店側は加害者に、どこまで賠償請求できるの?
今回の記事では、店舗への追突事故による賠償金について、詳しく見ていこう。
車が店舗に突っ込んでしまったという事故については、皆さんも、たまにニュース等で耳にしているかもしれません。
アクセルやブレーキの踏み間違いなどで車で店舗に損傷を与えてしまうという交通事故は、少なくありません。
このような事故の場合、被害者となった店舗、従業員、客は、どういった損害を請求できるのでしょうか。
目次
物損事故で加害者に請求できる賠償金
店舗に関する賠償
交通事故によって、店舗の壁やガラス等が損傷しているでしょうから、損傷した店舗の修理費用の賠償請求をすることができます。
ただし、店舗の修理費用が店舗の時価額を上回る場合(修理に過分の費用がかかるばあい)、被害者である店舗側は、店舗の時価額しか賠償請求できません。
この点については、交通事故で被害者の車両が損傷した場合と同様となります(車両の修理費が車両の時価額を上回る場合、加害者は、車両の時価額を賠償すれば足ります。)。
商品に関する賠償
また、店舗を損傷するとともに、店舗内に置いてある商品も損傷していることもあります。
その場合、被害者である店舗側は、損傷した店舗内の商品についても賠償請求することができます。
休業に関する賠償
店舗の壁やガラス等を損傷してしまった場合、修理が完了するまでの間、店舗は、営業することができません。
被害者である店舗側は、加害者に対し、当然、店舗が休業せざるを得なくなった期間の営業に関する賠償を請求できます。
売上そのものは賠償の対象となりませんが、店舗があげていた利益や固定経費(店舗の賃料や従業員の給与等)は賠償の対象となります。
店舗の利益の算出方法は、状況により様々ではありますが、ある程度の期間営業している店舗であれば、例えば、3か月の平均的な利益や固定経費などを基に賠償金を算出するという方法を採ることも十分に合理的でしょう。
なお、店舗は営業するものの、事業を縮小して営業せざるを得なくなった場合、縮小した営業と本来の営業との差額が賠償の対象となると考えられます。
弁護士費用
交通事故の損害項目には、弁護士費用という項目があります。
被害者が交通事故によって損害を被った場合、その交通事故を解決するために、弁護士に委任せざるを得ない状況となったということを理由として、総損害額の10%程度が弁護士費用として認められます。
なお、損害項目における弁護士費用は、あくまで損害項目としてのものであって、委任契約における弁護士費用とは異なること(委任した弁護士に支払う弁護士費用は、委任契約に基づく金額となります。)には注意をしてください。
また、損害項目としての弁護士費用は、訴訟などで請求されることが多く、示談段階では損害項目として認められないことが多いです。
人身事故で加害者に請求できる賠償金
治療関係費
車が店舗に突っ込んだ場合、従業員や客など、多くの人が怪我をする可能性があります。
そして、交通事故によって、従業員や客が怪我をした場合、被害者は、怪我をした人の治療費を賠償請求することができます。
また、病院等に通院した際にかかる通院交通費、入院をした際の入院雑費など、治療に関係する費用を賠償してもらうことができます。
休業損害
従業員や客が交通事故によって仕事を休まざるを得なくなった場合、被害者は、怪我によって休まざるを得なくなった休業損害(実質的には従業員や客の給料相当額)を賠償してもらうことができます。
なお、店舗が休業している場合、加害者は、店舗の経営者に対し、従業員の給料相当額を賠償することになります。
その場合は、店舗の経営者に対する賠償(従業員の給料相当額)と従業員への休業損害については、調整して、二重払いにならないようにしなければなりません。
慰謝料
通常の交通事故と同様、車が店舗に突っ込んだことによって怪我をし、治療をしなければならなくなった場合、被害者は、加害者に対して慰謝料の賠償をしてもらうことができます。
慰謝料は、被害者の通院期間や入院期間に応じて目安が決まっており、通常の交通事故と同様に賠償してもらえます。
また、怪我によって、被害者に後遺障害が残存した場合においても、同様に、後遺障害慰謝料が賠償されることになりますし、死亡してしまった場合には死亡慰謝料が賠償されます。
逸失利益
被害者に後遺障害が残存した場合、通常の交通事故と同様、被害者は、逸失利益を賠償してもらうことができます。
後遺障害における逸失利益は、次の計算式で算出されます。
逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間
基礎収入は、交通事故発生の前年の被害者の年収を基にすることが多く、労働能力喪失期間は等級によって目安(例えば、14級の労働能力喪失率は5%)が定められています。
また、労働能力喪失期間は、被害者の症状固定日の年齢から67歳までの期間から中間利息を控除した期間(ライプニッツ係数と呼ばれています。)とされています。
なお、労働能力喪失率の目安は、あくまで目安であって、被害者の職業等によっては、目安よりも高い労働能力喪失率となることもあり得ます。
店舗への交通事故による注意点
加害者が100%の責任を負う
車が店舗に突っ込んできた場合、店舗側には、過失はありません。
つまり、車が100%の過失がある事故となり、店舗側に100%の損害賠償をするということになります。
一般的な交通事故でいえば、追突のように、加害者は、被害者に対し、100%の損害賠償をしなければならなくなります
物損事故では自賠責保険は使えない
車が店舗に突っ込んだという交通事故において、幸いにして物損(店舗の壁やガラス等の損傷)のみで済んだという場合、自賠責保険は使えません。
自賠責保険は、あくまで、交通事故による人損(人の怪我等による損害)にのみ対応しているため、交通事故が物損に留まる場合、自賠責保険は使用できません。
任意保険に限度額を設定している場合
最近ですと、任意保険は、人身・物損ともに無制限で加入している場合が多いと思います。
しかしながら、賠償額に制限を設けている場合、任意保険で店舗に対する賠償の全てを賄えないということがあり得ます。
店舗に損傷を与えた場合、加害者は営業そのものに対する賠償しなければなりませんし、従業員や客など複数の人が怪我をした場合には、その賠償は高額となる可能性があります。
仮に、賠償額が保険の限度額を超えた場合、加害者は、限度額を超えた損害について、自分で賠償をしなければならなくなります。
被害者からすれば、加害者が任意保険に限度額を設定していることによって、任意保険によって賠償してもらえなくなるという可能性が出てくるということになります。
加害者が任意保険未加入の場合
加害者が任意保険に未加入の場合、任意保険に限度額を設定している場合(賠償額が限度額を超えた場合)と同様、被害者は、直接に、加害者に対して、損害賠償請求をしなければならなくなることがあります。
そういった場合、加害者から、賠償金が支払われなくなる可能性もあります。
そのような場合の対応については、弁護士にきちんと相談、委任をする方が良いでしょう。
阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。