今回の記事では、ロードバイクでの交通事故で受け取れる賠償金について、詳しく見ていこう。
最近、自転車を趣味にする方が増えています。
競技用自転車である「ロードバイク」を颯爽と乗りこなし、さまざまな場所でサイクリングを楽しむ人々の姿もよく見かけるようになりました。
ただロードバイクは通常の自転車よりスピードが出やすく急に止まりにくいので交通事故に遭うリスクも高くなります。
今回はロードバイクの交通事故における慰謝料や賠償金の相場について、解説していきます。
目次
ロードバイクで起こりがちな交通事故とは
左折車に巻き込まれてしまったり、車に追突されてしまったり、駐停車している車をよけようと大きく車道にはみ出すことで交通事故に遭ってしまう事もあるよ。
そもそもロードバイクとは?
ロードバイクとは、いわゆる「競技用自転車」のことです。
「ロードレーサー」や「レーサー」と呼ばれるケースもあります。
高速で走ることに特化しており「泥よけ」や「スタンド」がついていないロードバイクもあります。
なお「ライト」「後部反射板」や「ブレーキ」のないロードバイクも存在しますが、ライトやブレーキがない自転車で公道を走ると道路交通法違反となってしまうおそれがあるので、そういった自転車には乗ってはいけません。
ロードバイクは交通事故に遭いやすい
合法的なロードバイクであっても時速30キロメートル以上の高速なスピードを出せますし、ライダーが前傾姿勢を取るために前方の視界が制限されます。
通常のシティサイクルと比べると、交通事故に遭う危険性が高いといえるでしょう。
公道でロードバイクを運転するときには、事故に巻き込まれないように慎重な対応が必要です。
以下ではロードバイクでよくある交通事故のパターンをご紹介します。
追突事故
ロードバイクは高速で走るため、通常は歩道ではなく車道を走行します。
すると、後方から走ってきた四輪車やバイクなどに追突される事故が頻繁に発生します。
左折車による巻き込み事故
ロードバイクと四輪車が同じ方向へ向かって走行しているとき「巻き込み事故」が頻発します。
巻き込み事故とは、左折しようとした車両が後ろからやってきた自転車やバイク、歩行者などを巻き込んで接触する交通事故です。
ロードバイクは速度が速いので自動車が距離感を見誤り、ロードバイクの直前で左折してしまうケースが少なくありません。
予想外に早く自動車に追いついたロードバイクが自動車に巻き込まれてライダーが転倒し、大けがをする可能性があります。
交差点で右折車に衝突される
交差点上では、ロードバイクと四輪車との接触事故の危険が大きく高まります。
四輪車は交差点を走行するときに「車道を自転車が走っている可能性」について考慮しないケースが多いからです。
右折の際などに、「まさか自転車が飛び出してくることはないだろう」と考えている四輪車の目の前に突然ロードバイクが飛び出してくると、接触して事故につながります。
ロードバイクが2段階右折をしない
ロードバイクは自転車の1種なので、右折の際には「2段階右折」をしなければなりません。
つまりいったん直進して交差点を渡り、さらにそこから右折して交差点を渡って目的の方向へと進む必要があります。
自動車のように右折レーンを使って一回で右折してはいけません。
ところが2段階右折が面倒なので、自動車の右折レーンを通って無理に右折しようとするロードバイクがあります。
そうなると自動車にとっては予想外の行動となり、事故につながります。
駐停車車両を避けるために車道側に大きくはみ出したときに衝突される
車道上に駐停車車両がある場合にも要注意です。
この場合、ロードバイクは車両を避けるために車道側に大きくはみ出して走らざるを得ません。
すると後方の車両にしてみたら「いきなりロードバイクが目の前に飛び出してきた」ことになって接触してしまいます。
車道側へ出るときには、後方から自動車やバイクが来ていないかしっかり確認しましょう。
ロードバイクの交通事故で受け取れる賠償金
ロードバイクで交通事故に遭ったとき、どのくらいの賠償金が支払われるのでしょうか?物損事故と人身事故に分けてみてみましょう。
物損事故の場合
誰もけがをせず物が壊れただけで済んだ交通事故を「物損事故」といいます。
