追突事故はどうやって過失割合が決まるの?
通常の追突事故の場合には、前方を走っている車の過失は0になるんだよ。
だけど、状況によって過失割合が0にならないことがあるんだ。
今回の記事では、追突事故の過失割合について、詳しく見ていこう。
交通事故の中でも特に多いのが「追突事故」です。
追突事故が遭ってしまったときには、お互いの「過失割合」はどのくらいになるのでしょうか?
追突された側には責任がないとも思えますが、急ブレーキを踏んだ場合などには前方の車にも過失が認められる可能性があります。
今回は追突事故の過失割合について解説していきます。
目次
追突された場合の過失割合
そもそも「過失割合」とは
交通事故が発生すると、双方の「過失割合」が問題になるケースが非常に多数です。
そもそも「過失割合」とは何か、なぜ過失割合が重要なのかみていきましょう。
過失割合とは、事故当事者それぞれの事故発生に対する責任割合です。
責任を10として事故当事者双方に割合的に負担させます。
たとえば被害者と加害者の過失割合が1:9や2:8などとなります。
過失割合が高くなると、その分相手に請求できる賠償金を減らされます。
たとえば1,000万円の損害が発生している場合に過失割合が1割になると、相手に請求できる金額が900万円に減額されます。
また過失割合については裁判例によって積み重ねられてきた「法的な基準」があります。
追突事故の場合、原則として10:0扱いになる
追突されたとき、お互いの過失割合はどの程度になるのでしょうか?
結論として追突された側には「過失がない」と考えられます。
道路交通法上、道路を走行する車は「前方の車両が急に停止しても追突しないだけの車間距離を空けなければならない」と規定されています(道路交通法26条1項)。
前方車両に追突した場合、後方車両がこの規定を守っていなかったか前方不注視をしていたことになります。
一方前方車両は通常通り道路上を走行していたり停車していたりしただけですから過失はありません。
そこで後方車両の過失割合が10、前方車両の過失割合は0となるのです。
追突事故の過失割合が10:0にならない主なケース
前方を走っているのにも関わらず、過失が0にならないのはどんな時なの?
前方の車に過失が生じてしまうケースは複数あるんだ。
まずは追い越しによる追突事故の過失割合について、チェックしていこう。
ただし追突事故であっても過失割合が10:0にならないケースがあります。
それは以下のような場合です。
追い越しの際に発生した事故
追突事故が「追い越しの際に発生した場合」には前方車両にも過失が認められます。
追い越し際には車両が接触する危険が高まり、双方に事故防止のための注意を要求されるからです。
追い越し際の事故の場合、事故現場が追い越し禁止場所かそうでないかにより、過失割合が変わってきます。
追い越し禁止場所でない場合
追い越し禁止場所でない場合には、追越車両と被追越車両の過失割合が8:2となります。
前方車両にも2割の過失割合が認められるということです。
追い越し禁止場所の場合
追い越し禁止場所で追い越しが行われた場合、追越車両には交通ルール違反が認められるので過失割合が上がります。
基本の過失割合は、追越車両と被追越車両が9:1です。
追い越し妨害した場合
追い越される車両は、追い越される際に危険を発生させないため横によるなどして進路を譲る必要があります。
それをしなかったために事故を発生させると追い越される車両の過失割合が上がります。
追い越される車両の過失割合が1割加算されるので、通常の場所なら3割、追い越し禁止場所なら2割の過失割合が認められます。
また追い越されそうになったときにあえて加速するなど危険な「追い越し妨害行為」をした場合には、追い越される車両の過失割合が2割加算されます。
結果として通常の場所なら4割、追い越し禁止場所でも3割の過失割合が認められます。
駐停車中に発生した事故
前方の車が駐停車していても、過失が生じることがあるの?
