落下物による交通事故は、落とした相手に慰謝料は請求できるのかな?
今回の記事では、落下物による交通事故の場合に受け取れる賠償金について、詳しくみていこう。
目次
落下物による交通事故では損害賠償請求可能か
はじめに
落下物による交通事故と聞くと、そんなに発生しないと思われるかもしれません。
しかしながら、一定程度、落下物による交通事故は発生します。
例えば、前方や反対車線を走行している車両の積み荷が落ちた、強風で看板が飛んできた、飛び石でフロントガラスが割れたといった事故が、今回対象にする交通事故です。
このように聞くと、意外と身近な交通事故と感じるのではないでしょうか。
当職も、過去に、前方に走っている車両が付けていたスペアタイヤが外れて車両に衝突した事故や反対車線を走行していたトラックが積んでいた積み荷が落ちて車両に衝突したといった事故の損害賠償請求事件を担当したことがあります。
落下物による交通事故は単独事故と評価されてしまう可能性がある
落下物と一言で言って、その内容は様々です。
上記のとおり、まさに車両から落ちた直後に車両に衝突したという事故もあれば、車両から落ちてしばらく時間が経過した後に車両に衝突するということもあるでしょう。
後者の場合、誰が落下物を落としたのか分からないということがあります。
本来であれば、加害者がいる事故ではあるのですが、加害者がだれか判明しないがために、単独事故と変わらない扱いになってしまうということがあります。
単独事故と変わらない扱いになるということは、結局、加害者が分からないということになりますので、被害者自身の契約している保険を利用するか被害者の費用負担で車両を修理するしかありません。
加害者が分かる場合には損害賠償請求可能
落下物を落とした加害者が分かる場合には、加害者に対して、損害の賠償請求をすることが可能です。
この場合は、通常の交通事故と変わらず、被害者は、交通事故で被った損害を、落下物を落とした加害者に対して賠償請求することができます。
ただ、もちろん、加害者が損害保険に加入しているか、賠償できるだけの資力があるかどうかは、また別の問題です。
ドライブレコーダーを活用することで加害者を特定する
例えば、落下物を落とした直後に落下物が車両に衝突した後、加害者がそのまま走行(積み荷を落としてしまったことに気付かないということもあるかもしれません。)して行ってしまった場合、交通事故発生当時、加害者が存在していたにもかかわらず、加害者が分からないということがあるかもしれません。
しかしながら、被害者の車両にドライブレコーダーが設置されていた場合、加害者を特定できる可能性が高まります。
例えば、ドライブレコーダーに加害者の車両のナンバープレートが映っている場合、少なくとも、加害者の車両の所有者を特定することが可能です。
ドライブレコーダーの目的は、交通事故の状況を客観的な映像に残すことですが、ドライブレコーダーによって、落下物による交通事故における加害者を特定できる可能性が高まります。
落下物による交通事故で利用できる損害保険
相手が特定できる場合には、相手の任意保険を利用して、かかった治療費や、車の修理費用を補償してもらうことが可能だよ。
業務中の事故の場合には、相手が特定できなくても、労災保険を利用できるよ。
車両保険
車両保険の契約の中には、飛来中又は落下物による損傷を補償するものがあります。
飛来中又は落下物による損傷とは、例えば、台風や強風などによって看板や石が飛んでくるといったことなどを想定しています。
それぞれの損害保険契約の約款を確認していただく必要がありますが、飛来中又は落下物は、地面に落下する前の状況(空中に存在している状況)で車両と衝突したということを意味していることが多いようです。
それに対し、落下した後の物と衝突した交通事故は、単独事故と同様に扱われます。
つまり、駐車場の壁に接触した事故やガードレールに接触した事故と同じように扱われます。
飛来中又は落下物との事故と単独事故とでは、車両保険を使用した後の等級に差が出るようです。
一般的に、前者の方が後者よりも、落ちる等級の幅が少ないようです。
加害者の任意保険
加害者を特定できる場合には、加害者の任意保険を利用することができます。
落下物等により、車両が損傷した場合には、加害者の対物賠償責任保険を利用して、車両の修理費等を賠償してもらうことができます。
また、運転者や同乗者が怪我を負った場合には、加害者の対人賠償責任保険を利用して怪我に係る損害を賠償してもらうことができます。
ただし、交通事故の発生状況によって、加害者と被害者との過失割合が異なりますので、落下物による交通事故であるからといって、被害者の損害の全てを加害者に賠償してもらえるとは限りません。
