公共物への事故は、通常の物損事故とはどう違うの?
今回の記事では、公共物にぶつかってしまった時の対処法や、損害額について、詳しくみていこう。
目次
公共物にぶつかってしまったら
公共物にぶつかった場合も交通事故になるのか
車対車、車対バイク、車対自転車、車対人、交通事故の類型は様々ありますが、交通事故とは何なのでしょうか。
道路交通法第67条第2項では、「車両等の交通による人の死傷若しくは物の損壊」のことをいうとされています。
ここでいう、交通とは、道路上における交通を意味していると言われています。
換言すると、道路交通法上の道路以外で事故が起きたとしても、交通事故とはいいません。
また、交通事故統計における「交通事故」は、「道路交通法第2条第1項第1号に規定する道路において、車両等及び列車の交通によって起こされた事故で、人の死亡又は負傷を伴うもの(人身事故)並びに物損事故をいう。」とされています。
これらのことから、交通事故は、道路交通法上の道路において発生したものであることが分かります。
では、道路標識等の公共物と車が接触・衝突した場合はどうでしょうか。
道路標識やガードレール、信号や電柱等は、多くの場合、道路交通法上の道路上にあります。
ですので、道路標識等の公共物と自動車との接触は、「車両等の交通による」「物の損壊」ということができ、ほとんどが交通事故ということができるでしょう。
なお、私有地に設置されている電柱と車が接触した場合は、交通事故ではないということもあり得ます。
安全を確保する
車が道路標識等の公共物と接触・衝突した場合、二次被害を防ぐために、車を安全な場所に移動させましょう。
また、発煙筒を焚くなどして、後続車に交通事故が発生している、危険な状況にあることなどを知らせるなどの対応をしてください。
なお、ミラーやフロントガラス等の破片は、交通の邪魔にならないものであれば、そのままの状態にしておいて構いません。
このような安全確保は、高速道路では、非常に重要です。
高速道路では、運転者は、基本的に、車が停車していることを想定していません。
安全確保をしていない場合、二次被害が発生しやすくなりますし、車が高速で走っているので、その被害も大きなものとなる可能性があります。
警察に事故を報告する
交通事故が発生した場合、運転者は、警察に交通事故の発生を報告する義務があります(道路交通法72条1項後段)。
道路標識等の公共物との接触や衝突も、多くの場合、交通事故ですので、運転者は、警察に交通事故の発生を報告する義務があります。
交通事故の発生を警察に報告すると、後日、自動車安全運転センターから交通事故証明書が発行されます。
交通事故証明には、交通事故の発生日時、発生場所、当事者等が記載されていますので、保険会社に対して、保険金を請求する際にも有用な書類となります。
仮に、運転者が、警察に交通事故の発生を報告していない場合、交通事故証明書は発行されません。
また、人身事故である場合には、実況見分が行われて、実況見分調書が作成されます。
実況見分調書は、交通事故の状況が詳細に記載されているため、過失割合の認定等に非常に有用な証拠となります。
人身事故の場合には、運転者は、けが人に対する救護義務(道路交通法72条1項前段)がありますので、警察への報告とともに、救急車を手配すべきでしょう。
保険会社への連絡
運転者が任意保険に加入している場合には、保険会社にもきちんと連絡を入れておきましょう。
道路標識等の公共物を損壊してしまった場合、運転者が対物保険に加入していれば、対物保険の保険金で道路標識等の公共物の修理代等を賄うことができます。
公共物の損害額
修理代等を支払う必要があるのか
車で道路標識等の公共物を損壊してしまった場合、運転者は、道路標識等の公共物の修理代を支払わなければならないのでしょうか。
交通事故は誰もが起こす可能性があるし、道路標識等の公共物は税金等で設置・管理されているので、税金で賄われるのではないかと思う人もいるかもしれません。
この点について、道路法58条1項は、次のとおり定めています。
(原因者負担金)
第五十八条 道路管理者は、他の工事又は他の行為により必要を生じた道路に関する工事又は道路の維持の費用については、その必要を生じた限度において、他の工事又は他の行為につき費用を負担する者にその全部又は一部を負担させるものとする。
つまり、車を道路標識等の公共物に衝突させてしまい、損壊させた場合は、道路標識等の損壊に責任のある者(多くは運転者)は、道路標識等の公共物の修理代等を負担しなければならないということを定めているわけです。
複数の自動車が関わっている場合