違法な場所での駐停車だった場合や、停車していても、非常点滅灯をつけていなかった場合には、過失は0にはならないんだよ。
違法な駐停車だった場合
前方車両が駐停車しているときに後方車両が追突すれば、通常は前方車両の過失割合が0となります。
ただし違法な駐停車であった場合には前方車両にも過失が認められます。
たとえばトンネルやカーブの途中、曲がり角などの駐停車禁止場所で駐停車していたために追突事故が発生したケースでは、被追突車にも1割の過失割合が認められます。
非常点滅灯無灯火、駐車方法不適切
駐停車車両が非常点滅灯を点灯させていなかった場合や駐停車方法が不適切だったために事故が発生した場合には、状況に応じて1~2割の過失割合が加算されます。
視認不良
視認不良で追突車が前方の駐停車車両を確認しにくかったケースでは、前方車両に1割程度の過失割合が認められる可能性があります。
不必要な急ブレーキ
走行している時の追突事故の場合には、過失割合はどうなるの?
前方の車が急ブレーキをかけた時には、前方の車にも過失が生じる事になるよ。
前方車両が不必要に急なブレーキを踏んだために追突事故が発生したケースでは前方車両に過失が認められます。
道路交通法では「車両の運転者は危険を避けるためにやむを得ない場合をのぞき、急に停止させたり急ブレーキを踏んだりしてはならない」と規定されているからです(道路交通法24条)。
前方車両が不必要に急ブレーキを踏んで危険を発生させたら、前方車両に3割の過失割合が認められ、追突車と被追突車の過失割合が7:3となります。
不必要に危険な急ブレーキとまではいかなくても、不適切なブレーキ操作によって危険を発生させた場合、前方車両に2割程度の過失割合が認められる可能性が高くなります。
追突車と被追突車の過失割合は8割:2割となります。
左折車、右折車に追突した場合の過失割合
左折や右折の場合でも前方の車には過失は生じないの?
そうだね。
後ろから追突された場合には、右折、左折、直進共に、過失割合は変わらないよ。
ここまでは「直進者同士の追突事故」の過失割合について説明してきましたが、前方車両が右折、左折しようとしているときに追突したら、過失割合の基準値が変わるのでしょうか?
たとえば前に交差点を控えていて右折の矢印信号が出ており、前方車両が進み始めたときにそれを追っていた後方車両が発進して前方車両に衝突したケースなどです。
10:0の原則は変わらない
基本的に前方車両が右左折しようとしていても、追突事故の過失割合は変わりません。
前方車両がどのような動きをしていても、後方車両がきちんと車間距離を取って前方を注視して運転していれば、事故は発生しないはずだからです。
衝突してしまうということは後方車両が車間距離を充分にとっていなかったという評価となります。
ただし前方車両が右左折の合図をしていなかったために追突した場合、前方車両が急停車した場合などには、前方車両にも過失が認められる可能性があります。
割り込み車に追突した場合の過失割合
割り込まれた車にぶつかってしまった時には過失割合はどうなるの?
無理な割り込みにより追突してしまった場合には、双方に過失割合が生じる事になるよ。
追突事故は、前方車両が急に割り込んできたことによって発生するケースも多々あります。
そのような場合、前方車両に過失が認められないのでしょうか?
前方車両にも過失が認められる
前方に車が割り込むことによって発生する交通事故は「進路変更中の事故」に分類されます。
前方車両は後方車両の車線へと変更するために割り込みをするものだからです。
進路変更中の事故では、後方車両だけではなく前方車両にも過失割合が認められます。
後方車両が道路交通法を守って車間距離を取っていても、別の車線から進入してきた割り込み車両には対応できないからです。
また前方車両は後方に近づいている車両がないか確かめてから進路変更すべきであり、事故が発生しないように高い注意義務が課されます。
それを怠って危険な進路変更をして事故を発生させたなら、前方車両に過失割合を認めるべきといえます。
進路変更中に発生した事故では、基本的に前方車両と後方車両の過失割合が3:7となります。
割り込んできた車に追突された場合には、この3対7という過失割合は変わらないの?
