むちうちの場合には、どんな治療が行われる事になるの?
今回の記事では、むちうちの症状や、もらえる治療費などについて、詳しく見ていこう。
まずは、むちうちとはどんな症状を呼ぶのか、チェックしていくよ!
交通事故に遭うと「むちうち」の症状を発症することが非常に多いです。
しかも、むちうちになると、治療方法の過程においても保険会社と争いが発生することが多々みられる上、後遺障害等級認定の場面でもトラブルになることが非常に多いので、注意が必要です。
むちうちになったとき、後にきちんと後遺障害認定を受けて適切な賠償金の請求をするためには、治療を受ける段階から、適切に対応しておく必要があります。
今回は、むちうちの治療方法と治療費の問題について、解説します。
目次
むちうちとは
交通事故に遭った人は「むちうち」になりやすいイメージはあると思いますが、むちうちとはどのような傷病なのか、正確に理解されていないことが多いです。
むちうちとは、首の骨である「頸椎」に強い衝撃を受けて、不自然なかたちに「しなる」ことによって、頸椎が損傷してしまうことです。
「むちうち」という傷病名があるわけではなく、これは、軽度の神経障害の総称です。
神経症状というのは、中枢神経や末梢神経などの神経が損傷を受けることによって発生する各種の症状のことです。
人間には、脳や脊髄などの中枢神経と、そこから派生する末梢神経があります。
むちうちになると、たいてい末梢神経が傷んでしまうので、神経症状が出てしまうのです。
むちうちの正式な診断名は「頸椎捻挫」「頸部捻挫」「外傷性頸部症候群」などとなります。
むちうちになりやすい交通事故は、追突事故です。
後ろから突然追突されると、頸椎が一瞬S字型に大きくしなり、強い衝撃を受けます。
このことで、神経が損傷を受けて各種の神経症状が顕れます。
むちうちの症状
その他にもむちうちになると出やすい症状を見てみよう。
実際にむちうちになると、以下のような症状が慢性的に継続します。
- 首や肩、腕の痛み
- 背中の痛み
- 頭痛、頭重感
- 吐き気、めまい
- 手足のしびれ
- 倦怠感
- 筋肉痛
むちうちの治療方法
整体を利用した場合には、治療費の請求ができないから注意しよう。
基本的な治療方法
むちうちになったとき、急性の痛みなどがあれば注射をすることもありますが、基本的には時間の経過による症状の緩解を待つこととなります。
その間、電気治療やマッサージなどを受けて、痛みやしびれを緩和するリハビリ治療を継続することが多いです。
受診する科は整形外科ですが、症状が落ち着いてくると、整骨院に通院される方もたくさんおられます。
むちうちの治療費の範囲
むちうちの治療を受けるとき、どこまでが治療費として支払われるのかが問題です。
まず、整形外科で受けた診察や投薬、検査費用などが含まれることには問題はありません。
また、リハビリ治療についても、必要かつ相当である限り、治療費に含まれます。
整骨院への通院費用についても、治療費に含めて相手に支払いを求めることができます。
ただし、整骨院への通院分については、加害者側の保険会社が全額の支払いを認めず、争いになることが非常に多いです。
また、被害者の自己判断で、その他の漢方医療や温泉治療などを受けた場合には、相手に治療費を請求することは難しくなります。
ただし、医師の判断によって、それらの治療が有効であると認められている場合には、こうした治療による費用も治療費に含められるケースもあります。
整体院やカイロプラクティックにおけるマッサージについては、治療とは認められないので、これらの費用を相手に請求することはできません。
完治までにかかる期間
むちうちになった場合、完治するまでにはどのくらいかかるのでしょうか?
ケースにもよりますが、早ければ3ヶ月程度で症状が消えて、完治します。
ただ、半年以上かかることもかなりよくありますし、ときには1年経っても完治しないこともあります。
完治せずに、痛みやしびれ等の不快な症状が残ってしまうケースもあります。
自覚症状と他覚症状について
それでも治療を続けることができるの?
