追突事故に遭ってしまった時、物損事故で届け出ても良いの?
怪我をしているのであれば、必ず人身事故として届け出なければいけないよ!
なんで人身事故として届け出なければいけないの?
物損事故で届け出てしまってはいけない理由があるの?
物損事故で届け出ると、様々な賠償金を受け取ることができなくなってしまうんだよ。
今回の記事では、人身事故と物損事故にはどんな違いがあるのか、人身事故を物損事故で届け出てしまう場合のデメリットについて、詳しく見ていこう。
追突事故が発生したとき、「人身事故」になるケースと「物損事故」になるケースがあります。
人身事故と物損事故とでは被害者に発生する損害の内容や加害者に発生する刑事責任などに大きな違いが発生します。
今回は人身事故と物損事故の違いや、追突事故が人身事故になった場合にどのようなことが起こるのか、解説していきます。
目次
人身事故と物損事故の違い
追突事故とは、後方車両が前方車両に後ろから衝突する交通事故です。
同じ追突事故でも「人身事故」になる場合と「物損事故」になる場合があります。
まずはそれぞれの意味や違いをみていきましょう。
人身事故とは
人身事故とは、「人がけがをしたり死亡したりした交通事故」です。
事故の相手方や第三者などの「人が死傷」すると、人身事故になります。
車が壊れていても誰かが傷ついたら人身事故です。
物損事故とは
物損事故とは「人が誰も傷つかなかった交通事故」です。
追突事故が発生しても、車が壊れただけで誰もけがをしなかったら物損事故扱いとなります。
車内にペットがいてけがをしても、ペットは「物扱い」なので物損事故です。
被害者が怪我をしていれば「人身事故」となる
追突事故が発生したとき「被害者がけがをしたら(もしくは死亡)人身事故」「けがも死亡もしなかったら物損事故」と考えましょう。
人身事故に遭ったら「人身事故」として届け出る必要がある
交通事故の当事者には、警察に事故を報告する義務が課されますが、届出の際には「人身事故」か「物損事故」のどちらか選択しなければなりません。
追突事故でけがをしていたら、必ず人身事故として届け出ましょう。
「軽傷だからたいしたことはない」と思って物損事故として届け出ると、後で必要な賠償金の支払いを受けられずに不利益を受ける可能性が高くなります。
また追突事故の場合、事故当時は痛みを感じなくても後に痛みが発生してくる場合があります。
いわゆる「むちうち」になったケースです。
その場合、症状が出た時点ですぐに病院に行って診断書をもらい、警察に持参して「人身事故への切り替え」を行いましょう。
人身事故の被害者の権利
人身事故の場合には、慰謝料を受けることはできるの?
入通院慰謝料や後遺障害慰謝料、死亡慰謝料を受け取ることができるよ。
物損事故として届け出てしまうと、これらの慰謝料を受けることができなくなってしまうんだ。
人身事故が発生したとき、被害者にはどのような権利が認められるのでしょうか?
被害者は慰謝料を請求できる
人身事故の被害者には「慰謝料」の請求権が認められます。
物損事故では慰謝料が発生しないので、人身事故特有の賠償金です。
慰謝料には以下の3種類があります。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は、交通事故でけがをしたことに対する慰謝料です。
入通院治療を受けた日数に応じて金額が計算され、治療期間が長くなると慰謝料が増額されます。
金額的には、だいたい数十万円~300万円程度です。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、追突事故で被害者に後遺障害が残ったケースで支払われます。
たとえばむちうちや骨折、脳障害などで一生残る後遺障害が残ると、内容や程度に応じた後遺障害慰謝料が発生します。
高額なケースで2,800万円程度、もっとも低額なケースで110万円程度です(いずれも弁護士基準の場合)。
追突事故でよくある「むちうち」のケースでも後遺障害認定を受けて後遺障害慰謝料を払ってもらえる可能性があります。
死亡慰謝料
死亡慰謝料は、被害者が死亡したときに発生する慰謝料です。
弁護士基準の場合、2,000~3,000万円程度になります。
人身事故で認められるその他の賠償金
物損事故扱いだと、慰謝料を受け取ることができなくなってしまうんだね。
その他にも、受け取ることができる賠償金はあるのかな?
