この前、駐車場に車を停めていたら、当て逃げされちゃったんだ。
誰がやったのか分からないんだけど、修理費とか慰謝料とかもらえるのかな。
当て逃げした人を検挙できれば、修理費や慰謝料の請求ができるよ。
また、見つからない場合でも事故証明書を保険会社に提出することで、保険金が下りることがあるんだ。
そうなんだ!
相手を見つけるためにどのような情報や証拠が必要になるんだろう。
あと、相手が見つからないとき、車の修理費用を自分の保険から出せるのか、自分の保険を使うとどのようなリスクがあるのかなど、知っておきたいことが山ほどあるよ!
今回は当て逃げされたときの確認事項と対処方法、保険や慰謝料などの押さえておきたい情報を解説していくよ。
目次
当て逃げとは
当て逃げとは、犯人が車を他の車に接触させておきながら、その場で停車せずに走り去ってしまうことです。
車が他の車に接触したら「交通事故」ですので、本来なら車を停めて警察に報告しなければなりません。
これは、道路交通法に定められた車の運転者や同乗者の義務です。ところが当て逃げ犯人は、車を当ててしまったことについての責任を負いたくないので、逃げてしまうのです。
本来は「物損事故」の場合には免許の点数は加算されませんし、交通事故に関連する刑罰も適用されません。
正直に申告すれば民事責任しか発生しないのです。
当て逃げをすると免許の点数が7点加算されて、一気に免停になるし、道路交通法違反で処罰されてしまうんだよ。
当て逃げでよくあるパターン
当て逃げでよくあるのは、以下のようなパターンです。
- 駐車場で他の車に当ててしまい、逃げてしまった
- 相手の車に当たったのに気づかず逃げてしまった
- 公道上で相手の車に「コツン」と当たったが、「何にもなっていない」と思ってそのまま走り去った
- 駐車場のポールや道路上のガードレール、施設などにぶつけたが、「バレないなら言う必要ない」と思って逃げた
- 駐車場でドアを思い切り開けて隣の車に傷をつけてしまったが、関わりたくないと思って逃げた
パターンによっては些細なことに思えるかもしれないけど、どれも当て逃げになるんだね。
当て逃げされた場合の確認事項
もしも当て逃げ被害に遭ったら、以下のように対応して下さい。
警察への報告(届出)
まずは警察に報告を行いましょう。
当て逃げは道路交通法違反の犯罪(危険防止措置義務違反、報告義務違反)ですので、相手が見つかったら検挙されます。
また警察に報告しないと「事故証明書」が作成されません。事故証明書は交通事故が起こった事実を証明する資料であり、これがないとスムーズに保険金を受け取れない可能性があります。
「この程度の傷ならもういいや」と思わず、すぐに警察に電話をしてその場に来てもらいましょう。
警察が到着したら
警察が到着したら、事故の詳しい状況を伝えます。
たとえば駐車場で当てられたのであれば「駐車していて車のある場所に戻ってきたら傷がついていた」と伝え、どこの部分にどのような傷がついたのか、場所を示して説明しましょう。
駐車場内のように監視カメラがついている場所では、監視カメラなどによって犯人を捕まえられる可能性があることも伝えておくと良いでしょう。
当て逃げ被害の場合には、実況見分は行われないので、簡単な確認だけをして警察の対応は終了します。
当て逃げ犯人を目撃した場合には加害者の情報を確認
道路上を走っている最中に当て逃げされた場合などには、自分の目で犯人の情報を確認できます。
相手が走り去っていくとき、車種や色、ナンバーなどを確認して控えましょう。写真を撮影したりその場ですぐにメモをとったりすることが大切です。
このことが、後の犯人検挙につながります。
保険会社への連絡
次に自分の加入している保険会社に連絡を入れましょう。
事故が起こった場所や日時、事故の内容(当て逃げされた)などを担当者に伝えます。その後事故証明書を提出すれば、車両保険などが適用されるようになります。
弁護士費用特約の確認
