タクシーに乗っている時に事故に遭ってしまったんだ。
タクシー乗車中の事故の場合には、タクシーの運転手に治療費などの賠償金を支払ってもらえば良いんだよね?
タクシーの乗客である場合には、事故の状況によって、賠償請求をする先が変わってくるから、必ずしもタクシー運転手に損害賠償請求をするわけではないんだよ。
そうなの?!
タクシーに乗っていたんだから、タクシー会社が補償をすれば良いと思っていたよ。
タクシー会社との示談交渉は、賠償金が少なくなってしまう事もあるから注意が必要なんだ。
今回の記事では、タクシー乗車中に交通事故に遭ってしまった場合の賠償金請求について、詳しく見ていこう。
タクシーに乗車しているときにタクシー運転手が事故を起こしてしまったら、乗客は誰にどのような請求をすることができるのでしょうか?
事故の相手には賠償請求できるとしても、タクシー運転手本人に対しても治療費などの請求ができるのか、問題となります。
また、タクシー運転手と事故の相手がどちらも責任を負うとすると、どちらにどれだけの請求をすれば良いのかも検討しなければなりません。
今回は、タクシーで交通事故に遭った場合、乗客がどのようにして損害賠償請求を勧めるべきか、解説します。
目次
タクシー事故のパターン
タクシーに乗客として乗車しているとき、タクシーが事故を起こしたら、怪我をしてしまうケースがあります。
このようなとき、乗客は誰に賠償金の請求ができるのでしょうか?
請求の相手先は、タクシー事故のパターンにより、異なります。
タクシーが事故を起こすケースは、主に以下の3通りに分類されます。
単独事故
1つ目のパターンは、単独事故です。
タクシーが不注意で壁や建物に衝突したりして、タクシー車両が破損したり、運転手や乗客が傷害を負ったりします。
相手に100%過失のある事故
2つ目は、相手のある事故の中で、相手に100%の過失がある交通事故です。
たとえば、交差点で、タクシーは青信号で進入しているのに、相手が赤信号で一方的に突っ込んできたケースや、相手が後ろから一方的に追突してきたケースなどです。
タクシー運転手と相手の双方に過失のある事故
3つ目は、相手のある交通事故の中でも、タクシー運転手と相手の双方に過失がある交通事故です。
たとえば、交差点の出会い頭の衝突事故で、タクシー運転手にも前方不注意の過失があったり、進路変更するときにウィンカーを出さなかったため追突事故につながったりしたケースです。
実際に交通事故が発生するときには、このように、事故の当事者双方に過失割合が認められることが多数です。
タクシー事故の賠償金の請求先
どんな事故だと、タクシー会社以外に賠償金請求が可能なの?
タクシーの過失割合が0である場合や、相手方にも過失割合がある場合には、事故の相手方へ賠償請求をする事が可能だよ。
それでは、それぞれのパターンの交通事故のケースにおいて、乗客は誰に賠償金の請求ができるのでしょうか?
単独事故の場合
まずは、タクシーの単独事故の場合を見てみましょう。
この場合、タクシー運転手の一方的な「過失」によって交通事故が発生しています。
そして、乗客は、その事故によって受傷するなどして、各種の「損害」を受けています。
こういったケースでは、タクシー運転手に「不法行為」が成立して、被害者はタクシー運転手に全面的な損害賠償請求ができます。
不法行為とは故意や過失によって違法行為を行い、人に損害を発生させることです(民法709条)。
不注意で単独事故を起こしたタクシー運転手は、過失によって違法な事故を起こし、乗客に治療費や休業損害、精神的損害などの各種の損害を発生させているので、乗客は、不法行為にもとづく損害賠償請求として、タクシー運転手に対し、そうした費用を請求することができるのです。
タクシーに過失がない場合
次に、相手のある交通事故のケースを見てみましょう。
まずは、たとえば相手が一方的にタクシーに衝突してきた場合のように、タクシー運転手には過失のない事案です。
この場合、タクシー運転手には過失がないので「不法行為」が成立しません。
これに対し、事故の相手方は、一方的に追突してきたので、100%の「過失」によって被害者(タクシー運転手及び乗客)に怪我をさせるなどの損害を発生させています。
そこで、この場合には、事故の相手方に全面的な「不法行為」が成立して、乗客及びタクシー運転手は、事故の相手に対して、100%の損害賠償請求をすることができます。
タクシーに過失がある場合
それでは、3つ目のパターンで、事故の相手にもタクシーの運転手にも、両方とも過失がある場合の交通事故のケースでは、どのような取扱いになるのでしょうか?
