今回の記事では、交通事故により外貌醜状や醜状痕が残ってしまった場合の慰謝料や、後遺障害認定の取得方法について、詳しく見ていこう。
交通事故に遭うと、治療を受けても傷跡が残ってしまうケースが少なくありません。
顔などの目立つ場所に大きなあざや切り傷の跡が残ったら、大きなショックを受けてしまうものです。
事故後に大きな傷跡が残った場合、後遺傷害認定を受けて高額な慰謝料を請求できる可能性があります。
今回は交通事故で傷跡が残った場合の慰謝料や賠償金について、くわしく解説しますので、事故後に醜状痕が残って辛い思いをされている方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
外貌醜状、醜状痕とは?
交通事故で受傷後、大きなあざや傷跡が残ったら「外貌醜状」や「醜状痕」として後遺障害認定される可能性があります。
外貌醜状とは
外貌醜状とは、頭部や顔面、首の露出する部分に目立つ傷跡が残った状態です。
頭部、顔面、首以外の腕や脚、腹部などの傷跡は外貌醜状になりません。
外貌醜状になるのは、露出部分に傷跡が残っている場合です。
髪の毛などで傷が隠れる場合には、外貌醜状として認められない可能性があるので注意しましょう。
外貌醜状が残った場合、傷の部位や大きさによって後遺障害の等級が認定されます。
醜状痕とは
醜状痕は、頭部や顔面、首にかかわらず、身体に残った傷跡全般の傷跡です。
腕や脚、腹部などに傷跡が残った場合、外貌醜状に該当しなくても醜状痕として後遺障害認定される可能性があります。
外貌醜状や醜状痕の後遺傷害を「醜状障害」ともいいます。
醜状障害で認定される後遺障害の等級
その他、9級16号や12級14号、14級に該当する物もあるんだ。
傷の大きさや部位によって異なる等級について、チェックしてみよう。
外貌醜状や醜状痕の後遺障害認定基準は以下のとおりです。
外貌醜状の後遺障害
- 7級12号 外貌に著しい醜状を残すもの
- 9級16号 外貌に相当程度の醜状を残すもの
- 12級14号 外貌に醜状を残すもの
著しい醜状を残すもの(7級12号の認定要件)
「外貌に著しい醜状を残すもの」として7級12号が認定されるのは、以下の条件を満たす場合です。
- 頭部、頭蓋骨に手のひら大(指の部分は含まない)以上の瘢痕が残った
- 顔面に、鶏卵大以上の瘢痕または10円硬貨大以上の組織陥没が残った
- 頸部に、手のひら大以上の瘢痕が残った
相当程度の醜状を残すもの(9級16号の認定要件)
「外貌に相当程度の醜状を残すもの」として9級16号が認定されるのは、以下の条件を満たす場合です。
- 顔面部に5センチメートル以上の線状痕が残った
醜状を残すものとは(12級14号の認定要件)
「外貌に醜状を残すもの」として12級14号が認定されるのは、以下のようなケースです。
- 頭部に鶏卵大面以上の瘢痕が残った、または頭蓋骨に鶏卵大面以上の欠損が残った
- 顔面に10円硬貨大以上の瘢痕が残った、または3センチメートル以上の線状痕が残った
- 頸部に、鶏卵大面以上の瘢痕が残った
傷跡の大きさをはかるときには1ミリ単位で計測し、少しでも足りていなければ後遺障害認定はされません。
その他の醜状痕の後遺障害
外貌以外の醜状痕の後遺障害としては、以下のような等級があります。
- 12級相当 上肢または下肢の露出面に、2分の1程度以上の醜状が残った
- 14級4号 上肢の露出面に、手のひら大の醜状が残った
- 14級5号 下肢の露出面に、手のひら大の醜状が残った
露出面以外の醜状痕
- 12級相当
両上腕または両大腿のほとんど全域に醜状が残った
胸部または腹部の全域に醜状が残った
背部及ぶ臀部の面積の2分の1程度を超える醜状が残った - 14級相当
上腕または大腿のほとんど全域に醜状が残った
胸部または腹部の2分の1程度に醜状が残った
背部と臀部の面積の4分の1程度を超える醜状が残った
男女による区別はない
外貌醜状や醜状痕の後遺障害について、男女の区別はありません。
かつては女性の外貌醜状の等級の方が高かった時代もありましたが、差別的で合理的な理由がないとして今は撤廃されています。
上記の認定基準は男女共通で適用されるので、押さえておきましょう。
外貌醜状、醜状痕で後遺障害認定を受ける方法
それぞれのメリット、デメリットをチェックしてみよう。
交通事故で傷跡が残り外貌醜状や醜状痕の後遺障害認定を受ける手順は以下の通りです。
後遺障害認定を受けるまでの流れ
症状固定まで通院する
交通事故で後遺障害認定を受けたい場合、まずは「症状固定」するまで通院しなければなりません。
症状固定とは、「これ以上治療を続けても症状が改善しなくなった状態」です。
そのときに症状が残っていると「後遺障害」として認定される可能性があります。
症状固定時期は医師が判断するので、それまでは通院治療を継続しましょう。
後遺障害診断書を書いてもらう
症状固定したら、医師に「後遺障害診断書」を作成してもらわねばなりません。
後遺障害診断書は、自賠責が後遺障害の有無や内容を判断するときに非常に重視する資料です。
間違いのないように慎重に作成してもらいましょう。
できれば交通事故の後遺障害に詳しい医師に担当してもらうことが望ましいのですが、難しければ自分や弁護士から作成の際の注意点などを伝えましょう。
事前認定か被害者請求を選択する