自動車保険に「弁護士費用特約」がついていたら、弁護士への相談や示談交渉が無料になります。
事故現場から解放されたらすぐに自動車保険の内容を調べて「弁護士費用特約」を使えないか確認しましょう。
保険証券やネットの保険加入情報を参照すればわかります。不明な場合には加入している保険会社に電話をして聞きましょう。
証拠を探す
当て逃げされたとき、自分がその場にいなかったら相手の情報は手元にありません。警察に積極的に動いてもらうためにも何らかの証拠が必要です。
そこで、犯人に関する証拠や資料を集めましょう。具体的には、以下のようなものが証拠になる可能性があります。
- 目撃証言
当て逃げを目撃していた人がいたら、その人に証言してもらうことによって犯人を捕まえられる可能性があります。当て逃げ現場周辺に人がいないか探し、声をかけて協力を呼びかけましょう。 - ドライブレコーダーの画像
車にドライブレコーダーを搭載している場合、当て逃げされた瞬間に画像が撮影されている可能性があります。その場合には、相手車両の姿が映り込んでいて当て逃げ被害の証拠にできる可能性があります。 - 監視カメラの画像
駐車場内の事故の場合には、監視カメラに画像が写っている可能性が非常に高くなります。今はほとんどの駐車場に監視カメラが備え付けられているからです。駐車場の管理者は駐車場に表示されているのが通常ですので、問合せをしてカメラを確認させてもらいましょう。警察にも「カメラがある」と伝えておきます。 - 当てられた場所に残っている塗料
車が車に接触すると、ぶつけられた場所に相手の車の塗料がつくケースが多数です。塗料の色などから相手の車を絞り込める可能性もあるので、写真を撮影して警察に報告しましょう。
最近はドライブレコーダーを装着している車も増えてきたから、まだ設置していない人は購入を検討してみてもいいかもね。
病院に行く
当て逃げは、被害者がけがをしていない交通事故です。そこで「当て逃げされても病院に行く必要はない」と考えるかも知れません。
しかし道路を走行中に当てられた場合、けがをしている自覚がなくても実際にはけがをしているケースがあります。
交通事故で多いむちうちなどは、事故当時は無自覚であることの多い症状です。
当て逃げの場合でも、乗車中に当てられた事故の場合には念のために病院に行きましょう。
もしもけがをしていたら、医師に診断書を書いてもらって早急に「物損事故から人身事故への切り替え」を行うべきです。
切り替えをすると、「当て逃げ」ではなく「ひき逃げ」に扱いが変わり、実況見分も行われますし警察も俄然真剣に捜査活動を行うようになります。
当て逃げされたら警察は動いてくれるのか
当て逃げされた被害者にとって「警察が真剣に捜査をしてくれるのか」「当て逃げの検挙率はどのくらいなのか」は非常に気になる情報です。
当て逃げの検挙率は、公表されていないので何%という正確な数値は不明です。ただしひき逃げ事故の検挙数は法務省によって発表されています。平成30年度(2018年度)の犯罪白書によると、ひき逃げ事故全体の検挙率は58%程度です。死亡事故に限ると100%の検挙率を誇っており、重傷事故は74%程度です。ということは、軽傷の事故に限ると検挙率は58%を下回る計算となります。
このように、警察は「重大事故ほど力を入れる傾向」があります。当て逃げの場合には、軽傷事故よりも重要性が低いので検挙率はグッと低くなるでしょう。
ただ、当て逃げでも証拠や資料が明らかな場合には検挙してもらいやすいです。
たとえば可視カメラやドライブレコーダーなどにはっきり画像が残っていたら、犯人が見つかる可能性がかなり高くなります。
十分な情報があれば、警察も積極的に動いてくれる可能性が高まるんだね。
そうだよ。警察に動いてもらうためにも、普段からしっかり証拠を残せるような車両環境にしておくことが大事だね。
当て逃げでも保険が適応されるのか
当て逃げされたとき、交通事故の各種の保険は適用されるのでしょうか?