この場合には、タクシー運転手と事故の相手の「双方の過失」により、交通事故の結果が引き起こされています。
そこで、タクシー運転手と事故の相手方の両者に「不法行為」が成立します。
不法行為が成立すると損害賠償義務が発生するので、この場合、タクシー運転手と事故の相手方の両方が被害者(=タクシーの乗客)に対し、賠償金を支払わなければなりません。
つまり、タクシー運転手と事故の相手方の両方に過失がある交通事故の場合(多くのタクシー事故は、これに該当します)には、乗客は、双方の同意書などがなくても、タクシー運転手にも事故の相手方にも、賠償金の請求をすることができるということです。
タクシー運転手と事故の相手の関係
過失割合によって、請求する金額を変えなければいけないの?
どちらにも過失割合がある事故の場合には、過失割合で賠償金の請求先を分ける必要がないんだ。
どちらでも賠償金を請求する事が可能だから、請求しやすい方へ請求すれば良いんだよ。
乗客がタクシー運転手と事故の相手方の両方に請求できると言っても、どちらにどれだけ請求できるのか分からない、という方が多いでしょう。
両者の関係はどのようになるのでしょうか?
共同不法行為になる
タクシー運転手と事故の相手の双方に過失がある場合、タクシー運転手と事故の相手方は「共同不法行為者」の関係になります。
共同不法行為者とは、「共同不法行為を行った人」のことです。
それでは、共同不法行為とは、どのようなことなのでしょうか?
共同不法行為とは、複数の人が共同して、1つの不法行為を行うことです。
たとえば、友人と結託して人の物を盗んだり騙したり火を付けたりすると、共同不法行為です。
この例は、故意に結託して不法行為を行った場合ですが、過失の場合にも、共同不法行為が成立します。
たとえば、子どもが大勢集まっている場所で友人と野球ボールを投げ合っていて、子どもにボールが当たって怪我をさせた場合などには、キャッチボールをしていた2人に過失が認められ、共同不法行為が成立する可能性が高くなります。
交通事故のケースでも、これと同じことが言えます。
タクシー運転手と事故の相手方は、それぞれの過失により「1つの交通事故」という結果を引き起こし、被害者に損害を発生させています。
そこで、特に意思の連絡がなくても、共同不法行為が成立して被害者に対する賠償責任を負うのです。
どちらにどれだけ請求できるのか?
タクシー運転手と事故の相手方に共同不法行為が成立するとき、被害者はどちらにどれだけ請求することができるのでしょうか?
共同不法行為が成立するときの共同不法行為者の関係や責任割合が問題となります。
共同不法行為が成立するとき、共同不法行為者が負う債務は「不真正連帯債務」となります。
不真正連帯債務は連帯債務の1種です。
連帯債務とは、債務者それぞれが債権者に対し、負債全体の支払い義務を負うものです。
つまり、連帯債務が成立する場合、債務者は債権者にそれぞれの負担割合を主張することができず、1人1人が債権者に「全額」の損害賠償をしなければなりません。
被害者としては、どの加害者に対しても、100%の損害賠償請求ができるということです。
つまり、タクシーに乗車していて交通事故に遭った場合、被害者は、タクシー運転手にも事故の相手方にも、どちらにも100%の損害賠償請求ができます。
タクシー運転手と事故の相手方の負担割合を考慮する必要はありません。
なお、タクシー運転手と事故の加害者から支払いを受けた金額が100%となると、それ以上の請求はできなくなります。
タクシー運転手と事故の加害者に請求できるために200%の賠償請求ができるという意味ではないので、注意が必要です。
タクシー運転手と加害者の負担割合は?
乗客がタクシー運転手と事故の相手方の両方に100%の請求ができるとしても、タクシー運転手と事故の相手方の負担割合は、まったく考慮されないのでしょうか?
