交通事故の被害に遭ったら、加害者に対して慰謝料請求をすることができます。
そのためには弁護士に依頼すると有利になりますが、「弁護士報酬がかかるのが心配」という方が多いのではないでしょうか?
任意保険の契約の際に、弁護士費用特約をつけていない場合、費用がかかってしまいますから、弁護士に依頼する事を不安に感じてしまう人も多いのです。
弁護士特約をつけていないときには「法テラス」を利用すると、費用の負担が楽になるので、お勧めです。
今回は、弁護士費用の支払いが苦しいときに役立つ「法テラス」と、利用の際の注意点について、解説します。
目次
交通事故で必要になる弁護士費用
交通事故に遭ったら、弁護士に依頼しましょう
交通事故の被害に遭ったら、相手の保険会社に対し、慰謝料などの損害賠償金の請求をします。
このとき、保険会社との間で「示談交渉」を行います。
示談交渉とは、被害者と加害者が話合いをすることにより、休業損害額などの損害賠償額の金額を決めることです。
示談交渉をするときには、被害者が自分で臨むこともできますが、弁護士に依頼すると有利になります。
弁護士が示談交渉をするときには、「裁判基準」という高額な基準が適用されるため、相手に請求できる賠償金の金額がアップするからです。
後遺障害が残ってしまった場合にも、弁護士に依頼する方が、示談交渉をスムーズに進める事が可能となります。
弁護士費用は、どのくらいかかるのか
しかし、弁護士に依頼すると、それなりの費用がかかります。
弁護士費用としては、主に「法律相談料」、「着手金」と「報酬金」「実費」があります。
【法律相談料】
弁護士に交通事故の装弾をしたときに発生する費用です。
だいたい、30分5000円(+税)が相場となっています。
【着手金】
示談交渉などの対応を依頼したとき、当初にかかる費用です。
だいたい、10~20万円くらいが相場となっています。
【報酬金】
示談交渉が成立して、賠償金を獲得できたときにかかる費用です。だいたい、獲得できた賠償金の15~20%くらいが相場となっています。20万円+10%などとしている事務所もあります。
【実費】
実際に事件を処理するときに必要となる費用です。
たとえば、郵便切手代や交通費、文書の取り寄せ費用などです。
弁護士費用が払えない場合には、法テラスを利用しよう!
法テラスとは
手元にお金がない場合には、法律相談料や着手金の出費が苦しくなります。
とくに、着手金は10万円以上になってくることがあるので、用意できない、ということもあるでしょう。
このようなときに、利用できるのが「法テラス」です。
法テラスとは、国が設立した機関で、経済的に余裕がない人に向けて、法律的な支援をしているものです。
正式名称は、「日本司法支援センター」と言います。
全国の都道府県に「地方事務所」があるので、利用者は自宅近くや職場近くの、便利な地方事務所を利用することができます。
法テラスで利用できるサービス
法テラスを利用すると、お金がなくても、弁護士に相談や依頼をしやすいです。
法テラスでは、無料相談を実施しています。
無料相談を利用すると、費用負担なしに、弁護士に交通事故に関する弁護士回答を得る事ができます。
また、弁護士費用の立替制度も実施しています。
これは、法テラスが弁護士費用を立て替えて一括払いしてくれる制度で、「民事法律扶助」と言います。
民事法律扶助を利用するとき、利用者は、弁護士に対して直接着手金等の費用を支払う必要はありません。
そして、立て替えてもらった費用については、利用者が法テラスに対し、月々分割で償還していくことになります。
毎月の償還金の金額は、原則として1万円ずつですが、その支払いが難しい場合には、月々5000円にまで落としてもらうことも可能です。
民事法律扶助を利用すると、法テラスが「着手金」「報酬金」「実費」の立替払いをしてくれます。
そのため、当初にお金を用意できなくても、気軽に弁護士に対応を依頼することができるのです。
法テラス(民事法律扶助)を利用した慰謝料請求
交通事故で、相手の保険会社に慰謝料などの賠償金請求をするときにも、法テラスの民事法律扶助を利用することができるのでしょうか?
