何度も裁判所に通わなければいけないの? 今回は、交通事故裁判の訴訟手続きの流れや、かかる期間について、詳しく見ていこう。 まずは、どんなケースで訴訟となりやすいのか、チェックしていくよ!
交通事故に遭ったら、加害者や加害者の保険会社と示談交渉をするのが一般的ですが、示談では和解ができない場合、裁判(訴訟)が必要になります。
訴訟になると、相当長い時間がかかるイメージがありますが、実際にはどのくらいの期間が必要なのでしょうか?
今回は、交通事故の裁判(訴訟)にかかる期間や訴訟の流れ、訴訟費用などについて、解説します。
目次
交通事故で、訴訟が必要になるケースとは
交通事故の訴訟とは
交通事故の訴訟とは、被害者側が加害者側に対して損害賠償金を求めて行う裁判です。
訴訟(裁判)は、当事者間に争いがあり、話合いなどの他の方法では解決ができないときに、裁判官が解決方法を決定してしまう手続きです。
交通事故では、損害賠償金の金額や計算方法について被害者と加害者に争いが発生することが多く、そんなとき、当事者同士では決められなくなるので、民事訴訟が必要となり、民事裁判が行われる事になります。
訴訟が不要なケースもある
交通事故に遭ったとしても、すべてのケースで訴訟が必要になるわけではありません。
訴訟が必要になるのは、示談が決裂したときのみです。
示談とは、被害者と加害者が、損害賠償金について話合いをすることです。
示談が不成立になったときには、判決によって裁判所に賠償金を決めてもらわないと、いつまでも平行線になって、賠償金の支払いを受けられません。
そこで、裁判官に賠償金を決めてもらうために、訴訟を利用するのです。
示談が成立すれば、話合いによって解決ができるので、訴訟を行う必要がありません。
また、示談が不成立になったとしても、他の方法で賠償問題を解決できることもあります。
たとえば、調停によって話合いが成立することもありますし、交通事故紛争処理センターなどのADRを利用することによって、解決ができることもあります。
こうした他の手段で解決できたときにも、訴訟をする必要はありません。
示談が決裂したとき、被害者の方は、とるべき手段を選択することができます。
すなわち、民事調停をしても良いですし、ADRを利用しても良く、いきなり訴訟をしてもかまいません。
状況に応じてもっとも有利な手続きを使えば良いのです。
示談が決裂したときに、相手との対立が激しく、調停やADRなどでも解決できそうにもなければ、訴訟をすると良いでしょう。
交通事故で、訴訟すべきケース
以上によると、交通事故で、訴訟が必要なケースは以下のようなものと言えます。
- 示談が決裂したとき(調停やADRでも解決が難しそうなとき)
- 調停でも解決できなかったとき
- ADRで解決できなかったとき
自分ではどのような手続きを利用すべきか判断できないときには、交通事故トラブルに注力している弁護士のアドバイスを受けると良いでしょう。
交通事故の裁判ではどんな事を争うのか
交通事故の裁判をすると、被害者と加害者の意見が対立していても解決してもらうことができるものですが、どのようなことを争うことができるのでしょうか?
