今回の記事では、加害者が死亡してしまった交通事故の賠償請求先や、過失割合について、詳しく解説するよ。
目次
加害者が死亡してしまった場合でも賠償金は受け取れるのか
加害者が死亡してしまった場合でも損害賠償請求は可能
交通事故で過失の大きい側、つまり、加害者が亡くなってしまうこともあり得ます。
では、加害者が交通事故で亡くなってしまった場合、被害者は、損害賠償請求ができないのでしょうか。
加害者が亡くなったとしても、直ちに、損害賠償請求権が消えるわけではありません。
しかし、死亡してしまった加害者には請求できませんので、死亡してしまった加害者以外の者に対して、損害賠償請求をしていくということになります。
加害者が死亡した場合の損害賠償請求の請求先
相続人への請求
加害者に相続人がいる場合、加害者の死亡に伴って、相続人は、加害者の損害賠償義務を相続します。
ですので、被害者は、加害者の相続人に対して、交通事故の損害賠償を請求することができます。
なお、相続人には、それぞれ法定相続分が決まっていますので、被害者は、相続人の法定相続分に応じて損害賠償請求をするということになります。
例えば、加害者に配偶者及び子2人いる場合、配偶者の法定相続分は2分の1、子の法定相続分はそれぞれ4分の1となります。
しかしながら、相続人は、相続放棄をすることもでき、相続放棄をした場合、相続人は、相続人でなかったことになります。
ですので、相続人が相続放棄をした場合、被害者は、加害者の相続人に対して、損害賠償請求をすることはできなくなります。
被害者が、加害者の相続人へ損害賠償請求をする場合には、加害者の相続人の調査及び相続放棄の有無を調査したうえで請求するということになります。
任意保険への請求
加害者が任意保険に加入している場合、加害者の相続人が相続放棄をしていようがいまいが、任意保険が被害者の損害賠償請求の対応をすることが多いでしょう。
ただし、加害者の相続人が相続放棄をしている場合と相続放棄をしていない場合とで、法的な意味合いは異なります。
加害者の相続人が相続放棄をしていない場合、加害者の相続人は、被害者に対する損害賠償義務を負います。
そして、任意保険は、その損害賠償に関する手続を加害者の相続人に代わって対応するということになります。
それに対し、加害者の相続人が相続放棄をしている場合、加害者の相続人には、被害者に対する損害賠償義務はありません。
そして、多くの損害保険会社の任意保険の約款では、加害者が死亡し、加害者の相続人全てが相続放棄をした場合には、被害者が損害保険会社に対して、損害を直接請求できる旨を定めています。
つまり、この場合、被害者は、加害者の契約していた任意保険に対し、直接、保険金請求(実質は損害賠償請求)をすることができるということになります。
ただし、任意保険へ直接請求できる要件を約款などで、きちんと確認しておく必要があります。
自賠責保険への請求
被害者は、加害者の契約していた自賠責保険に対して、保険金を請求することができます。
これは、加害者が死亡していても、死亡していなくても、特に変わりはありません。
なお、加害者の相続人が相続放棄をしていない場合において、被害者が自賠責保険金を請求した後に、自賠責保険金と実際の損害額との差額の損害を加害者の相続人に請求することも可能です。
政府保障事業への請求
加害者が自賠責保険に加入していない場合(いわゆる無保険)、被害者は、政府の保障事業に対して、損害を請求することができます。
これも、加害者が死亡していても、死亡していなくても、特に変わりはありません。
なお、政府の保障事業は、自賠責保険とほぼ同じ基準ですが、多少異なる点(自賠責保険が加害者からの請求を認めているのに対し、政府の保障事業は被害者しか請求できません。労災の適用がある交通事故の場合、自賠責保険に請求することはできますが、政府の保障事業に請求することはできません。)があります。
加害者が死亡すると過失割合に影響するのか
たとえ加害者が死亡した場合でも、過失割合は通常の事故と同様に決められるんだ。
加害者が死亡したとしても、過失割合に影響はありません。
ただし、加害者が死亡した場合、加害者から事故状況の聞き取りができず、加害者が立ち会った実況見分調書(事故状況を書面に記載したものです。本来は、刑事事件に使用するための証拠です。)を作成できませんので、事故状況が正確に分からないということは起こり得ます。
事故状況については、双方の車のドライブレコーダーや目撃者がいる場合には目撃者の証言などが重要になってくると考えられます。
損害賠償請求はいつすべきか
被害者も死亡している場合
交通事故によって被害者・加害者ともに死亡している場合、死亡によって損害が確定します。
ですので、法的には、被害者の相続人は、被害者の死亡と同時に損害賠償請求することが可能となります。
しかしながら、加害者の相続人への請求のところでも述べたとおり、加害者の相続人は、相続放棄をする可能性があります。
そのため、被害者の相続人は、少なくとも、加害者の相続人が相続放棄をしたか否かを確認してから損害賠償請求をするということになります。
そして、相続放棄は、相続人が相続の発生(被相続人である加害者の死亡。)を知ってから3か月以内にする必要があります。
その点からすれば、被害者の相続人は、加害者の相続人の相続放棄の有無を確認するために、加害者の死亡から3~4か月は待たなければならないでしょう。
なお、被害者の相続人も被害者の加害者に対する損害賠償請求権を相続しますが、法定相続分に従って請求することが多いかと思います。
被害者が死亡せず、傷害を負っている場合
被害者が死亡せず、傷害を負っている場合は、傷害の治療が終わり、症状固定の診断を受け、さらに、後遺障害等級認定手続を経た後に、加害者の相続人に損害賠償請求をするということになります。
被害者の傷害の治療が終了して症状固定至り、後遺障害等級認定手続を経ないと、被害者の損害が確定しません。
損害が確定する前に示談交渉に入り、合意をしてしまうと、正確ではない損害額で合意をしてしまう可能性があります。
被害者としては、あくまで、全損害が確定した後に、示談交渉に入るべきでしょう。
死亡事故は弁護士に依頼するのがおすすめ
死亡事故の場合、損害額が大きくなることが予想されます。
損害額が大きくなると、ちょっとした過失割合の変動でも賠償してもらえる金額が変わります。
そのため、事故状況や過失割合の正確な把握が必要となります。
弁護士に依頼すれば、正確な事故状況や過失割合を把握・主張できる可能性が高まります。
また、加害者が死亡するような大きな事故の場合、被害者も大きな傷害を負っていたり、死亡してしまうこともあります。
このような場合、被害者の損害も大きくなることが多いですが、被害者が気付かなかった損害、損害の算定などの点(特に慰謝料は、裁判などで、いわゆる赤い本基準で賠償してもらえる可能性が高まります。)弁護士に依頼する方が適正な賠償を得られる可能性が高まると考えられます。
阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。