事故が車の査定に響くような場合には、格落ち損害を請求できるの?
今回の記事では格落ち損害を認めてもらうにはどうしたら良いのか、詳しく見ていこう。
「事故車」になってしまうと、評価額が下がってしまうケースが多数です。
自分の所有する車の価値が下がったら「損害が発生した」といえるので「格落ち損害(格落ち損、評価損)」を請求できる可能性があります。
ただし事故に遭ったとしても、格落ち損害を必ず請求できるわけではありません。
今回は格落ち損害を請求できる条件や損害額の計算方法をお伝えします。
目次
格落ち損害とは
格落ち損害とは、事故車になって車の価値や査定額が事故前より下がってしまったことによる損害です。
「評価損」とよばれるケースもあります。
交通事故で車が破損して修理をしても、完全に元通りになるとは限りません。
事故前と違った状態になれば、事故前と比べて売却価額は下がってしまうのが当然です。
高級車の場合「事故車」となっただけでも大きく評価が下がってしまうケースも多々あります。
このように「事故前の査定額」と「事故後の査定額」の差額を「格落ち損害」といいます。
交通事故によって車の評価額が大きく下がったら、相手に格落ち損害を請求できる可能性があります。
格落ち損害が認められにくい理由と裁判例の動向
査定額が下がったことを証明することが難しいため、一昔前は格落ち損害を認めてもらうことが難しかったんだ。
だけど近年では、格落ち損害を認める判決も多数出ているから、諦めずに請求しよう。
事故車となっても必ず格落ち損害を請求できるわけではありません。
格落ち損害が認められにくい理由や近年の裁判例の動向をお知らせします。
格落ち損害が認められにくい理由
そもそも交通事故によってどの程度の評価減となったのか、明確にするのは困難です。
事故前に売ろうとして査定をとっていたなどの事情がなければ、事故前の評価額を正確に把握するのは難しくなるでしょう。
修理により車体の状態が元通りになっていれば、査定額に影響しないとも考えられます。
実際、事故車の査定額が下がる要因として、顧客が「事故車は避けたい」「縁起が悪い」といって敬遠する心理的要因が大きく影響します。
心理的な要因を数字に表すのは簡単ではありません。
裁判例でも格落ち損害について厳しい判断をするものがあります。
たとえば大阪高裁平成5年4月15日の判決では、事故によって評価額が減額しているとはいえ、買替えや譲渡などの予定がなく「潜在的・抽象的な価格の減少にとどまる」ことを理由に格落ち損害が否定されました。
近年における裁判所の傾向
かつての裁判例では「車を修理して外観や機能が元通りになっており、譲渡や買い替えもせずに同じ車に乗り続けるなら具体的な損害は発生していない」として格落ち損害を認めないものが多数となっていました。
ただし最近の傾向としては、外観や機能が事故前と同等であっても格落ち損、評価損が認められる事例が増加しています。
自社の評価が下がったとき、格落ち損害の請求をあきらめる必要はありません。
格落ち損が認められる条件
格落ち損が認められるために絶対的な要件はありません。
ただ裁判例をみると、以下のような条件を満たす場合に格落ち損が認められやすい傾向があります。
登録年数が浅い
1つ目の条件は、登録年数が浅いことです。
一般的な車両であれば初年度登録から3年以内、国産の人気車種や外車の場合には初年度登録から5年以内のものでも格落ち損が認められているケースが多々あります。
走行距離が短い
2つ目の条件は走行距離が短いことです。
一般的な車両であれば4万キロメートルくらいまで、国産の人気車種や外車の場合には6万キロメートルくらいまでであれば、格落ち損が認められているケースが多くあります。
その他評価される項目
- 新車や高級車、外車の場合には格落ち損が認められやすい
- 修理しても外観や機能面において、完全には元に戻らなかった
- 損傷箇所が、事故歴として記載を残さなければならない部分であれば格落ち損が認められやすい
- 人気が高い車種であれば格落ち損が認められやすい
- 購入時の価格や中古市場での通常価格が高い場合、格落ち損が認められやすい
たとえば高級車や外車で登録年数も浅い車、走行距離の短い車、特殊コーティングを施していて修理してももとに戻らなかった場合などには格落ち損が認められやすいといえるでしょう。
一方、国産の古い車、安い車の場合は格落ち損を請求するのは難しくなります。
なお「外車だったら必ず格落ち損が認められる」とは限りません。
「国産で初年度登録後4年経っているから格落ち損は絶対認められない」わけでもありません。
個別的な検討が必要となるので、自分の車に格落ち損が認められるかどうか知りたい方は、弁護士へ相談してみるようお勧めします。
格落ち損の計算方法
格落ち損の計算方法については明確な方法が定まっておらず、裁判例によってまちまちです。
以下では代表的な計算方法を示します。
事故当時の時価から修理後の価格を差し引いた金額
事故当時の時価を調べて、修理後の査定額と比較して差額を格落ち損とする計算方法です。
たとえば事故当時の時価が500万円だった車について、事故後に200万円に下がったら100万円が格落ち損として認められます。
車の時価の一定割合とする
事故後の車の時価の一定割合を格落ち損とするケースもあります。