物損事故の場合、以下の賠償金を請求できます。
- ロードバイクの修理代
ロードバイクの修理代を実費で請求できます。
全損して修理が不可能な場合にはロードバイクの「時価」が支払われます。 - 破れた洋服などの弁償金
事故の際、洋服などが破れたらその費用も請求できます。 - 壊れたスマホなどの弁償金
転倒してスマホなどの所持品が壊れた場合には、それらの弁償金も支払われます。
人身事故の場合
ロードバイクで交通事故に遭いけがをしたら「人身事故」となります。
人身事故に遭ったら以下の賠償金を請求できます。
- 治療費
病院でかかった治療費、投薬料、検査費用、入院費用、手術費などは必要かつ合理的であれば全額請求可能です。 - 付添看護費用
入院中に家族に付き添ってもらったら1日あたり6,500円の付添看護費用を請求できます。 - 入院雑費
入院したら、1日あたり1,500円の入院雑費を請求できます。 - 交通費
通院のための交通費も請求可能です。
公共交通機関の場合は実費、自家用車で通院したら1キロメートルあたり15円のガソリン代を支払ってもらえます。
必要に応じて高速代や駐車場代、タクシー代なども請求できます。 - 休業損害
治療のために仕事を休んだら、休業日数分の休業損害を払ってもらえます。 - 入通院慰謝料
交通事故でけがをしたら被害者は大きな精神的苦痛を受けるので、相手に慰謝料を請求できます。
入通院した日数に応じて「入通院慰謝料」が支払われます。 - 後遺障害慰謝料
後遺障害が残った場合には入通院慰謝料とは別に「後遺障害慰謝料」が支払われます。 - 後遺障害逸失利益
事故で後遺障害が残ると、従前のように効率的に働けなくなります。
労働能力が低下したために発生する減収分を「後遺障害逸失利益」として相手に請求できます。 - 死亡慰謝料
ロードバイクの交通事故で被害者が死亡してしまった場合、遺族は相手に死亡慰謝料を請求できます。 - 死亡逸失利益
被害者が死亡すると、一切収入を得られなくなります。
その減収分を「死亡逸失利益」として請求できます。 - 葬儀費
被害者が死亡したら葬儀費用が必要になります。
葬儀費用については150万円を限度としてかかった金額を加害者側へ請求できます。 - ロードバイクの修理費など物損への補償
人身事故の場合にも物損が発生したら補償を受けられます。
ロードバイクや所持品が壊れた損害について弁償金を支払ってもらえます。
ロードバイクで受け取れる慰謝料の詳細
3つの計算方法の違いや慰謝料の計算方法について、詳しく説明するね。
以下ではロードバイクの交通事故における「慰謝料」がどのくらいになるのか、慰謝料の種類を含めてみていきましょう。
なお慰謝料が発生するのは「人身事故」のみです。
ロードバイクが壊れただけで誰もけがをしない「物損事故」の場合、ロードバイクがどんなに大切でも慰謝料請求はできないので注意しましょう。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は、被害者がけがをしたことによって受ける精神的苦痛に対する賠償金です。
交通事故でけがをしたら被害者は強い恐怖を感じ、痛みなどの苦痛を受けるので慰謝料が発生します。
入通院慰謝料を「傷害慰謝料」ともいいます。
入通院慰謝料の金額は治療期間が長くなればなるほど高額になりますが、賠償金の「計算方法」には3種類あるので注意が必要です。
自賠責基準
自賠責基準の場合、「1日あたり4,200円」として「治療に要した日数分」が支払われます。
ただし実治療日数が少ない場合には「実治療日数×2」を治療日数として計算します。
自賠責基準の入通院慰謝料=4,200円×(「治療に要した日数」または「実治療日数×2」のいずれか少ない方)
たとえば4か月間(120日)治療を受けその間100日入通院した場合には、4,200円×120日=504,000円となります。
4か月間の治療期間(120日)でも50日しか通院しなかった場合には、4,200円×100(50×2)=420,000円となります。
任意保険基準
任意保険基準は、各任意保険会社が独自に設定している賠償金計算基準です。