人身事故として届け出た場合には、治療費や、休業損害や逸失利益、介護費用など、事故によりかかった費用は全て負担してもらうことができるんだよ。
人身事故の被害者には、慰謝料以外にも以下のような賠償請求権が認められます。
治療関係費
病院に支払う治療費、付添看護の費用、入院雑費、通院にかかる交通費などを加害者に請求できます。
休業損害
仕事をしていた方が交通事故に遭って働けなくなった場合、休職期間中の休業損害が認められます。
介護費用
後遺障害が残って介護が必要になったケースでは介護費用を請求できます。
逸失利益
逸失利益とは、「受け取れなくなってしまった将来の収入(減収)」です。
後遺障害が残ったり死亡したりすると、働けなくなったり労働能力が低下したりして損失が発生します。
その減収分を逸失利益として相手に請求できます。
器具や装具の費用
後遺障害が残って義手義足、コンタクトレンズなどが必要になったらそういったものの費用も請求できます。
葬儀費用
交通事故によって被害者が不幸にも死亡した場合には、葬儀費用を請求できます。
ここでご紹介した「慰謝料」やその他の賠償金は、すべて「人身事故にしか認められない」ものです。
物損事故扱いになってしまうと上記のような損害金が発生しても請求できなくなってしまうリスクが発生するので、追突事故でむちうちなどのけがをしたら、必ず人身事故として届け出ましょう。
追突事故の過失割合
追突事故の場合には、かかった費用全額を加害者に負担してもらうことができるの?
通常の追突事故の場合には、追突した車の過失が10割になるから、被害者は全ての費用を負担してもらうことができるんだけれど、危険な運転をしていると過失割合が変わってくるから、その分支払われる賠償金は少なくなるね。
追突事故の場合、基本的に被害者の過失割合が0%、加害者の過失割合が100%となります。
被害者が道路交通法を守って運転していた場合、加害者が充分な車間距離をとっていなかったことに全面的な責任が認められるからです。
一方的に追突された被害者には事故を避ける手段がなく、過失が認められません。
被害者の過失割合が0%の場合、過失相殺されないので発生した損害について全額の賠償請求が可能です。
ただし被害者が急ブレーキをかけた場合や不適切なハンドルブレーキ操作をして危険を発生させた場合などには被害者側にも10~30%程度、過失割合が認められる可能性があります。
自賠責保険が適用される
物損事故の場合って、自賠責保険は利用できるの?
自賠責保険も、物損事故の場合には、適用外になってしまうから、怪我をしていたら必ず人身事故として届け出るようにしよう。
人身事故と物損事故の大きな違いとして「自賠責保険」の適用の有無もあります。
自賠責保険とは交通事故の被害者の救済を目的とした自動車保険で、全ドライバーが必ず加入しなければならない「強制加入」の保険です。
自賠責保険に入らず自動車を運転するのは違法行為で罰則も適用されます。
自賠責保険が適用されるのは「人身事故」のみです。
物損事故の場合には自賠責保険からの補償は受けられません。
自賠責保険が適用されると、以下のような保険金が支払われます。
- 治療費
- 休業損害
- 慰謝料
- 逸失利益
- 器具葬具の費用
- 葬儀費用
ただし自賠責保険による補償内容は、被害者の救済に充分なものとはいえません。
休業損害や慰謝料などは法的な基準よりかなり低くなりますし、「限度額」も低額なので発生した損害金について全額の支払いを受けられないケースも多々あります。
自賠責保険からの支払いで不足する部分については、加害者や任意保険会社に請求する必要があります。
加害者の責任が重くなる
人身事故と物損事故では、加害者のペナルティに違いはあるの?
もちろんあるよ!
