無傷の場合でも通院した方が良いの?
後から痛みが出た場合には、通院することで、慰謝料を受け取ることができるんだ。
今回の記事では、交通事故後、無傷の場合には通院すべきか、物損事故として届けを出した後、人身事故に切り替えることはできるのか、詳しく見ていこう。
交通事故に遭うと、一見「無傷」でも実はけがをしているケースが少なくありません。
そんなときには慰謝料を受け取れる可能性があります。
今回は無傷の事故でも慰謝料を受け取れる場合や請求方法、その際に「不正受給」といわれないための対処方法をお伝えします。
無傷でも慰謝料を受け取れるケースとは
交通事故に遭ったとき、無傷でも慰謝料を払ってもらえるのでしょうか?
無傷なら慰謝料は払われない
基本的に、無傷であれば慰謝料を請求できません。
交通事故には「物損事故」と「人身事故」の2種類があり、人がけがをしたり死亡したりすると「人身事故」、無傷なら「物損事故」に分類されます。
物損事故の場合には慰謝料が発生しないと考えられているので、無傷の場合には慰謝料請求できないのが原則です。
けがをしていたら慰謝料請求できる
「事故現場では無傷と思っても、実はけがをしていた」というケースが少なくありません。
事故現場では興奮状態になっており、目立った外傷がなければ本人すら傷を負ったことに気づかないのです。
特に事故で「むちうち」になった場合、一見無傷なので事故現場では症状に気づかず、物損事故として届け出てしまう方も多数おられます。
小さな骨折が生じている場合にも、事故現場では気づかないケースがよくあります。
このように、事故現場では「無傷」と思っても、実際にはむちうちなどのけがをしていれば慰謝料を請求できます。
「入通院慰謝料」を払ってもらえますし、後遺症が残れば「後遺障害慰謝料」も払ってもらえます。
以下でそれぞれの慰謝料についてご説明します。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は、交通事故でけがをしたすべての被害者が受け取れる慰謝料で、受傷によって被害者の受ける精神的苦痛に対して支払われます。
ただし入通院しないと入通院慰謝料を請求できません。
「無傷だから」と思って病院に行かずいつのまにか完治した場合、慰謝料は払ってもらえないと考えてください。
また入通院慰謝料は、治療日数が長くなればなるほど高額になります。
医師が「完治」または「症状固定」と判断するまできちんと通院を継続しなければ、慰謝料が減額される可能性があります。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、事故でけがの後遺症が残り、自賠責保険で「後遺障害等級認定」されたときに支払われる慰謝料です。
認定された後遺障害の等級によって金額が異なります。
参考までにむちうちの場合、12級なら290万円程度、14級なら110万円程度が相場です。
無傷でも病院に行く方がいい?
交通事故に遭ったとき、無傷でも病院に行ったほうがよいのでしょうか?
基本的には通院するようお勧めします。
事故現場で自分では「無傷」と思っても、実際には受傷しているケースがよくあるからです。
むちうちの場合はもちろんのこと、脳出血などの重大な症状が発生しても被害者自身は気づいていないケースが少なくありません。
脳出血を放置していると、命に関わったり重大な後遺障害が残ったりするリスクが高くなります。
交通事故で身体のどこかに衝撃を受けたら、自分では無傷と思っても念の為に病院へ行きましょう。
事故後無傷で通院する場合の注意点
事故現場では無傷のように見えても、実際にはむちうちなどになっていたら通院しなければなりません。
その際の注意点をお知らせします。
事故後すぐに病院に行く
1つ目は、事故後できるだけ早いタイミングで病院へ行くことです。
できればその日のうちに、難しければ翌日には受診しましょう。
診療科については、むちうちや骨折などの症状が疑われる場合には整形外科を選びましょう。
頭を打ったり強く揺さぶられたりした場合には、脳神経外科が適応します。
なお交通事故から1週間やそれ以上の日数が経過すると、受傷と事故との因果関係を証明できなくなってしまう可能性が高まります。
保険会社から「そのけがは事故と関係ない別原因によるものではないか?」といわれて慰謝料や治療費を払ってもらえなくなるリスクがあるので、日数をあけてはなりません。
治療内容の注意点
病院での治療方法にも注意が必要です。
たとえば湿布をもらうだけなどほとんど積極的な治療が行われていなかったら、保険会社側としては「もはや治療は不要な状態である」「完治した」と判断し、それ以降の治療費や慰謝料を打ち切る可能性が高くなります。
一方で不必要に濃厚な濃厚、丁寧な治療にも危険があります。
けがの治療に必要な範囲を超えて濃厚な診療や高度な治療、過度な検査を行うと、治療費の支払いを拒否されてしまう可能性が高くなると考えてください。
治療方法については被害者が指示を出せるものではないので、基本的には通院先の医師の指示にしたがって治療を進めるしかありません。
