交通事故に遭ってしまったら、逸失利益をもらえるって聞いたんだ。
逸失利益って何?
逸失利益とは、交通事故の後遺障害により、これから先、働いて稼ぐことが出来たはずの金額を補うために受け取れるんだ。
今回の記事では、逸失利益について、詳しく説明していくね。
交通事故で後遺障害が残ったときには「逸失利益」をきちんと支払ってもらうことが重要です。
逸失利益は、後遺障害によって得られなくなってしまった将来の収入(減収)です。
計算してみると「慰謝料」よりも高額になるケースが多く、重大な後遺障害や死亡事故の場合の逸失利益は1億円を超えることも珍しくありません。
今回は、逸失利益の計算方法や請求方法を解説します。
目次
逸失利益とは
そもそも「逸失利益」とは何なのでしょうか?
「慰謝料との違いがわからない」という被害者の方も多いので、基本的なことからご説明します。
逸失利益は交通事故でけがをして「後遺障害」が残ったときに発生する「減収」による損害です。
後遺障害が残ると身体のいろいろな機能が働かなくなって、事故前のように効率的に働けなくなります。
職を失ったり将来の昇進のチャンスがなくなったりすることもあるでしょう。
すると、交通事故に遭わなかったケースと比較して「生涯収入」が低下します。
その減収は交通事故がなかったら発生しなかったものなので「逸失利益」として事故の加害者に請求できます。
後遺症が残った場合の逸失利益の計算方法
逸失利益の金額は、誰でも一緒なの?
被害者の怪我の度合いや、年収によって変わってくるよ。
基本的な計算方法について見てみよう。
逸失利益はどのくらいの金額になるのでしょうか?
計算方法とともに確認しましょう。
逸失利益は、後遺障害が残ったときに認められる損害ですが、後遺障害にはさまざまな程度のものがあります。
どの程度の障害かによって、減収の発生度合いが異なってきます。
そこで逸失利益は、以下のような計算式によって算定します。
後遺障害逸失利益=事故前の基礎収入額×労働能力喪失率×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
以下で、上記のそれぞれの要素について、意味を確認していきます。
基礎収入額とは
逸失利益は何を基準に計算されるの?
被害者の年齢平均賃金を基準として計算するんだよ。
主婦や子供の場合の逸失利益の計算方法についても詳しく見ていこう。
基本的な基礎収入の考え方
基礎収入額とは、逸失利益を計算する基本となる収入額です。
逸失利益は、症状固定後に発生する「減収」です。
どのくらい減収が発生するかは交通事故前の収入との比較で計算されるので、逸失利益を計算するときには、基本的に「事故前の現実の収入」を基準にします。
たとえば会社員やアルバイト、派遣などの「給与所得者」の場合には、源泉徴収票に記載されている収入をもとに計算します。
自営業の方の場合には、直近年度の確定申告書の「所得」を基準に計算します。
ただし固定経費や青色申告の特別控除分については、所得に足して計算できます。
このように、逸失利益は基本的に「事故前に現実に働いて収入を得ていた人」に認められます。
いろいろな被害者の基礎収入
以下のようなケースでは事故当時に働いていなかった人でも逸失利益を請求できます。
子どもや学生
逸失利益は、子どもや学生などの未就労の人にも認められます。
これらの人は、事故当時に働いていなかったとしても、事故がなかったら将来就職して収入を得た可能性が高いからです。
ただ、これらの被害者は実際に働いていなかったので、サラリーマンや自営業者などのように、現実の収入を基礎収入額として計算できません。
そこで、これらの被害者の場合には「賃金センサスの平均賃金」を使って基礎収入を算定します。
賃金センサスとは、国が集めている国民の平均給与の統計データです。
学歴別、年齢別、性別、職種別などの平均賃金がまとめられています。
子どもが交通事故の被害者になったとき、男児の場合には男性の平均賃金、女児の場合には男女の平均賃金を使って基礎収入を算定するケースが多いです。
学生が被害者になった場合には、男女別の平均賃金や学歴別の平均賃金を使って計算します。
就職が内定していた学生の場合、実際に適用されるはずであった給与体系をもとに計算されるケースもあります。
主婦や主夫(家事労働者)
主婦などの家事労働者が交通事故に遭って後遺障害が残ったケースでも、逸失利益が発生します。
専業主婦や主夫の場合、外で働いていないので現実の収入はありません。
ただ自宅で家族のために働いていると、その家事労働には経済的な価値が認められると考えられています。
もしも主婦がまったく働けなくなったら、家政婦を雇うしかなくなるからです。
それでは主婦の場合、基礎収入額をどうやって算定するのでしょうか?