これについては、問題なくできます。
民事法律扶助は、あらゆるジャンルの民事的な法的トラブルに対応しています。
たとえば、貸し金請求や賃貸借関係、不動産売買、離婚、不倫相手への慰謝料請求、相続、自己破産などの債務整理にも対応しており、弁護士会を通じて弁護士を紹介してもらう事ができます。
もちろん、交通事故も対象となります。
また、裁判だけではなく、調停や示談交渉にも対応しています。
そこで、交通事故の示談交渉を弁護士依頼とする場合にも、当然法テラスを利用することができます。
無料相談を受けることもできますし、民事法律扶助制度を使って着手金や実費の立て替えを受けることも可能です。
法テラスを利用するメリット
以下では、法テラスを利用するメリットをご紹介していきます。
支払いが楽になる
まずは、弁護士費用の支払いが楽になることが、一番のメリットです。
普通に弁護士を探して示談交渉を依頼すると、通常であれば法律相談料(だいたい1万円)と、着手金(だいたい10~20万円)、実費(1~2万円くらい)の、合計12~22万円くらいがかかってしまいます。そして、こういった費用は一括で支払わなければなりません。
これに対し、法テラスなら、法律相談料は無料になりますし、着手金も実費も法テラスが立て替えてくれるので、依頼者はお金を用意する必要がありません。
月々5000円ずつ、利息や手数料なしで法テラスに返していけば良いだけなので、とても楽に弁護士に依頼することができます。
安く依頼できる
法テラスを利用すると、弁護士費用が非常に安くなることも、見逃せないメリットです。
法テラスの民事法律扶助を利用するときには、弁護士費用の金額について「法テラスの立替基準」が適用されます。
つまり、通常の弁護士事務所が定めた基準ではなく、法テラスが定めた基準によって、弁護士費用を計算する、ということです。
そして、法テラスの立替基準は、一般の弁護士事務所の報酬基準より、大幅に安くなっています。
法テラスの場合の交通事故の示談交渉の着手金は、63000円~105000円です。実費は2万円となっています。
もし、63000円が適用されたら、当初にかかる費用は83000円となります。
一般の事務所に依頼すると、12~22万円くらいはかかるので、法テラスの方が大幅に安くなることがわかります。
また、法テラスの報酬金の基準は、一律で、相手から回収できた金額の10%です。一般の事務所だと、15~20%くらい、または20万円+10%などがかかってくるので、やはり法テラスを利用すると、安くなっていることがわかります。
このように、法テラスを利用すると、かかる費用自体も安くなるので、依頼者の負担はさらに軽くなります。
償還が免除されることもある
法テラスへの償還金は、ときに免除してもらえることもあります。
法テラスは、もともと生活に余裕がない人に向けたサービスですから、生活保護を受けている人が、特に利用しやすいシステムになっています。
生活保護の受給者であれば、法テラスへの償還は不要となります。つまり、完全に無料で弁護士に対応を依頼できるということです。
また、依頼時には普通に収入があって生活していた人でも、法テラスへの償還途中に生活保護になったら、その時点で、法テラスへの償還を止めてもらうことができます。
また、生活保護を受給していなくても、病気やケガ、失業などで状況が変わってしまったときには、法テラスへの償還を猶予してもらうことも可能です。
このように、法テラスへの返済には、免除や猶予の制度があることも、大きなメリットと言えるでしょう。
裁判基準で計算するので、慰謝料などの示談金が大幅にアップする
法テラスを利用して弁護士に示談交渉を依頼すると、慰謝料などの示談金が大きくアップする可能性が高いです。
交通事故の賠償金の計算基準には、自賠責基準と任意保険基準、裁判基準(弁護士基準)の3種類があります。
この中で、もっとも高額になるのは、裁判基準です。
裁判基準は、裁判所が採用している法的な基準で、もっとも適切な計算方法です。
弁護士が相手の保険会社と示談交渉をするときには、当然裁判基準を適用します。
