今回の記事では当て逃げされてしまった時の対処法について、詳しく見ていこう。
目次
車両を当て逃げされたときの対応とは
当て逃げとは
皆さん、当て逃げ・ひき逃げという言葉を聞いたことがあるかと思います。
当て逃げもひき逃げも、交通事故を起こしてしまったにもかかわらず、何もせずに逃げてしまうことを指していますが、両者は、どのように異なるのでしょうか。
端的に違いを指摘すると、当て逃げは物損事故(人が怪我をせずに、車両等の物のみが損傷を受けた交通事故)で何もせずに交通事故現場から立ち去ることを指し、ひき逃げは人身事故(人が怪我したり、死亡したりする交通事故)で何もせずに交通事故現場から立ち去ることを指します。
また、法律的な観点で申し上げると、運転者は、交通事故を起こした場合には、危険防止措置義務(道交法71条1項前段。交通事故が発生した現場に停車し、危険な状況である場合には危険を除去する義務)及び報告義務(交通事故の発生を警察に報告する義務)を負います。
危険防止措置義務及び報告義務は、交通事故が物損事故であるか、人身事故であるかを問わず課されます。
そして、運転者に過失があるか否かも問いませんので、仮に、運転者が無過失であると考えていたとしても、危険防止措置義務及び報告義務は果たさなければなりません。
それに対し、救護義務(道交法72条1項前段。交通事故が発生した現場に停車し、負傷者の有無を確認して負傷者を救護する義務。)は、人身事故の場合にしか課されません。
物損事故では、人が死傷していないのですから、当然といえば当然ですが。
ただし、危険防止措置義務及び報告義務と同様、運転者が無過失であると考えていたとしても、救護義務は果たさなければなりません。
以上からまとめますと、当て逃げは、物損事故において、危険防止措置義務及び報告義務に違反して(実際には、何もせずに)、交通事故現場から立ち去ることをいいます。
なお、ひき逃げは、危険防止措置義務違反、報告義務違反に加えて救護義務違反をすることを指します。
車を当て逃げされたときの対応は
すでに逃げられてしまっているのであれば、周囲の防犯カメラをチェックすることができるか、確認してみよう。
自分が車に乗っている時に当て逃げされてしまった時には、病院へ行くこと、そして自分の保険会社への連絡も必要だよ。
目の前での当て逃げ
目の前で自分の車両を当て逃げされたときは、当然、逃げようとしている運転手に声をかけるなどして、車両から降りてもらい、そのうえで、警察に連絡するというのがベストです。
しかし、当て逃げをしようとしている人が素直に車両を停めて、車両から降りてきてくれるとは限りません。
そこで、次善の策としては、写真や動画を撮影するということが考えられます。
相手方の車両の外観を撮影することは大事ですが、やはり、ナンバープレートを撮影することが一番大切だと思われます。
ナンバープレートが分かれば、相手方の車両の所有者を把握できる可能性が高く、最終的に相手方の車両の運転手までたどり着けるかもしれません。
相手方の車両の運転手を確認できれば、相手方の車両の運転手に損害を賠償してもらえる可能性があります。
また、交通事故で損傷した自分の車両の写真を撮影しておくことも重要です。
なお、相手方の車両の運転手が逃げてしまっても、警察に交通事故を報告するのは忘れないようにしてください。
自分の契約している車両保険を使用する場合には、交通事故証明書が必要となります。
警察に交通事故の発生を報告していなければ、交通事故証明書は発行してもらえません。
既に相手方の車両が逃げていたとき
既に相手方の車両が逃げていたときは、少し厄介です。
それでも、諦めることなく、まずは、警察に交通事故を報告してください。
また、可能であれば、周辺の人に交通事故の発生状況を聞いてみたり、周辺に設置されている防犯カメラの映像を防犯カメラの管理者に見せてもらうなどといったことをお願いすることが考えられます。
多くの場合、防犯カメラは、他の人が映っていたりする関係で、一般の人には開示されないことが多いのですが、そのような場合でも、交通事故が発生しているので、防犯カメラの映像を保存してもらうことを頼むだけでも意味があります(防犯カメラは、映像を保存できる時間が限られているので、仮に、警察が捜査で動いてくれた段階で、防犯カメラの映像が消えていたら意味がありません。)。
