努力義務って何??
着用しないと事故を起こした時に罰則はあるの?
たとえ着用していなかったとしても、罰則はないよ。
今回の記事では、自転車乗車時のヘルメット着用はなぜ必要か、ヘルメットの選び方や、ヘルメットを着用せずに事故が起きてしまった場合、過失割合はどうなるのか、詳しく見ていこう。
目次
自転車運転時のヘルメット着用の努力義務化
自転車乗車時のヘルメット着用の努力義務
2023年4月1日から、道路交通法上、自転車乗車時のヘルメット着用が努力義務となりました。
努力義務というのは、罰則や強制力を伴うものではなく、当事者の努力を促すようにする義務です。
法律上は、「~努めなければならない」と表現されます。
ちなみに、着用義務は必ず着用しなければならないという意味になります。
着用義務の場合、罰則が設けられていることが多く、強制力があります。
2023年3月31日までは、道路交通法上、児童又は幼児を保護する責任のある者が、児童又は幼児が自転車を乗車する際にヘルメットを着用させるようにする努力義務のみが定められていました。
つまりは、例えば、小学生の子どもが自転車に乗る際に、親が子どもにヘルメットを着用させるようにという努力義務のみが設けられていたということになります。
2023年4月1日以降は、これが拡大され、中学生以上の人たちも自転車乗車時のヘルメット着用の努力義務が課されたということになります。
道路交通法上は、自転車の運転者に対して、自身のヘルメット着用の努力義務と自転車に同乗する者にヘルメットを着用させる努力義務が定められています。
ヘルメット着用が努力義務となった理由
警察庁交通局がとった平成30年から令和4年までの間の死亡事故の統計によると、交通事故によって亡くなった方の6割が頭部に致命傷を負ったとのことです。
また、ヘルメットを着用していなかった方の死亡率はヘルメットを着用していた方の2.1倍になるとのことです。
頭部に怪我を負うことは致命傷となるほか、重度の障害を抱える可能性もあります。
頭部を保護する自転車用のヘルメットを正しく着用することによって、交通事故による被害を軽減することや死亡を避けるということが、ヘルメット着用が努力義務となった背景にあります。
その他の努力義務
自転車運転時のヘルメット着用のほか、道路交通法上、努力義務として定められているものは、例えば、車両に貼付する高齢者標識(高齢者マーク)、身体障害者標識(身体障害者マーク)があります。
ちなみに、初心運転者標識(若葉マーク)は、努力義務ではなく、貼付義務となっています。
自転車運転者のヘルメットの着用割合
だけど、安全のために着用するようにしよう。
2023年4月1日からの自転車運転者のヘルメット着用の努力義務化に合わせて、警察庁が、自転車運転者のヘルメットの着用割合を調査したようです。
その結果、着用率は約4%に留まったとのことです。
また、2023年4月1日以降に、自転車運転者のヘルメット着用が努力義務となった後も、ヘルメットを着用しないと考えている人の方が多数派のようです。
自転車運転者のヘルメットの着用と過失割合
原則として過失割合は変わらない可能性が高い
自転車運転者のヘルメット着用は、あくまで努力義務です。
最終的な判断は、自転車運転者個人の判断となります。
法律が強制していない以上、裁判所としても、自転車運転者のヘルメット不着用を過失として捉えることはできないものと考えられます。
仮に、裁判所が、自転車運転者のヘルメット不着用を過失と捉えた場合、法律に存在しない義務を裁判所が作ってしまう可能性もあります。
今後の流れ次第で考慮される可能性もある
しかしながら、過去、努力義務を果たさなかったことを過失(損害拡大防止義務として考慮したともいえます。)とした裁判例があります。
昭和59年当時、道路交通法上、原動機付自転車の運転者のヘルメット着用は努力義務でした。
しかしながら、交通事故発生時に、原動機付自転車の運転者がヘルメットを着用していなかったことを過失であると評価した裁判例があります。
なお、昭和61年に原動機付自転車の運転者のヘルメット着用が義務化されました。
今後、自転車運転者のヘルメット着用が当然のこととなり、法律上も義務化されるような情勢になった場合には、自転車運転者がヘルメットを着用していないことが過失と評価されることになるかもしれません。
自転車運転者のヘルメット不着用が考慮される場合にはどのように考慮されるのか
仮に、自転車運転者のヘルメット不着用が過失として考慮される場合、実際の考慮のされ方としては、人身損害に関してのみ考慮される(物損の場合、ヘルメットの不着用は関係がありません。)といった扱いとなる可能性もあります。
また、ヘルメットの着用の仕方が考慮される可能性もあり得ます。
例えば、顎ひもがきちんと付いていなかった場合や、簡単に外れる状態であった場合、実質的にはヘルメットを着用していなかった場合と同じように評価される可能性があります。
どのようなヘルメットを選べばよいか
ヘルメットを選ぶときには、必ず試着して、自分に合っているものを選ぶようにしよう。
「SG」マーク
道路交通法上、努力義務とはいえ、頭部を守る、被害を軽減させるためには、自転車運転時にヘルメットを着用した方が良いです。
では、どのようなヘルメットを着用するのが良いのでしょうか。
「SG」マークは、製品安全協会が定めた認定基準に適合した製品を示すものです。
そして、製品の欠陥による人身事故には、最高1億円までの賠償措置が講じられたものとなっています。
「SG」マークが付いたヘルメットを選ぶというのは良いと考えられます。
実際に着用してから選ぶ
ヘルメットを着用するのは、自転車の運転者自身です。
そして、交通事故に遭ったときに怪我をするのも、自転車の運転者自身です。
ですので、ヘルメットを購入する際には、きちんと着用してから購入するのが良いです。
ヘルメットを選ぶ際には、顎ひもが自分の顎にきちんと合っているか、簡単に脱げないようになっているか、通気性や重量、衝撃耐性なども考えて選ぶのが良いでしょう。
また、人によっては、額からの汗の流れを防ぐなどのために、サイクルキャップを被るのも良いでしょうし、ファッション性の高いヘルメットを選ぶというのも良いかと思います。
いずれにせよ、自転車運転時に、きちんとヘルメットを着用するということが重要かと思います。
自治体の割引
2023年4月1日からの自転車運転者のヘルメット着用の努力義務化に伴い、ヘルメットの購入補助金を出す自治体があるとのことです。
各自治体のHP等を確認して、購入補助金を使ってヘルメットを購入するのが良いでしょう。
阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。