バス乗車中に交通事故が起きてしまった場合、一般的な交通事故と事故後の対応は違うの?
今回の記事では、バス乗車中における交通事故での対応方法や、治療や慰謝料の請求方法について、詳しく見ていこう。
目次
バス乗車中に事故に遭った場合には
当然、バスも、交通事故に遭うことがありますし、その場合、乗客が怪我をするということもあります。
今回は、乗客としてバスに乗車中に、交通事故に遭った場合にどのように対応するのが良いかという話をしたいと思います。
なお、ここでは、商法上の旅客運送については、触れないことといたします。
怪我をした場合
バス乗車中の事故(以下「バス事故」といいます。)で怪我をした場合でも、他の交通事故と同じように病院に行くということが非常に重要になります。
バス事故も含めた交通事故一般では、交通事故と怪我との間の因果関係(原因と結果の関係にあるという意味です。)が問題となることがあります。
場所的・時間的に近ければ近いほど因果関係が明確になりますし、離れれば離れるほど因果関係が不明確になっていきます。
そういった観点からすれば、事故現場から救急車で病院に行ったということになれば、事故と怪我との間の因果関係は明らかとなります。
バス事故の状況や他の怪我人が多いといった状況などから事故現場から救急車で病院に行くのが難しい場合には、できるだけ早い時期に病院に行くということが良いです。
バス事故に遭った後に怪我をしたことに気付いたときも、同様に、できるだけ早く病院に行って診察してもらうというのが重要となります。
なお、救急車の手配に関しては、運転手に怪我がないのであれば、運転手やバス会社の担当者が手配してくれると思います(運転者には、救護義務があります。)が、運転手やバス会社の担当者による救急車の手配を期待できない場合には、ご自身で救急車を手配するしかないでしょう。
警察への報告
自動車の運転者は、交通事故が発生した場合、警察に交通事故が発生したことを報告する義務があります。
バス乗車中に交通事故が発生した場合には、運転手による警察への交通事故発生の報告が難しかったとしても、バス会社の担当者から警察への交通事故発生の報告がなされると考えられます。
もちろん、乗客が警察に交通事故の発生を報告しても構わないのですが、乗客として、そこまで気をまわさなくても良いように思います。
それよりは、怪我をしている場合には、ご自身の怪我のことを気にした方が良いと思います。
目的地への移動はどうなるのか
この点は、交通事故の話からは外れますが、バス会社としては、乗客を目的地まで送り届けるという債務を負っています。
その関係からは、バス会社が代替のバスなどを運行させて、怪我のない乗客には、当該代替のバスに乗ってもらうという扱いをすることが多いと思われます。
治療費等の損害の請求先
だけど、バス運転手に過失が全くない場合には、事故を起こした相手の車に賠償金を請求する事になるんだ。
法律上、どちらに請求すれば良いのか
バス事故も他の車両との間で発生することが多いと思われます。
この場合、バスの運転者と他の車両の運転者の過失割合によって、多少取扱いが異なります。
一方の全面的な過失(他方の無過失)で交通事故が発生した場合
例えば、追突など、追突車の一方的な過失によって交通事故が発生した場合、結論として、追突された車両の運転者は、被害者に対する賠償責任を負いません。
こういった場合には、被害者としては、交通事故発生に関して全面的に過失のある運転手の側に損害賠償を請求することとなります。
なお、一方の全面的な過失で交通事故が発生した場合において、他方の運転手側に損害賠償を請求した場合、責任のある側の損害保険会社等の連絡先を案内されると思われます。
双方に過失のある交通事故の場合
双方に過失のある交通事故の場合、法律上、バスの運転者と他の車両の運転者との共同不法行為といいます。
共同不法行為は、簡単にいえば、2人(ここでは、バスの運転手と他の車両の運転手です。)以上で不法行為(交通事故が代表例です。)を発生させたという趣旨の法律用語です。
そして、共同不法行為は、不法行為を行った人全員によって被害者の損害を賠償することになります。(加害者の1人が100%の損害を賠償しても良いですし、2人の加害者が50%ずつの損害を賠償しても良いです。こういった損害賠償債務のことを不真正連帯債務といいます。)
不真正連帯債務、つまり、バス会社と他の車両の運転者の双方が被害者の損害の賠償責任を負うということになりますので、双方に過失のある交通事故の場合、被害者は、バス会社にも、他の車両の運転者にも損害の賠償請求をすることができます。
ただし、二重請求をすることはできません。
上記のとおり、法律上、両者のいずれに対しても、損害の賠償請求をすることが出来ますが、実務的には、過失の大きい側の損害保険会社が窓口になって、対応するということが多いように思います。