ところが、被害者が自分で示談交渉をすると、保険会社は低額な「任意保険基準」を当てはめてくるので、示談金が大きく下がってしまいます。
法テラスを使うと、弁護士に間に入ってもらうことになるので、自分で示談交渉を進めるときと比べて、大きく慰謝料が増額されます。
裁判基準にするだけで、慰謝料の金額が2倍や3倍になることも珍しくないので、示談交渉を進めるときには、裁判基準を適用しないと損です。
国の機関なので、安心感がある
法テラスを利用するもう1つのメリットは「安心感」です。
通常、弁護士を探すとき、知人の紹介を受けたり自分でインターネット上の情報を検索したりしますが、そのようなとき、多くの方は、とても緊張するものです。
一般的には、弁護士はまだまだ敷居が高いですし、相手がどのような弁護士かもわかりません。
これに対し、法テラスは、国の法務省の機関ですし、これまで多くの方のさまざまな事件解決の窓口となってきた実績があります。
何かトラブルが起こっても、国が対処してくれるだろうと考えられます。
そこで、法テラスの場合、一般の事務所にいきなり相談をするよりは、気軽な気持ちで弁護士相談を利用しやすいです。
法テラスの注意点
法テラスには、いろいろなメリットがある反面、注意点もあります。以下で、順番に見ていきましょう。
資力基準による制限がある
資力基準とは
法テラスは、もともと経済的に余裕のない人を援助するための機関です。
そこで、経済的に余裕がある人は、利用を制限されます。
一定以上の資力の人は、法テラスのサービスを利用することができません。
そこで、法テラスには「資力基準」が定められています。
資力基準をオーバーすると、無料相談を利用できず、相談は有料となります(30分5000円+税)。
民事法律扶助については、サービスを利用することができません。
収入の基準と資産の基準
法テラスの資力基準には、収入の要件と資産の要件があります。
収入要件を超過していると、無料相談を受けることができません。
民事法律扶助の場合、さらに要件が厳しくなり、利用するためには、収入と資産の両方の要件をクリアする必要があります(どちらか一方でも超過していたら、サービスを受けられません)。
資力審査がある
法テラスでは、資力基準を満たしていないとサービスを受けられないので、利用に際し、「資力審査」を受けなければなりません。
法律相談には審査はありませんが、民事法律扶助を受けるには、審査を受けて、クリアしなければならないのです。
資力審査には、一定期間がかかります。
通常は、2週間程度ですが、混み合っているときや、GW、お盆、お正月などの長期休暇が挟まると、1ヶ月くらいかかってしまうこともあります。
そのようなときには、すぐに弁護士に動いてもらうことができないので、依頼者は待っているしかありません。
通常一般の事務所に依頼したら、すぐに示談交渉を開始してくれるので、それと比べるとデメリットがあると言えます。
交通事故トラブルに注力している弁護士を紹介してもらえるわけではない
交通事故の示談交渉をするときには、できるだけ「交通事故トラブルに注力している弁護士」に対応を依頼すべきです。
弁護士には、いろいろな得意分野があるので、交通事故問題であれば、交通事故を得意としている弁護士に依頼すると有利になるからです。
ところが、法テラスで弁護士の紹介をしてもらう場合、基本的に、得意分野の指定はできないので、必ずしも紹介を受けられる弁護士が、交通事故に注力しているとは限りません。
普段は企業法務をメインで取り扱っている弁護士や、債務整理に力を入れている弁護士が担当する可能性もあります。
交通事故になれていない弁護士にあたると、示談交渉が思ったほどスムーズに進まなかったり、有利にならなかったりすることも多いです。
法テラスを利用するための条件とは
法テラスを利用するためには、収入や資産の要件をクリアしなければなりません。
その基準を、以下でご紹介します。
収入基準
法テラスの収入基準は、以下のとおりです。
世帯人数 | 手取の月収額 ()内は大都市基準 |