玉突き事故や出会い頭の事故等、複数の車が関わっている事故で道路標識等の公共物を損壊してしまった場合、その責任は、誰が負うのでしょうか。
結論としては、過失割合に応じて負担するということになります。
例えば、玉突き事故のように追突が原因で発生している場合には、最初に追突した車の運転者の過失が100%であることが多いでしょうから、最初に追突した車の運転者が道路標識等の公共物の修理代を負担することになります。
公共物の損害額
どのような費用が必要なのか
車で道路標識等の公共物を損壊した場合、どのような費用が必要なのでしょうか。
道路標識等の公共物を修理、交換する費用はもちろんのこと、道路標識等の公共物を設置するための人件費も必要になります。
また、状況によっては、交通整理等も必要になることもあります。
道路標識等の公共物を損壊すると、修理代のみならず、関連費用も負担しなければならなくなります。
公共物の修理費用はどの程度か
ガードレールを損壊した場合、その修理代等は、どの程度なのでしょうか。
ガードレールは1メートル当たり、4500円~1万円と言われています。
ただし、最近は、ガードレールの機能も様々なものとなっており、一概にはいえません。
また、ガードレールは、3メートル程度が一つの単位とされていますので、損壊した部分のみの修理代を負担すれば良いというわけではありません。
ガードレールを損壊すると、損害額が10万円以上となることも多くあります。
次に、信号機を損壊した場合、その修理代等は、どの程度なのでしょうか。
信号機の値段は最低120万円程度と言われています。
矢印を灯火する機能がついていたり、裏表で2台の信号機がついていると、より高額になると考えられます。
また、設置工事も、特殊な工事業者が行うことになりますので、比較的高額になる傾向にあります。加えて、信号機の修理までに交通整理や交通案内等が必要となった場合には、そのような人件費も必要となります。
ですので、信号機を損壊した場合は、300万円やそれ以上の損害額となることがあります。
では、道路標識を損壊した場合、その修理代は、どの程度なのでしょうか。
道路標識の大きさなどによっても変わりますが、10万円~100万円程度と言われています。
道路標識についても、道路標識そのものの損害、設置費用、交通整理等が必要となった場合の人件費等がかかります。
最後に、電柱を損壊した場合、その修理代等は、どの程度なのでしょうか。
電柱そのものの修理代は、数万円~30万円程度と言われています。
しかしながら、電柱を損壊したことによって、停電が発生するなどした場合、さらに損害は膨らむと考えられます。
また、道路標識と同様、設置費用等がかかります。
公共物を損壊した場合には誰に連絡すれば良いのか
上記のとおり、車で道路標識等の公共物を損壊した場合、運転者は、損害を賠償しなければなりません。
では、道路標識等の公共物の修理等については、誰に連絡を取れば良いのでしょうか。
道路標識については、その設置場所によって管理者が異なりますので、管理者に連絡を取る必要があります。
国道や高速道路は国土交通省、主要な地方道や都道・県道は地方自治体となっています。
電柱については、電力会社が管理していると考えられますので、電力会社に連絡を取る必要があります。
公共物への事故を放置するとどうなるのか
車で道路標識等の公共物を損壊して、そのまま交通事故現場から立ち去ってしまった場合、どうなるのでしょうか。
通常、不注意で道路標識等の公共物に接触したとしても、免許証の違反点数が加算されることはありません。
しかしながら、警察へ交通事故の報告をせずに交通事故現場を立ち去った場合、道路交通法上の危険防止措置義務違反及び報告義務違反に当たります。
危険防止措置義務違反は違反点数5点、報告義務違反は違反点数2点となります。
また、それぞれ、道路交通法上、刑事罰が定められており、危険防止措置義務違反は1年以下の懲役又は10万円以下の罰金、報告義務違反は3か月以下の懲役又は5万円以下の罰金が科される可能性があります。
仮に、何もせずに交通事故現場から立ち去ってしまったとしても、後でも良いので、警察に報告をした方が良いでしょう。
物損事故と公共物事故との違い
物損事故の場合には、自賠責保険が使えないから注意しよう。
物損事故と公共物事故とで対応に違いはありません。
公共物を損壊する事故は、物損事故の一類型と言えるでしょう。
また、物損事故では、自賠責保険は使えません。
自賠責保険は、交通事故によって、人が怪我をした場合にのみ使うことができます。
阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。