目次
落とし主は特定できるのか
持ち主が特定できない場合には、誰に損害賠償請求をすれば良いのかな?
今回の記事では、落とし主不明の落下物による交通事故では、相手を特定することはできるのか、事故が起きてしまった場合の対処法について、詳しくみていこう。
周辺の防犯カメラで落とし主を探す
対向車や前方を走っている車両等から積み荷等が落ちて事故が発生することがあります。
そのような場合、事故で被害を受けた車両の運転手は、加害者に対して損害賠償を請求することを検討するでしょう。
当職も、過去に、前方に走っている車両が付けていたスペアタイヤが外れて車両に衝突した事故や反対車線を走行していたトラックが積んでいた積み荷が落ちて車両に衝突したといった事故の損害賠償請求事件を担当したことがあります。
落下物による事故において、加害者が分からない場合、どうすれば良いでしょうか。
最近は、個人や店舗等も含め、防犯カメラが設置されている場所が多いです。
防犯カメラに事故の状況が写っているかもしれないと考え、防犯カメラの映像の開示を求めることが一つの手段でしょう。
しかしながら、被害者が防犯カメラの所有者や管理者に対して、防犯カメラの映像の開示を求めたとしても、防犯カメラの所有者や管理者は、被害者に対して、防犯カメラの映像の開示義務を負っていない場合が多いと考えられます。
また、個人情報保護法等の法的な問題は別として、プライバシーの侵害や無用なトラブルに巻き込まれることを避けるために、警察等の捜査機関からの開示請求以外は開示しないという対応をしているところも多いと思われます。
実際のところ、被害者個人が個人や店舗等の所有・管理している防犯カメラの映像を開示してもらうことは非常に難しいと言わざるを得ません。
自車のドライブレコーダーをチェックする
最近は、自車にドライブレコーダーを搭載する車両も多いと思います。
前方と後方に設置したり、360度撮影するドライブレコーダーがあったり、映像データをクラウド上に保存する物があったり、様々です。
例えば、自車の前方を走行している車両の積み荷等が落ちてきた場合、自車のドライブレコーダーが加害車両のナンバープレートを撮影している可能性が高いでしょう。
ナンバープレートが分かれば、弁護士による弁護士会照会で加害車両の所有者や使用者が分かります。
そうであれば、加害者に対する損害賠償請求をできる可能性は高まります。
それに対し、例えば、対向車や自車から少し離れたところを走っていた車両から積み荷等が落ちてきた場合や積み荷が落ちてから相当程度時間が経過していた場合には、ドライブレコーダーに加害車両のナンバープレートは映っていないかもしれません。
ドライブレコーダーは事故当時及び前後の状況や加害者の特定に非常に有用ですが、落下物による事故といった少し変わった状況の場合には、うまく活用できないということもあるかもしれません。
自損事故と変わらない扱いになることがある
落下物による事故と一言で言って、その内容は様々です。
まさに車両から落ちた直後に車両に衝突したという事故もあれば、車両から落ちてしばらく時間が経過した後に車両に衝突するということもあるでしょう。
後者の場合、誰が落下物を落としたのか分からないということがあるでしょう。
本来であれば、加害者がいる事故ではあるのですが、加害者が誰か判明しないがために、単独事故と変わらない扱いになってしまうということがあります。
落下物の所有者不明の事故は誰に損害賠償請求すれば良いのか
補償を受ける場合には、自分自身の加入している任意保険を利用するしかないね。
落とし主不明の落下物による事故でも政府保障事業は使えるの?
そのため、落とした直後に事故が発生した場合、車が落としたことを立証しやすいため政府保障事業を利用できるけれど、落としてから時間が経過していると車が落としたという事を立証できないため、政府保障事業を利用することが難しくなってしまうんだよ。
自分で加入している車両保険を使う
加害者が分からない場合、結局のところ、損害賠償請求する相手が分かりません。
つまりは、事実上、損害賠償請求ができないということになります。
そのような場合、被害者が加入している損害保険の車両保険を使用する、又は、被害者自身の費用負担で車両を修理するといったことが必要となります。
なお、当然ではありますが、被害者の加入している損害保険の車両保険を使用する場合、等級が上がり、その後の保険料負担が増えます。
車両保険を使用する前に損害保険会社の担当者とよく話をして確認しておく必要があります。
道路管理者に対して損害賠償請求ができるか
道路管理に欠陥があり、当該欠陥が原因となって事故が発生した場合、被害者は、道路管理者(多くの場合、国、県、市などでしょう。)に対して、損害賠償請求をすることができます。
例えば、当職は、過去、歩道を自転車で走行して転倒した被害者の代理人として自治体に対して国家賠償請求をしたことがあります。
その事案では、歩道のアスファルトが木の根によって隆起しており、その状態が放置されていました。
当該隆起部分に乗り上げてしまって、自転車が転倒して事故が起きてしまったという事故でした。
しかしながら、道路管理に起因して落下物が落下するということは極めてまれでしょう。
道路に多少の凸凹があり、その凸凹で加害車両が揺れて積み荷が落ちたという事案を仮定してみましょう。
そもそも、積載物はきちんと落下しないように固定しておかなければなりません。
