交通事故に遭ってしまった時には、診断書って必要なの?
交通事故に遭ってしまった時には、後遺障害認定を受けられるかどうかの判断として診断書を利用するんだ。
今回の記事では、交通事故に遭ってしまった時の診断書の必要性や、慰謝料を増額させるためのポイントをチェックしてみよう。
自動車を運転する以上、安全運転を心がけていても事故のリスクはあります。
もし、万が一事故の被害者になってしまった時に、冷静に対応するのはなかなか難しいものです。
その中でも、事故にあった人が先に知っておけばよかったと後悔しているのが、保険会社から支払われる示談金額が増減する方法です。
交通事故損賠償金の計算方法には、複数の基準があるのですが、そのことをご存知の方は多くありません。
実際に事故に遭い、保険会社とやりとりをする段階になって、
- 交通事故の示談金額が、弁護士に相談することで変わるなんて、思いもしなかった
- あの時弁護士に相談するべきだった
と気づかれる方がほとんどなのです。
交通事故による身体的ダメージ、精神的苦痛は金銭によって回復しきれるものではありませんが、本来得られるべき金額を受け取ることで、精神的に楽になることがあるのも事実です。
今回は、実際に交通事故示談交渉において、質問の多い「診断書」と「後遺障害」について解説していきます。
目次
後遺障害とはどのような症状のことなのか
そもそも後遺障害って何?
慰謝料にどう違いが出てくるの?
後遺障害認定を受けることができると、慰謝料の額に大きな違いが生じる事になるんだ。
後遺障害認定を受けるためには、相手の保険会社が手続きを進める事前認定と、被害者自身で手続きを進める被害者請求の二種類があるんだよ。
後遺障害と聞いて、皆さんはどのようなイメージを持たれるでしょうか。
交通事故における後遺障害は怪我の症状のうち、治療をしても残ってしまった症状のことを指します。
残存症状といった方が適切かもしれません。
交通事故における後遺障害は、自動車損害賠償保障法(以下、「自賠法」といいます。)施行令別表第1及び別表第2に定められています。
一番重い後遺障害である1級から、等級の数字が増えるごとに症状が軽くなるように定められています。
なお、後遺障害に該当しない場合は非該当と表現されます。
2つの後遺障害の認定手続
では、上述の後遺障害の等級を認定してもらうためにはどのような手続きをとれば良いのでしょうか。
後遺障害の等級認定手続は、自賠法という法律が定めており、以下の2つの方法を定めています。
事前認定
加害者の任意保険会社を通して、自賠責保険に対し、後遺障害の等級認定手続をすること
被害者請求
被害者が直接、自賠責保険に対して後遺障害の等級認定手続をすること
被害者にとって事前認定と被害者請求はどちらがいいのか
相手の保険会社が後遺障害認定の手続きをしてくれるなら、全てお任せした方が楽だよね?
事前認定の方が、被害者は手続きが楽になるけれど、その分、後遺障害認定等級が低くなってしまったり、非該当になってしまうこともあるんだ。
等級が下がってしまうと慰謝料は大きく減額してしまうから、手続きが面倒でも、被害者請求をするのがお勧めだよ。
それでは、後遺障害等級認定手続において、事前認定と被害者請求のどちらが良いのでしょうか。
それぞれの手続きを行った場合で考えていきましょう。
事前認定の場合
事前認定の場合、加害者の任意保険を通じて後遺障害等級認定手続をします。
加害者側がその必要資料を作成して、自賠責保険に対して後遺障害等級認定手続をするということになります。
事件によっては、後遺障害を否定する意見書を添えることも可能です。
反対に、後遺障害の等級を認定してほしいという意見書を添えることもできます。
ただし、保険会社のスタンスとしては、できる限り保険金の支払を抑えたいと考えるので、被害者に好意的な意見を添えない場合の方が多いでしょう。
また、事前認定の場合、後遺障害等級が認定されたとしても後遺障害の等級に対応する自賠責の保険金は支払われません。
交通事故の怪我で働けなくなるなど、経済的に困窮していることの多い被害者にとって、後遺障害の等級に対応する自賠責保険金が支払われないというのは死活問題になりかねません。
つまり、事前認定には
- 加害者側に後遺障害等級認定手続のための資料を握られてしまうというリスクがある
- 自賠責保険が支払われない可能性がある
という2つのデメリットがあるのです。
被害者請求の場合
被害者請求の場合、被害者が直接、自賠責保険に対して後遺障害等級認定手続をします。
そのため、自賠責保険に対して提出する書類は、被害者側で全て揃えることになります。(事故の状況や治療費の支払い状況等によっては、加害者の任意保険から収集する資料もある)
これは被害者にとって、重い負担となりかねません。
しかしながら、被害者請求で後遺障害等級認定手続をする場合でも、弁護士がその手続を代理すれば、被害者本人の手続的な負担は相当程度に軽減されます。
そのため、大きなデメリットとはいえないでしょう。
また、被害者請求の場合、自賠責保険に提出する書類を全て被害者側で管理することができるというメリットがあります。
事前認定とは異なり、加害者の任意保険会社の担当者の意見書や任意保険会社の担当者が依頼した医師の意見書が提出されるということはありません。
この点は、被害者請求のメリットといえます。
さらに、被害者請求で後遺障害等級認定手続をして後遺障害の等級が認定された場合、等級に対応する自賠責保険金が支払われます。
交通事故の怪我によって働けなくなるなど、経済的に困窮していることの多い被害者にとっては、賠償金の一部とはいえ、自賠責保険金が支払われる点は、大きなメリットといえます。
以上の点を総括すると、後遺障害等級認定手続において、被害者請求の方が被害者にとってメリットが大きいと考えられます。
後遺障害等級認定手続では後遺障害診断書が重要
診断書には種類があるって聞いたんだけれど、どの診断書も同じなの?
