慰謝料

生活保護を受給していて事故に遭った!慰謝料や示談金はもらえるの?専門家が解説

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ウサギ
生活保護を受けているんだけれど、交通事故に遭って慰謝料を受け取ったんだ。
慰謝料はそのまま受け取っても良いのかな?
シカ
生活保護を受けている場合、受け取った賠償金は、自治体に返還しなければいけないんだ。
今回の記事では、生活保護を受けている人が慰謝料を受け取った場合、どのくらい自治体に返還する必要があるのか、返還が必要ないケースについても、合わせて見ていこう。

生活保護受給者に収入があった場合には必ず自治体に連絡する

生活保護法は、生活保護受給者に収入があった場合には返還義務等を定めている

これは、生活保護受給者全般にいえることですが、生活保護受給中に収入があった場合には、必ず、自治体に連絡をしてください。

生活保護法63条が、収入があるにもかかわらず生活保護を受給した場合には生活保護費相当額の返還義務を定めているためです。

なお、同条における「資力」は収入とほぼ同じ意味とお考え下さい。

【生活保護法】第63条
被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかからず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。

仮に、不正受給と判断された場合には、返還義務よりも、より強い効力のある規定の適用の可能性があります。

生活保護法78条1項は、不正な手段で生活保護を受給した場合に、自治体が不正受給者から生活保護費相当額(最大、生活保護費相当額の140%となります。)を徴収(将来の生活保護費から天引きをすることができます。)することができる旨定めています。

【生活保護法】第78条1項
不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に百分の四十を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。

交通事故による慰謝料も生活保護上の収入に当たる

【生活保護法による保護の実施要領について】は、生活保護受給者が受け取った金員について、収入として認定するものと収入として認定しないものを定めています。

交通事故において、問題となり得るのは、次の内容です。

【生活保護による保護の実施要領について 第8.3(3)オ】
災害等によって損害を受けたことにより臨時的に受ける補償金、保険金又は見舞金のうち当該被保護世帯の自立更生のためにあてられる額

分かりにくいですが、上記の内容は、収入として認定しない金員について定めたもので、「自立更生のためにあてられる額」に該当すれば、生活保護上、収入として認定されず(その場合、生活保護費相当額の返還はありません。)、該当しなければ、生活保護上、収入として認定されますので、生活保護費相当額の返還をしなければならなくなります。

過去の裁判例をみても、交通事故の慰謝料は、自立更生のためにあてられる額には該当しないと判断されています(結論として、生活保護受給者が自治体に生活保護費相当額を返還することになります。)。

したがって、交通事故に遭って慰謝料を受け取った場合、生活保護費相当額を自治体に返還しなければなりません。

受け取った全ての賠償金を返還する必要があるのか

ウサギ
受け取った賠償金は、全て自治体に返還する必要があるの?
シカ
現在受給している生活保護の金額分だけを返還すれば良いから、生活保護費よりも慰謝料を多く受け取った場合には、その差額は返還する必要はないんだよ。

賠償金の全額を返還する必要はない

上記で引用した生活保護法63条は、「その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。」と定めています。

文言からも分かるとおり、受給した生活保護費の範囲内で返還すれば足ります

したがって、交通事故で賠償してもらった賠償金の全額を自治体に返還する必要はありません。

なお、賠償金が少額の場合には、結果として、賠償金の全額を自治体に返還することもあると思いますが、それは、生活保護費相当額が賠償金を上回っていたからに過ぎません。

生活保護費相当額の返還時期はいつか

交通事故に遭った生活保護受給者からすれば、交通事故の賠償金を受け取っていないにもかかわらず、生活保護費相当額の返還を求められたら、大変です。

しかしながら、【第三者加害行為による保証金、保険金等を受領した場合における生活保護法第六十三条の適用について(昭和四七年一二月五日)(社保第一九六号)(各都道府県・各指定都市民生主管部(局)長あて厚生省社会局保護課長通知)】によると、自動車事故の場合には、自動車損害賠償保障法により保険金が支払われることが確実なために、事故発生時点から生活保護法63条に基づく返還を求めると定められています。

つまり、被害者は、交通事故が発生した時点で損害賠償を請求できる権利を取得するため、生活保護上、交通事故が発生した時点で収入があったと認定されるということになります。

