、任意保険の契約期間が残っている車と事故にあった場合、被害者は任意保険から保険金を受け取ることができるのでしょうか。
ここで想定しているのは、けが等についての対人賠償責任保険、被害者の車の修理費等の対物賠償責任保険です。
損害保険会社の約款にもよりますが、少なくとも大手の損害保険会社は、被害者保護の観点から被害者に対して保険金を支払うよう約款を定めています。
ただし、対人賠償責任保険は、約款上、自賠責保険の保険限度額を超える部分を支払う旨定められているため、被害者の人身損害が自賠責保険の保険限度額を超えなければ、任意保険から保険金を受け取ることはできません。
また、仮に、加害者に故意行為などの保険金の不払い事由などがある場合には、支払ってもらうことはできません。

阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。