今回の記事では、整備不良車と事故を起こしてしまった場合の過失割合について詳しく見ていこう。
まずは、整備不良車と事故を起こしてしまった場合、誰に責任が生じる事になるのか、チェックしていこう。
整備不良車との事故の責任の所在
整備不良車の典型例
整備不良車といったら、どのような状態を想像するでしょうか。
整備不良は様々ありますが、交通事故につながる可能性がある整備不良を挙げるとすると、次のようなものがあります。
- タイヤの整備不良
雪道を夏用タイヤで走行する、空気圧の低いタイヤで走行していたためにタイヤがパンクする、摩擦ですり減ったタイヤでスリップするなどといった交通事故が考えられます. - ブレーキの整備不良
ブレーキの整備不良によって、人身事故が発生する、追突事故が発生するなどといった交通事故が考えられます。 - ランプの整備不良
ブレーキランプが点灯しないことによって追突事故が起きる、ヘッドライトが点灯しないことによって相手車両に確認されずに交通事故が発生するなどといった交通事故が考えられます。
整備不良車との事故は誰に請求すべきか
整備不良車の責任は誰が負うのでしょうか。
その前提として、車両の整備については、誰が責任を負っているのでしょうか。
道路交通法62条は、
- 車両等の使用者
- 車両等の装置の整備の責任者
- 車両等の運転者
に対して、整備不良車を運転することや運転させることを禁止しています。
車両の整備不良と交通事故との間に因果関係がある場合、上記1~3の人は損害賠償責任を負うことになります。
少し特徴的なのは、2.車両等の装置の整備責任者でしょう。
道路運送車両法に基づく整備管理者が該当しますが、運送会社等で車両の整備責任者の地位にある者などもこれに該当します。
例えば、運送会社所有のトラックのブレーキの整備不良の場合において、ブレーキの整備不良が原因で追突事故が発生して被害者が怪我をした場合、被害者としては、
- 車検証上、使用者として記載されている者(会社など)
- 会社の整備管理者
- 実際の運転者
に対して、損害賠償請求することが可能となります。
また、車両の所有者(会社など)が自賠法3条の運行供用者責任を負う場合には車両の所有者に対しても損害賠償請求をすることができます。
さらに、会社は使用者責任を負うことになりますので、被害者は、使用者責任に基づいて会社に対して損害賠償請求することもできます。
なお、整備不良と交通事故との間に因果関係がない場合には、通常の交通事故となるため、2.車両等の装置の整備責任者は責任を負わないと考えられます。
例えば、ヘッドランプの整備不良があったが、昼間の事故で、しかも事故の原因が運転者の居眠りだった場合などは、整備不良と交通事故との間に因果関係がないといえます。
整備不良車との事故の過失割合
整備不良車との事故の過失割合はどうなるのでしょうか。
実際のところはケースバイケースということになります。
整備不良が関わる交通事故でも、交通事故は整備不良のみで起こる場合は少なく、その他の過失と相まって発生することが多いと考えられます。
とはいえ、整備不良が1つの原因で交通事故が発生した場合、整備不良車側に不利に過失割合が修正されます。
例えば、ヘッドライトの整備不良があった原動機付自転車が夜間に右直事故を発生させた場合において15%程度不利に過失割合を修正されたという事案があります。
その事案においては、夜間においてヘッドライトの照射量が不足していると、相手方から原動機付自転車の発見が困難となる旨認定されており、そのことが過失割合に影響を与えたといえます。
整備不良車に乗ることによる罰則
事故を起こさなくても、整備不良の車に乗っていると罰則を受ける事になるため注意しよう。
整備不良車によって交通事故を発生させた場合、過失運転致死傷罪に問われる可能性があります。
過失運転致死傷罪は、法定刑として7年以下の拘禁刑、又は、100万円以下の罰金が定められています。この刑罰は、
- 車両等の使用者
- 車両等の装置の整備の責任者
- 車両等の運転者
の三者が負う可能性のあるものとなります。
仮に、交通事故が起こらなかったとしても、整備不良車の整備不良が発覚した場合、道路交通法119条2項2号などにより、上記1~3の人は、3月以下の拘禁刑、又は、5万円以下の罰金が科される可能性があります。
また、整備不良は、違反点数の対象にもなっており、例えば、尾灯の整備不良は、違反点数1点、反則金7000円などとなっています。
さらには、先ほど述べたとおり、被害者に対する損害賠償責任を負うこととなります。
整備不良を防ぐには
整備不良を防ぐためには、運転者等が日々行うことのできる点検を行う、定期的にディーラーで定期点検を受けることが重要です。
運転者等が日々行うことができる点検は、例えば、タイヤ周りの点検(空気圧、溝の深さ、亀裂の有無等)、ランプの点灯や故障の有無、ブレーキやアクセルの効き、走行時の異音の有無の確認などを挙げることができますが、これらに限りません。
また、車両に異常がある場合には、警告灯などで知らせてくれることがありますので、警告灯が灯火した場合には、きちんと点検や修理を行うことが重要です。
ディーラーなどでの定期点検は有料となりますが、半年や1年程度に1回の頻度で車両に不具合がないか確認をしてくれます。
また、交換が必要な消耗品の交換等の提案もしてくれますので、整備不良にならないように適宜、修理や消耗品の交換等をしましょう。

阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。