多少の凸凹程度で落下するとなると、積み荷を積んでいた加害者の過失と評価され、道路管理者の責任を問うのは難しいでしょう。
落下物による事故の場合、被害者が道路管理者に対して、損害賠償請求(多くは、国家賠償法に基づくもの)をすることは極めて難しいでしょう。
政府保障への請求
加害者がひき逃げした場合や加害者が自賠責保険に加入していない場合(無保険の場合)、政府保障事業への請求をするという方法が考えられます。
これと同様に、落下物を落とした加害者が不明の場合にも、政府保障事業へ請求をすることが考えられます。
なお、政府保障事業への請求は、怪我に係る損害部分しか補填されません。
車両等にしか損害がない物損の場合には請求できませんので、その点は注意してください。
政府保障事業は、自動車の運行によるものと認められる事故でしか請求することが出来ません。
ここでは、自動車の運行の定義に関して、詳細は述べませんが、走行中の車両から積み荷が落下して、その直後に被害車両に接触した場合には、自動車の運行による事故と評価される可能性が高い、つまり、政府保障事業による損害の填補がなされる可能性が高いと考えられます。
それに対し、加害車両が積み荷を落としてからしばらくした後に、当該積み荷と衝突した事故の場合には、自動車の運行と評価されない可能性が高い、つまり、政府保障事業による損害の填補がなされる可能性が低いと考えられます。
落下物への対処法
落下物を発見したら、#9910に連絡をして落下物を回収してもらおう。
道路上で落下物を発見した場合、どのような対応をすればよいのでしょうか。
まずは、安全を確保し、ハザードランプを点灯させ、路肩等に自車を停止させます。
そして、発炎筒や停止表示板を設置し、警察へ連絡をしたうえで、緊急連絡をします。
緊急連絡先は、#9910です。
自分で回収をするのは非常に危険ですので、絶対にしてはいけません。
緊急連絡を受けて、交通管理隊が落下物の回収に行きます。
落下物が原因で停車した車両との間で別の事故が起きてしまった場合の過失割合
一般道で落下物が原因で追突事故が起きてしまった場合には、追突した側の過失が10割になるよ。
落下物等に接触したことによって、車両が停車し、当該停車車両に後続車両が追突をした場合の過失割は、どのようになるでしょうか。
高速道路では、原則として、車両が停止することは前提とされていませんので、その点を考慮することとなります。
また、停車車両が停車したこと(落下物との接触)について、落ち度(過失)がある場合とない場合とで異なる扱いがなされます。
それに対し、一般道では、停車車両があることも運転者の予想の範囲内ですので、一般的な停車車両への追突と同様に扱うものと考えられます。
高速道路上での事故
停車車両(被追突車両)に落ち度がある場合
例えば、落下物が落ちてから大分、時間が経過している場合において、後続車両が落下物に接触して停車したとすると、後続車両には落ち度があるものと評価されます。
なお、このような場合の基本的な過失割合としては、落下物を落とした車両の過失割合が60%、落下物に接触した後続車両(停車車両)が40%となります。
このように、落下物に接触した車両に過失がある場合において、当該停車車両に後続車両が追突したときの基本的な過失割合は、停車車両(被追突車両)40%、後続車両(追突車両)60%となります。
この過失割合は、停車車両(被追突車両)が後続車両への警告措置をとる時間的余裕がない場合、又は、後続車両への警告措置をとることが不可能な事情がある場合を前提としています。
仮に、停車車両(被追突車両)の運転者が後続車への警告措置等(ハザードランプの点滅や三角掲示板の設置等)をとることができたにもかかわらず、しなかった場合には、停車車両(被追突車両)50%、後続車両(追突車両)50%となります。
停車車両(被追突車両)に落ち度がない場合
次に、例えば、加害車両から落下物が落ちた直後に落下物と接触して、後続車両が停車するなど、後続車両(停車車両)に落ち度がない場合はどのようになるでしょうか。
このように、落下物に接触した車両に過失がない場合において、当該停車車両に後続車両が追突したときの基本的な過失割合は、停車車両(被追突車両)0%、後続車両(追突車両)100%となります。
この過失割合は、上記同様、停車車両(被追突車両)が後続車両への警告措置をとる時間的余裕がない場合、又は、後続車両への警告措置をとることが不可能な事情がある場合を前提としています。
仮に、停車車両(被追突車両)の運転者が後続車への警告措置等(ハザードランプの点滅や三角掲示板の設置等)をとることができたにもかかわらず、しなかった場合には、停車車両(被追突車両)10%~20%、後続車両(追突車両)80%~90%となります。
一般道上での事故
一般道でも落下物によって停車する車両が発生することはあると考えられます。
しかしながら、一般道では、高速道路と比較して、高速で走行していることがありません。
そういった事情もあり、一般論としては、一般道に停車車両があったとしても、回避できる可能性が高いといえます。
多くの場合、一般的な追突事故と同様に扱われるものと考えられ、この場合における基本的な過失割合は、停車車両(被追突車両)0%、後続車両(追突車両)100%となると考えられます。
阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。