今回の記事では、急ブレーキで追突事故が起きてしまった場合の過失割合や、過失割によって変わってくる賠償金の額について詳しく見ていこう。
前方車両が急ブレーキを踏んだために追突事故が発生したら、お互いの過失割合はどのくらいになるのでしょうか?
一般的な追突事故の場合には「後方車両の過失割合が100%」になるのが基本です。
しかし前の車が急ブレーキを踏むと高い危険が発生するので、前方車両にも過失割合が認められます。
今回は前方車両が急ブレーキを踏んだときの追突事故の過失割合や慰謝料相場をお伝えしますので、事故に遭われた方はぜひ参考にしてみてください。
目次
追突事故の過失割合
追突事故とは、後方車両が車間距離を見誤って前方車両へ衝突してしまう事故です。
「おかまをほる」「もらい事故」などといわれるケースもあります。
追突事故の過失割合は、基本的に「衝突した後方車両の過失割合が100%(前方車両には過失なし)」です。
前の車は道路交通法を守っている以上不注意が認められず、車間距離を見誤ったり前方不注意をしたりした後方車両に全面的に責任が認められるからです。
ただし前方車両が急ブレーキを踏むと、過失割合が変更されます。
急ブレーキでの追突事故による過失割合
道路交通法は以下のように規定し、急ブレーキを禁止しています。
道路交通法24条 車両等の運転者は、危険を防止するためやむを得ない場合を除き、その車両等を急に停止させ、又はその速度を急激に減ずることとなるような急ブレーキをかけてはならない。
つまり「危険を防止するためにやむをえない場合」以外は急ブレーキを踏んではなりません。
急ブレーキを踏むと後方車両にとって予測不可能となり、衝突事故の危険を発生させてしまうからです。
それにもかかわらず急ブレーキを踏んで交通事故の原因を作った場合、前方車両には過失が認められます。
そこで追突事故であっても前方車両が急ブレーキを踏むと、前方車両に30%の過失割合が認められ後方車両の過失割合は70%になります。
急ブレーキによる過失割合の修正要素
上記の過失割合は「基本の過失割合」であり、事故の個別事情によって修正される可能性があります。
このように基本の過失割合を加算減算する事情を「修正要素」といいます。
急ブレーキによる追突事故の過失割合修正要素には以下のようなものがあります。
- 事故現場が住宅地、商店街…後方車両に+10%
- 後方車両が時速15キロメートル以上の速度違反…後方車両に+10%
- 後方車両が時速30キロメートル以上の速度違反…後方車両に+20%
- 後方車両の著しい過失…後方車両に+10%
- 後方車両の重過失…後方車両に+20%
- 前方車両が幹線道路上で停車していた…後方車両に-10%
- 前方車両のブレーキランプが故障していた…後方車両に-10~20%
- 前方車両の著しい過失…後方車両に-10%
- 前方車両の重過失…後方車両に-20%
高速道路上の追突事故の過失割合
高速道路における追突事故の過失割合について、チェックしてみよう。
高速道路上で事故が発生した場合、一般道路とは異なる過失割合の基準が適用されます。
高速道路上ではすべての車両が一定以上の速度で走行することが予定されており、前方車両が駐停車していると大きな危険を発生させるためです。
道路上で駐停車していた前方車両に後方車両が衝突した場合の基本の過失割合は、前方車両が40%、後方車両が60%となります。
ただし他車が起こした事故によりしかたなく停車していたなど、駐停車していた事情について前方車両に責任がなく、きちんと三角表示板などを設置して後続車両に危険を知らせていた場合には、後方車両の過失割合が100%になります。
駐停車していた事情について前方車両に責任はないけれど、きちんと三角表示板などを置いて危険回避措置をとらなかった場合、前方車両の過失割合が20%、後方車両の過失割合が80%になります。
また前方車両が路肩に駐停車していた場合、後方車両の過失割合が100%で前方車両に過失は認められません。
高速道路上で前方車両が急ブレーキを踏んだ
高速道路上で急ブレーキを踏むと極めて高い危険を発生させます。
前方車両が急ブレーキを踏んだために後方車両が追突した場合、前方車両と後方車両の過失割合は50%:50%になります。
進路変更や右左折の際の追突事故の過失割合
一般道路で前方車両が進路変更したり右左折したりするときにも追突事故が発生しやすくなっています。
お互いの過失割合をみてみましょう。
前方車両が進路変更する場合
前方車両が急に進路変更して後方車両の車線に入ってきたために衝突してしまうケースがあります。
道路交通法は「車両はみだりに進路変更してはならない(26条の2第1項)」と定めているので、進路変更時の事故では前方車両に高い過失割合が認められます。
基本の過失割合は前方車両:後方車両=70%:30%です。
前方車両が右左折する場合
前方車両が右左折するタイミングで生じる追突事故もあります。
たとえば前方車両が交差点を右折しようとしているときに後方車両が追い越そうとして衝突すると、基本の過失割合は50%:50%です。
ただし追い越し禁止場所の場合には前方車両が10%、後方車両が90%となります。
交差点で前方車両があらかじめ中央によらずに左側から急に右折した場合や、あらかじめ左によらずに道路中央から急に左折した場合には後方車両にとって予測不可能で危険が生じるので、前方車両の過失割合が80%、後方車両の過失割合が20%となります。
過失割合によって変わる慰謝料
交通事故の「過失割合」は賠償金の算定に多大な影響を及ぼします。
自分の過失割合が高くなると、その分相手に請求できる賠償金が「過失相殺」によって減額されてしまうので注意が必要です。
