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旅行中の事故の賠償の内容
ただし、旅行中の事故の場合には、旅行のキャンセル費用などを賠償金として請求できる可能性があるんだ。
今回の記事では、旅行中の交通事故で受け取れる賠償金について、詳しく見ていこう。
旅行中でも一般的な賠償を受けられる
車で旅行中に交通事故に遭う、旅行先で車を借りていて運転中に交通事故に遭うというのは、可能性としてあります。
旅行中に交通事故に遭ってしまったことで気分的に落ち込むことは間違いないのですが、旅行中に交通事故に遭ったからといって、普段の交通事故と比べて賠償してもらえる内容が減ることはあるのでしょうか。
回答としては、そのようなことはありません。
普段の交通事故で賠償してもらえる内容は、旅行中の交通事故でも賠償してもらえます。
例えば、
- 治療費
- 入院費
- 通院交通費
- 休業損害
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 逸失利益等
は、損害が発生していれば、賠償の対象となります。
加害者が任意保険に加入していれば、加害者の任意保険に請求することになりますし、加害者が自賠責保険しか加入していなければ、自賠責保険の保険金を超えた部分は加害者に請求するという点も変わりはありません。
旅行のキャンセル費用
旅行中の交通事故や旅行を予定していた場合、旅行に関するキャンセル費用が損害として挙がることがあります。
まず、最初に、旅行のキャンセル費用についての当事者及び法律関係について、整理しておきましょう。
例えば、被害者が旅館に宿泊する予約をとったとしましょう。
この場合、被害者と旅館との間には、宿泊に関する契約(被害者は、旅館に宿泊することにより、料金を支払う債務を負います。それに対し、旅館は、被害者を宿泊させる債務を負います。)が成立します。
そして、仮に、宿泊当日のキャンセル料が100%だった場合において、被害者が交通事故に遭ったことを理由として宿泊予定の当日に宿泊を取りやめたとしましょう。
旅館には、責任を負うべき理由はありませんので、旅館は被害者に対し、100%のキャンセル料を請求しますし、被害者も旅館に100%のキャンセル料を支払うということになります。
ここでは、被害者が支払ったキャンセル料を、加害者に対し、交通事故の損害として請求できるのかというのが問題となります。
旅行のキャンセル料は損害として認められるか
キャンセル料が認められるか否かについては、その時々の状況次第ということにはなりますが、過去には、旅行のキャンセル料が認められた裁判例もあります。
大阪地方裁判所平成16年12月7日判決は、新婚旅行の6日前に交通事故によって入院を伴う怪我をした事案において、新婚旅行のキャンセル代が交通事故の損害として認められました。
全ての交通事故において、旅行のキャンセル料が認められるとは限りませんが、入院を伴うような怪我をした場合においては、旅行をキャンセルすることもやむを得ないと判断され、交通事故による損害として認められる可能性はあると思います。
また、観光地付近を運転しているなど、被害者が旅行していることが十分に分かるような状況下での交通事故においても旅行のキャンセル料が認められる可能性はあると思います。
加えて、キャンセル料が通常想定される程度の金額である場合には、交通事故の損害として認められる可能性はあると思います。
それに対し、旅行をキャンセルする必要がないようなちょっとした物損や怪我といっても小さな怪我の場合には、キャンセルがやむを得ないと判断されず、旅行のキャンセル料が交通事故の損害として認められない可能性があります。
また、当事者以外の家族や親族の交通事故を理由として旅行をキャンセルした場合におけるキャンセル料も交通事故の損害としては認められない可能性があります。
ただし、家族や親族の怪我の程度が重い場合等は、旅行をキャンセルするのもやむを得ないと判断され、交通事故の損害として認められる可能性はあります。
なかなか難しいですが、その時々で、旅行をキャンセルするのもやむを得ないと判断できるか否かで結論が変わると考えられます。
自宅に戻る交通費や宿泊費用等について
交通事故の状況によっては、自宅まで戻る交通費や宿泊を余儀なくされたことによる宿泊費用も交通事故の損害として認められる場合もあります。
また、旅行中に交通事故に遭い、一旦、宿泊先まで戻るためのタクシー代等も、状況によっては交通事故の損害として認められる場合があります。