実務的には、交通事故発生時にまで遡って生活保護費相当額の返還を求められるということが多いと思います。

それに対し、東京都福祉保健局の定める【生活保護運用事例集2017】は、生活保護費相当額の返還時期について、傷害による損害については事故発生日、後遺障害による損害については障害等級認定日、死亡による損害については死亡日、慰謝料については確実に支払われると判断された時点(示談成立日)と定めています。

厚生労働省の基準よりも、東京都の基準の方が実態に合っているようにも思います。

ちなみに、過去の裁判例では、厚生労働省の基準に従って、慰謝料についても、交通事故発生日に収入があったと認定するものがあります。

賠償金を受け取ると生活保護はストップするのか

ウサギ
賠償金を自治体に返還すると、生活保護ってストップしちゃうの?
シカ
受け取る賠償金がどの位の額になるかによって、その後の受給が変わってくるんだ。
生活保護費の半年分以上の金額を受け取った場合、生活保護がストップになる可能性が高いね。

上記でも述べたとおり、交通事故による賠償金は、全額、自治体に返還する必要はありません。

交通事故によって負った傷害等からすると、賠償金が手元に残る可能性があります。

そして、生活保護受給者の手元に残った賠償金の状況に応じて、生活保護が停止(生活保護を一時的に止めることです。)されたり、廃止(生活保護を終わらせることです。)されたりする場合があります。

生活保護法は、生活保護の停止や廃止について、次のとおり定めています。

【生活保護法】第26条
保護の実施機関は、被保護者が保護を必要としなくなったときは、速やかに、保護の停止又は廃止を決定し、書面をもって、これを被保護者に通知しなければならない。
第二十八条第五項又は第六十二条第三項の規定により保護の停止又は廃止をするときも、同様とする。

生活保護費相当額の半年分以上の金員を受領した場合には生活保護の廃止、そこまでには至らない場合には停止といわれていますが、各自治体の裁量もありますので、一概にはいえません。

賠償金のうち、生活保護費相当額を返還しなくても良い金額はあるのか

ウサギ
賠償金を自治体に返還しなくても良いのはどんな時なの?
シカ
後遺症が残り、自宅を改造しなければいけなくなってしまった時など、賠償金が自立更生の為に必要であると判断された場合には、自治体へ賠償金を返還する必要はないんだよ。

上記で述べたとおり、【生活保護法による保護の実施要領について】では、自立更生に当てられる額に該当する場合には、生活保護費相当額の返還を要しません。

そして、その内容については、【生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて】にもう少し詳しく載っています。

【生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて】問40の答(1)
被保護者が災害等により損害を受け、事業用施設、住宅、家具什器等の生活基盤を構成する資産が損なわれた場合の当該生活基盤の回復に要する経費又は被保護者が災害等により負傷し若しくは疾病にかかった場合の当該負傷若しくは疾病の治療に要する経費

また、東京都福祉保健局の定める【生活保護運用事例集2017】にも次のとおり、定められています。

【生活保護運用事例集2017】問7-34
被保護者が交通事故にあい、補償金を受領した場合の取扱いは、「保険金、その他の臨時的収入」として8,000円(月額)を超える額のうち、自立更生に当てられる額(対象範囲及び額は課長問答・問第8の40参照)を除いて収入認定する。
また、自立更生に当てられる額が、将来の自立更生にあてられることを目的として適当な者に預託されている場合には、その間は収入認定しない取扱いができる(前述の問7-33と同様)
なお、交通事故の補償金は事故にあったことによる被害を補償する金銭という性格から、原状回復のための経費については、より積極的に自立更生にあてられる額とすべきである。
補償金等の支払は、示談成立等の時期よりも後に行われる事例が多いため、法第63条返還を適用する場合も生じる。
返還額決定の際の免除額を考慮するにあたっては、同様に原状回復に費消せざるを得ない額について、免除を考慮すべきものとして差し支えない。

上記のような内容からすれば、治療に要した費用や後遺障害が残存した場合の自宅の改造費用といったものは、生活保護上の自立更生に当てられる額に該当し、その分については生活保護相当費の返還はしなくても良いということになりそうです。

ただし、生活保護の医療扶助を利用して傷害等の治療を受けたときは、加害者に対して、治療費相当額を損害賠償として請求することはできませんので、ご注意ください。

 

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阿部栄一郎

阿部栄一郎

弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所所属。

早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ

■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。

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