過失割合が高くなると、被害者の精神的苦痛に対する賠償金である「慰謝料」も減額されます。
交通事故の慰謝料には
- 「入通院慰謝料」
- 「後遺障害慰謝料」
- 「死亡慰謝料」
の3種類がありますが、追突事故の場合具体的にどのくらいの金額になるのか相場をみてみましょう。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は交通事故でけがをした人に払われる慰謝料です。
交通事故の慰謝料には複数の計算基準があり、それぞれによって計算結果が異なります。
ここでは自陪責保険が採用する「自賠責基準」と弁護士や裁判所が採用する「弁護士基準」を比較してみましょう。
自賠責基準
- 通院3ヶ月…最高で387,000円。通院日数が少ないと減額される
- 通院6ヶ月…最高で774,000円。通院日数が少ないと減額される
- 入院1ヶ月、通院8ヶ月…最高で1,161,000円。通院日数が少ないと減額される。
弁護士基準
- 通院3ヶ月…730,000円
- 通院6ヶ月…1,160,000円
- 入院1ヶ月、通院8ヶ月…1,640,000円
ただし軽傷の場合には減額される可能性があります。
後遺障害慰謝料の相場
後遺障害慰謝料は、交通事故のけがが完治せずに後遺障害が残ってしまったときに請求できる慰謝料です。
認定された「等級」に応じて慰謝料額が決まります。
等級が高いほど重症なので慰謝料は高額になります。
自賠責基準と弁護士基準の後遺障害慰謝料額対比表
等級 |
弁護士基準 |
自賠責基準 |
1級 |
2800万円 |
1100万円(要介護の場合1600万円) |
2級 |
2370万円 |
958万円(要介護の場合1163万円) |
3級 |
1990万円 |
829万円 |
4級 |
1670万円 |
712万円 |
5級 |
1400万円 |
599万円 |
6級 |
1180万円 |
498万円 |
7級 |
1000万円 |
409万円 |
8級 |
830万円 |
324万円 |
9級 |
690万円 |
245万円 |
10級 |
550万円 |
187万円 |
11級 |
420万円 |
135万円 |
12級 |
290万円 |
93万円 |
13級 |
180万円 |
57万円 |
14級 |
110万円 |
32万円 |
死亡慰謝料の相場
死亡慰謝料は被害者が死亡してしまったときに払われる慰謝料です。
自賠責基準
本人の慰謝料 |
遺族が1人 |
遺族が2人 |
遺族が3人以上 |
被扶養者あり |
350万円 |
550万円 |
650万円 |
750万円 |
+200万円 |
自賠責基準では本人の慰謝料は常に「350万円」で、遺族がいれば人数に応じて慰謝料が加算されます。
被害者に扶養されていた人がいたら慰謝料がさらに200万円アップします。
弁護士基準
弁護士基準の死亡慰謝料は、被害者の立場によって変わります。
- 一家の支柱…2800万円程度
- 母親、配偶者…2500万円程度
- その他のケース…2000万円~2500万円程度
追突事故で適正な過失割合をあてはめる方法
追突事故に遭ったとき、正当な金額の賠償金を受け取るには適切に過失割合を算定しなければなりません。
1000万円の慰謝料が発生するケースでも自分の過失割合が30%になったら相手に請求できる金額が700万円に減ってしまいます。
保険会社は必ずしも適正な過失割合を提示するとは限らないので鵜呑みにしないよう注意しましょう。
以下では追突事故で適正な過失割合をあてはめてもらう方法をお伝えします。
「判例タイムズ」で法的基準をチェック
弁護士や裁判官などが使用する「判例タイムズ」という本にあらゆる形態の交通事故における「過失割合の基準」が掲載されています。
正確には「別冊判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」という本です。
通信販売でも購入できるので、一冊入手してあなたのケースと似た交通事故の過失割合基準を確認してみてください。
本が届いたら、基本の過失割合だけではなく修正要素も含めてチェックしましょう。
弁護士に依頼する
自分では判例タイムズをみてもどの事例をあてはめてよいのかわからない、修正要素が適用されるのか判断ができない方もおられるでしょう。
自己判断で間違ってしまう不安のある方は弁護士に相談してみてください。
弁護士であれば事故の状況ごとに適切な過失割合を判定して伝えてくれます。
自分で保険会社に正しい過失割合を伝えるのが難しい場合、弁護士に示談交渉を任せるようお勧めします。
弁護士が法的根拠をもって説得すると、過失割合を正しい割合に訂正してもらえるケースが多数です。
最終的には訴訟を起こせば法的に正しい過失割合をあてはめてもらえるでしょう。
過失割合が修正されることによって賠償金額が1000万円以上変わるケースも少なくありません。
疑問がある場合には無理に納得しようとせずに弁護士に相談しましょう。
まとめ
過失割合が賠償金へ与える影響についても、良くわかったよ!
追突事故の過失割合は基本的に「後方車両が100%」ですが、前方車両が急ブレーキを踏んだ場合やさまざまな交通事故現場の状況によって修正される可能性があります。
過失割合が1割変わるだけで賠償金額が数十万円、数百万円単位で増額されることも少なくありません。
迷ったときには交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士に相談してみましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。