主婦の基礎収入も「賃金センサスの平均賃金」を使って計算しますが、具体的には「全年齢の女性の平均賃金」を使います。
兼業主婦の場合には、現実の仕事による収入と全年齢の女性の平均賃金を比較して、高い方の金額をもとに計算します(合算はしません)。
主夫が被害者になった場合でも、女性のケースと不公平にならないように「女性の平均賃金」を基礎収入額とします。
失業者
もともと働いていたけれども事故当時にたまたま失業していた方がいます。
そのような方の場合にも、逸失利益を請求できる可能性があります。
失業者に逸失利益が認められるのは、以下のようなケースです。
- 本人に就労能力があった
- 本人に就労意欲があった
- 現実に就労する可能性があった
上記の3つの要件を満たしていたら、事故当時、現実に働いていなくても後遺障害の逸失利益を請求できます。
失業者の基礎収入額については、いくつかの考え方があります。
多いのは、賃金センサスを利用する方法です。
職歴別や学歴別、年齢別などの平均賃金をもとにしますが、失業していた場合には平均賃金そのままの数字ではなく、7かけなど割合的に減額して適用することが多いです。
また、職歴や前職における収入などを考慮して基礎収入額を定めるケースもあります。
労働能力喪失率とは
逸失利益は金額を補正される事もあるの?
そうだね。
後遺障害等級によって金額が変わってくるよ。
次に「労働能力喪失率」について説明をします。
後遺障害が残ると、身体の一部が機能しなくなってはたらきにくくなりますが、「どの程度はたらきにくくなるか」は後遺障害の程度によって異なります。
寝たきりになれば「完全に」労働能力が失われますが、片指が動かない場合や片眼の視力が落ちた場合、むちうちで痛みの後遺症が残った場合などには、労働能力は相当残っていると考えられます。
そこで逸失利益を計算するときには「どの程度労働能力が失われたかという割合」である「労働能力喪失率」をもとにします。
労働能力喪失率は、後遺障害の「等級」によって異なります。
後遺障害の等級は、もっとも重い1級からもっとも軽い14級までの14段階となっています。
それぞれの等級における労働能力喪失率の基準は、以下の通りです。
【等級ごとの労働能力喪失率の表】
1級 | 100% |
2級 | 100% |
3級 | 100% |
4級 | 92% |
5級 | 79% |
6級 | 67% |
7級 | 56% |
8級 | 45% |
9級 | 35% |
10級 | 27% |
11級 | 20% |
12級 | 14% |
13級 | 9% |
14級 | 5% |
1級から3級の場合、労働能力喪失率が100%なので、「完全に働けなくなる」と考えられています。
そこで逸失利益は非常に高額になります。
14級の場合、労働能力喪失率は5%なので「95%は普通に働ける」という意味です。
すると5%分の逸失利益しか認められないので、金額が低額になります。
労働能力喪失期間とは
逸失履歴は何歳までを基準として計算する事になるの?
基本的には67歳までとして計算される事になるよ。
67歳を超えている高齢者の場合には、平均余命の2分の1で計算されるんだ。
逸失利益を計算するときには、「労働能力喪失期間」も重要です。
これは「どのくらいの間、働けなくなるか」という期間です。
人は死ぬまで働き続けるわけではありません。
いずれかの年になったら引退してお金が入ってこなくなるので、逸失利益も仕事を辞めるまでしか発生しないと考えられています。
法律的に、人は「67歳」までを就労可能年齢として計算するので、逸失利益を計算するときの「労働能力喪失期間」は、症状固定時から67歳までの期間とします。
ただし高齢の方や67歳以上の方の場合には、「平均余命の2分の1」の期間を基準として労働能力喪失期間を算定します。
ライプニッツ係数とは
ライプニッツ係数って何?