そんなことはないよ。
進路変更禁止の場所であったり、合図をせずに割り込んできた時、ゼブラゾーンを走行していた時には、過失割合は変わってくるんだよ。
進路変更禁止場所の場合
事故現場が進路変更禁止場所だった場合には、前方車両の過失割合が2割加算され、双方の過失割合は5:5となります。
進路変更の合図をしなかった場合
前方車両が合図を出さずに進路変更をした場合には追突の危険が高まるので過失割合が2割加算され、お互いの過失割合が5:5となります。
後方車両がゼブラゾーンを走行していた場合
一方、後方車両が「ゼブラゾーン」を走行しているケースがあります。
ゼブラゾーンとは、道路上にシマシマのラインが引かれている場所です。
ここには「進入してはならない」という明確な法規定はありませんが、「危険が生じるのでみだりに立ち入るべきではない」として運転者に注意を促しているところです。
前方車両としては「ゼブラゾーンを走行している後方車両がいる」とは考えないものです。
後方車両がゼブラゾーンを走行している場合、後方車両の過失割合が1~2割加算されます。
前方車両と後方車両それぞれの過失割合は2:8~1:9に修正されます。
その他の過失割合修正要素について
他にも過失割合が変わってくる要因となる物ってあるの?
お酒を飲んでいる時や、ながら運転をしている時など、様々な要因で過失割合は変わってくるんだよ。
ここまで、さまざまな追突事故の基本の過失割合や修正要素をご紹介してきましたが、実際の交通事故では上記で紹介した通りの過失割合が認定されるとは限りません。
事故の状況に応じて過失割合が加算減算される可能性があるからです。
たとえば事故当事者に「著しい過失」があれば、その当事者の過失割合が5~15%程度、加算されます。
著しい過失に該当するのは、以下のような行為です。
- 時速15キロメートル以上30キロメートル未満のスピード違反
- 著しい脇見運転
- ハンドル・ブレーキ操作不適切
- スマホを操作しながらの運転
- カーナビやテレビを見ながらの運転
- 酒気帯び運転
事故当事者に「重過失」があれば、その当事者の過失割合が10~20%程度、加算されます。
重過失に該当するのは、以下のような行為です。
- 時速30キロメートル以上のスピード違反
- 酒酔い運転
- 無免許運転
- 薬物などで正常な運転をできない状態で運転
- 居眠り運転
このように、交通事故の過失割合は、基本の過失割合にプラスしてさまざまな要素によって算定されます。
正確な過失割合を知りたい場合には、弁護士に相談をして事故の状況を説明し、アドバイスを受けるのがもっとも確実です。
相手の提示する過失割合に納得できない場合の対処方法
相手が提示してきた過失割合に納得できない場合には、どうしたら良いの?
自分自身で交渉するか、弁護士に依頼するのがお勧めだよ。
追突事故の場合、原則的に前方車両の過失割合は0です。
しかしときには相手の保険会社から
- 急ブレーキを踏んだから3割の過失割合が認められる
- 著しい過失があるから20%の過失割合が認められる
などと主張されるケースがあります。
反対に、前方車両が急に減速したり進路変更しようとしたりしたために衝突したのに「過失はない」などと言われて納得できないケースもあるものです。
過失割合に納得できないなら、以下のように対応しましょう。
自分で調べて相手に正しい過失割合を伝えてみる
相手の主張する過失割合に納得できない場合には、まずは上記でご紹介した法的基準にあてはめてみて、異なるところがないか確認しましょう。
明らかに基準と異なる主張をされている場合には、相手に「判例の基準では〇:〇になるはずなのに、そちらからの提示はそれと異なっているので訂正してほしい」と伝えてみてください。
それによって相手が対応を変えたり、なぜその過失割合になるのか詳細な説明をしてくれたりする可能性があります。
弁護士に相談し、示談交渉を依頼する
自分で告げても相手の態度が変わらなければ、弁護士に相談してみるようお勧めします。
弁護士が相手の意見が間違っていると判断するなら、示談交渉を依頼して相手に正しい過失割合についての主張をしてもらいましょう。
適切な過失割合が適用されて賠償金の不当な減額を防げる可能性が高くなります。
まとめ
追突事故による過失割合は、修正要素によって変わってくるんだね!
必ずしも10対0ではないという事が良くわかったよ。
自分自身では急ブレーキを踏んだつもりはなくても、相手側がそう主張してくることもあるからね。
過失割合を有利にするためには、弁護士に相談するのがお勧めだよ。
交通事故では、当事者双方にとって過失割合が非常に重要です。
ひと言で「追突事故」と言ってもさまざまな状況があるので、納得できないならきちんと法律家に相談して正しい過失割合を適用してもらいましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。