当て逃げと決めつけずに、病院に行く
今回、当て逃げがテーマなので、前提が少し異なりますが、自分が車両で待機していた時などに相手方の車両が接触してきた場合、その振動や衝撃そのもの、衝撃によって車内のどこかに衝突すること等によって怪我をするということがあり得ます。
駐車場における接触事故であることから、怪我はしないと決めつけず、心配であれば、きちんと病院で診察を受けた方が良いでしょう。
仮に、相手方の車両が接触してきたことによって、自分が怪我をしたにもかかわらず、相手方が何もせずに交通事故現場から立ち去った場合、当て逃げではなく、ひき逃げとなります。
ちなみに、ひき逃げ(救護義務違反)は、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科される可能性があります(道交法117条2項)。
保険会社に連絡をしておく
交通事故発生の時点では、当て逃げをした相手方が見つかって損害を賠償してもらえるのか、自分の契約している車両保険を使うことになるのか分かりませんので、警察に報告をした後、自分の契約している保険会社にも交通事故発生の連絡をしておいた方が良いでしょう。
交通事故証明書が発行されれば、自分の契約している車両保険から適切な保険金が支払われますので、その下準備をしておくことは重要です。
車両の当て逃げはばれないって本当?
当て逃げの罰則
まず、警察は、犯罪でなければ捜査をしません。
そこで、最初に確認した当て逃げの場合、どのような罰則があるかを確認しておきましょう。
危険防止措置義務違反
道交法72条1項前段に定められている危険防止措置義務に違反をした場合、道交法117条の5第1号に該当しますので、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金を科される可能性があります。
報告義務違反
道交法72条1項後段に定められている報告義務に違反した場合、道交法119条1項10号に該当しますので、3月以下の懲役又は5万円以下の罰金を科される可能性があります。
器物損壊罪
刑法261条は、「前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。」と規定しています。
なお、「前三条」に規定されている物は、文書並びに建物及び艦船ですので、器物損壊が対象としている物には、車両等が含まれます。
では、交通事故によって、車両等を損傷した場合、器物損壊罪に該当するのでしょうか。
器物損壊罪は、故意犯とされており、過失で人の物を損傷した場合には適用されません。
交通事故は、一般的に、過失によって発生するものですので、交通事故で物が損傷した場合、加害者の行為は、器物損壊罪には該当しません。
以上のとおり、当て逃げの場合、問題となるのは、道交法117条の5第1号違反及び道交法119条1項10号違反ということになります。
当て逃げの犯人は捕まりにくいのか
上記の罰則を見ても分かるとおり、確かに、当て逃げは、重大犯罪とまではいえないかもしれません。
また、警察も他の重大犯罪が発生した場合、当て逃げよりも、他の重大犯罪を優先させるかもしれません。
しかしながら、罰則を伴う法律違反であることは事実ですし、最近は、防犯カメラも多く設置されていますので、当て逃げの瞬間が撮影されているということも多いと思います。
なお、既に述べたとおり、一般の人には防犯カメラの映像を開示されないことが多いですが、捜査の必要性がある場合には、警察が防犯カメラの映像の開示を求めることもあり、そのような場合には、警察において防犯カメラの映像を確認することができます(その意味で、防犯カメラの映像を残しおくように頼むことには意味があると思います。)。
また、目撃者がいる場合などもあり得るところで、目撃者が交通事故の発生を見て写真や動画撮影をしているといったこともあり得るところです。
重大な犯罪ではないから、当て逃げの犯人が一概に捕まりにくいとまでは言えないと考えています。
前科が残る可能性がある
