今回の記事では、交通事故で軽傷の場合には、どの位の慰謝料をもらう事ができるのか、チェックしていこう。
交通事故に遭ったとき、幸運にも軽傷で済むケースもよくあります。
軽傷であってもけがをしている以上慰謝料を請求できますが、「通常程度のけが」より慰謝料が減額される可能性があるため注意が必要です。
今回は「軽傷」になるのはどのような場合なのか、軽傷になると通常のけがとどういった違いが生じるのか、解説します。
交通事故での軽傷と通常のけがとはどう違う?
まずは軽傷と通常程度のけがの違いをみてみましょう。
通常のけがと軽傷の違い
「通常程度のけが」とは、一般の人身事故におけるけがです。
たとえば
- 手足の骨折
- 頭部挫傷
- 内臓の損傷
- 顔の傷
- 神経系の損傷
などはすべて「通常のけが」です。
「原則的な受傷」といっても良いでしょう。
かすり傷や、すり傷は「軽傷」
一方、けがをしたとはいっても「1週間程度」で治るかすり傷や、すり傷などは「軽傷」とされます。
ねんざや打撲の場合も通常は軽傷扱いです。
むち打ちで「自覚症状しかない場合」
むち打ちで「自覚症状しかない場合」にも軽傷となります。
自覚症状とは「被害者自身が感じている症状」です。
たとえば
- 痛い
- しびれる
- 肩こりがひどい
などは自覚症状です。
けがの症状には「自覚症状」と「他覚症状」があります。
他覚症状とは、「検査結果などにより客観的に第三者が把握できる症状」で、たとえば「MRIやレントゲンに写る骨折や出血」などは他覚症状となります。
むちうちの場合「MRIなどの画像検査でヘルニアなどの異常な部分」を確認できれば「他覚症状」があるので「通常のけが」となりますが、画像に異常が写らず「痛い」などの「自覚症状」しかなければ「軽傷」扱いとなります。
軽傷として判断される怪我の一例
- かすり傷、擦り傷などで1週間程度での完治が予想される
- ねんざ
- 打撲
- 足のくじき
- 自覚症状しかないむち打ち
ただしねんざの場合、しっかり調べてみると細かい骨折が発生していたり、実際には内部で重大な損傷が発生して歩行が困難となったりするケースもみられます。
そのような重大な症状があればねんざであっても「通常のけが」扱いになります。
軽傷で受け取れる慰謝料の相場
だけど、弁護士に依頼することがなければ、軽傷でも通常の怪我でも慰謝料に差はないんだ。
軽傷になると、通常のけがの場合と比べて「慰謝料」が減額される可能性があります。
軽傷の場合と通常の怪我の場合での慰謝料の違い
軽傷で慰謝料が減額されるのは、「弁護士基準(裁判基準)」で計算する場合です。
交通事故の賠償金計算基準には
- 自賠責基準
- 任意保険会社基準
- 弁護士基準
の3通りがあります。
この中で「弁護士基準」は法律上の根拠のある正当な計算方法であり、金額的にももっとも高額になります。
ただし「通常のけが」と「軽傷」に分類し、軽傷の場合には「入通院慰謝料」を減額して計算します。
具体的には、軽傷の場合通常のけがの「3分の2程度」に入通院慰謝料が減額されます。
「自賠責基準」や「任意保険基準」の場合、軽傷と通常のけがで区別しません。
【通常のけがの入通院慰謝料】
入院 |
|
1ヶ月 |
2ヶ月 |
3ヶ月 |
4ヶ月 |
5ヶ月 |
6ヶ月 |
7ヶ月 |
8ヶ月 |
9ヶ月 |
10ヶ月 |
|
通院 |
53 |
101 |
145 |
184 |
217 |
244 |
266 |
284 |
297 |
306 |
||
1ヶ月 |
28 |
77 |
122 |
162 |
199 |
228 |
252 |
274 |
291 |
303 |
311 |
|
2ヶ月 |
52 |
98 |
139 |
177 |
210 |
236 |
260 |
281 |
297 |
308 |
315 |
|
3ヶ月 |
73 |
115 |
154 |
188 |
218 |
244 |
267 |
287 |
302 |
312 |
319 |
|
4ヶ月 |
90 |
130 |
165 |
196 |
226 |
251 |
273 |
292 |
306 |
326 |
323 |
|
5ヶ月 |
105 |
141 |
173 |
204 |
233 |
257 |
278 |
296 |
310 |
320 |
325 |
|
6ヶ月 |
116 |
149 |
181 |
211 |
239 |
262 |
282 |
300 |
314 |
322 |
327 |
|
7ヶ月 |
124 |
157 |
188 |
217 |
244 |
266 |
286 |
301 |
316 |
324 |
329 |
|
8ヶ月 |
132 |
164 |
194 |
222 |
248 |
270 |
290 |
306 |
318 |
326 |
331 |
|
9ヶ月 |
139 |
170 |
199 |
226 |
252 |
274 |
292 |
308 |
320 |
328 |
333 |
|
10ヶ月 |
145 |
175 |
203 |
230 |
256 |
276 |
294 |
310 |
322 |
330 |
335 |
【軽傷の入通院慰謝料】
入院 |
|
1ヶ月 |
2ヶ月 |
3ヶ月 |
4ヶ月 |
5ヶ月 |
6ヶ月 |
7ヶ月 |
8ヶ月 |
9ヶ月 |
10ヶ月 |
通院 |
35 |
66 |
92 |
116 |