結局のところ、こういった損害についても、交通事故による怪我の程度や車両の損傷状況等によって、交通事故が原因で自宅に戻るまでに通常とは異なるルートをとるのもやむを得ない、宿泊するのがやむを得ないと判断できるかがポイントとなります。
それに対し、交通事故による怪我も車両の損傷も大したことがないにもかかわらず、遠い旅行先から自宅までタクシーで帰ってきたという場合には、自宅まで戻るタクシー代は交通事故による損害として認められない可能性が高いと思われます。
旅行中の交通事故で注意すべき点は
ちょっとした事故でも警察を呼んでおくことが大切だよ。
その他、事故で怪我をしてしまった場合に、大したことはないと思っても病院に行っておくようにしよう。
必ず警察を呼ぶ
普段の交通事故でも同様ですが、旅行中の交通事故であっても、必ず、警察は呼びましょう。
警察を呼んで交通事故の存在や当時者等を確認してもらわないと、交通事故証明書が発行されない可能性があります。
軽微な交通事故だからといって、警察を呼ばずにいると、後々、損害賠償請求する際に、加害者が誰か分からないといったことになる可能性もあります。
病院に行っておくこと
旅行中の交通事故の場合、病院に行くのをためらうこともあるかもしれません。
しかしながら、交通事故当初は緊張をしていたりして、痛み等を感じなかったにもかかわらず、後になって痛みを感じ始めるということはよくあることです。
少しでも不安を感じるのであれば、病院に行って、診察を受けることが重要です。
交通事故発生直後に通院することによって、交通事故によって怪我をしたという因果関係を立証することができます。
実況見分についてはケースバイケース
自宅近くや勤務先の近くでの交通事故など、交通事故現場に行く負担が大きくない場合には、きちんと実況見分をやってもらうことに越したことはありません。
しかしながら、旅行先の場合、交通事故現場に行くこと自体に負担があることもあります。
交通事故が発生し、警察を呼んだからといって、警察がその場で実況見分をしてくれるとは限りません。
そのような場合は、実況見分がどのような場合に必要であるかを考慮し、交通事故現場に行く負担と比較考量して決めた方が良いでしょう。
実況見分は、交通事故の状況を書面化するというところに一番大きな意味があります。
つまり、過失割合を決めるための証拠という意味が大きいです。
逆にいえば、追突であったり、過失割合に争いがない事案においては、積極的に実況見分をしなくても良い事案というのもあります。
そのような交通事故においては、物損として届け出ていても、後に、任意保険会社に対し、人身事故証明書入手不能理由書を提出して対応すれば、人身事故と同様に扱ってもらうことができます。
加害者が自賠責保険にしか加入していない場合には、自賠責保険に対し、人身事故証明書入手不能理由書を提出して、自賠責保険から保険金を受け取ることになります。
もちろん、人身事故証明書入手不能理由書は、交通事故によって怪我をしたことが前提となります。
過去に認められた旅行中の賠償金
旅行中に交通事故に遭った場合において、過去にどのような損害が認められたのでしょうか。当然、ケースバイケースですが、例えば、次のようなケースがあります。
- 交通事故によって預けていたペットをペットホテルに延泊させなければならなかった延泊費用
- 海外で子どもが交通事故に遭ったため、親が駆けつけるための海外渡航費
- 海外で交通事故に遭ったが海外の治療費が高額であったため、日本に帰国させて治療させるためのチャーター機の費用
万が一に備えておくことも重要
キャンセル料や交通費を請求できるってわかって安心したよ。
ツアーなど保険がセットになっている場合には、事前に保険内容をしっかりと確認しておこう。
旅行中に交通事故に遭った場合、その状況によって、加害者に賠償をしてもらうこともできる費用もあります。
ですが、残念ながら、賠償してもらえない費用もあります。
そのようなことに備えて、保険に加入しておくことを考えておくのも良い手段であると考えられます。
車両の損害保険のなかには、事故付随費用補償特約というものがあり、臨時宿泊費用、臨時帰宅費用、キャンセル費用などをカバーできる保険があります。
また、旅行前の旅行保険に加入したり、ツアーなどで加入している保険の内容をきちんと確認しておくことなども重要だろうと思います。
阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。