労災保険
交通事故が業務中に発生するということがあります。
業務中の場合、交通事故は労災として扱われ、労災保険を利用することができます。
ただし、労災保険は、あくまで怪我に係る損害を補償するものであり、車両の損傷については適用がありませんので、その点は、注意してください。
落下物による交通事故の過失割合
高速道路上での事故
公益社団法人日弁連交通事故相談センター東京支部が毎年発行している民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(いわゆる「赤い本」)では、高速道路上で落下物に衝突した場合の過失割合の目安が記載されています。
その目安を確認すると、物を落下させた車両(加害者)の過失割合が60%で衝突した車両(被害者)の過失割合が40%とされています。
ただし、上記過失割合は、あくまで、通常の注意をしていれば、落下物を発見して避けられた場合を前提としており、落下直後や落下物の発見又は困難が場合は除きます。
落下物による交通事故においては、落下物に衝突した車両が当該落下物を回避することができる状況であったか否かが重要な視点の一つとなるということになります。
ちなみに、当職が過去に扱った前方を走行していた車両のスペアタイヤが外れて後方を走行していた車両に衝突したという交通事故では、加害者に全面的な過失(100%)があるものとして解決しました。
やはり、スペアタイヤが外れた直後であり、後方を走行していた車両からすると、回避することができなかったということが重視されたものと考えられます。
一般道上での事故
一般道でも落下物による交通事故は発生します。
しかしながら、一般道では、高速道路と比較して、高速で走行していることがありません。
そういった事情もあり、一般論としては、一般道に落下物があったとしても、高速道路に比べれば、回避できる可能性が高まるといえます。
そうなると、高速道路上での落下物による交通事故に比べて、一般道では、落下物に衝突した車両の責任が大きくなるといえそうです。
ただし、交通事故では、様々な事情が過失割合に影響を与えますので、絶対的なことはいえません。
落下物による交通事故における過失割合の修正要素
交通事故は、様々な事情が過失割合に影響を与えます。
そのうちの代表的な事情を挙げるとすると、
- 運転者の視界の状況(夜間、視界不良等)
- 交通量(交通量によって、回避行動が制限されることがある等)
- 積載方法(物を落とした車両の積載方法や積み荷が落下するような運転方法であった等)
- 落下物の大きさ(視認しやすい落下物か否か等)
- 車両の速度
- 車間距離
- 落下物の落下と交通事故の発生までの時間(落下直後であれば回避可能性が低いといえます。)
といった事情を挙げることができます。
落下物による交通事故で請求できる損害賠償の内容
人身損害
積極損害
人身損害における積極損害とは、交通事故によって実際に被害者が支出を余儀なくされた損害のことをいいます。
例えば、
- 治療費
- 通院交通費
- 入院雑費
- 付添費用
- 装具・器具等購入費
- 家屋・自動車等改造費用
- 葬儀関係費用
- 後見関係費用
といったものがあります。
ただし、全ての交通事故で全ての損害項目が認められるというわけではなく、交通事故と因果関係のある損害についてのみ、賠償をしてもらうことができます。
消極損害
人身損害における消極損害とは、交通事故によって実際に被害者が支出することはないものの、交通事故がなければ得られたであろう損害のことをいいます。
例えば、休業損害、逸失利益といったものがあります。
逸失利益は、交通事故による後遺障害が認定された場合や交通事故によって被害者が死亡した場合に発生するものですが、
『基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間(ライプニッツ係数)』
の計算によって算出されることとなります。
当然、被害者の実際の収入、後遺障害の等級や状況等によって、逸失利益の金額異なることとなります。
なお、積極損害と同様、全ての交通事故で全ての損害項目が認められるというわけではなく、交通事故と因果関係のある損害についてのみ、賠償をしてもらうことができます。
物損
物損は、交通事故によって物が損傷したことによる損害です。
車両の修理費が代表的なものですが、その他、通勤等の必要性がある場合には代車費用が認められます。
また、損傷した車両にもよりますが、評価損が認められることもあります。
阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。