人身事故の場合には、法律で罰せられる可能性があるし、加算される点数も高くなるんだよ。
人身事故と物損事故では「加害者に発生する責任」も大きく異なります。
人身事故を起こした加害者には重い責任が科されます。
以下でどのようなペナルティが科されるのか、具体的にみていきましょう。
人身事故になると刑事罰を受ける可能性がある
人身事故を起こすと、加害者は「自動車運転処罰法」という法律によって処罰される可能性があります。
自動車運転処罰法は、交通事故で人を死傷させた人に刑罰を与えるための法律です。
物損事故には適用されません。
以下の2つの犯罪類型が規定されています。
過失運転致死傷罪
過失運転致死傷罪は、通常程度の過失によって人身事故を起こしたケースで適用される犯罪です。
前方不注視で追突事故を起こした場合などにはたいてい過失運転致死傷罪が成立します。
刑罰は「7年以下の懲役または禁固あるいは100万円以下の罰金刑」です。
危険運転致死傷罪
危険運転致死傷罪は、故意や故意にも匹敵するような重過失、危険運転によって事故を起こしたときに適用される処罰規定です。
たとえば飲酒して酩酊状態で運転した場合、異常な高スピードで交差点に突っ込んだ場合、無免許運転などのケースで成立します。
危険運転の場合、被害者がけがをしたら15年以下の懲役刑、被害者が死亡したら1年以上20年以下の懲役刑が適用されます。
道路交通法違反でさらに処罰が重くなる
加害者が道路交通法違反をしていた場合、上記よりさらに処罰が重くなります。
- ひき逃げ(救護義務違反)
追突事故を起こしたら、加害者は被害者を救護しなければなりません。
これをせずに走り去ると救護義務違反(ひき逃げ)となり、重い刑罰が適用されます。 - 飲酒運転
飲酒運転は道路交通法違反の犯罪です。
酒気帯びや酩酊状態で運転して追突事故を起こしたら、通常より厳しく処罰されます。 - スピード違反
スピード違反も道路交通法違反です。
高スピードで追突事故を起こしたら、当然責任が重くなって処罰が重くなります。
免許の点数も加算される
人身事故を起こすと、加害者の免許の点数も加算されます。
日本の運転免許の制度では、交通違反や交通事故を起こすと免許の点数が加算され、点数が一定に達すると「免許停止」や「免許取消」となります。
人身事故の加算点数は被害者のけがの程度や加害者の過失の程度によって異なります。
重傷であれば加算点数が高くなり、加害者の過失割合が高ければやはり高い点数を加算されます。
たとえば追突事故で死亡事故を起こすと加害者一回で免許取消となり、最低1年は免許の再取得ができなくなります。
「人身にしないでほしい」と頼まれることもある
人身事故にしないで欲しいと頼まれたらどうしたら良いの?
怪我をしているのであれば、絶対に承諾してはいけないよ!
現場では、できるだけ早く警察を呼んで仲介に入ってもらう方が良いね!
追突事故で被害者がけがをしたとき、加害者から「人身事故にしないでください」「物損事故にしてください」と頼み込まれるケースがあり、注意が必要です。
人身事故扱いになると、加害者には「自動車運転処罰法」が適用されて懲役や罰金などの刑事罰が科される可能性が高くなります。
また免許の点数が上がり、免許停止や免許取消になるリスクも発生します。一般ドライバーはもちろんのこと、タクシー運転手やバス・トラックの運転手などにとっては免許を取り消されると死活問題です。
そこで加害者は被害者に「この場で示談してほしい」「警察には言わないでほしい」などと言ってくるのです。
しかし、人身事故に遭ったらきちんと人身事故として届け出るべきです。
被害者にとって、わざわざ人身事故を物損事故として届け出る利益はありません。
受け取れる賠償金は少なくなりますし、加害者には処罰も与えられず、下手をすると泣き寝入りのリスクが発生します。
少しでもけがをしている可能性があるなら事故現場で「人身事故にしないでほしい」と言われても聞き入れず、必ず人身事故として届け出ましょう。
相手方が強硬姿勢なら、専門家に相談しよう
相手が一方的にこちらが悪いと言ってくるんだけれど、どうしたら良いのかな?
中には、追突してきたのに色々と理由をつけて、追突された側が悪いと言ってくる人もいるんだ。
そんな場合には、出来るだけ早く弁護士に相談しよう。
交通事故に遭ったとき、相手が不遜な態度をとるので被害者が困ってしまうケースが少なくありません。
自分から追突しておきながら「被害者がふらふら運転していた」「急ブレーキをかけた」など被害者のせいにしようとしたり、高スピードを出していたのに「徐行していた」など嘘をついたりする人もいます。
被害者としては、「許せない」と思ってしまうのも当然です。
また保険会社との示談交渉で、賠償金を不当に減額され「納得できない」と感じる方も多数です。
交通事故の示談交渉で対応に困った場合や加害者の態度に納得できない場合には、弁護士に相談してみましょう。
加害者対応や示談交渉を任せると気持ちも楽になり、有利に解決できるでしょう。
まとめ
追突事故で怪我をしてしまった時には、必ず人身事故として届け出ることが大切なんだね!
物損事故として届け出てしまった場合でも、後から人身事故として変更する事は出来るから、手続きを面倒に思わずに、出来るだけ早く診断書を持って警察署で人身事故へと変更してもらうようにしよう。
交通事故に遭ったとき、人身事故か物損事故かで大きく取扱いが変わってきます。
現在の対応が正しいのか不安を感じたら、一度弁護士に話を聞いてもらい、アドバイスを受けると良いでしょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。