後遺障害等級認定請求の方法には「事前認定」と「被害者請求」の2種類があります。
事前認定は、加害者の保険会社に後遺障害認定の手続きを任せる方法で、被害者請求は、被害者が自分の手で後遺障害認定の手続きを進める方法です。
手間をかけたくなければ事前認定が便利ですが、自分で有利になる資料を積極的に提出するのが難しいなどのデメリットもあります。
被害者請求の場合、自分で主体的に手続きを進められるので安心感がありますが、手間がかかるデメリットがあります。
状況に応じて、どちらか適切な方を選択しましょう。
事前認定の場合
事前認定を利用する場合には、後遺障害診断書を相手の任意保険担当者へ送付するだけで手続きが完了します。
後は待っているだけで結果がでて、任意保険の担当者から報告を受けられます。
手続きにかかる期間はケースによっても異なりますが、2~3ヶ月程度となるでしょう。
被害者請求の場合
被害者請求を行うときには、後遺障害診断書以外にもいろいろな資料が必要です。
病院から診療報酬明細書や診断書を取り寄せたり、自分で事故発生状況報告書や保険金請求書を作成したりしなければなりません。
すべての資料が揃ったら、自賠責へ直接郵送しましょう。
すると、調査事務所で調査が行われ、結果が通知されます。
書類に不備や不足がある場合には、追加で提出を促される可能性もあります。
また外貌醜状の場合、調査事務所で直接面談しなければなりません。
傷跡の大きさを測られて、認定基準を満たしているかどうかを調べられます。
大きさが足りていなければ、後遺障害認定されません。
手続きにかかる期間は2~3ヶ月となるケースが多いでしょう。
後遺障害認定の取得を弁護士に依頼するメリット
外貌醜状で後遺障害認定請求するときには、弁護士に依頼するといろいろなメリットを得られます。
被害者請求の手間を省ける
被害者請求には、非常に手間がかかるため、自分で行うのはハードルが高いと感じる方も多いでしょう。
弁護士に依頼すれば全面的に手続きを任せられるので、労力がかかりません。
調査事務所での面談時にアドバイスを受けられる
外貌醜状で被害者請求を利用すると、調査事務所で面談を受けなければなりません。
何をされるのか、どういったことを聞かれるのか、どんな流れになるのかなど心配になる方が多いでしょう。
弁護士に依頼すれば面談前にアドバイスをもらえますし、希望すれば同行してもらうことも可能です。
より高い等級の認定を受けやすくなる
後遺障害認定は専門的な手続きなので、知識やノウハウがあると有利になりやすいものです。
自分1人で対応するよりも、たくさんの事案で等級を獲得してきた弁護士に依頼すると高い等級を獲得しやすくなるでしょう。
外貌醜状、醜状障害でも逸失利益を受け取れる?
だけど、その分慰謝料を増額してもらえることが多くなっているよ。
通常、交通事故で後遺障害が残ったら逸失利益を支払ってもらえるものです。
逸失利益とは、後遺障害が残って労働能力が低下したために、将来にわたって得られなくなった減収分の損害です。
ただ外貌醜状などの醜状障害の場合、傷跡は残っていても労働能力は低下しないケースが多いでしょう。
保険会社からは「労働能力の低下がみられない」「減収が発生していない」などといわれて逸失利益の支払いを拒絶される可能性があります。
示談できなければ裁判が必要となりますが、裁判でも逸失利益の有無や金額が争点となりやすいので、注意が必要です。
醜状障害で逸失利益を受け取れる場合
醜状障害だからといって、必ず逸失利益を否定されるとは限りません。
以下のような場合、逸失利益が認められる可能性もあります。
容ぼうが重要となる職業
たとえば俳優、モデルなどの容ぼうが商売道具の方の場合、醜状が残ってしまったらそれだけで仕事がなくなってしまうでしょう。
営業や接客業などの方でも、見た目の印象が重要です。
こういった「容ぼうが重要な意味を持つ職業」の方は、外貌醜状であっても逸失利益が認められる可能性があります。
逸失利益が否定されても慰謝料が増額されるケースが多い
特に容ぼうと無関係な職業の方で現実に減収も発生していなければ、裁判をしても逸失利益は否定される可能性が高くなります。
ただしその場合「後遺障害慰謝料」が増額されるケースが多いので知っておいてください。
確かに逸失利益は発生しなくても、外貌に目立つ傷跡が残ったことによって被害者は特に大きな精神的苦痛を受けると考えられるからです。
逸失利益が支払われない分、慰謝料で調整してもらえると理解しましょう。
慰謝料の増額は弁護士に依頼する
被害者が自分で保険会社相手に慰謝料の増額を求めても、応じてもらえない可能性が高くなります。
交渉は弁護士に依頼する方がスムーズに進むでしょう。
また、そもそも交通事故の慰謝料は、素人の場合と弁護士の場合とで計算基準が異なります。
弁護士に示談交渉を依頼するだけで慰謝料額が大きくアップする可能性が高くなるので、事故後に傷跡が消えない見込みが高いなら、早めに弁護士に相談するようお勧めします。
まとめ
交通事故で大きな傷跡が残ったら、醜状障害として後遺障害認定を受けられる可能性があります。
早めに弁護士に相談して適切な等級の後遺障害認定を受け、できるだけ高額な賠償金を払ってもらいましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。