もしも医師の診療方法に疑問がある場合には疑問を提示して医師の考えを聞いたり、場合によっては別の医師にセカンドオピニオンを求めたりしてみましょう。
整骨院には通わない
交通事故の通院先を探していると「整骨院」「接骨院」「鍼灸院」「針治療院」「整体院」などの各種施術院が目につきます。
実は上記のような治療院は病院ではなく、事故直後に通うべきではありません。
整骨院や接骨院の先生は「柔道整復師」、鍼灸や針の先生は「鍼灸師」という資格の持ち主で、整体院は無資格で開業できます。
つまり全員「医師」資格は持っていません。
これらの治療院では「けがの治療」は受けられませんし、検査もしてもらえず診断書も書いてもらえないのです。
事故後、病院に行かず治療院に通っても慰謝料は払われないと考えてください。
まずは整形外科などの病院に通い、医師の指示がある場合に限って整骨院や接骨院などに通いましょう。
このステップを踏めば整骨院等の治療費や慰謝料も払ってもらえます。
なお無資格の整体院における施術には治療費や慰謝料が支払われません。
慰謝料を請求したいなら、有資格者の在籍する「整骨院」「接骨院」「針・鍼灸院」を選んでください。
無傷の通院で慰謝料や治療費の不正受給となる場合
事故後、無傷で通院すると慰謝料や治療費などの保険金の不正受給となってしまう可能性があります。
どのような行動に危険があるのかみてみましょう。
けがをしていないのに嘘をついて通院
実際にはけがをしておらずむちうちにもなっていないのに、「首や背中が痛い」「しびれがとれません」などと嘘をついて通院してはなりません。
虚偽申告によって治療費や慰謝料を受け取ると不正受給になります。
嘘が発覚したら返還請求されますし、詐欺罪が成立してしまう可能性もあります。
完治しているのに嘘をついて通院を継続
実際にけがをしても、完治したら治療を終了しなければなりません。
痛みなどが完全にとれたにもかかわらず「まだ痛い」などと嘘をついて通院し続けると保険金の不正受給になります。
整骨院の先生が勝手に診療費を水増し
整骨院などの治療院にかかると、先生が治療費を水増しして請求するケースがまれにみられます。
こういった事例は悪質な不正受給となるため、発覚すると民事的にも刑事的にも厳しく追及されるのが通常です。
被害者と結託している場合、被害者も処分対象となるので絶対に不正行為に加担してはなりません。
軽い事故を繰り返していると怪しまれる
「無傷で通院すると不正受給を疑われるケースがある」と聞くと「やはり無傷の場合に通院して治療費や慰謝料を請求するのは怖い、やめておこう」と考える方もおられるでしょう。
しかし無傷で通院したら即不正受給、というわけではありません。
実際に痛みがあるなら、通院治療を受けるのは当然の権利ですし治療費も慰謝料も堂々と請求すべきです。
問題になりやすいのは「軽い事故を繰り返してそのたびに長期の通院を継続し、治療費や休業損害、慰謝料の請求を繰り返している人」です。
そう何度も交通事故に遭い続けるものではありませんし、そのたびに不必要に長期の通院を継続するのも不自然で、不正受給を疑われます。
そういった事情がなく、「初めての事故で無傷だったけれども実はけがをしていた」という場合には不正受給になりません。
遠慮せずに通院して治療費や慰謝料を請求しましょう。
物損事故とされた場合の対処方法
2週間以上経過してしまった場合には、保険会社に人身事故証明書入手不能書を提出すれば、人身事故として扱ってもらえるよ。
事故現場で一見無傷だった場合、物損事故として届け出てしまう方が多いでしょう。
後から痛みが出てきた場合、どのように対応すればよいのでしょうか?
物損事故から人身事故へ切り替える
いったん物損事故として届け出てしまっても、後にけがが判明したら人身事故への切り替えができます。
まずは病院へ行って診察や検査を受けましょう。
そのうえで医師に「診断書」を書いてもらいます。
診断書を受け取ったら受け取ったら警察署へ持ち込んで、人身事故への切り替え申請をして受理されれば、事故が物損事故から人身事故扱いに変わります。
ただし事故から日数が空くと切り替えを受け付けてもらえない可能性があるので、早めに警察へ行きましょう。
保険会社へ人身事故証明書入手不能書を提出する
警察で人身事故への切り替えを受け付けてもらえるのは、事故後10日~2週間程度の間でそれ以上日数が空くと切り替えは難しくなります。
物損事故扱いになってしまう可能性が高いでしょう。
その場合でも、保険会社では人身事故扱いにしてもらうべきです。
保険会社で人身事故扱いになれば、治療費や慰謝料などの人身事故の賠償金を請求できます。
具体的な手続きとしては「人身事故証明書入手不能理由書」という書類を保険会社へ提出しましょう。
保険会社に書式があるので、取り寄せて必要事項を記載し、提出すると受け付けてもらえます。
まとめ
不正受給と言われてしまうのではないかと思って心配したよ!
交通事故に遭ったとき、無傷と思っても実はけがをしているケースが少なくありません。
まずは整形外科などの病院へ通院しましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。