保険会社によって異なるので一概にはいえませんが、自賠責基準より多少高い程度の金額になるのが通常です。
弁護士基準
弁護士基準は弁護士や裁判所が採用する法的な基準で金額的には3つの基準でもっとも高額になります。
通院期間よりも入院期間の方が賠償金額は上がります。
また軽傷の場合、通常の基準の3分の2程度に慰謝料が減額される可能性があります(それでも自賠責基準や任意保険基準よりは高額です)。
たとえば4か月間通院した場合、入通院慰謝料は90万円程度となります。
1か月入院、3か月通院の場合には115万円です。
軽傷の場合、4か月通院で67万円程度となります。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、被害者に後遺症が残って「後遺障害等級認定」を受けたときに支払われる慰謝料です。
後遺障害には1~14までの等級があり、認定された等級が高くなればなるほど後遺障害慰謝料は高額になります。
やはり自賠責基準と任意保険基準、弁護士基準がありそれぞれ金額が異なります。
自賠責基準と弁護士基準の比較
等級 | 弁護士・裁判基準(赤本) | 自賠責基準 |
1級 | 2800万円 | 1100万円(要介護1600万円) |
2級 | 2370万円 | 958万円(要介護1163万円) |
3級 | 1990万円 | 829万円 |
4級 | 1670万円 | 712万円 |
5級 | 1400万円 | 599万円 |
6級 | 1180万円 | 498万円 |
7級 | 1000万円 | 409万円 |
8級 | 830万円 | 324万円 |
9級 | 690万円 | 245万円 |
10級 | 550万円 | 187万円 |
11級 | 420万円 | 135万円 |
12級 | 290万円 | 93万円 |
13級 | 180万円 | 57万円 |
14級 | 110万円 | 32万円 |
任意保険基準は保険会社によって異なりますが、自賠責基準に多少上乗せした程度です。
弁護士基準で計算すると、自賠責基準や任意保険基準の2~3倍程度にまで後遺障害慰謝料が増額されます。
死亡慰謝料
死亡慰謝料は、交通事故で被害者が死亡した場合に支払われる慰謝料です。
遺族が加害者や加害者の保険会社へ支払いを求めます。
自賠責基準の場合
自賠責基準の場合、以下のように計算します。
【被害者の死亡慰謝料】
被害者本人の死亡慰謝料として350万円が支払われます。
【遺族の慰謝料】
遺族の慰謝料は遺族の人数や被害者によって扶養されていたかどうかによって異なります。
被扶養者あり | ||
遺族が1人 | 550万円 | 750万円 |
遺族が2人 | 650万円 | 850万円 |
遺族が3人以上 | 750万円 | 950万円 |
弁護士基準の場合
弁護士基準の場合、被害者の立場によって金額が異なります。
- 一家の大黒柱…2,800万円程度
- 母親や配偶者の場合…2,500円程度
- それ以外のケース(高齢者、独身の男女、子どもなど)…2,000~2,500万円程度
任意保険基準は各任意保険会社によって異なりますが、弁護士基準より1,000万円やそれ以上低くなるケースが多数です。
ロードバイクの交通事故に遭ったら弁護士に依頼しよう
ロードバイクで交通事故に遭ったとき、被害者が自分で示談交渉をすると「任意保険基準」を適用されて低額な慰謝料しか受け取れません。
法的に適正な「弁護士基準」による賠償金を獲得するには、示談交渉を弁護士に依頼する必要があります。
特に後遺障害が残ったケースや死亡したケースでは慰謝料の差額が大きくなるので注意してください。
またロードバイクの交通事故では、相手から「ロードバイク側に事故発生の責任がある」と主張されて大幅に過失相殺されるケースが少なくありません。
そんなときに被害者を守ってくれるのも弁護士です。
ロードバイクの交通事故で困ったことがあったら、早めに交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士に相談しましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。