新たな道路交通法改正法案は、2026年に施行される予定だよ。
今回の記事では、2024年3月に閣議決定された道路交通法改正法案について、詳しく見ていこう。
目次
道路交通法改正法案の閣議決定
2024年3月5日に、道路交通法改正法案が閣議決定されました。
同日、同改正法案は、国会に提出され、同年4月16日に衆議院を通過し、今後(同月19日の情報です)、参議院で委員会による審査、本会議による審議が予定されています。
なお、衆議院では、全会一致で可決されています。
今回の道路交通法改正法案は、公布から2年を超えない時期に施行される予定ですので、成立すれば、遅くとも2026年には施行される予定です。
道路交通法改正法案の提出理由や概要
今回の道路交通法改正法案が出された理由は、「最近における道路交通をめぐる情勢等に鑑み、自転車等の交通事故の防止等のため、自転車の運転中における携帯電話使用等の禁止、自転車事故等の運転による一定の違反行為の反則行為への追加等の措置を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。」とされています。
実際、警視庁が公表している資料によると、自転車等が当事者となっている交通事故は、次のように増加や被害が悪化しているようです。
- 携帯電話使用等に起因する交通事故件数
平成25年から平成29年の累計295件⇒平成30年から令和4年の累計454件 - 酒気帯び運転による死亡重傷事故率
飲酒なし16.3%⇒酒気帯び30.8%
そのため、今回の道路交通法改正法案では、
- 自転車運転時における携帯電話使用等及び酒気帯び運転の禁止
- 自転車等に対する交通反則通告制度(青切符)の適用
- 自転車等の安全を確保するための規定の創設
を掲げています。
道路交通法改正法案が法律となって施行されると何が変わるのか
これらの違反は、反則金を納める青切符が切られることになるんだ。
自転車運転中の携帯電話使用等が禁止される
現在、自動車の運転者は、自動車の運転中に携帯電話を使用したり、画面を注視すること等が禁止されており、違反すると、6か月以下の懲役又は10万円以下の刑罰が科される可能性があります。
そして、この運転中の携帯電話の使用や画面の注視等の対象から、自転車は外されていました。
しかしながら、今回の道路交通法改正法案が法律となって施行されると、自転車の運転者も、運転中に携帯電話を使用したり、画面を注視すること等が禁止されます。
そして、自動車の運転者と同様、違反すると、6か月以下の懲役又は10万円以下の刑罰が科される可能性があります。
自転車の酒気帯び運転の禁止
現在、自動車の運転者は、酒気帯び運転や酒酔い運転が禁止されていることはご存じかと思います。
自転車の運転者も、酒酔い運転は禁止されており、これに違反すると、5年以下の懲役又は100万円以下の刑罰が科される可能性があります。
ただ、現在は、酒気帯び運転の対象から自転車は外されており、自転車の酒気帯び運転は処罰されていません。
ここで酒気帯び運転と酒酔い運転の違いを少し説明しておきます。
酒気帯び運転は、政令で定める基準以上にアルコールを保有している状態(呼気1リットル中のアルコール濃度が0.15mg以上、又は、血液1ミリリットル中のアルコール濃度が0.3mg以上)で運転することです。
それに対し、酒酔い運転は、呼気や血中のアルコール濃度は関係なく、客観的にアルコールが原因で正常な運転ができないと判断される状態のことをいいます。
ですので、理屈上は、酒気帯び運転ではないが、酒酔い運転であるということもあり得るわけです。
今回の道路交通法改正法案が法律となって施行されると、自転車の運転者も、酒気帯び運転が禁止されます。
そして、違反すると、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科される可能性があります。
自転車の酒気帯び運転も自動車の酒気帯び運転と同様に処罰される可能性がある(同一の条文で処罰の対象となります。)ということになります。
自転車の違反行為の一部が青切符の対象に
青切符は、通称であり、正確には、交通反則通告制度のことをいいます。
交通反則通告制度は、交通違反行為のうち、法令で定められた反則行為について、一定期間内に反則金を納めることによって、刑事裁判や家庭裁判所の審判を受けないで事件が処理される制度のことです。
近年、自転車が関連する交通事故において、自転車運転者にも道路交通法違反行為があることが多く、刑事処分等が必要となる場合が増えているようです。
しかしながら、自転車運転者による道路交通法違反行為は、軽微なことも多く、不起訴処分となったり(制裁としての実効性が弱くなります。)、違反行為に比して刑事処分が重くなってしまう可能性がある(前科がつく可能性があります。)という問題がありました。
そこで、今回の道路交通法改正法案は、自転車の道路交通法違反行為の一部を青切符の対象として、自転車運転者に刑事手続の負担を負わせずに、合理的に事件処理をすることにしました。
なお、反則金の納付は任意です。
反則金を納付せずに、刑事事件において、違反行為の有無等を争うことも可能です。
では、どのような違反行為が青切符の対象となるのでしょうか。
まず、16歳以上の自転車運転者が対象となります。
また、青切符の対象となる違反行為は112種類が予定されており、代表的な違反行為を挙げると、信号無視、一時不停止、遮断踏切の立ち入り、携帯電話の使用等のながら運転があります。
反則金は、違反行為ごとに決まることになりますが、5000円から1万2000円程度が予定されているようです。
また、赤切符、つまり、刑事事件の対象となる行為も24種類が予定されており、酒酔い運転、酒気帯び運転、携帯電話の使用等のながら運転で危険を生じさせた場合などがあります。
自転車等の安全を確保するための規定の創設
自転車等と自動車道の側方接触を防止するための新たな義務が課されることになります。
自動車等が自転車等の右側を通過する場合において、両者の間に十分な間隔がないとき、自動車運転者には自転車との間隔に応じた安全な速度で進行する義務を、自転車運転者にはできる限り道路の左側端に寄って通行する義務が課されることになります。
なお、ここにおける両者の間に十分な間隔があるかどうは1.5メートルが一つの目安になります。
自転車運転者がこの義務に違反した場合、5万円以下の罰金が科される可能性があります。
まとめ
今まで以上に安全運転を心掛けなければいけないね!
今回の道路交通法改正法案が法律となって施行されると、今まで、自転車運転者に課されていなかった義務が課されることとなり、自転車運転者が自動車運転者に近づくこととなります。
自転車は、交通事故においては交通弱者と評価されますが、違反行為が重大な事故を引き起こす可能性があります。
また、歩行者との関係では、自転車は交通強者となることもありますし、自転車と歩行者との事故で死亡事故も発生しています。
自転車も自動車同様、人を怪我させる可能性のある凶器になるということを意識して、道路交通法等の法令を守るようにしてください。
阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。