むちうちの場合、明確な「他覚所見」が見られないにもかかわらず、治療期間が長引きやすいという特徴があります。
他覚所見に乏しいことにより、むちうちの治療には、いろいろな問題が発生するので、まずは、自覚症状と他覚所見について、理解しておきましょう。
自覚症状と他覚所見
むちうちに限らず、各種の傷病の症状には、「自覚症状」と「他覚所見」があります。
自覚症状とは、患者が自分で感じられる症状のことです。
たとえば、痛みやしびれ、感覚異常や違和感、だるさなどが自覚症状の主なものです。
これらは、患者が訴えるからわかるものであり、医師などの他人が証明できるものではありません。
これに対し、他覚所見とは、医師などの第三者が証明できる症状です。
他覚所見は、患者が訴えるものとは異なり、誰が見ても明らかな症状です。
たとえば、レントゲン画像などに骨の変形や損傷が写っていたら、それは他覚所見と言えます。
骨が変形していたら、患者が「骨が変形しているんです」と言わなくても、画像を見たら誰でも感知することができます。
交通事故で重視されるのは、他覚所見
交通事故の治療や後遺障害認定では、自覚症状よりも圧倒的に他覚所見の方が、重視されます。
自覚症状は、患者の主張方法によって、激しく主張する人もいればそうでない人もいるので、まったく当てにならないからです。
ときには虚偽を述べて、より重い症状があるとアピールしてくる人もいるかも知れません。
他覚所見なら、どのような患者が対象であっても、平等に症状を感得することができます。
むちうちには、他覚所見がないことが多い
そして、むちうちなどの軽度の神経障害の場合、痛みやしびれなどの自覚症状を強く感じていても、他覚所見が見られないことが非常に多いです。
つまり、むちうちで各種の不快な症状を感じていても、レントゲンやMRIなどの画像には何も異常が写らないということです。
むちうちになっても骨折していないことがほとんどですから、レントゲン撮影をしても異常が写ることはほぼありません。
かといって、筋肉などの組織にも、目で見てわかる異常が発生することが少ないので、MRI撮影をしても、何も写らないことが多いのです。
このように、他覚所見がないにもかかわらず、半年以上などの長期の治療期間が発生すると、保険会社は「そのような長期の治療は不要なのではないか」と考えます。
このことにより、次に説明する「治療費の打ち切り問題」が発生してしまうのです。
治療費打ち切りとは
相手の保険会社の担当者に打ち切りと言われてしまって、納得してしまう場合にも、その後の治療費の受け取りができなくなってしまうから注意しよう!
交通事故被害者が通院をするときには、保険会社側が治療費を支払ってくれることが多いです。
そこで、被害者は、病院の窓口で治療費の支払いをする必要はありません。
ところが、通院期間が長引いてくると、保険会社はその治療費の支払いを打ち切ってしまうことが多いです。
このことは、むちうちだけではなく、打撲や骨折などの他の傷病であっても同じです。
ただ、むちうちの場合、先にも説明したように、他覚症状が乏しいために、保険会社にしてみると、他の症状のケース以上に通院の必要性を感じられないのです。
さらに、むちうちの場合、治療方法にも問題があります。
むちうちでは、劇的に作用する治療方法がなく、基本的には時間の経過による自然な症状の緩解を待つことになります。
こういった治療の経過を見ていると、保険会社にしてみたら「積極的な治療を行っていないから、もう治療の必要はない」と言いたくなってくるのです。
そこで、むちうちで治療期間が3ヶ月、半年になってくると、保険会社は被害者に対し「そろそろ治療を終了してはどうか」「そろそろ症状固定です」と言ってくることが多いです。
症状固定とは
保険会社は「そろそろ症状固定したから、治療を終了しましょう」などと言いますが、症状固定とはどのようなことなのでしょうか?
症状固定は、それ以上治療を続けても、症状が改善しなくなった状態のことです。
むちうちの場合でも、ある程度治療を続けても症状が改善しなくなったら、症状固定したと言えます。
そして、症状が完治せずに症状固定したら、何らかの症状が残ってしまったということですから、後遺症が残ったということです。
そして、症状固定後は、治療費が支払われません。
症状固定したということは、それ以上治療を続けても改善しないということですから、それ以上の治療は無意味ということになるからです。
保険会社が「症状固定です」と言ったときに、被害者が「そうですね」と同意すると、その時点で治療は打ち切りになり、それ以降の治療費は支払われなくなってしまいます。
症状固定は、誰が判断するのか
それでは、保険会社が「症状固定です」などと言ってきたとき、本当に症状固定していて、治療を辞めるべきなのでしょうか?
実際には、そうすべきではないことが多いです。
そもそも、誰が症状固定を判断するのかという問題があります。
症状固定は、医学的な判断ですから、担当している医師が判断すべき事項です。
しかし、相手の保険会社は、「治療期間が一定以上になっているから、症状固定しているはず」という決めつけによって「症状固定」と言っているだけであり、医学的な判断はしていません。
そこで、相手の保険会社が症状固定したと言っていても、鵜呑みにすべきではないのです。
本当に症状固定したかどうかについては、病院の担当医師に確認する必要があります。
症状固定前に治療を辞めると、どのような不利益があるのか
途中で治療をやめてしまうと、後遺障害認定を受けることが出来なくなってしまったり、慰謝料請求が減額となってしまうから注意しよう。
保険会社から治療費を打ち切られたときに治療を辞めてしまったら、さまざまな不利益が及びます。
まず、必要な治療を受けられず、治療が中途半端になります。
また、入通院慰謝料が減額されてしまいます。
入通院慰謝料とは、交通事故によって治療が必要になったことによる精神的苦痛に対する慰謝料です。
入通院慰謝料は、入通院期間に応じて発生するので、入通院を途中で辞めると、その分少なくなってしまうのです。
さらに、きちんと症状固定するまで通院しないと、後遺障害認定も受けにくくなってしまいます。
自賠責保険で後遺障害が認定されるには、最低限6ヶ月の治療が必要ですし、症状固定した時点で残っている症状について後遺障害が認定されるので、症状固定前に通院を辞めると、後遺障害の判定も難しくなってしまうからです。
治療費打ち切りと言われてしまった場合の対処方法
後からかかった費用を全て請求することが可能だよ!