たとえば、以下のようなことです。
- 各種の慰謝料の金額
- 過失割合
- 事故の状況
- 後遺障害の等級
- 逸失利益の金額
- 休業損害の金額
- 治療費の金額
- 既往症減額の可否や程度
- 車の修理費用、買換費用
- 評価損
- 代車費用
その他、賠償金の金額を決める上で必要なことであれば、どのようなことでも争うことができます。
交通事故の裁判の流れ
裁判の流れをチェックしてみよう。
交通事故の裁判をするときにはどのような流れになるのか、見てみましょう。
提訴
まずは、提訴の手続きが必要です。
提訴とは、裁判を起こすことです。
提訴の際には「訴状」を用意する必要があります。
訴状とは、相手を訴えるために必要な内容が書いてある、訴訟の申立書のことです。
法律的に要件を押さえた記載をしている必要があります。
また、証拠を揃える必要もありますし、相手が保険会社の場合には、商業登記簿謄本も必要となります。
必要書類を揃えたら、裁判所へ提出します。
被害者請求金額が140万円以下なら簡易裁判所、請求金額が140万円を超えると地方裁判所が管轄裁判所となっています。
また、提訴の際には、請求金額に応じた収入印紙を訴状に貼る必要があり、郵便切手も用意する必要があります。
相手方への訴状送達
訴状を提出すると裁判所で受け付けられて、訴状の審査が行われます。
特に不備がなければ、裁判所で担当部署と第1回期日の日程が決められて、被告(加害者や加害者の保険会社)宛てに訴状や証拠などの一式書類が郵送されます。
裁判所からの郵便は「特別送達」という特殊な郵便で届けられます。
特別送達の場合、ポスト投函ではなく、簡易書留のような形で相手に手渡されます。
相手に訴状等の書類が届けられるとき、第1回期日への呼出状や、答弁書催告状も同封されています。
答弁書催告状とは、「答弁書」を提出するように、と促す書類です。
答弁書提出
加害者や加害者の保険会社は、訴状を受けとると、第1回期日までに、「答弁書」という書類を提出しなければなりません。
答弁書とは、訴状に対する反論書のことです。
そこで、被告からは、第1回期日までに答弁書が提出されることが多いです。
被告から答弁書が提出されると、裁判所から原告(被害者)宛に送付されてきます。
第1回期日
第1回期日には、原告も被告も出頭します。
ただし、弁護士に対応を依頼している場合には、本人が出頭する必要がありません。
保険会社はほとんど確実に弁護士に対応を依頼するため、相手本人が出頭してくることはありません。
被告が加害者本人の場合、弁護士に依頼せずに本人が出頭してくることがあります。
被害者の方は、弁護士に依頼していたら出頭しなくてもかまいませんが、裁判手続きに関心があれば出席することも可能です。
第1回期日には、訴状や答弁書、証拠書類など、双方が提出した書類の内容を確認していきます。
そして、次回期日までになすべきことを定めて、次回期日の日にちを決めます。
期日自体は5分~10分程度で終わってしまうので、出頭してもあっけなく終わったと感じる方が多いです。
弁論準備手続き
第2回以降の期日では、「弁論準備手続き」という手続きに入ります。
弁論準備手続きとは、原告と被告が互いに主張と立証(証拠の提出)を行うことにより、争点を整理していく手続きのことです。
弁論準備手続きでは、法廷ではなく小さめの部屋で、テーブル席について、裁判手続きをすすめていきます。
主に、期日間に提出された原告や被告の書面内容を確認して、次回までにすべきこと(反論や書面提出)を決めることで、期日は終わります。
こうした弁論準備による争点整理の手続きは、1ヶ月に1回程度の頻度で開かれます。
弁護士に手続きを任せていたら、依頼者本人は期日に出頭する必要がありません。
尋問
争点整理の手続きが終わったら、裁判所で尋問が行われます。
目撃者などがいたら証人尋問が行われますし、そうした人がいなかったら、原告や被告などの本人への尋問が行われます。
事故状況にあまり争いがない場合には、被告の尋問は行われないこともあります。
尋問をするときには、必ず本人も裁判所に出頭する必要があります。
まずは、自分が依頼している弁護士から質問を受け、次に相手の弁護士から質問を受け、最終的に裁判所から質問を受けて、尋問は終了します。
尋問では、一問一答式のような形で質問が行われるので、聞かれたことに1つ1つ、答えていく必要があります。
