今回の記事では、後遺障害1級で受け取れる賠償金や、賠償金の増額方法について、詳しく解説するね。
まずは、どんな後遺症が残ると1級と認定されるのか、チェックしていこう。
交通事故の後遺障害の中でも「1級」はもっとも重度です。
1級の後遺障害が残ったら、仕事はもちろん日常生活もままならない状態となるでしょう。
今回は交通事故で後遺障害1級になるケースや慰謝料の相場、できるだけ増額する方法をご説明します。
交通事故で重度な後遺症が残ってしまった方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
後遺障害1級の種類
後遺障害1級には「介護を必要とする後遺障害」と「介護を要しない後遺障害」の2種類があります。
それぞれどういったケースで認定されるのか、みてみましょう。
介護が必要な1級の症状
介護が必要な後遺障害1級の症状を「要介護の後遺障害」といいます。
自賠責保険の後遺障害等級表では「別表第一」にまとめられています。
1号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
精神や神経に重い障害が残り、日常生活も自力では不可能となって常に介護が必要となるケースです。
四肢麻痺で意思疎通ができない場合、遷延性意識障害(植物状態)の場合、重度の高次脳機能障害などのケースで認められます。
2号 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
内臓機能に重大な障害が残り、自力では日常生活が不可能となって常に介護が必要な状態です。
介護が必要でない1級の症状
要介護でなくても、重度な後遺障害の場合には1級に認定されます。
要介護以外の後遺障害については「別表第二」という表にまとめられています。
以下で具体的な症状を確認しましょう。
1号 両目が失明したもの
両眼の視力が完全に失われると1級1号となります。
視力でいうと0.01未満の場合、ようやく明暗を感じられる程度であれば「失明」と認定されます。
視力はメガネやコンタクトで矯正した後の「矯正視力」と基準とします。
「眼球そのものを失った場合」も含みます。
2号 咀嚼及び言語の機能を廃したもの
咀嚼機能とは、ものを噛んで飲み込む機能です。
具体的にはスープなどの流動食しか摂取できない状態となったら「咀嚼機能を廃した」と認定されます。
「言語機能」とは発音する機能をいいます。
具体的には4種の子音のうち3種以上の発音が不可能となったら「言語機能を廃した」と認められます。
咀嚼機能と言語機能の両方を失った場合に1級2号が認定されます。
3号 両上肢をひじ関節以上で失ったもの
両腕について、肘と肩の間で切断してしまった場合に1級3号となります。
事故そのもので離断した場合だけではなく、手術によって腕を切り落とさざるを得なかったケースも含みます。
4号 両上肢の用を全廃したもの
両腕について、肩や肘、手首の関節が固まってしまい、肩から下の部分をまったく動かせなくなったら1級4号となります。
動かなくなった理由は「硬直」でも「麻痺」でもかまいません。
5号 両下肢をひざ関節以上で失ったもの
両脚について、膝と股関節の間で離断してしまった場合に1級5号となります。
交通事故そのものによって切断した場合だけではなく手術によって足を切り落とさざるを得なかった場合も含まれます。
6号 両下肢の用を全廃したもの
両脚について、股関節、膝関節、足首の関節が固まってしまい、動かせなくなった場合に認定されます。
要介護の後遺障害でなくても介護費用が認められる可能性がある
自賠責では「要介護の後遺障害」を「別表第一」、それ以外の後遺障害を「別表第二」にまとめています。
要介護の別表第一には第1級と第2級しかありません。
第3級以下はすべて「別表第二」に分類されます。
すると「別表第二」の後遺障害では介護費用を請求できないと受け止める人も多いでしょう。
しかし実際には「別表第二」の後遺障害であっても介護費用を請求できるケースが少なくありません。
実際に日常生活に大きな支障が出ており介護が必要な状態であれば、裁判所は介護費用を認めてくれます。
重度な後遺障害が残って介護に多額の費用が発生したら、加害者側へ介護費用を請求しましょう。
後遺障害1級の介護費用について
交通事故で後遺障害1級となり介護が必要になったら、どのくらいの賠償金が認められるのでしょうか?