135 |
152 |
165 |
176 |
186 |
195 |
|
1ヶ月 |
19 |
52 |
83 |
106 |
128 |
145 |
160 |
171 |
182 |
190 |
199 |
2ヶ月 |
36 |
69 |
97 |
118 |
138 |
153 |
166 |
177 |
186 |
194 |
201 |
3ヶ月 |
53 |
83 |
109 |
128 |
146 |
159 |
172 |
181 |
190 |
196 |
202 |
4ヶ月 |
67 |
955 |
119 |
136 |
152 |
165 |
176 |
185 |
192 |
197 |
203 |
5ヶ月 |
79 |
105 |
127 |
142 |
158 |
169 |
180 |
187 |
193 |
198 |
204 |
6ヶ月 |
89 |
113 |
133 |
148 |
162 |
173 |
182 |
188 |
194 |
199 |
205 |
7ヶ月 |
97 |
119 |
139 |
152 |
166 |
175 |
183 |
189 |
195 |
200 |
206 |
8ヶ月 |
103 |
125 |
143 |
156 |
168 |
176 |
184 |
190 |
196 |
201 |
207 |
9ヶ月 |
109 |
129 |
147 |
158 |
169 |
177 |
185 |
191 |
197 |
202 |
208 |
10ヶ月 |
113 |
133 |
149 |
159 |
170 |
178 |
186 |
192 |
198 |
203 |
209 |
減額される「入通院慰謝料」とは
交通事故で発生する慰謝料には
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 死亡慰謝料
の3種類があります。
このうち「軽傷」で減額されるのは「入通院慰謝料」のみです。
入通院慰謝料とは、交通事故で被害者がけがをしたことに対する慰謝料。
事故に遭ってけがをすると被害者は恐怖を感じたり痛みや治療過程で苦痛を感じたりするので、入通院慰謝料が払われます。
ただし軽傷の場合、けがによる精神的苦痛が小さいと考えられるので慰謝料が減額されるのです。
後遺障害慰謝料は、交通事故で後遺障害が残ったときに支払われる慰謝料です。
後遺障害慰謝料は軽傷でも減額されません。
たとえばむち打ちで自覚症状しかない場合「後遺障害14級」が認定される可能性があります。
すると110万円程度の後遺障害慰謝料が支払われますが、「軽傷による減額」は適用されず110万円を満額受け取れます。
死亡慰謝料は、交通事故で被害者が死亡したときに支払われる慰謝料です。
軽傷では死亡しないので「軽傷によって死亡慰謝料が減額される」ことはあり得ません。
以上より「軽傷によって減額」されるのは慰謝料の中でも「入通院慰謝料」だけ、と覚えておきましょう。
自賠責基準や任意保険基準との比較
交通事故の賠償金計算基準として、弁護士基準以外に自賠責基準や任意保険基準もあります。
これらの基準の場合、軽傷による減額は行われません。
そうだとすると、「軽傷なら自賠責基準や任意保険基準の方が高くなるのでは?」と考える方もおられるでしょう。
しかしそういった結果にはなりません。
自賠責基準や任意保険基準はもともとの金額が弁護士基準より大幅に低いからです。
軽傷で弁護士基準により「3分の2程度に減額」されても自賠責基準や任意保険基準よりは高額になります。
被害者の正当な権利を実現し充分な慰謝料を受け取るには、むち打ちやねんざなどの軽傷であっても「弁護士基準」で計算すべきといえるでしょう。
軽傷でも継続して通院しよう!
軽傷の場合、ついつい通院をサボってしまう方がおられます。
特に仕事や家庭生活が忙しい場合、「もう病院に行かなくても良いだろう」と自己判断してしまいがちではないでしょうか?
通院を途中でやめると慰謝料が減額される
しかし通院を途中でやめると、その分入通院慰謝料が減額されます。
入通院慰謝料は「治療期間が長くなればなるほど高額になる」からです。
たとえば通院1か月なら19万円程度ですが、2か月なら36万円、3か月なら53万円になります。
痛いのを我慢して1か月で通院をやめてしまったら、本当は53万円受け取れるのに19万円しか受け取れず大きな損をしてしまうでしょう。
通院回数が少ないと慰謝料が減額される
通院回数にも注意が必要です。
治療期間が長くても通院日数が少ないと、慰謝料を減額されてしまうからです。
弁護士基準の場合、日数が少ないと「実通院日数の3.5倍」を基準に通院期間を計算します。
たとえば治療期間が3か月でもその期間に20日しか通院していなければ、治療期間は(20日×3.5=)70日間と算定されます。
つまり2か月強の入通院慰謝料しか受け取れないので、3か月満額より減額されるのです。
具体的にいうと、通院3か月の入通院慰謝料は53万円ですが、20日間しか通院せずに「70日」と算定されると慰謝料は42万円程度になってしまいます。
たとえむちうちで自覚症状しかなく通院によって劇的な症状の改善がみられないとしても、医師が「症状固定」というまでは1週間に2回以上、継続して通院しましょう。
軽傷でも弁護士に依頼する方が良いケースとは
だったら弁護士に依頼しない方が受け取れる慰謝料の額は多くなるんじゃないの?