自分の言いたいことを次々に言って良いというものではありません。
尋問前には、必ず弁護士と打ち合わせをして、予行演習を行い、相手の反対尋問への対応方法を相談しておくものです。
そのためにも、交通事故トラブルに注力している弁護士を探して依頼しておくことが重要です。
判決
尋問が終わったら、結審して判決が言い渡されます。
判決では、裁判所が当事者に争いのある事項についての決定を行い、賠償金額を決めて、相手に対し、支払い命令を下します。
判決が確定すれば、支払日までの遅延損害金も含めた上で支払われる事になります。
結審してから判決言い渡し期日までは、だいたい1ヶ月くらいです。
控訴
判決に不服がある場合、当事者は控訴をすることができます。
原告だけではなく被告が控訴する可能性もあるので、一審で勝訴したと思っても、必ずしもその内容で確定するとは限りません。
控訴審では、再度別の裁判官が賠償金額の算定を行います。
このとき、一審の記録がそのまま引き継がれるので、すべて始めからやり直しになるわけではありません。
控訴審で判決が出たら、当事者は上告や上告受理申立をすることができます。
ただ、上告で判断を覆すことはかなり難しいので、訴訟で争いができるのは、事実上控訴審までと考えておいた方が良いでしょう。
和解について
裁判の最中「和解」によって裁判を終わらせることも可能です。
和解とは、原告と被告が話し合いによってトラブルを解決して、裁判を終わらせることです。
和解が成立したら、その時点で裁判は終了します。
和解は、裁判のどのタイミングで行っても良いことになっています。
たとえば、話合いができそうであれば、第1回期日に和解をしてもかまいませんし、弁論準備の途中で和解することもできます。
尋問前に和解することもできますし、尋問後の判決前に和解することも可能です。
訴訟では、裁判官から和解の勧告が行われることが多く、和解案の話合いをするときには、裁判官が間に入って話合いを仲介してくれます。
和解すると、和解調書が作成されますが、和解調書には強制執行力があります。
そこで、相手が約束を守らない場合には、相手の資産や給料などを差し押さえることも可能です。
すなわち、和解にも判決と同じだけの強い効力があるということです。
このように、和解すると、裁判を早期に終わらせることができますし、強制執行力もあり、たくさんのメリットがありますので、もし裁判の途中で和解の話が出たら、一度は話合いをしてみることをお勧めします。
裁判にかかる期間
裁判が長引いてしまうような事もあるの?
少しでも早く終わらせるためには、和解がお勧めだよ。
交通事故の損害賠償請求訴訟には、どのくらいの期間がかかるのでしょうか?
ケースにもよりますが、だいたい8ヶ月~1年くらいだと考えると良いです。
ただし、和解するともっと早く終わらせることができます。
第1回期日など、早期に和解したら3ヶ月で終わることもあります。
交通事故の本人訴訟では、和解率が高いのも特徴的ですから、他の裁判よりは比較的早く終わることが多いです。
和解をせずに控訴や上告までして争った場合、1年半くらいかかってしまうこともあります。
裁判にするかどうかの判断基準
裁判を起こすのは最後の手段と考えると良いね。
示談が決裂したとき、いきなり訴訟をすることもできますが、調停やADRを選択することも可能です。
訴訟をするかどうかについては、どのような基準で決定したら良いのでしょうか?
この場合、相手とどの程度、意見が剥離しているのかで決めると良いです。
相手との対立が根本的な部分であり、決定的な場合には、調停やADRで解決することが難しくなる可能性が高いです。
また、たくさんの点で対立しているときにも、やはり他の手段で解決できる可能性は低くなります。
たとえば、後遺障害があるのかないのか、既往症の有無、事故の状況などについて争いが発生していたら、話合いで解決するのはなかなか難しいでしょう。
これに対し、お互いの意見の対立が小さい場合には、調停やADRでも解決できる可能性があります。
たとえば、慰謝料の金額や休業損害の評価方法などだけが問題になっているなら、裁判所やADR機関に間に入ってもらうことを考えても良いでしょう。
裁判によっての解決事例
弁護士に相談すれば、任意保険基準ではなく、弁護士基準や裁判所基準での慰謝料を受け取ることが出来るから、確実に慰謝料のアップは可能だね。