逸失利益は、示談金として一括で支払われる事になるんだけれど、交通事故に遭わなければもらう事ができないお金だよね。
その運用利益を差し引くのが、ライプニッツ係数なんだ。
逸失利益を計算するとき「ライプニッツ係数」という数字が出てきます。
これは、逸失利益の「中間利息」を控除するための技術的な係数です。
中間利息とは、将来の分の損害を一括でまとめて支払ってもらうことによって発生する「余分な運用利益」のことです。
逸失利益は67歳までの減収分なので、本来であれば減収が発生するごとにその時点で支払われるべきです。
しかし実際には示談時にまとめて支払ってもらいます。
すると、理屈として、被害者はそのお金を運用して利益を得られることになります。
このような利益は本来得られないはずですから、損害賠償金額から差し引く必要があります。
そのために使うのが、ライプニッツ係数です。
ライプニッツ係数をあてはめると中間利息を控除できるので、就労可能年数に対応するライプニッツ係数を当てはめて逸失利益を計算します。
後遺障害逸失利益計算の具体例
事故前の年収が800万円、事故当時に40歳の男性が後遺障害8級となった場合
800万円×0.45×14.643=5271万4800円
死亡事故となった場合の逸失利益の計算方法
被害者が死亡した場合でも、逸失利益はもらえるの?
もちろん受け取れるよ。
だけど、生活費分を差し引かれる事になるんだよ。
死亡事故が発生すると、被害者は当然働けなくなって収入を得られなくなります。
そこで死亡事故でも「死亡逸失利益」が発生します。
死亡逸失利益の計算式は、以下の通りです。
死亡逸失利益=事故前の基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
基礎収入額や就労可能年数に対応するライプニッツ係数の考え方は、後遺障害逸失利益の場合と同様です。
以下では「生活費控除率」の意味を説明します。
生活費控除率とは
生活費控除率とは、被害者が死亡したことによって不要になった生活費を控除するための割合です。
死亡事故が発生すると、被害者は死亡後の収入を得られなくなりますが、反対に生活費が一切かからなくなります。
そこで、浮いた生活費を逸失利益から控除する必要があります。
そのために生活費を「割合化」した数字が生活費控除率です。
死亡逸失利益を計算するときには、生活費を差し引くために(1-生活費控除率)をかけ算して求めます。
生活費控除率は被害者によって異なり、法律的に基準となる割合は以下の通りです。
- 被害者が一家の大黒柱のケース
被扶養者が1人であれば40%、被扶養者が2人以上の場合には30%となります。
- 被害者が大黒柱でなかったケース
被害者が男性なら50%、女性なら30 %となります
死亡逸失利益計算の具体例
前年度の所得が600万円、事故当時30歳の自営業者が死亡したケース(妻と1人の子どもあり)
600万円×(1-0.3)×16.711=7018万8620円
より多くの逸失利益を獲得する方法
少しでも多くの逸失利益をもらう場合にはどうしたら良いのかな?
弁護士に相談して、適切な逸失利益にしてもらうのが一番お勧めだよ。
後遺障害のケースでも死亡のケースでも、逸失利益は非常に高額になります。
適切に支払いを受けるには、正確に計算を行い、保険会社からの減額に関する主張に対して的確に反論する必要があります。
ただ、被害者だけでは計算方法にも自信を持てないことがありますし、保険会社から「労働能力喪失率」や「労働能力喪失期間」などについて減額の主張をされたとき、適切に反論できないケースも多いです。
たとえば保険会社は「現実に減収が発生していないので逸失利益を支払わない」とか「労働能力喪失期間を5年程度に短縮すべき」「労働能力に影響しない後遺障害だから、逸失利益は発生しない」などと主張してくることが非常によくあります。
一人で対応していると、相手の言うままに減額されてしまったり支払いを受けられなくなったりする可能性があります。
確実に逸失利益を請求するためには、弁護士に示談交渉を依頼しましょう。
弁護士であれば、法律のプロとして正確に逸失利益を計算できますし、保険会社による不当な主張に対しても、これまでの裁判例などを元にして、的確に反論します。
依頼者が疑問や不安を感じることがあれば、丁寧に説明してくれて安心です。
逸失利益についてわからない点や不安をお持ちであれば、できるだけ早い段階で弁護士に相談することをお勧めします。
まとめ
逸失利益について良くわかったよ!
年収が高い人ほど、多くの逸失利益を受け取ることが出来るんだね。
正確な逸失利益を算出するためには、自分で行うよりも、弁護士に依頼する方がお勧めだね。
弁護士に依頼すると、より高い後遺障害認定等級を取得することが可能だから、更に慰謝料や休業損害、逸失利益が増額可能となるんだよ。
交通事故で重大な後遺障害が残ったり死亡したりした場合、適切な保障を受ける必要性が高いです。
そんなとき、あなたの助けになってくれるのは、法律のプロである弁護士です。
交通事故で後遺障害が残りそうな場合や被害者が死亡した場合などには、法律事務所のホームページの記載などを参考にして交通事故に強い弁護士を探し、逸失利益請求の対応を相談しましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。