相手が見つかった場合と見つからなかった場合に分けてご説明します。
相手が見つかったら相手の「対物賠償責任保険」が適用される
当て逃げでも、相手が見つかったら相手の「対物賠償責任保険」が適用されるので、車の修理費用や代車費用、休車損害などを支払ってもらうことが可能です。
対物賠償責任保険が適用されると相手の保険会社が示談交渉を代行するので、話し合いの相手や損害賠償金の請求先は相手の保険会社となります。
相手が見つからなかったら自分の「車両保険」を利用するしかない
当て逃げで相手がみつからない場合には、相手の保険を適用することは不可能です。車を修理するには自分の保険を利用するしかありません。
適用できる保険は「車両保険」です。
確かに車両保険を使うと車の修理費が出るのですが、翌年度の保険等級が3段階下がってしまうケースが多いので注意が必要です。
また車両保険には「5万円」などの免責金額がもうけられており、それを超える損害でないと補填されないケースも多々あります。
これらのデメリットを考えると、あえて保険を適用しない方が良い場合も多いので、車両保険を利用するかどうかは慎重に検討すべきです。
相手がみつからない場合には、自分の保険を利用して車を修理する必要があるよ。
自賠責保険や政府保障事業は利用できない
交通事故では、相手の自賠責保険や「政府保障事業」を利用できることが知られています。これらにより、最低限の損害の補填が行われる仕組みです。
ただ、当て逃げの場合には自賠責保険も政府保障事業も適用されません。これらは「人身事故」にしか適用されないからです。
公的な最低限の補償はないので、相手の保険か自分の車両保険から損害の補填を受けるしかありません。もしくは完全に「自腹」になります。
当て逃げと慰謝料
当て逃げ被害に遭ったら、相手によって自分の大切な車を傷つけられた上に逃げられるので大きな精神的苦痛を負い「慰謝料を払ってもらいたい」と思うかも知れません。
しかし当て逃げの被害に遭っても慰謝料は発生しません。慰謝料は基本的に「人身事故」の事案でしか認められないからです。相手が逃げたとしても被害者がけがをしていない以上、慰謝料請求はできません。
当て逃げで請求できる賠償金は、以下の通りです。
- 車の修理費用
- 車が全損した場合には買換費用
- 買い換える際の諸費用
- 代車費用
- 休車損害
- 道路上の施設や建物が壊れた場合の修理費用
- 自動車の積荷が壊れた場合の積荷損害
- 当て逃げによって自動車の価値が下がったときの評価損
ケースによって発生する損害内容が異なるので、個別の状況に応じて適切に判断することが重要なんだね。
当て逃げされたことに後日気づいた場合の対処方法
当て逃げされたとき、その当時には被害に気づかないケースもあります。後日になって車に当てられていることに気がついたら、その時点で警察に届出を出し、保険会社に報告をしましょう。
ただ、後日に報告をするときには、その場で報告する場合と比べてなおさら証拠や資料を要求されます。
「どこで当てられたかわからない」状態では、警察も被害届を受理してくれないでしょう。
駐車場内の監視カメラに映像が残っている場合、ドライブレコーダーにはっきり画像が残っている場合などには被害届を受理してもらいやすいです。
当て逃げの場合、弁護士に相談すべきか
けがをしていて、相手が判明している場合は慰謝料を含めた多額の損害賠償請求ができる場合があるので、
弁護士に依頼するメリットがあるよ。
当て逃げに遭った場合でも、実はけがをしていてひき逃げ事案であり、相手に慰謝料を含めた多額の損害賠償請求をできるなら弁護士に依頼するメリットがあります。
一方、一般の当て逃げで車両保険を使うかどうか微妙な事案などでは、あまり弁護士に依頼してもメリットはありません。弁護士費用の分、足が出てしまいます。
ただし自動車保険の弁護士費用特約を利用できる場合には、弁護士に無料で相談・依頼できるので是非とも利用すべきです。
弁護士についてもらったら資料集めもやりやすくなりますし、相手が見つかった後の示談交渉なども任せられます。
まとめ
当て逃げの被害に遭ったとき、泣き寝入りすることはありません。まずはきちんと警察と保険会社に報告をして、最善の方法を検討して対応しましょう。わからないことがあったら弁護士の無料相談を利用してアドバイスをもらうのもお勧めです。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。