診断書には、警察に提出する物、自賠責定型の診断書、そして後遺障害診断書の3種類があるんだ。
後遺障害認定を進めるためには、後遺障害診断書が非常に大切になるよ。
ここまで、2つの後遺障害等級認定手続の方法を説明してきました。
では、後遺障害等級認定手続において一番重要な後遺障害診断書について解説していきます。
交通事故の実務においては,
- 警察に提出する診断書
- 自賠責定型の診断書
(交通事故による怪我の治療状況を把握するためにも重要な書類) - 後遺障害診断書
の3つの診断書が登場します。
この中で、最も重要な診断書は後遺障害診断書です。
後遺障害診断書とは、後遺障害診断書作成時(症状固定後)に被害者に残っている症状を記載している書類です。
例えば、交通事故の被害者に残存する症状として見られる例である、
- 神経症状(痛み,しびれ,知覚鈍麻等のこと)
- 関節が動きにくくなる
- 醜状痕(交通事故と因果関係のある事項によって,皮膚に周囲とは異なる症状が残ること。ケロイドや手術痕などがあります。)
といった内容を記載します。
もちろん、後遺障害は等級と号に分かれており、様々な症状が用意されていますので被害者の残存症状に沿って、上記以外にも様々なことが記載されます。
後遺障害は残存症状であり、その残存症状を記載するのが後遺障害診断書ですので、後遺障害等級認定手続において後遺障害診断書がもっとも重要なのです。
後遺障害診断書は誰に書いてもらうのか
後遺障害診断書の作成は、病院であればどこに依頼しても同じなの?
後遺障害診断書は、自分が通院している科の医師に記載してもらう必要があるんだ。
整体や整骨院では、後遺障害診断書は作成できないから注意しよう。
後遺障害診断書は医師しか作成できません。
交通事故の怪我のために、整骨院や接骨院に通う方がいますが、整骨院や接骨院の柔道整復師は、後遺障害診断書を作成することはできません。
なお、整骨院や接骨院の治療の有用性や被害者が感じる症状の軽減を否定するものではありません。
あくまで後遺障害診断書の作成の可否の観点で述べています。
そして、交通事故の怪我の治療のために複数の病院に通院している場合、その症状ごとに(科ごとに)後遺障害診断書を作成する必要があります。
例えば、
- 目の怪我→眼科に後遺障害診断書をもらう
- 足の怪我→整形外科に後遺障害診断書をもらう
後遺障害診断書は必ず医師にもらう必要があるので、それぞれ専門の科で診察してもらいましょう。
また、同じ科で複数の病院に通院している場合には、被害者の直近の状態を診ている医師に後遺障害診断書を作成してもらうことになります。
後遺障害診断書が被害者の残存症状を記載するものである以上、直近の状態を診てもらっている医師に作成してもらうのが一般的です。
後遺障害診断書の作成の際にどんなことに気を付ければいいのか
後遺障害診断書を作成してもらう場合には、医師にどんな事を伝えれば良いの?
痛みが残っている事、緩和されていないことをしっかりと伝え、正確に記載してもらえるようにすることが大切だよ。
症状が良くなっているという記載があると、後遺障害認定を受けられなくなってしまうから、初期の段階から症状が緩和していないことをしっかりと伝えておこう。
自賠法施行令は、様々な後遺障害を規定していますが、交通事故の際に負った怪我や診断名から認定される後遺障害の等級を予想できることがあります。
例として、診断名から予想できる後遺障害の例をご紹介しましょう。
- 頸椎捻挫・腰椎捻挫→後遺障害として神経症状が残存する可能性がある
- 関節の近くで骨折をした場合→当該関節の可動域制限が生じる可能性がある
- 腓骨・脛骨の開放骨折(骨折した際に皮膚が破れて,骨が外に露出する状態)の場合→状況によっては下肢が短縮する可能性がある
このように、交通事故の際に負った怪我や診断名等から予想されうる後遺障害等級を把握することができるので、治療中の段階から残存症状を適切に後遺障害診断書に記載してもらうように意識しましょう。
弁護士はどのようなサポートをしてくれるのか
後遺障害認定の手続きを進めるには、弁護士に依頼する方が良いの?
そうだね。
弁護士に依頼することで、面倒な手続きを全てお任せできるし、医師との診察に立ち会ってもらい、正確に後遺障害診断書を作成してもらえるように、アドバイスしてもらう事も出来るんだよ。
最後に、後遺障害等級認定手続において弁護士が果たすことのできる役割についてご説明します。
今までご説明してきた通り被害者にとって非常に手間のかかる、後遺障害等級認定手続を代わりに行ってくれるイメージです。
また、被害者から事故や怪我の状況を聞き、怪我の状態や診断名等から認定されうる後遺障害の等級をアドバイスするということもできます。
加えて、後遺障害診断書作成の際の診察に立ち会って、医師に対して被害者の自覚症状やその他後遺障害診断書に記載すべき事項を伝えることもできます。(同席には事前に医師の同意を取ります)
つまり、弁護士に依頼しておくと怪我や診断名から分かり得る後遺障害等級ポイントの把握・アドバイス、同ポイントから押さえた後遺障害診断書の作成サポートといったものを受けることができるのです。
交通事故示談交渉を進める上で、不安のある方は、まずは気軽に専門家である弁護士の知恵を借りてみましょう。
阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。