おそらく、このような取り扱いは、二重請求を防ぐとともに、請求漏れ等の混乱を防ぐためだろうと思われます。
実際はどこに請求すれば良いのか
バス会社に対して請求する場合、バス会社と損害保険会社や共済との契約内容にもよりますが、バス会社の契約している損害保険会社や共済の担当者に対して請求するか、バス会社の事故担当(損害保険会社や共済との間の契約で示談代行サービスが付いていない場合)に対して請求するということになります。
他の車両の運転手に対して請求する場合は、損害保険に加入していれば、多くの場合、損害保険会社の担当者に対して請求するということになろうかと思います。
乗客の過失相殺
乗客に過失がある場合、実際に被った損害から乗客の過失分が控除されてしまいます。
バスと他の車両との間の交通事故の場合、乗客に過失があるといったことはあまり多くないようにも思いますが、バスの運転手の運転方法によって乗客が怪我をした(バス車内における事故)場合には、乗客の過失が検討されることがあります。
例えば、バスの運転手が、バスの乗客が乗り込み、空席に座る、吊革につかまる、手すりにつかまるといったバスの揺れを避ける手段をとるのに十分な時間を確保したうえで、バスを発進させたところ、バス車内に立っていた乗客(吊革にも手すりにもつかまっていない状況)が転倒して怪我をしたという事案があったとします。
上記の事案では、乗客は、空席に座る、吊革につかまる、手すりにつかまるといったことができた(転倒を避けることができた)にもかかわらず、そのような行為をせずに転倒して怪我をしたと評価される可能性があり、そのような場合には、乗客に過失があると認定される可能性があります。
なお、過去に、当職がバス会社側で対応した事案の中に、バスの運転手がバスを発進させようとした際に、乗客が乗り込もうとしてバスのドアに挟まれたといった事案がありました。
この事案では、乗客に過失があるものとして対応をいたしました。
バス会社に請求できる賠償金
遅延による損害
交通事故が発生すれば、当然、バスが遅延します。
では、乗客は、バスが遅延したことによって生じた損害の賠償を請求できるでしょうか。
結論からいうと、極めて難しいといわざるを得ません。
乗車料金等については、バス会社の定める約款等に記載があり、当該約款に従って処理されることとなります。
そして、バス遅延によって生じた損害(例えば、バスが遅延したことによって、商談に遅れ、契約が成立しなかったことによる損害等)については、法律上、特別損害といい、加害者に予見可能性があったか否か(被害者に発生した損害が発生することが分かる、又は、分かり得る状況にあったか否か)で判断されます。
バス会社は、日々、多くの乗客を乗せていますし、個々の乗客の状況や固有の事情など把握しているはずもありません。
ですので、バス遅延によって生じた損害については、認められることはほぼありません。
治療費等の損害の賠償請求
バス事故によって、怪我をした場合、治療費等の損害を請求することは可能です。
怪我による損害の場合、治療費については都度都度請求するということもありますが、損害全体の請求は、実務上、症状固定又は完治した段階で行うということになります。
治療の途中で、損害を請求し、不十分な示談をするといったことは避けた方が良いでしょう。
バス事故によって怪我をした場合、もちろん、因果関係や必要性があるということが前提となりますが、
- 治療費
- 付添費用
- 将来介護費
- 雑費
- 通院交通費
- 装具・器具等購入費
- 家屋・自動車等改造費
- 葬儀関係費用
- 休業損害
- 慰謝料
- 逸失利益
といった損害を請求していくということになります。
弁護士への依頼
バス事故によって怪我をした場合、弁護士に依頼して損害賠償請求をするということをお考えいただいた方が良い場合もあります。
あくまで一例にすぎませんが、通院慰謝料については、自賠責基準、任意保険基準、赤本基準(裁判基準もしくは弁護士基準)という形で三種類あると言われており、赤本基準(裁判基準もしくは弁護士基準)が最も高いです。
もちろん、損害保険会社も、弁護士が就いたということを理由としてやみくもに赤本基準(裁判基準)で慰謝料を認めるというわけではありませんが、少なくとも弁護士による交渉は可能ですし、納得が出来なければ、訴訟提起に踏み切るといった判断も可能です(訴訟になれば、慰謝料は赤本基準(裁判基準)とされることになります。)。
また、弁護士に依頼することで、損害の請求漏れが少なくなるということは言えると思います。
一般の方が、請求できないと思っていた損害について、弁護士の考え方からは請求できるといったこともあり得ると思います。
弁護士に依頼すると、選択肢が広がりますし、賠償金が高額になる可能性は高まるといえます。
阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。