家賃や住宅ローンを負担している場合に加算できる限度額 ()内は大都市基準 |
1人 | 18万2000円以下 (20万200円以下) |
4万1000円以下 (5万3000円以下) |
2人 | 25万1000円以下 (27万6100円以下) |
5万3000円以下 (6万8000円以下) |
3人 | 27万2000円以下 (29万9200円以下) |
6万6000円以下 (8万5000円以下) |
4人 | 29万9000円以下 (32万8900円以下) |
7万1000円以下 (9万2000円以下) |
収入要件を満たさないと、無料相談も民事法律扶助も受けることができません。
資産の基準
法テラスの資産の基準は、以下のとおりです。
世帯人数 | 資産合計額 |
1人 | 180万円以下 |
2人 | 250万円以下 |
3人 | 270万円以下 |
4人以上 | 300万円以下 |
資産の基準を満たさないと、民事法律扶助を受けることはできません。
審査に必要な書類とは
法テラスでは、上記の収入基準と資産の基準を満たすかどうかの審査が行われます。
そのためには、いくつかの書類が必要となります。
収入に関する書類
申込者と配偶者の分が必要です。
- 給与明細書(直近2ヵ月分)
- 課税証明書(直近のもの)
- 確定申告書の写し(直近1年分で、収受印があるもの。e-Taxの場合は受付結果(受信通知)を添付する)
- 生活保護受給証明書(3ヵ月以内のもの)
- 年金証書(通知書)の写し(直近のもの)
- 資力申告書(生活保護受給中の方以外)
- 世帯全員分の住民票の写し(本籍、筆頭者と続柄の記載のあるもの)
- 事件に関する書類
- 交通事故証明書
- 診断書
など
法テラスの利用方法
法テラスで無料相談や民事法律扶助を受けたいときには、2通りの方法があります。
法テラスに申込みをする
1つ目は、法テラスに申し込む方法です。
お近くの法テラスの地方事務所に電話をして、相談の予約をとります。そして、その日に法テラスに行くと、弁護士による無料相談を受けることができます。
その弁護士が気に入った場合、そのままその弁護士に、民事法律扶助を使って示談交渉を依頼することができます。
必要書類を弁護士に渡すと、弁護士が法テラスに対する審査申込みをしてくれます。
結果は弁護士が通知してくれます。審査に通過したら、そのままその弁護士に対応してもらうことが可能です。
契約弁護士に、直接依頼する
2つ目の方法は、法テラスの「契約弁護士」に依頼する方法です。
法テラスと契約をしている弁護士であれば、どのような弁護士でも、法テラスの無料相談と民事法律扶助を利用することができます。
その場合、弁護士事務所で相談をするときに、法テラスの無料相談を適用してもらうことができますし、法テラスの民事法律扶助を使って、費用の立替を受けることもできます。
この方法だと、自分で交通事故トラブルに注力している弁護士を探して、その弁護士に民事法律扶助を使って依頼することができるので、非常にメリットが大きいです。
法テラスの契約弁護士かどうかについては、ホームページ上に掲載されていることもありますが、書かれていないことも多いです。
そこで、気になる事務所があったら、直接電話で「法テラスを使えますか?」と聞いてみましょう。
「使えます」と言ってくれたら、予約をとって相談に行くと良いです。無料相談を受けられますし、民事法律扶助で、立替払いを利用して依頼することも可能です(ただし、資力審査は必要です)。
費用を用意できないときに、参考にしてみて下さい。
まとめ
- 法テラスを利用すると、交通事故の示談交渉の費用が用意できない(用意しにくい)ときに、非常に役立ちます。
- 契約弁護士に直接依頼する方法であれば、交通事故トラブルに注力している弁護士を選ぶこともできます。
手元にお金がなくても、弁護士に安く、負担を軽くして依頼することができるので、是非ともこの情報を役立てて下さい。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。