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交通事故の赤い本と青い本とは?
交通事故に遭うと、加害者と被害者の間で損害賠償が発生します。
交通事故の人身事故といっても、
車対車、
自転車対車、
徒歩対車
など事故によりケースが異なります。
各種ケースによって、損害額や慰謝料を決める事になるのですが、慰謝料基準により、損害賠償額が上下します。
この慰謝料が計算される際、裁判所の判例をまとめた「赤本」や「青本」などが参考にされ、金額が変動する事があります。
これらを簡単にまとめるならば、損害賠償の基準が書かれている本となります。
「赤い本」や「青い本」は損害賠償の基準が書かれている本
「赤」や「青」と区別されていますが、これは単純に、本そのものの色の違いを指しています。
赤本や青本に書かれている基準は、交通事故における過去の裁判例を基に記載されていて、これらを総称すると一般に言われる弁護士基準や裁判基準というものです。
弁護士基準を利用すると、実際のところ交通事故によるやり取りを裁判にしていない人であっても、裁判を起こしたケースと同等ほどの損害賠償を請求出来るようになります。
通常ですと、被害者が加害者側の保険会社と保険料の示談交渉をするとき、何も主張をしなければ、自賠責基準や任意保険基準にて慰謝料が算出されます。
自賠責基準は一般に具体的な基準が公表されていて、任意保険基準は保険会社独自の基準となるため、企業により違いがみられます。
自賠責保険基準より高い事もあれば、場合によってはほぼ変わらない算定がなされる例もあるようです。
これらに対して弁護士基準は最も高い基準でありながら、過去の判例が基となって算出されますので、説得力がある基準でもあります。
この弁護士基準にて慰謝料が計算される際に、「赤本」や「青本」が関わってくるのです。
算定基準について詳しくはこちらの記事をお読みください。
賠償金額を増額させるテクニックについてはこちらの記事をお読みください。
赤本に記載されている事
赤本は、交通事故の処理が行われる際に弁護士や裁判官が参考にする書物です。
名称の通り、書籍の表紙が赤い色をしているために、簡単に赤本と呼ばれています。(画像参照)
赤本に書かれている内容は、交通事故における損害項目別に、弁護士基準での金額や相場が書かれているのです。
解説される内容は端的なものが多いものの、多くの裁判例が紹介されているのが、赤本の大きな特徴でしょう。
赤本の正式名所は「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準」で、東京地裁の交通部が年に一回、裁判所の傾向をまとめ、出版しています。
東京地裁はもちろん、全国の裁判所で行われた判決の基準で、保険実務の上ではとても大切な書籍です。
交通事故の損害額には、それほど特別な事情がない限りは、赤本に書かれている基準が、そのまま判決として出される事もあると言われます。
赤本はどちらかといえば、法曹関係者向けという傾向があるようで、実務的に使える内容です。
例えば、自動車事故の状況が多く取り上げられていて、場合に応じた過失相殺の考え方、そのほか事例について、訴状の作成における重要な事などが書かれています。
そのため、法的知識に乏しい一般の方が目にしても、内容を理解できるかどうかは難しいところです。
青本に記載されている事
青本は、公益財団法人日弁連交通事故相談センターの本部が作成している書籍です。
正式には「交通事故損害額算定基準?実務運用と解説?」という書籍で、赤本の表紙が赤い色をしているのに対して、青本は表紙が青くなっているため、「青い本」と呼ばれるようになりました。
主に、交通事故における損害賠償額の算定基準や、それに対する詳しい解説、または根拠となっている裁判の判例などがまとめられているものです。
積極損害、消極損害、逸失利益、休業損害の算定、傷害慰謝料や、損益相殺や、後遺障害慰謝料など、入通院慰謝料基準の算定における、様々な交通事故における法的な知識が解説されています。
一般的に販売されている交通事故に関する書籍を、さらに具体的かつ裁判例を基にして説得力のある内容にしたものと言えるでしょう。
赤本に比べてやや内容は広めになっており、弁護士だけならず、一般の方にもある程度見て理解できる部分があるタイプです。
また、交通事故における賠償額の算定は、時代によって項目が変わる事があるため注意しましょう。
青本は、新発刊に伴い、考え方を整理するべき部分を特集として記事にまとめられているため、最新の情報も集取できるのが特徴です。
例として、平成26年の2月に発行された24訂版に特集には、高次脳機能障害の考え方、人身傷害保険の解説など、これまで発行された書籍とは違う、特集ページが組まれています。
さらに、ライプニッツ係数表や、簡易生命表などの、損害賠償額を算出するために必要となるツールも付録として入っているなど、年代によりやや違いがみられるため、ご自身の状況と照らし合わせて確認してください。
専門家でなくとも分かる部分も多いため、現状で交通事故における示談交渉をしている人にかかわらず、自動車を扱う方は目を通しておきたい本とも言えます。
赤本と青本による慰謝料の違い
交通事故の慰謝料を算定するときには、赤本や青本を参考にした上で、弁護士基準にて慰謝料が算出されます。
これらを参考にして慰謝料を算定したとき、慰謝料に違いが出る場合があるようです。
赤本は東京地裁民事27部のスタンダードを公表するのに対して、青本は全国の交通事故センターによって使用される書籍となっているため、ご自身の慰謝料などの算定基準と比較してみると良いでしょう。
まとめると、赤本は東京地裁が管轄にする首都圏、青本は地方都市などを想定して、一定の基準となっているのが現状です。
