慰謝料ってもらえるのかな?
今回の記事では、ペットが交通事故に遭ってしまった場合に受け取れる慰謝料について、詳しく見ていこう。
交通事故が発生すると、ペットがケガをしたり死亡したりするケースも少なくありません。
家族同然として大切にしていた犬や猫がケガをしたら大きなショックを受けてしまいます。
飼い主は加害者へ慰謝料を請求できるのでしょうか?
実はペットは人間とは異なるので、ケガをしても「慰謝料」を請求できないケースが多数です。
ただし状況によっては慰謝料や治療費を請求できる可能性があるので、正しい知識を持っておきましょう。
今回は交通事故でペットが死傷した場合の慰謝料について解説します。
事故で大切なペットを傷つけられた方はぜひ参考にしてみてください。
目次
法律上、ペットは「物」と同じ
飼い主にとって、ペットは大切な家族の一員です。
子どものように思っている方も多いでしょう。
しかし法律上、ペットと人間の間には歴然とした差があります。
多くの方がショックを受けるのですが、法律上ペットは「物」です。
ステレオやスマホなどの命のない「物」、「財産」として扱われます。
ペットが事故に遭ったとしても「財産権」を侵害されただけなので「物損事故」扱いとなり、基本的に慰謝料は発生しません。
ペットの治療費はどこまで請求できる?
ペットの治療費は請求できる
交通事故でペットが怪我をした場合、飼い主が何も請求できないわけではありません。
ケガをしたら「治療費」がかかるからです。
治療費は交通事故がなかったら不要な費用ですから、交通事故と因果関係のある損害と言え「必要かつ相当な範囲内」で加害者側へ請求できます。
ただしかかった治療費が全額認められるとは限りません。
「必要かつ相当な金額」になるためです。
多くの場合には一部に制限されてしまうので注意しましょう。
動物の時価相当額に制限される?
ではペットの治療費はいくらまで払ってもらえるのでしょうか?
この点について「ペットの時価相当額に制限されるのか」が問題となります。
一般的な物損事故の場合、たとえば車の修理費用は「車の時価相当額」が限度とされます。
時価相当額以上の修理費用を出すと、被害者が事故によって得をしてしまうと考えられるからです。
ペットも物扱いになるなら、車と同様治療費を「時価相当額」に制限すべきと考えられるでしょう。
しかし実際にはペットには「命」があり、純粋な「物」ではありません。
そこで裁判所はペットについて「必ずしも時価相当額に限定せず、治療や生命維持に必要不可欠な治療費は損害賠償に含めるべき」と判断しています(名古屋高裁平成20年4月25日)。
この事案では、かかった治療関係費76万円のうち13万6500円の範囲内で賠償が認められました。
このように、交通事故でペットが傷ついた場合、慰謝料は払ってもらえなくても治療費は一定額請求できる可能性が高いといえます。
治療費を支出したら相手にしっかり請求しましょう。
ペットの交通事故で慰謝料を請求できるケース
ペットが交通事故に遭ったとしても、基本的には慰謝料は発生しません。
ただし一定のケースでは慰謝料請求できる可能性があります。
以下で慰謝料が発生する条件や金額をみていきましょう。
ペットが死亡したとき
大切にしていたペットが死亡すると、飼い主は多大な精神的苦痛を受けるでしょう。
単に物が壊れた以上の精神的ストレスがかかるため、慰謝料が認められる可能性があります。
ペットに重大な後遺障害が残ったとき
ペットが交通事故に遭うと、足をけがして歩けなくなったり排泄機能が失われたりして後遺障害を残すケースも少なくありません。
このようにペットに重大な後遺障害が残った場合にも飼い主は多大な精神的苦痛を受けるので、慰謝料が認められる可能性があります。
慰謝料の金額
ペットが死亡したり後遺障害が残ったりした場合の慰謝料の金額は、2万円~70万円程度です。
ペットは法律上「物」扱いであって人間ではないので、残念ながら高額な慰謝料は認められにくくなっています。
実際の慰謝料額は、ペットを飼っていた年数、ペットの年齢や購入金額、事故の悲惨さ、被害者とペットとの関係性、加害者の対応、後遺障害の内容などが考慮された上で決まります。
以下のような場合、慰謝料額が上がりやすいといえるでしょう。
- ペットを飼っていた年数が長く愛着が高い
- ペットが死亡した事故の内容が特に悲惨で飼い主が大きな衝撃を受けた
- 飼い主に子どもがなく、ペットを子どものように大切にかわいがっていた
- ペットが死亡して飼い主がうつ病になった
- ペットに重大な後遺障害が残った
- ドッグショーなどに出演させる動物、盲導犬が死亡したケースなど、一般的なペットとは異なる場合
具体的な金額は個別のケースによって異なりますし、保険会社との示談交渉によって決定されます。
納得できない場合には、弁護士に相談してみましょう。
人の慰謝料との違い
交通事故でペットが死傷した場合の慰謝料には、人間が死傷した場合の慰謝料と根本的に異なる点があります。
人がケガをしたり後遺障害が残ったりした場合の慰謝料は、基本的に「本人の精神的苦痛」に対する慰謝料です。
ケガをしたり後遺障害が残ったり死亡したりすると、本人は大きな精神的苦痛を受けるので、その賠償金としての慰謝料を相手に請求できます。
