過失割合は事故によって双方にどのくらいの責任があるのかを数値化したものなんだ。
今回の記事では、加害者側の過失割合と慰謝料の関係について、詳しくみていこう。
交通事故の加害者になってしまったとき、怪我をしたら補償を受けられるのでしょうか?
加害者がどの程度の賠償金を請求できるかについては、過失割合によっても変わってきます。
万が一でも加害者になってしまった場合に備えて、治療費や慰謝料などを請求できるのか、知っておきましょう。
この記事では交通事故の加害者が怪我をした場合の過失割合や慰謝料などについて解説します。
交通事故で加害者になってしまった方は是非参考にしてみてください。
目次
加害者と被害者の区別
そもそも加害者とはどういった立場の人なのでしょうか?
被害者との区別を確認しましょう。
一般的には過失割合が高い方が加害者とされ、過失割合が低い方が被害者とよばれるケースが多数です。
また、怪我をしたりして相手に賠償金を請求する側を被害者、請求される側を加害者と呼ぶこともあります。
刑事事件になった場合、被疑者・被告人となった人を加害者、事故に巻き込まれた側を被害者といいます。
どちらにも損害賠償請求権がある場合
交通事故では、当事者双方に過失割合があってどちらも相手に賠償金を請求するケースが多数あります。
その場合、どちらも請求者であり請求される側でもあるので、どちらも加害者であって同時に被害者になるといえるでしょう。
過失割合が10対0の事案でもない限り、加害者と被害者は固定的ではなく流動的な概念といえます。
加害者の怪我と過失割合や慰謝料との関係
加害者側の過失が10割だった場合には、自分が加入している保険の内容を見直してみよう。
加害者が怪我をした場合、交通事故の過失割合や慰謝料とはどういった関係になるのかみてみましょう。
なお以下では「過失割合が高い方の当事者」を加害者とよぶこととします。
加害者の怪我の状況と過失割合、慰謝料の関係
加害者が相手に賠償金を請求できるかどうかについては、加害者の過失割合がどの程度あるかによって変わります。
加害者側の過失が10割の場合、どんなに怪我の状態がひどくても慰謝料は被害者側に請求できません。
この場合、任意保険だけではなく被害者側の自賠責保険も適用されません。
自賠責保険には「重過失減額」という制度があり、被害者側に重過失があると適用されないからです。
自分の自賠責保険にも請求できないので(自賠責は相手の損害を補填するための保険)、加害者は被害者の保険からも自分の自賠責保険からも支払いを受けられない状況になります。
【自賠責の重過失減額の表】
請求者の過失割合 |
後遺障害や死亡による保険金 |
傷害による保険金 |
7割未満 |
減額なし |
減額なし |
7割以上8割未満 |
2割減額 |
2割減額 |
8割以上9割未満 |
3割減額 |
2割減額 |
9割以上10割未満 |
5割減額 |
2割減額 |
10割 |
保険金なし |
保険金なし |
被害者に1割でも過失割合がある場合
1割でも被害者側に過失割合があれば、加害者は相手(被害者)の過失割合分のみ賠償金を請求できます。
たとえば被害者の過失割合が1割なら、発生した治療費や慰謝料、休業損害などの1割分を請求できるのです。
自賠責の場合も重過失減額はされますが、補償が適用されます。
なお請求できる項目は被害者でも加害者でも変わりません。
以下のような賠償金の費目を請求できます。
- 治療関係費
- 交通費
- 休業損害
- 介護費用
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 後遺障害逸失利益
- 死亡慰謝料
- 死亡逸失利益
過失割合と賠償金の関係は、加害者の過失割合が高い場合、相手に請求できる金額は過失割合に応じて割合的に減額される、というものになります。
過失10割の場合に利用できる保険
加害者の過失割合が10割の場合、どこからも怪我の補償を受けられないのでしょうか?