介護費用を請求できる
後遺障害1級となり介護が必要な状態になると、本人は自力で日常生活を送れません。
家族が介護するか、プロの介護士に対応を依頼しなければならないでしょう。
この場合、介護費用を加害者へ請求できます。
介護費用の計算方法
介護費用は、以下の計算式によって算出します。
将来介護費用=1日あたりの介護費用×1年の日数×平均余命に対応するライプニッツ係数
1日あたりの介護費用は、近親者が付き添うのかプロの介護職に依頼するのかで変わります。
近親者が付き添う場合「日額8,000円」として計算します。
一方、職業付添人の場合には実費を基準とします。
相場としては日額1万円から3万円程度となるでしょう。
近親者が介護するか職業介護人を雇うのか
介護が必要になったとき、近親者が介護するかプロに任せるか、迷う方もたくさんおられます。
どちらが良いのか、比べてみましょう。
近親者が介護すると受け取れる介護費用は安くなりますが、現実には支払う必要がありません。
手元にお金が残ります。
ただ当初は近親者が介護する予定であっても、本人が死亡するまで一生近親者が面倒をみられるとは限りません。
途中で近親者が先に死亡してしまう可能性もありますし、結婚や出産などの諸事情で近親者が介護できなくなる可能性もあります。
職業介護人を雇う場合、介護費用は高くなります。
ただ実際に払わねばならないので手元には残りません。
金銭的にはメリットが小さくなるといえるでしょう。
一方で、近親者に負担がかかりませんし、将来にわたって安心感を得られるのはメリットとなります。
近親者が介護するかプロの介護職に任せるかは、本人の状態や家族関係、経済的な状態などに応じて個別の判断が必要です。
迷われたときには弁護士に相談してみてください。
自宅改装費用
交通事故で後遺障害1級となり自宅で介護する場合、自宅改装費用を請求できる可能性があります。
元の家のままでは介護に適さないケースが多いためです。
たとえばバリアフリーにしたりホームエレベータを設置したりするためのリフォーム費用が認められるケースがよくあります。
ただし介護と全く関係のないリフォームをしても、自宅改装費用としての請求はできません。
改装工事を行う前に、「どこまでの範囲なら認められるのか」弁護士に相談してアドバイスを受けておきましょう。
後遺障害1級で受け取れる賠償金
その他にも、逸失利益といって、将来受け取れるはずだった収入を補償してもらう事もできるよ。
慰謝料
後遺障害慰謝料
交通事故で後遺障害が残ったら、本人は大きな精神的苦痛を受けるので「後遺障害慰謝料」を請求できます。
1級は非常に重度な後遺障害なので、精神的苦痛も甚大となるでしょう。
もっとも高額な慰謝料が支払われます。
後遺障害慰謝料の計算基準には自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の3種類があり、それぞれ金額が異なります。
もっとも高額な弁護士基準の場合には2,800万円程度が相場となります。
自賠責基準の場合、要介護の後遺障害については1,600万円、それ以外の後遺障害については1,100万円が基準です。
任意保険基準は各保険会社によってまちまちなので、一律の数字は示せません。
相場としては1,300~1,600万円程度となるでしょう。
近親者の慰謝料について
交通事故の被害者に1級の後遺障害が残ると、被害者だけではなく親族も固有の慰謝料を請求できる可能性があります。
民法は、不法行為によって「死亡」した被害者の配偶者、親、子どもに固有の慰謝料請求権を認めています。
被害者に近しい親族は、被害者の死亡によって重大な精神的苦痛を受けるためです。
本人に重大な後遺障害が残った場合にも、近親者は死亡に匹敵するくらいの精神的苦痛を受けるケースが多いでしょう。
そこで被害者が遷延性意識障害、四肢麻痺などの重症となり、後遺障害1級が認定されたら配偶者や親、子どもなどの親族にも固有の慰謝料が払われるケースが多くなっています。
入通院慰謝料
後遺障害が確定するまでは入通院による治療が必要となるでしょう。
交通事故で入通院すると、治療期間に応じて「入通院慰謝料」を請求できます。
金額として、弁護士基準で計算すると200~300万円程度となるケースが多いでしょう。
任意保険基準や自賠責基準の場合には、弁護士基準の3分の2以下となるケースが多数です。
逸失利益
交通事故で後遺障害が残ると、被害者は従来と同様には働けなくなるものです。
特に1級の症状が残ったら、労働は完全に不可能となるでしょう。
「労働能力喪失率」は100%となります。
事故ではたらけなくなったら、将来得られるはずだったのに収入を得られなくなります。
そこで失われた収入を「逸失利益」として、加害者側へ請求できます。
金額は被害者の年収や年齢によって異なりますが、1級の場合、1億円を超えるケースも少なくありません。
以上のように後遺障害1級では、請求できる賠償金額が非常に大きくなります。
弁護士基準で正しく計算し、きちんと補償を受けましょう。
1級の症状ではなくても1級と認定される併合認定
後遺障害1級が認定されるのは、基本的に別表第一や別表第二の後遺障害1級の認定基準に該当する場合です。
ただし「複数の後遺障害」が残った場合、2級以下の症状しかなくても1級の認定を受けられる可能性があるので、おさえておきましょう。
後遺障害の併合認定とは
後遺障害認定のルールとして「併合認定」があります。
併合認定とは、複数の後遺障害に該当する場合、等級を繰り上げるルールです。
基本的な併合認定のルール
- 5級以上の後遺障害が2つ以上ある場合、もっとも重い等級が3つ繰り上がる
- 8級以上の後遺障害が2つ以上ある場合、もっとも重い等級が2つ繰り上がる
- 13級以上の後遺障害が2つ以上ある場合、もっとも重い等級が1つ繰り上がる
- 14級の後遺障害が2つ以上あっても繰り上がらない
5級以上の症状に2つ以上該当する場合には、もっとも重い等級が3つ繰り上がります。
たとえば5級と4級の後遺障害がある場合、4級が3等級繰り上がって1級が認定されるのです。
複数の後遺症でも併合できないケースとは
2つ以上の後遺障害が残っても、併合認定されないケースもあるので注意しましょう。
それは「同一系列の後遺障害」が2つ以上残った場合です。
たとえば足を骨折して「変形」によって12級が認定され、同時に「脚の短縮障害」で13級が認定されたとします。
この場合、どちらも脚の後遺障害であり同一系列なので、併合認定は行われません。
もっとも重い等級である12級がそのまま適用されます。
まとめ
リフォーム代まで請求できるなんて知らなかったよ!
後遺障害1級は、生涯重い後遺症に悩まされることになるから、受け取れる賠償金はしっかりと請求するようにしよう。
後遺障害1級の症状が残ったら、まずは後遺障害等級認定を受けて慰謝料や逸失利益、介護費用などをきちんと請求しましょう。
また交通事故の後遺障害認定基準は非常に複雑です。
ご本人やご家族だけで対応すると知識が不足して不利益を受けるリスクも高まります。
被害者の権利を守るため、交通事故に詳しい弁護士に相談して力を借りましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。