一方で、ペットが死傷した場合の慰謝料は「飼い主の精神的苦痛」に対する慰謝料です。
ペット自身の精神的苦痛に対するものではありません。
このような違いにより、人が死傷した場合とペットが死傷した場合の慰謝料額には大きな差が生じるのです。
過失相殺に要注意
ペットの交通事故であっても、被害者側に責任が生じる場合には、過失相殺されて、賠償金を減額されてしまうから注意しよう。
交通事故でペットが死傷して治療費や慰謝料を請求するとき「過失相殺」に注意してください。
過失相殺とは、被害者に過失があったときに賠償金を減額するルールです。
交通事故が発生したとき、被害者側にも責任があれば、その分相手に請求できる賠償金を減額されてしまいます。
たとえば車同士の事故や歩行者が被害者となる人身事故であれば、示談交渉の際に「過失割合」を決定します。
通常は、その割合にもとづいて過失相殺されるでしょう。
被害者が歩行者の場合でペットのみが傷ついた物損事故の場合にも、「被害者側の過失」が評価される可能性があります。
たとえば被害者が犬にリードを付けておらず犬が暴走して交通事故に遭ったら、被害者側の過失が認められて治療費や慰謝料が減額されるでしょう。
過失割合が加算されやすいパターン
- 被害者がペットを放し飼いにしており、ペットが勝手に外で事故に遭った
- 被害者が犬の散歩中、リードを離して犬が暴走した
- 車に犬を乗せているとき、犬用シートベルトなどで犬の体を固定していなかった
ペットが事故に遭った場合の過去の判例
慰謝料だけではなく、治療費も必要になった場合には、賠償金がその分高額になるよ。
以下ではペットが交通事故に遭って慰謝料が認められたケースや裁判例をご紹介していきます。
ケース1 散歩中の犬と接触した事故
飼い主が犬の散歩中に車と接触し、犬が死亡した交通事故。
犬が死亡したことによる慰謝料が認められましたが、飼い主の過失が7割とされたため慰謝料額は2万円となりました。
ケース2 長年飼っていた犬が事故で死亡した事故
酒気帯び、居眠り運転していたドライバーが歩行者と歩行者の連れていた犬に衝突し、歩行者と犬が死亡したケースです。
歩行者の夫が大きな精神的苦痛を受けたとして、犬の死亡について5万円の慰謝料が認められました。
ケース3 セラピー犬が交通事故で死亡したケース
血統書付きのセラピー犬であるパピヨン(生後1年6ヶ月)が交通事故で死亡したケースです。
火葬費用や治療費として25万円、慰謝料として10万円が認められました。
パピヨンの市場価格が高額であること、平均寿命が16年を超えることなどが評価されて慰謝料が高めになっています。
ケース4 ラブラドールレトリーバーに後遺症が残ったケース
交通事故でラブラドールレトリーバー犬に後遺症が残ったケースです。
第二腰椎圧迫骨折で後肢麻痺の後遺症が残ったことにより飼い主が多大な精神的苦痛を受けたとして、慰謝料が認められました。
慰謝料額は40万円と高額になっています。
ケース6 同乗していたペットが重傷を負ったケース
飼い主の運転する車に犬を乗せているときに加害者に衝突され、犬が重傷を負ったケースです。
飼い主には子どもがなく、犬を子どものようにかわいがっていた事情などを評価して、裁判所は飼い主1人について慰謝料20万円ずつを認めました。
このケースでは治療関係費も高額になっているので要注目といえます。
治療費だけではなく入院雑費や介護用具代も含め136,500円が認定されました。
ペットの購入代金である65,000円を大きく上回る金額です。
最近ではペットを家族の一員として大切にする人が増えており、従来の「動物は物」とする考え方が必ずしも適合しなくなってきています。
そういった風潮に合わせて裁判所もペットの慰謝料や時価相当額以上の治療費を認めるケースが増加している傾向があるといえるでしょう。
ペットがケガをしたり死亡したりしたとき、保険会社から低額な賠償金の提示を受けたり慰謝料を拒否されたりしても、あきらめずに弁護士に相談してみてください。
交通事故でペットがケガをしたとき弁護士に相談するメリット
交通事故でペットがケガをしたとき、どこまでの治療費や慰謝料が認められるかはケースバイケースです。
素人が適切に判断するのは難しいでしょう。
また被害者本人が保険会社へ請求しても、慰謝料は拒否される可能性が高いと考えられます。
弁護士に相談すれば、慰謝料を請求できるのか、どのくらいの金額が妥当といえるのかアドバイスを受けられます。
示談交渉を任せれば、保険会社が治療費や慰謝料の支払いに応じる可能性も高くなるでしょう。
過失割合が適正な数値となり、賠償金額が大幅に増額する可能性もあります。
ペットと同時に人が死傷したケースでは、弁護士基準で慰謝料を算定することによって大幅に示談金が上がることを期待できます。
物損事故でも弁護士費用特約を利用できます。
弁護士費用特約を適用すれば、無料で相談や示談交渉の依頼ができるので、ぜひ活用してみてください。
交通事故に遭ったら、まずは弁護士に相談してみましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。