その分給料が少なくなってしまうんだけれど、減額分を加害者に補償してもらう事はできるのかな?
ただし、仕事中の事故の場合には、労災を利用した休業補償を利用できるんだ。
今回の記事では、交通事故における、休業補償について、詳しく見ていこう。
交通事故により受け取れる休業損害とは
休業損害と休業補償
休業損害と休業補償とは同じような意味で使われることがあります。
実質的には、何らかの出来事によって仕事を休んだことに対する金銭の支払いという意味で大きな違いはありません。
しかし、法律用語の観点からいうと、損害や損害賠償と損失補償とは、意味が異なります。
損害賠償が違法行為を原因とした金銭の支払い(交通事故によって、損害を被った被害者が加害者に損害賠償請求するのが典型例です。)を意味するのに対して、損失補償は違法行為ではない行為(適法行為、又は、違法行為を行っていない者からの支払い)を原因とした金銭の支払い(国による土地の収用に対する損失補償が典型例です。)を意味します。
交通事故において加害者が被害者に対して支払う休業に対する金銭の支払いは休業損害、労災において労災保険が被害者に対して支給する休業に対する金銭の支払いは休業補償と呼ばれています。
交通事故という違法行為をした加害者の支払いが休業損害、違法行為をしたわけではない労災保険からの支払いが休業補償と呼ばれているのは、上記のとおり、違法行為が原因となっているか違法ではない行為が原因となっているかで異なっているわけです。
休業損害と休業補償は、法的な性質は異なりますが、実質的には、休業に対する金銭支払いですので、休業損害の支払いを受けた場合には、その範囲で休業補償の支払いを受けることはできませんし、同様に、休業補償の支払いを受けた場合には、その範囲で休業損害の支払いを受けることはできません。
休業補償の申請方法、内容
損害補償で足りない分を、加害者の保険会社に損害賠償請求する事になるんだ。
労災保険における休業補償は、労働災害を原因として、療養が必要となった場合に支給されるものです。
実際に労働災害が発生した場合、被害者となった労働者は、勤務先を通じて(勤務先の社会保険労務士に手伝ってもらって)、労災保険に請求することが多いと思います。
しかし、勤務先が協力してくれない場合は、被害者となった労働者自身が、労働基準監督署に備えられている休業補償給付支給請求書を使用して、労働基準監督署の署長宛に提出して休業補償を請求します。
労災における休業補償は、労働災害よって療養した期間が4日目(最初の3日間は待期期間と呼ばれます。)になった時点で支払われることになります。
手続きに、一定期間かかることが多いので、早めに請求することをお勧めします。
なお、労災保険からは、3日分の休業補償は出ませんが、この3日分の休業分については、労働者の勤務先が負担すべきこととなっています。
また、労災保険における休業補償は、労働災害を被った労働者の平均賃金の60%分となりますが、それに加えて、労災保険からは休業特別支給金として20%分が支払われます。
つまり、休業補償及び休業特別支給金の合計として、80%分の支給を受けることとなります。
なお、この休業特別支給金は、損害の補填を目的としているわけではありません。
つまり、理屈上は、労災保険の支給を受けた休業補償60%分となります。
そして、その残額である40%分を損害保険会社に請求するということになります。
休業損害の請求方法
交通事故における休業損害の請求には、休業損害証明書が必要となります。
休業損害証明書は、その名のとおり、勤務先が交通事故によって従業員(交通事故の被害者)が休業したことや過去3か月分の平均給与(1日当たりの休業損害の算出のために必要となります。)といった事項を証明するものとなります。
ですので、交通事故の被害者となった場合には、休業損害証明書を勤務先に提出して、必要事項を記入してもらったうえで、会社の社印などを押す必要があります。
そして、休業損害証明書には、交通事故が発生した日の前年の源泉徴収票も添付する必要があります。
交通事故の被害者は、休業損害証明書を入手したら、加害者の付保する損害保険会社に対して、休業損害証明書とともに休業損害を請求します。
休業損害と休業補償のいずれを選ぶべきか
休業補償だけでは、全ての金額を補う事は出来ないから、休業損害への請求も行うことで、全ての補償プラス、休業特別支給金分を上乗せして受け取ることが可能になるよ。
例えば、労働者が通勤途中で交通事故に遭って、休業を余儀なくされた場合を考えてみましょう。
この例では、労働者は、交通事故の加害者に対して休業損害を請求できますし、労災保険に対して休業補償も請求できます。
休業損害も休業補償も、基本的な計算方法は同じです。
休業損害は交通事故を起こした日の前の3か月分の給与の平均額となりますし、休業補償も労働災害の起きた前の賃金の支払締日から3か月分遡って、過去3か月の給与の平均額から損失補償を算出することになります。
では、上記の例において、休業損害と休業補償のいずれを請求するのが良いでしょうか。
休業損害も休業補償も、その目的は、休業を余儀なくされた期間に対する金銭の支払いですので、重なり合う範囲に関しては二重にもらうことはできません。
しかしながら、上記のとおり、休業補償は、休業補償分(60%)及び休業特別支給金(20%)の支給があり、しかも、休業特別支給金(20%)については、損害の補填の目的を持っていないため、労働災害の被害者である労働者がそのままもらうことができます。
さらには、休業補償で補償をしてもらった場合において、不足する休業損害があるときには、きちんと賠償してもらえます。
実務的な感覚では、営利を目的としている損害保険会社からの休業損害の支払いを選択するよりも、公的な労働災害からの休業補償を選択する方が最終的な金銭の支払いが多いように思います。
理屈としては、どちらを選択しても、休業に対する金銭の支払いは同額となりますが、被害者としては、労災保険を先に受給して、不足分について休業損害として損害保険会社に対して請求するというのが良いように思います。
阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。