たとえば、タクシー運転手が10%、事故の相手に90%の過失があるケースにおいて、被害者がタクシー運転手から100%の賠償金の支払を受けたとします。
このようなときに、そのまま90%の過失のある事故の相手が、負担0のままになるのは不公平に思えます。
共同不法行為が成立する場合、共同不法行為者のそれぞれが被害者に対して全額の賠償金を支払わなければなりませんが、共同不法行為者間では、負担割合があります。
その負担割合は、事件や事故への関与の程度や双方の過失割合によって決まります。
過失によって交通事故を起こした場合には、それぞれの過失割合が、各々の賠償金負担割合になります。
そこで、タクシー運転手や事故の相手方が乗客に賠償金の支払いをしたら、その後はタクシー運転手と事故の相手方が話合いをして、それぞれの負担割合を決定し、賠償金の過払いがあれば、相手から返してもらうことができます。
つまり、共同不法行為が行われたとき、加害者たちは、被害者に対しては負担割合を主張できず全額を支払わなければなりませんが、自分たちの中では負担割合があるので、賠償金を支払った後、自分たちで話をして、負担割合通りに分担をする、ということです。
このような内部分担については、被害者が関与する必要はないので、被害者としては、相手のどちらか都合の良い方に請求をして、賠償金を払ってもらえば良いことになります。
自賠責保険の取扱い
共同不法行為によって損害を受けたときにも、賠償金額が2倍になるわけではありません。
どちらかから100%に満つるまでの賠償金の支払いを受けたら、それ以上請求することはできません。
ただ、共同不法行為で、加害者の両名が自賠責保険料の支払いをしており、自賠責保険に加入しているときには、両方の自賠責保険を利用することができます。
すると、自賠責保険の限度額が増えるので、被害者にとって有利になるケースがあります。
たとえば、傷害結果に対する自賠責保険の限度額は120万円なので、治療費や慰謝料が120万円を超えると、一般的なケースでは自賠責保険が負担をせず、任意保険会社や加害者本人に支払い請求するしかなくなります。
これに対し、共同不法行為で両方が自賠責保険に加入している場合には、枠が2倍となって240万円になるので、治療期間が長引いて治療費や慰謝料がかさんでも、240万円までは自賠責保険が負担してくれます。
すると、任意保険からの治療費打ち切りなどにも遭いにくくなるので、被害者にとってメリットが大きくなります。
このように、タクシー乗車中の事故でタクシー運転手と事故の相手に賠償請求できるケースでは、受け取る賠償金の金額が増えなくても、自賠責保険の限度額が上がる、ということは、押さえておくと良いでしょう。
請求できる損害賠償の内容
タクシー乗車中の事故は、一般的な交通事故と損害賠償の内容は変わるの?
タクシー乗車中の事故だからといって、賠償請求ができる項目が少なくなってしまうようなことはないんだよ。
どんな損害賠償請求が可能となるのか、詳しく見ていこう。
タクシー乗車中に事故に遭った場合、具体的にはどのような費用を請求することができるのでしょうか?
考えられるのは、以下のような費用です。
- 治療費
- 付添看護費用
- 入院雑費
- 通院交通費
- 葬儀費用
- 休業損害
- 後遺障害逸失利益
- 死亡逸失利益
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 死亡慰謝料
このような費用を計算し、全額をタクシー運転手にも事故の相手方にも請求することができます。
どちらに請求するのが良いのか?
双方に過失割合があった場合、実際にはどちらに請求する方が良いのかな?
タクシー共済への賠償金請求は、賠償金額を減額されてしまう事があるから、できれば、タクシーと事故を起こした相手方の保険屋へ請求する方がお勧めだよ。
それでは、タクシー運転手と事故の加害者の双方に請求できるとき、どちらに請求するのが良いのでしょうか?
これについては、以下のような要素を考慮して、決定すると良いでしょう。
保険に加入している方に請求する
まずは、保険に加入している方に請求をしましょう。
損害賠償請求の相手が本人の場合、相手に資力がなければいくら話合いをしても、たとえ裁判をしても支払いを受けることができないからです。
事故の相手方が任意保険に入っていたらその任意保険会社の担当者と示談交渉すると良いですし、タクシー運転手が任意保険に加入していたら、そちらと話をしても良いでしょう。
話をしやすそうな方に請求する
もしも、タクシー運転手も事故の相手方も保険や共済に加入していたら、どちらを選ぶべきでしょうか?