たとえば、むちうちのケースで、保険会社が治療費の支払いや入通院慰謝料を拒絶した場合において、訴訟によって裁判所が保険会社に対して支払い命令を出した事案があります。
また、後遺障害が認められなかった事案において、裁判をすると後遺障害が認められ、後遺障害慰謝料や逸失利益を獲得できるケースもあります。
裁判にかかる費用
損害賠償金が少ない少額訴訟の場合には、裁判を起こしても、裁判にかかる金額の方が高くついてしまう事もあるから注意しよう。 弁護士費用特約に入っていれば、弁護士費用がかからない可能性が高いから、自分が加入している任意保険をチェックしてみよう。
裁判をするときには、いろいろな費用がかかります。
以下では、何にどのくらいの費用がかかるのか、説明します。
印紙代
印紙代とは、訴訟を提起するときに裁判所に支払う手数料のことです。
郵便局で収入印紙を買って、訴状に貼り付けて提出します。
印紙代の金額は、相手に請求する金額によって異なります。
請求金額が高くなればなるほど、印紙代の金額が上がります。
たとえば、100万円の請求なら1万円、300万円の請求なら2万円、500万円の請求なら3万円、1,000万円の請求なら5万円の印紙が必要です。
郵便切手代
訴訟をするときには、郵便切手代も必要です。
郵便切手の内訳と金額は、裁判所によって異なりますが、だいたい6~7千円程度です。
弁護士費用
交通事故で訴訟を起こすときには、弁護士に依頼することが必須です。
自分でも裁判を起こすことはできますが、裁判は非常に専門的で複雑な手続きであり、法的な知識がないと、極めて不利になってしまうからです。
裁判に負けたら賠償金を払ってもらえなくなりますので、訴訟をする意味がありません。
弁護士に依頼すると弁護士費用がかかります。
訴訟を行うときの弁護士費用には、着手金と報酬金があります。
着手金とは、弁護士に訴訟を依頼した当初に発生する費用です。
金額は、事務所によって異なりますが、だいたいの相場はあります。
具体的には、以下のようになっている事務所が多いです。
- 経済的利益の金額が300万円以下の場合、8%
- 経済的利益の金額が300万円を超え3000万円以下の場合、5%+9万円
- 経済的利益の金額が3000万円を超え3億円以下の場合、3%+69万円
- 経済的利益の金額が3億円を超える場合、2%+369万円
報酬金は、事件を解決できて、賠償金を獲得できたときに発生する費用です。
これについては、次のように設定されている事務所が多いです。
- 経済的利益が300万円以下の場合、16%
- 経済的利益が300万円を超え3000万円以下 の場合、10%+18万円
- 経済的利益が3000万円を超え3億円以下の場合、6%+138万円
- 経済的利益が3億円を超える場合、4%+738万円
弁護士選びの重要性
訴訟を有利に進めるには、交通事故トラブルに注力している弁護士を選ぶ必要があります。
弁護士の取り扱い分野はさまざまなので、どのような弁護士も交通事故を得意としているわけではないからです。
交通事故が不得意な弁護士に手続きを任せても、勝訴することは難しくなります。
また、交通事故に精通していない弁護士に手続きを依頼すると、いろいろな点でもたついてしまうので、余計な時間がかかってしまうこともあります。
交通事故トラブルに注力している弁護士を探すときには、ネットの情報を活用することをお勧めします。
ネット上には、たくさんの弁護士事務所のホームページが掲載されており、それぞれの事務所の特徴が顕れているからです。
また、交通事故が得意な事務所は、交通事故の無料相談を実施していることも多いです。
そこで、交通事故で訴訟を起こすときには、まずはネット上のサイトを参照して、良さそうな弁護士を見つけて、無料相談を受けてみることをお勧めします。
まとめ
裁判の流れについても、しっかりと理解できたよ!
今回は、交通事故の裁判(訴訟)にかかる期間について、解説しました。
訴訟をすると、8ヶ月~1年くらいの期間がかかりますが、相手の保険会社と意見が合わないときには、訴訟をするしか解決方法がありません。
できるだけ有利に訴訟をすすめるには、弁護士に手続を依頼する必要があります。
示談交渉で相手の保険会社ともめてしまった場合には、まずは交通事故トラブルに注力している弁護士を探して無料相談を申し込んでみると良いでしょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。