当て逃げをして、警察に検挙された場合、最終的に何らかの刑事処分がなされます。
状況に応じて、不起訴(刑事罰に処さない)かもしれませんし、略式起訴(罰金を求める簡易な裁判)かもしれませんし、公判請求(正式な裁判をすることです。多くの場合、判決によって懲役刑が科されます。)かもしれません。
しかしながら、仮に、罰金以上の刑に処された場合、前科がつきます。
罰金前科など大したことはないと思う方もいるかもしれませんが、その後に、何らかの犯罪を犯した場合(交通事故で人を怪我させた場合、過失運転致死傷罪の適用があります。)、前科がある方が重い処罰を受けることが多いです。
ですので、前科がつくということをあまり軽く考えない方が良いと思います。
当て逃げをされた場合の保障
物損事故の場合
自分の契約している車両保険
当て逃げをされた場合、少なくとも、一定期間、自分の車両等を損傷した相手方が分からないということが多いと思います。
そのような場合、自分の契約している車両保険を使用して、自分の車両等の損傷を修理するということが考えられます。
なお、車両保険を利用する場合に交通事故証明書が必要ということは、既に述べたとおりです。
相手方の対物保険
幸いにも、当て逃げをした相手方が判明し、さらに、相手方が対物保険に加入していた場合には、相手方の加入している対物保険によって、自分の車両等の損傷を修理してもらえる可能性があります。
ただし、相手方が加入している保険会社に適切な報告をしていなかったりしたために、加入している対物保険を使用できないといったこともあるでしょうし、当て逃げといえども、過失割合は考慮されますので、事故状況によっては、全額の賠償をしてもらえないということもあるかと思います。
怪我をした場合
自賠責保険・対人保険
今回、当て逃げがテーマなので、前提が少し異なりますが、交通事故によって怪我をしてしまった場合、相手方が自賠責保険に加入していれば、相手方の加入している自賠責保険によって怪我の治療に係る賠償をしてもらえます。
また、相手方が対人保険に加入していた場合には、相手方の加入している対人保険によって、怪我の治療に係る賠償をしてもらえる可能性があります。
ただし、相手方が加入している保険会社に適切な報告をしていなかったりしたために、加入している対人保険を使用できないといったこともあるでしょうし、当て逃げといえども、過失割合は考慮されますので、事故状況によっては、全額の賠償をしてもらえないということもあるかと思います。
政府保障事業
今回、当て逃げがテーマなので、前提が少し異なりますが、交通事故によって怪我をしてしまった場合で相手方の行方が分からない場合や相手方が分かっても自賠責保険に加入していない場合、相手方から賠償してもらえない可能性が高くなります。
そのような場合、政府保障事業に請求することによって、損害の補填を受けることができます。
なお、政府保障事業には、被害者のみが請求できる、健康保険等の給付がある場合には同給付を控除する、政府保障事業は補填した被害者の損害について加害者に対して求償するといった自賠責保険と異なる点があります。
まとめ
当て逃げされてしまった時の対処法について、詳しく教えてくれてありがとう!
当て逃げも交通事故になるから、警察への連絡を忘れないようにしよう!
- 当て逃げは物損事故において交通事故現場で何もせずに立ち去ること
- 当て逃げされた場合には、できる限り客観的な証拠を残すように努力すること、警察に連絡するのを忘れない
- 当て逃げと決めつけずに状況に応じて病院に行くこと
- 当て逃げされたら、保険会社に連絡をしておくこと
- 車両の当て逃げは処罰され得る行為であり、最近の防犯カメラの設置状況からすれば、必ずしも警察に検挙されないとは限らない
- 車両の当て逃げで検挙された場合、罰金等の前科がつくことあり、その後に不利に働く
- 当て逃げされた場合は、車両保険、対物保険の使用を検討する
- 当て逃げされて、結果として怪我をした場合には、自賠保険・対人保険、政府保障事業の使用を検討する
阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。