そういうわけではありません。
加害者が以下のような保険に入っていれば、補償を受けられる可能性があります。
人身傷害補償保険
人身傷害補償保険は、保険契約者(被保険者)やその同乗者などが補償を受けられる保険です。
治療費や休業損害、慰謝料などが支払われます。
人身傷害補償保険では被保険者の過失が問題にならなので、加害者の過失割合が10割であっても補償を受けられます。
搭乗者傷害保険
搭乗者傷害保険も保険契約者(被保険者)とその同乗者などが補償を受けられる保険です。
入通院したり怪我をしたりすると、状況に応じて定額の補償が支払われます。
被保険者に過失があっても適用されます。
物損については車両保険
加害者側に物損が生じている場合、加害者の過失割合が10割であれば被害者側に請求できません。
被害者の対物賠償責任保険が適用されないからです。
自賠責では物損は補償対象外なので、自賠責にも請求できません。
そんなとき、加害者が自分で車両保険に入っていれば、車両保険から物損が補填される可能性があります。
ただし車両保険を使うと保険の等級が上がってしまい、翌年度からの保険料が高額になる可能性があります。
また車両保険には免責金額が設定されており、5万円や10万円までは加害者(被保険者)の自己負担となるケースが多数です。
車両保険を適用しても必ず得になるとは限らないので、注意しましょう。
勤務中や通勤退勤途中の事故であれば労災保険
勤務中や通勤退勤途中に交通事故に遭った場合、労災保険を適用できます。
労災保険とは、業務中や業務に起因する災害を補償してくれる保険です。
治療費や休業補償、後遺障害に対する補償、介護費用の補償などを受けられます。
健康保険も利用できる
病院に通うときには健康保険を適用することも可能です。
自己負担額が3割程度になるので、通院費用の負担が小さくなるでしょう。
加害者の怪我と過失割合の関係
加害者が怪我をしたら、過失割合にはどういった影響が及ぶのでしょうか?
結論的に、怪我の有無や程度と過失割合には何の関係もありません。
過失割合とは、その事故が発生した責任がどちらにどのくらいあるのかを数値化したものです。
怪我がひどいから責任が軽い、あるいは重いとされるわけではありません。
よって怪我の度合いと過失割合は無関係であり、怪我の程度によって過失割合が変わることはありません。
被害者が重傷でも過失割合が高くなるケースはありますし、相手より軽傷でも過失割合が低くなるケースがあります。
過失割合は誰が決めるのか
保険未加入の場合には、当人同士が話し合って、過去の判例を基にしながら決めることになるんだ。
交通事故では自分にどの程度の過失割合が認められるかが重要となります。
過失割合が高くなると、その分相手に請求できる賠償金が減額されてしまうからです。
では交通事故の過失割合は誰がどのようにして決めるのでしょうか?
過失割合は通常、保険会社同士の話し合いによって決まります。
保険に加入していない場合、本人らが話し合って決めなければなりません。
過失割合を決めるときには、似たような事故の過去の裁判例をもとにして決めることになります。
過去の裁判例を蓄積した「別冊判例タイムズ38」という本があるので、一般的にはその本に掲載されている基準によってお互いの過失割合を算定します。
過失割合に納得できない場合には
弁護士に相談するか、自分で過去の判例を調べてみよう。
交通事故の示談交渉では、加害者と被害者がそれぞれ過失割合を主張するため、相手の提示する過失割合に納得できないケースが多々あります。
相手の保険会社から提示された過失割合に納得いかない場合、どのように対応すれば良いのでしょうか?
納得できないなら、相手による提示を受け入れるべきではありません。
過失割合は、相手に請求できる賠償金の金額を左右する非常に重要な事項だからです。
自分の納得できる割合になってから示談を成立させないと、慰謝料などが減額されて損をしてしまいます。
一度示談書にサインしてしまうと、賠償金額に納得できなくても後からの変更は基本的にできません。
また相手の保険会社が提示する過失割合が適正とも限りません。
粘り強く交渉して、納得できる割合になってから示談書に署名押印しましょう。
過去の裁判例を調べる
交通事故の過失割合に納得できない場合には、同じような事故でどのような過失割合となっているのか、過去の裁判例を調べてみましょう。
保険会社の提示する過失割合が過去の裁判例から外れていたら、修正を求めることが可能です。
過去の過失割合に関する裁判例については、「別冊判例タイムズ38(民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準)」や「交通事故の赤い本(民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」などに基準値が掲載されています。
こういった本を入手して、自分で調べてみると良いでしょう。
別冊判例タイムズ38や交通事故の赤い本は、ネットの通信販売でも購入できます。
本に書いてある過失割合と相手の保険会社の主張する過失割合が違っていたら、相手に違いを指摘して修正を要求する根拠となります。
弁護士に相談する
自分1人で本を調べて保険会社に過失割合の修正を要求しても、保険会社が対応してくれるとは限りません。
自分で適正な過失割合を調べるのが難しいと感じる方も多いでしょう。
その場合、適正な過失割合がどの程度になるのか、弁護士に相談してみてください。
弁護士であれば事案ごとの適切な過失割合を調べてくれますし、自分で保険会社に主張して聞いてもらえない場合でも弁護士が代わりに示談交渉を進めてくれます。
弁護士が示談交渉を行えば保険会社を説得しやすくなりますし、保険会社が強硬な場合には訴訟で過失割合を決めることも可能です。
交通事故で困ったときには、普段から積極的に交通事故に取り組んでいる弁護士に相談してみましょう。

福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。