相手の保険会社から治療費を打ち切られてしまったら、治療費を自分で支払ってでも通院を継続すべきです。
このとき、自由診療で10割負担とすると、非常に高額な治療費の負担が発生するので、通院治療が厳しくなってしまうでしょう。
そこで、健康保険を使って治療を継続することをお勧めします。
保険者であると保険診療が適用されるので、治療費そのものが安くなりますし、3割負担で済むので、窓口での負担も非常に小さくなるからです。
また、交通事故が業務災害であった場合には労災保険を使って通院しましょう。
労災保険を利用すると、被害者の自己負担額が0円となるので、非常に楽に通院を継続することができます。
むちうちでもらう事ができる慰謝料
交通事故でむちうちになった場合、どのような慰謝料がもらえるのでしょうか?
この場合、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料を受け取れる可能性があります。
入通院慰謝料
入通院慰謝料とは、交通事故が原因でケガをしたことに対する慰謝料です。
入通院の期間に応じて金額が決まります。
慰謝料相場としては、たとえば3ヶ月通院した場合に、他覚所見がなければ53万円、画像などで異常を確認することができれば73万円となります。
半年通院すると、他覚所見がない場合に89万円、他覚所見がある場合に116万円となります。
1年通院すると、他覚所見がない場合に113万円、他覚所見があると145万円の入通院慰謝料を受け取ることができます。
このように、通院期間が長くなると慰謝料が上がるので、むちうちの通院は、きっちり最後まで(完治または症状固定まで)受け続けることが大切です。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料です。
後遺障害慰謝料の金額は、認定された後遺障害等級によって、異なります。
むちうちで認定される後遺障害の等級は、12級か14級です。
画像などで症状を証明できるケースでは12級、他覚所見がない場合(自覚症状のみ)には、14級となります。
12級の場合の後遺障害慰謝料は290万円、14級の場合の後遺障害慰謝料は110万円です。
以上のように、むちうちで後遺障害が認められると、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の両方を受けとることができます。
これに足して、治療費や休業損害、付添看護費用、逸失利益などの諸費用も請求することができるので、むちうちのケースでも、1000万円近くやそれを超える損害賠償金を請求できることは普通にあります。
むちうちで高額な賠償金を請求する方法
むちうちになったとき、なるべく高額な賠償金を請求するためには、以下のような点がポイントとなります。
後遺障害認定を受ける
まずは、「後遺障害認定」を受けることが重要です。
後遺障害認定を受けると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求することができるので、一気に賠償金の金額がアップするからです。
むちうちで適切に後遺障害認定を受けるには、治療機関の選択や、治療を受ける方法に注意が必要です。
まずは、交通事故患者に理解があり、交通事故の後遺障害診断書を書いた経験のある医師のいる病院にかかることが大切です。
そして、なるべく精度の高いMRI検査機器による画像診断を受け、できるだけ他覚症状を明らかにすべきです。
その他にも、神経学的検査を受けたり、自覚症状をわかりやすく一貫して訴えたりすることによっても、後遺障害認定につなげることができます。
また、治療を受ける頻度も重要です。
できるだけ週に4回以上は通院を継続するようにしましょう。
そして、整骨院にかかるときには、必ず事前に医師による同意をとっておくべきです。
弁護士に示談交渉を依頼する
後遺障害認定の手続きや示談交渉を弁護士に依頼することも非常に重要です。
後遺障害を確実に認定されるには、等級認定手続きについての知識やノウハウも必要ですし、最低限の医学的知識も必要です。
被害者が自分で対処すると、どうしても対応が不完全となり、適切に認定を受けられないリスクが高くなるのです。
また、弁護士に示談交渉を依頼すると、高額な「弁護士基準」によって賠償金を計算することができます。
上記でご紹介した入通院慰謝料や後遺障害慰謝料の金額は、すべて弁護士基準で計算した結果です。
もし、被害者の方が自分で示談交渉をすると、低額な「任意保険基準」を当てはめられてしまうので、上記の金額よりも、相当賠償金の金額を下げられてしまいます。
以上のように、むちうちになったときには、後遺障害認定や示談交渉を弁護士に依頼することが非常に重要です。
このことで、確実に後遺障害認定を受けて、高額な弁護士基準で慰謝料の計算をすることができるようになり、適正な金額の賠償金を獲得することができるのです。
まとめ
だからこそ、弁護士に依頼して、正当な賠償金を受け取るようにしよう。
弁護士に交通事故事件への対応を依頼する場合、交通事故トラブルに注力している弁護士を探して依頼することが重要です。
弁護士にもさまざまな得意分野があるので、交通事故が得意な弁護士でないと、適切に後遺障害認定を受けることが難しくなることなどもあるからです。
交通事故に力を入れている弁護士は、交通事故の無料相談を実施していることなども多いので、ホームページなどを検索して、一度、信頼できそうな弁護士を探してみることをおすすめします。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。