東京と地方では物価が大きく異なりますので、慰謝料一つを計算する場合、物価など様々な価値観に影響するため、青本には慰謝料の基準に幅をもたせています。
例として、後遺障害14級における慰謝料の金額は、
赤本⇒110万円
青本⇒90万円~120万円
と書かれています。
青本を採用して算定する側の人は、極力低めに見積もろうという立場にいる事が多く、青本の算定では90万円や100万円といった判定になりやすいです。
そのため、赤本と青本を比べると、青本の方が安く慰謝料が算出される事が多いでしょう。
東京近郊では赤本を用いて算定される事が多いのですが、その他の地域となると、青本を主に使用して慰謝料が算出されやすいです。
赤本と青本どちらをみて慰謝料を算定すると高いかどうかは、どちらかといえば赤本を使用する方が高額の損害賠償額を受け取りやすくなるでしょう。
弁護士基準を利用して慰謝料を増額する
自動車事故において、被害者が精神的かつ身体的な傷を癒すには、治療費に加えて、損害に応じた慰謝料を受け取る事でしょう。
事故のシチュエーションや被った被害の度合い、怪我や障害など様々なケースで慰謝料は変化しますが、そのほかにも、慰謝料を何の基準で算出するかも、金額を上下させる重要な要素です。
慰謝料算定の基準は大きく分けると
「自賠責基準」
「任意保険基準」
「弁護士基準」
の3つがあります。
自賠責基準が中でも最も安くなりやすく、対して弁護士基準が最も高額の慰謝料を受け取りやすい基準となっているため、保険会社から提示された金額に納得いかない方はぜひ参考にしてください。
自賠責基準は、被害者が受け取れる最低限の基準と定められており、任意保険基準は各保険会社によって違いがあります。
任意保険会社基準はやや曖昧な基準とも言え、安く見積もられてしまっては、自賠責保険基準とほぼ変わらないケースも詳しく調べると該当することがあるかもしれません。
中でも弁護士基準が最も高額となる理由は、実際の判例を参考にしながら、赤本や青本を参考に、慰謝料を算出するからです。
弁護士基準は別名で裁判基準とも言われますが、実際に被害者が裁判を起こすわけではなく、裁判を起こさずとも、過去の判例を基に、裁判を起こしたときに近い慰謝料を受け取れる可能性があるのです。
被害者が遭った交通事故の示談交渉に、弁護士が介入した場合、大抵の場合は弁護士基準で算定されます。
弁護士が示談交渉に入ると、仮に示談が成立しなかった場合ですと、弁護士は裁判を起こします。
それから裁判になれば、当然ですが裁判基準を基にして賠償金が計算されます。
そのため、加害者側の保険会社は、弁護士相手に裁判基準より低めに見積もって慰謝料を提示しても、当然ながら専門知識を持っている弁護士が受諾する事はまずないのが現状でしょう。
弁護士の立場からすると、裁判をすれば高い慰謝料を受けられる事が分かっているため、わざわざ低い慰謝料で示談を受ける必要はなく、駄目なら裁判を起こせば良いと考えます。
そのため、弁護士を相手にして加害者側の保険会社は安く慰謝料を算出する意味がありません。
よって、被害者は弁護士に交通事故に関する依頼をすると、慰謝料の増額が見込めるのです。
赤本と青本を購入するには
交通事故における慰謝料などの基準、判例などが記載されている「赤本」や「青本」は、一般的な書店や店頭では購入する事が出来ません。
赤本の編集や発行をされているのは、「公益財団法人、日弁連交通事故相談センター東京支部」です。
赤本は基準編である上巻と講演録編である下巻に分けられています。
一般的な書店では販売されておらず、東京都千代田区の日弁連交通事故センター東京支部の、弁護士会館の3階窓口で直接購入する事が可能です。
あるいは、FAXで注文すると、赤本は購入できます。
青本も編集や発行は、「公益財団法人、日弁連交通事故相談センター東京支部」で行われています。
こちらも一般書店では買う事が出来ませんので、赤本と同様に東京都千代田区の日弁連交通事故センターへ行き、弁護士会館の14階本部窓口に行って直接購入する、あるいはこの本部へとFAXを送り、注文する事も可能です。
一般の書店で手軽に買える書籍ではありませんので、やや入手に手間がかかります。
しかし、弁護士基準における損害賠償額の計算の仕方を把握し、ある程度金額を算出する事が可能です。
交渉を進めるには赤本や青本の購入は必要?
交通事故の示談交渉を進める事において、赤本や青本を用意しなければならないと考えてしまう人もいるでしょう。
損害賠償金額を算定する方法が解説されている赤本、そして損害賠償基準が描かれている青本があれば、交渉の際にいくらか役立つ存在でもあります。
特に、保険会社と示談交渉をする時、提示してきた損害賠償基準額が適正なものなのか判断するためには、とても有用である書籍と言えるため、ぜひ参考にしてください。
ただ、弁護士必携と言われるほどの専門書なので、一般の方が目を通してもなかなか理解しづらい部分も多くみられるでしょう。
交通事故が発生し、その後に保険会社との示談交渉をされる方々が全員、赤本や青本を購入し、手元においている訳ではありません。
それは弁護士基準で慰謝料を請求しようと考えている方はもちろん、自賠責基準や任意保険基準で算定しようと考えている人も同様です。
赤本や青本が手元にあった方が、いざという時に有利な情報を得るきっかけにもなりますが、あくまで参考程度にしておく方が良いです。
間違った認識で加害者側の保険会社とやり取りをすると、何かしらのトラブルを起こしかねません。
指定の場所やFAXを使って購入したとしても、内容を理解し、使いこなせる自身がないという人は、やはり弁護士に相談して、専門家によるアドバイスを受けた方が無難でしょう。
基本的には示談交渉において不明な点が発生したのであれば、弁護士に相談するようにしましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。