事故の数は年々減少傾向にあると言われていますが,車を運転する人もしない人も,事故に巻き込まれる可能性はゼロではありません。
運悪く交通事故に遭ってしまうと,場合によっては治療が必要になってしまうケースもあるでしょう。
今回の記事では,事故で怪我をしてしまった場合に,病院や整骨院など,どこで治療を受けるのがよいのか,治療先を選ぶ際の注意点について,現役の弁護士が解説していきます。
交通事故にあい、むちうちや打撲などになった際に、よく町中でみかける整骨院・接骨院での治療を希望する方も多いでしょう。しかし、「整骨院・接骨院」に、最初から通ってしまうと、適切な賠償を受け取れなくなることもあります。
どんな場合に費用が支払われるかなども含め、今回は整骨院・接骨院での治療について確認していきましょう。
目次
整骨院・接骨院の違いについて
交通事故示談交渉で整骨院・接骨院の費用を賠償してもらえる条件
まずはじめに、整骨院と接骨院の費用を賠償してもらうための条件について確認してみましょう。
自賠責保険の場合
整骨院・接骨院の費用は,自賠責保険の保険金支払基準において,「免許を有する柔道整復師,あんま・マッサージ・指圧師,はり師,きゅう師が行う施術費用は,必要かつ妥当な実費とする。」と定められています。
これらの費用は,「免許を有する柔道整復師」が「必要かつ妥当な」「施術」を行った費用であれば,自賠責保険上は保険金の支払が認められるということになりそうです。
交通事故で整骨院・接骨院の費用を賠償してもらえる場合
交通事故の損害賠償で,整骨院・接骨院の費用を賠償してもらえる場合は、以下を満たした場合とされています。
①施術の必要性-施術を行うことが必要な身体状態にあったこと
②施術の有効性-施術を行った結果として具体的な症状の緩和や改善がみられること
③施術の合理性-被害者の受傷内容と症状に照らして,施術が適切に行われており,濃厚・過剰に行われていないこと
④施術期間の相当性-受傷内容,治療経過,症状の内容,施術の内容及びその効果の程度等から,施術を継続する期間が相当であること
⑤施術費の相当性-施術に対する報酬金額が社会一般の水準と比較して妥当なものであること
訴訟において整骨院・接骨院の費用が交通事故の賠償として認められるための上記①~⑤の要件について、問題となる具体例を挙げて詳しく述べていきたいと思います。
整骨院・接骨院の費用が認められるための要件について
交通事故で個別に問題となる点について
医師の指示・同意
よく,医師の指示や同意がある場合には,整骨院・接骨院の費用が交通事故の賠償として認められるなどといわれることがありますが,それだけでは,必要な条件の一部を満たしているに過ぎません。
また,医師の指示・同意の態様によって、この2点を肯定する程度が異なります。
例えば医師が、今後の治療の適切な方法として整骨院における施術を指示している場合には,「①施術の必要性及び②施術の有効性」を肯定するための非常に強い事情になると考えられます。
逆に,医師が,既に整骨院に通院している患者に対して,黙認する程度で同意をしたという場合には,「①施術の必要性及び②施術の有効性」をそれほど肯定できないこともあるでしょう。
一概に医師の指示・同意といっても,医師が指示・同意した状況によって,ケースバイケースとなります。
濃厚・過剰な施術
適切な量や費用を超えている医療を「濃厚診療」「過剰診療」といいますが、同様に,整骨院・接骨院における施術についても,濃厚・過剰ではないかという観点で検討することがあります。
上記の「③施術の合理性及び④施術期間の相当性」の要件の問題です。
例えば,毎日のように整骨院・接骨院に通院している場合,怪我の状況からして本当に毎日施術の必要があるのかという点が問題となりえます。
また,頸椎捻挫,腰椎捻挫の症状で3年以上にわたって整骨院・接骨院に通院している場合,施術期間として妥当な期間かどうかも確認されることになります。
もちろん,交通事故によって被害状況もさまざまですので,一概には言い切れませんが,極端な頻度や長期の通院をしている場合には,過剰な施術と判断される可能性もあります。
まとめ
以上のとおり,整骨院・接骨院の費用が交通事故の賠償として認められるための要件について述べてきましたが,病院における治療との大きな違いは,「施術の必要性と有効性」を証明する必要がある点だと思います。
その他の③施術内容の合理性,④施術期間の相当性及び、⑤施術費の相当性については,程度の差こそあれ,病院における治療でも同様の問題が生じることがあります。
整骨院・接骨院の文書面(診断書,施術証明書)について
病院と整骨院との違い
病院と整骨院の決定的な違いは,診断書を書くことができるか否かです。
病院の医師は診断書をかけますが、整骨院で受け取れるのは施術証明書と呼ばれるものです。
診断書を書くことができないというのは何を意味するのか
整骨院で診断書を受け取れないということは,等級認定の際に参考資料とされる、「後遺障害診断書」を作成してもらえないことを意味します。
結果的に、慰謝料を受け取るために、整骨院が果たせる役割は少ないということを意味するのです。
まとめ
以上のとおり,病院と整骨院との違いは,診断書を書けるか否かという点であり,診断書を書くことができないということは後遺障害診断書を書くことができないということを意味します。
最後に
交通事故での怪我の治療のために整骨院に通院する際の注意点について述べてきました。
結論として,交通事故の賠償実務における整骨院・接骨院の治療は,病院の治療に比べて低く評価される傾向があるといえると思います。
読者の皆様におかれましては,交通事故の賠償実務や後遺障害等級認定手続が,そのような基準で動いているということを理解してもらえればと思っています。
なお本コラムは,整骨院・接骨院等の治療方法を否定する趣旨のものではなく,あくまで既存の機構・システムの中での整骨院・接骨院における位置付けを解説したものですので,その点はご留意ください。
※なお、本コラムでは、柔道整復師の施術の方法や効果が治療に当たって意味がないということや柔道整復師の施術内容が後遺障害等級認定手続について意味がないということを述べているのではなく、あくまで後遺障害等級認定手続の建付け上,交通事故の賠償実務上,そのような取扱いになるということを指摘しているに過ぎません。
阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。