たとえば事故後の車の時価が400万円になった場合、10%である40万円を格落ち損とするなどです。
修理費の一定割合
格落ち損害を認める裁判例では、修理費用の一定割合を損害額と認定するものが多数となっています。
一般には修理費用の10~30%程度とされるケースが多いですが、中には修理費用の50%を格落ち損害とした裁判例もあります。
たとえば東京地裁平成23年11月25日の判決では、購入後約3か月で走行距離が945キロメートルのスカイラインGTRプレミアムエディション(限定車)が事故に遭ったケース(修理費用141万5478円)において、修理をしても事故前と同じ状態に戻らなかったことなどを考慮して修理費用の50%を格落ち損と認定しました。
諸要素を総合的に考慮して金額を決定する
車両の種類や使用期間、故障の内容や程度、修理費用等の事情を総合考慮して算定する方法です。
この総合方式を採用する裁判例も多数見受けられます。
たとえば新車登録後2か月で事故に遭ったベンツの評価損として25万円が認定されたものがあります(大阪地裁平成5年8月27日)。
財団法人日本自動車査定協会(JAAI)の査定額を考慮するもの
「財団法人日本自動車査定協会(JAAI)」は、車の価値を査定する専門機関です。
必ず採用されるわけではありませんが、日本自動車査定協会で査定してもらって査定書(事故減価額証明書)を裁判所へ提出すると、査定額を参考に格落ち損を計算してもらえるケースも稀にあります。
裁判例としては、キャディラックが事故車となったケースで日本自動車査定協会の評価損査定額である35万3000円 を格落ち損して認めたものがあります(神戸地裁平成11年1月27日)。
なお日本自動車査定協会に査定を依頼すると、費用がかかります。
事故減価額証明書を提出しても採用されるとは限らず、格落ち損が否定されたり別の計算方法で損害額を算定されたりする可能性もあります。
理解した上で利用するかどうか検討してみてください。
中古車買取業者の評価算定式を考慮したもの
中古車買取業者の評価算定式を考慮して格落ち損を算定する裁判例もあります。
たとえば初年度登録後3年半が経過して10万キロ走行していたシーマが事故に遭ったケースで、中古車買取業者の評価損算定式を考慮して、40万円の格落ち損害が認められました(さいたま地裁平成19年8月3日)。
保険会社は格落ち損を認めないケースが多い
適用となる場合には、弁護士に交渉をお任せすれば、格落ち損害を請求できる可能性が高いよ。
格落ち損を認めるかどうかについては、裁判所でも明確な基準がない状態といえます。
保険会社はなおさら厳しい態度をとるケースが多く、被害者が評価損害を求めても拒否されるケースがほとんどです。
「当社では格落ち損の賠償はしていません」といわれる可能性が高いでしょう。
保険会社がどうしても受け入れない場合には、訴訟で格落ち損を請求する必要があります。
裁判で格落ち損を請求するには評価減を示す資料も揃えねばなりません。
まずは格落ち損が認められそうか、どの程度の金額になりそうか確認するため、弁護士に相談してみるようお勧めします。
格落ち損害について弁護士に相談するメリット
格落ち損について弁護士に相談すると、以下のようなメリットがあります。
格落ち損害が認められそうか、教えてもらえる
事故に遭ったからといってすべての車に格落ち損が認められるわけではありません。
弁護士に相談すればこれまでの裁判例を参考にして、格落ち損を請求できそうか、目処を知らせてもらえます。
1人で悩んでいるよりも、今後の方針を立てやすくなるメリットがあるでしょう。
格落ち損害の金額を計算してもらえる
格落ち損害の計算方法はさまざまですが、修理費用の数割を基準にするケースが多数となっています。
弁護士に相談すると、だいたいの金額を伝えてもらえるので、裁判してでも請求すべきかどうか検討しやすくなるメリットがあります。
保険会社との交渉を任せられる
自分で保険会社と交渉するのは大変なストレスとなるものです。
弁護士に依頼すれば、示談交渉を全面的に任せられるので、ストレスもかかりませんし手間も時間もかけずに済みます。
格落ち損害以外の賠償額がアップする可能性もある
弁護士に示談交渉を依頼すると、格落ち損害以外の賠償金が増額される可能性もあります。
たとえば人身事故の場合、慰謝料を請求できますが、弁護士基準と保険会社基準では弁護士基準の方が大幅に高くなっています。
慰謝料だけではなく、休業損害や逸失利益もアップするケースが少なくありません。
物損事故でも「過失割合」が適正になり、被害者の受け取れる金額が上がる可能性があります。
法的に適正かつ高額な賠償金を受け取るため、どのような事故でもまずは弁護士に相談してみるのが得策です。
まとめ
比較的登録年数がたっている車や、走行距離がかさんでいるような場合には、格落ち損を請求できないんだね!
弁護士に相談すれば、受け取れる賠償金を漏れなく請求することが可能だよ!
格落ち損害は必ず請求できるとは限りませんが、高級車や外車、新車などであれば払ってもらえる可能性が高くなります。
まずは一度、交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士へ相談してみましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。