目次
加害者が賠償金を支払ってくれない場合には
加害者が賠償金を支払ってくれない場合にはどうしたら良いの?
今回の記事では、交通事故加害者が賠償金を払ってくれない場合の対処法について、詳しく見ていこう。
はじめに
最近は、多くの方が、示談代行付きの任意保険に入っています。
そのため、交通事故の被害に遭った後は、被害者と加害者の契約している任意保険会社の担当者が話し合うということがほとんどです。
しかしながら、加害者が任意保険に入っていなかったり、加害者が交通事故における責任を認めずに任意保険を使用しないということがあります。
そのような場合は、被害者と加害者との間で直接の交渉が必要となることがあります。
弁護士に交渉を依頼する
では、加害者本人と交渉をしなければならなくなった場合、どのようにするのが良いのでしょうか。
一番良いのは、弁護士に交渉を依頼することでしょう。
被害者と加害者は、交通事故の当事者ということもあり、感情的にトラブルになる可能性があります。
また、損害賠償の知識が欠けていたりして、うまく交渉がまとまらないということがあり得ます。
その点、弁護士は、代理人という立場で冷静に対応することができますし、損害賠償の知識がきちんとあるので、交渉を解決に向けて進めることができる可能性が高まります。
加害者本人と示談を進める場合の注意点
内容証明郵便を利用する
交渉において、自分がどのような内容を通知したかを残しておくということは重要なことです。
これは、交通事故における示談交渉においても同様です。
したがって、加害者本人と示談を進める場合、重要な内容を通知する場合(例えば、損害賠償の金額等を通知に記載する場合)、内容証明郵便を利用して、通知内容や加害者が通知内容を受け取ったことを残しておくことが重要であると思います。
なお、内容証明郵便は、通知をされた人が受け取る必要がありますので、仮に、加害者が内容証明郵便を受け取らない場合、内容証明郵便が加害者に届かずに被害者に内容証明郵便が返戻されることがあります。
示談をする場合に公正証書を作成する
任意保険会社との間で示談交渉をし、示談書を交わす場合、公正証書にすることはありません。
それは、任意保険会社の信用力が高く、合意をすれば、ほぼ確実に賠償金(保険金)を支払ってもらえるからです。
しかしながら、加害者本人と交渉をしている場合、合意をしたとしても、確実に賠償金を支払ってもらえるとは限りません。
加害者によっては、合意をしたものの、気が変わったり、納得できないことが発生したりして、支払を渋ることもあるかもしれません。
仮に、公正証書以外で合意をした場合において、加害者が賠償金を支払わなかった場合、被害者は、加害者を相手にして訴訟を提起して判決を得たうえで、強制執行をするという段階を踏まなければなりません。
せっかく、加害者と合意をしたにもかかわらず、訴訟を提起しなければならないというのは、非常に面倒です。
そこで、加害者が支払いをしないことに備えて、公正証書で合意をすることをお勧めします。
公正証書は、公証人(法務省に所属する法律の専門家で、元裁判官、元検察官、元弁護士の方が多いです。)が作成する文書で、金銭債務(金銭の支払に関するもの)については、強制執行をすることができます。
なお、強制執行については後述しますが、加害者の財産を加害者の同意を得ずに強制的に回収する手続とお考え下さい。
つまり、公正証書を作成しておけば、加害者から賠償金を回収できる可能性がぐっと上がるわけです。
示談がうまくいかない場合には
訴訟を提起する
加害者との間の示談交渉がうまくいかない場合、加害者が公正証書の作成に応じてくれない場合や加害者との間で合意をしたものの加害者が賠償金を支払ってくれない場合は、訴訟を提起せざるを得ません。
訴訟では、原告(訴訟提起をした人)と被告(訴訟提起をされた人。多くの場合、加害者等)との間で、主張立証を繰り返し、尋問を経て、判決が出ます。
なお、必要に応じて和解での解決を目指して調整がなされ、多くの場合、和解によって解決します。
判決が確定すると、被告は、原告に対して判決で決められた賠償額を支払う義務が生じます。
仮に、被告が原告に対して、判決で決められた賠償額を支払わなかった場合、原告は、被告の財産(預金、有価証券、給与、その他の財産)に強制執行(裁判所を経て、強制的に金銭を回収することです。)をすることができます。
強制執行をする
強制執行は、交通事故を例にとっていえば、加害者の財産から強制的に被害者に対して賠償金を支払わせることと理解してもらえれば構いません。
金銭の支払を目的とする強制執行の場合、その対象ごとに、
- 債権執行
- 不動産執行
- 動産執行
があります。
①債権執行は、金銭を支払ってもらう権利を差し押さえることで、実務的には給与や銀行預金を差し押さえることが多いです。
②不動産執行は、加害者の保有する自宅やその他の不動産を強制的に売却して、その売却代金から賠償金を回収するという方法です。
不動産が対象となることから、賠償金が多額になる場合には、利用されることがあると考えられます。
③動産執行は、加害者の保有している物を強制的に売却して、その売却代金から賠償金を回収するという方法です。
しかし、多くの場合、動産にはほとんど価値がないことが多く、実務的にも、自動車や一部の高価な物くらいしか対象としないと考えられます。
加害者の財産が分からない場合にはどうすればよいか
被害者が訴訟に勝訴して、判決がある場合、弁護士会を通じた照会手続(弁護士会照会、又は、23条照会などといいます。なお、弁護士法23条の2に基づく照会です。)によって、加害者が銀行預金を保有しているか否か、そして、照会時点における残高の情報を得ることができます。
また、2020年4月から民事執行法が改正され、同法206条1項によって、加害者の勤務先(市町村や年金機構等への照会をすることによって、実質的に加害者の勤務先を調査することができます。ただし、加害者が個人事業主の場合には調査ができない可能性が高いです。)を調査することができるようになりました。
同法206条1項が対象としている債権は、婚姻費用・養育費といった債権や生命・身体の損害に係る債権となっています。
交通事故における人身損害は対象となりますが、物損は対象となりませんので、注意が必要です。
また、民事執行法206条1項に基づく調査は、財産開示を先行させることや過去に強制執行がうまくいかなかったことなどが条件となっており、申立てまでに、他の手続きを踏んでおく必要があります。
このように、加害者の財産が全く分からない場合であっても、加害者の預金口座や勤務先といった情報を調査することができます。
加害者の財産を調査することができたら、同財産から賠償金を回収する可能性が高まるかと思います。
加害者が任意保険にも入っておらず、支払能力もない場合には
自賠責保険を利用する
加害者等が自賠責保険に加入しているが、被害者の損害全額を支払う能力がない場合、被害者としては、自賠責保険から保険金を受け取るしか手立てがありません。
自賠責保険は、傷害分については120万円しか保障されず、多くの場合、全ての損害をカバーすることができません。
なお、人身傷害保険は、このような状況においても、保険金をもらうことができます。
ただし、被害者の損害のうち、自賠責保険でカバーされた分については、人身傷害保険で重ねて保険金が出ることはありません。
政府保障事業を利用する
加害者がひき逃げをするなどして不明な場合や加害者が自賠責保険すら加入していない場合、被害者は、政府保証事業を利用することができます。
基本的には、自賠責保険と同様の内容ですが、健康保険や労災保険での支給がある場合には、控除されるといった違いがあります。
また、損害保険会社が請求の窓口となっています。
阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。