だけど、弁護士に依頼すると弁護士費用が発生するから、半年以上入通院が続くようであれば、弁護士に依頼するのがおすすめだよ。
軽傷の場合、入通院慰謝料が少額になるので弁護士に依頼してもあまりメリットを得られない可能性があります。
弁護士に対応してもらったら「弁護士費用」が発生しますが、慰謝料が少額になると弁護士費用の方が高くなってしまうからです。
ただ軽傷でも弁護士に依頼するメリットを受けられるパターンもあるので、以下でみていきましょう。
弁護士特約を付けている場合
1つは「弁護士特約(弁護士費用特約)」を利用できるケースです。
弁護士特約とは、保険会社が弁護士費用を負担してくれる特約です。
弁護士特約を適用すると、弁護士の相談料や着手金、報酬金等の費用を保険会社が支払うので、被害者が自腹を切って払う必要がありません。
軽傷で弁護士の介入によってあまり大きく慰謝料が増額されなくても、弁護士費用の支払いが不要なので、損をする心配はなく増額分を丸ごと利益として受け取れます。
弁護士特約は、以下のような保険についています。
- 自分が加入している任意保険
- 家族が加入している任意保険
- 火災保険
- 個人賠償責任保険
- 自転車保険
- 医療保険
- 傷害保険
事故に遭ったら、まずは上記のような保険に弁護士特約がついていないか調べてみてください。
通院期間が長引いている場合
軽傷の場合でも、半年以上通院しているなら弁護士に依頼するメリットが大きくなります。
弁護士に示談交渉を依頼すると「弁護士基準」が適用されて慰謝料が増額されますが、治療期間が長くなるほど任意保険基準との差額が大きくなります。
つまり治療期間が長くなればなるほど、依頼者の手元に残る金額が高額になります。
たとえば半年通院したとき、弁護士基準によると入通院慰謝料は89万円程度です。
一方、任意保険基準では643,000円程度となり、差額は247,000円程度です。
弁護士費用は事務所によって異なりますが、10万円~15万円程度、高くても20万円程度でしょう。それであれば、差し引きしても利益がでます。
一方通院期間が5か月以下なら弁護士費用の分、足が出る可能性があります。
以上より通院期間が半年以上であれば、弁護士費用よりも大きな利益を得られる可能性が高いので、依頼するメリットがあるといえます。
過失割合に納得いかない場合
交通事故で被害者の過失割合を大きくされると、「過失相殺」が適用されて賠償金が全体的に減額されます。
そのようなとき、弁護士に依頼すると過失割合が正しい数字に修正されて賠償金が大きく増額される可能性があります。
たとえば被害者が軽傷を負い、治療費や休業損害、慰謝料など合計で150万円の損害が発生したとしましょう。
保険会社は過失割合30:70を主張しています。
しかし被害者は10:90が妥当と考えています。
保険会社の主張する過失割合を適用すると、被害者の受取額は105万円です。
一方被害者の言い分が正しければ被害者の受取額は135万円で、30万円もの差額が発生します。
弁護士に依頼して10%の過失割合が正しいことが明らかになれば、被害者は自分で交渉する場合と比べて30万円多くの賠償金を受け取れることになります。
30万円の差額がでたら弁護士費用を支払っても充分利益が残るので、弁護士に依頼するメリットがあります。
このように過失割合に争いがあると、軽傷でも弁護士に依頼するメリットが生じるケースが少なくありません。
示談交渉が上手く進まない場合
相手が無保険車で加害者本人と示談交渉しなければならない場合、お互いに知識もなく感情的になったりして示談交渉が難航するケースが多々あります。
加害者の任意保険会社との示談交渉がこじれてしまうケースもあるでしょう。
そんなとき、弁護士に依頼するとストレスなしに有利に話を進めてスムーズに賠償金を受け取れる可能性が高くなります。
示談交渉が負担となったら弁護士に相談してみてください。
まとめ
治療が長引いてしまうような時には弁護士に依頼するって事がわかったよ!
軽傷でも「自覚症状しかないむち打ち」で通院期間が長くなった場合や弁護士費用特約を適用できる場合、弁護士に対応を相談するメリットがとても大きくなります。
実際に弁護士基準を適用するとどのくらい慰謝料が増額されるのかわからない場合にも、弁護士に予想を聞いてみると良いでしょう。
まずは1度交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士に相談してみてください。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。