このような場合、できればタクシー共済を避ける方が、支払いを受けやすい傾向があります。
タクシー共済は、保険会社のように金融庁の認可を受けて監督を受けている機関とは異なるので、示談交渉に真摯に対応するというよりも、タクシー運転手やタクシー会社の利益を図る傾向があるためです。
タクシー共済担当者が「そんな事故は起こっていない」とか「タクシー側の過失は0だから支払いをしない」「こっちも損害を受けている」などと言って、支払を拒絶するケースも見られます。
目撃者がいない場合など、事故情報が明らかではない場合、タクシー共済と争う事になってしまいますから、タクシー運転手がタクシー共済、事故の相手が通常の自動車保険、というケースでは、事故の相手の自動車保険に請求をした方が良いでしょう。
加害者が双方とも無保険のケース
場合によっては、タクシー運転手も事故の相手方も保険関連の手続きをしておらず、無保険なケースがあるかもしれません。
そのようなときには、資力のありそうな方か、双方へ同時に請求することをお勧めします。
どちらかに明らかに資力がありそうな場合や勤務先が明らかになっている場合などには、そちらに請求をすれば、万一支払いを受けられないとき、給与や財産を差し押さえることによって回収できます。
また、どちらに支払い能力があるかわからないケースでは、とりあえず両方に賠償金の請求をして、どちらか支払いができる方から、できるだけたくさんの支払いを受けましょう。
裁判を起こすときにも、共同不法行為者双方を被告として、訴えることができます。
対応に困ったときには、交通事故に精通した弁護士に相談すると良いでしょう。
タクシー料金の支払いについて
タクシー乗車中の事故の場合、タクシー料金はどうなるの?
事故を起こした場合でも支払いをしなければいけないの?
目的地まで到着しているんだったら支払いをしなければいけないね。
だけど、事故により途中下車をしなければいけないような場合には、支払う必要がないと考えよう。
タクシーで事故に遭ったとき、タクシー料金がどうなるのかも気になるところです。
この場合、基本的には料金支払い義務は無くならないと考えるべきです。
タクシーに乗せてもらって運んでもらった以上、タクシー運転手から契約通りのサービスを受けていると言えるからです。
しかし、タクシー運転手の重大な過失によって交通事故が引き起こされて、被害者が目的地に行くことができなかった場合などには、タクシー運転手は契約上の義務を果たしたとは言えないので、運賃を支払う必要はありません。
たとえば、重傷となり病院に搬送されたようなケースでは、タクシー料金を払わなくて良いと考えましょう。
乗客に過失が認められるケースについて
タクシー会社にも、タクシーと事故を起こした相手にも賠償金請求をする事ができないような場合もあるの?
乗客が原因で事故が起きてしまったような場合には、損害賠償請求の金額が、減額されてしまうから注意しよう。
タクシー乗車中に交通事故に遭ったらタクシー運転手や事故の相手に賠償金の請求ができますが、乗客にも過失が認められるケースでは、そうはいかないことがあります。
たとえば、乗客が運転を邪魔したり、運転手に暴行を振るったりして交通事故につながった場合などには、乗客も交通事故の結果に対する責任を負うべきです。
そこで、このようなケースでは、乗客にも過失相殺が適用されて、賠償金が減額されます。
近年では、道路交通法が改正されて、後部座席でもシートベルト着用義務がありますから、タクシーの乗客が後部座席に乗車しているときにシートベルトを着用していなければ、それだけで賠償金が減額される可能性が高くなります。
タクシーを利用するときには、きちんとマナーを守り、運転手による運転を邪魔せず、シートベルトを着用して、適正な方法で乗車することが大切です。
まとめ
タクシー乗車中の事故の賠償金請求について、詳しく理解できたよ!
双方に過失割合があれば、どちらにも請求可能なんだね!
タクシーだけではなくバスの乗客である場合も賠償金請求は同じだよ。
タクシー会社や、事故を起こした相手側が、損害賠償金の支払いを渋ってくる場合や、慰謝料の金額に納得できない場合には、弁護士などの専門家に相談してみよう。
無料相談を取り入れている弁護士事務所はたくさんあるから、まずは弁護士回答を得てみると良いね。
今回は、タクシーに乗客として乗車している際に交通事故に遭った場合の対処方法をご説明しました。
タクシー乗車中の事故では、タクシー運転手と事故の相手方の双方に賠償請求できるケースが多いです。
その場合、どちらか支払いを受けやすそうな方に、全額の請求をすると良いでしょう。
誰に請求すべきか分からなかったり、相手から賠償金支払いを拒絶されたりして、対応に迷われた場合には、交通事故に精通した弁護士に相談をして、示談交渉や裁判を任せることをお勧めします。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。