くも膜下出血の場合、慰謝料はどの位請求できるの?
今回の記事では、交通事故によりくも膜下出血と診断された場合の慰謝料について、詳しく見ていこう。
交通事故で頭を強く打ちつけると「くも膜下出血」を起こしてしまう可能性があります。
事故などの外傷によって生じるくも膜下出血を「外傷性くも膜下出血」といいます。
今回はくも膜下出血になってしまった場合に請求できる慰謝料の相場や認定される後遺障害等級について、専門家が解説します。
目次
交通事故で起こるくも膜下出血とは
くも膜下出血になると、頭痛や吐き気、めまいや意識障害を引き起こす事になるんだよ。
くも膜下出血とは、頭蓋骨の内部にある「くも膜下」と呼ばれる部分で血管が破れてしまい、出血が広がることです。
頭蓋骨の下では、脳を守るために脳の周りが「髄膜」という膜で覆われています。
髄膜は外側から「硬膜」「くも膜」「軟膜」の3層になっています。
何らかの原因によって、くも膜の内側で出血が生じることを「くも膜下出血」といいます。
出血が広がると、髄膜が刺激されたり脳が圧迫されたりしてさまざまな症状を引き起こします。
くも膜下出血の種類と検査方法
くも膜下出血には動脈瘤破裂などの内部的な要因によるものと、交通事故などの外傷によるものがあります。
原因によって治療方法も異なるので、まずは発症原因を特定しなければなりません。
交通事故で頭部を受傷したら、まずはCT撮影をして、くも膜下出血が起こっていないか、どの程度出血しているか、他の傷病を合併していないかなど確認すべきです。
また脳のMRI検査を行い、脳挫傷や動脈瘤の有無、破裂の痕跡などがないか確認する必要もあります。
造影剤を投与してさらに詳細に調べるケースもあります。
このように詳細に検査を行うと「交通事故による外傷性のくも膜下出血」かどうかが明らかになります。
くも膜下出血の症状
くも膜下出血の症状は、軽いものから重いものまでさまざまです。
主な症状をみてみましょう。
- 頭痛
- めまい
- 吐き気、嘔吐
- 意識障害
他の症状を合併するケースが多い
交通事故でくも膜下出血になる場合、脳挫傷やびまん性軸索損傷などの「脳そのものの傷病」」と合併するケースが多々あります。
この場合、以下のような強い症状が現れる可能性が高くなります。
- けいれん
- 手足の麻痺
- 感覚障害
- 意識障害
脳挫傷やびまん性軸索損傷などを合併すると、後遺障害が残る可能性も大きく高まります。
くも膜下出血の治療法
交通事故などの外傷性くも膜下出血の治療法は、症状の程度によって異なります。
軽度な場合
他の傷病と合併がなく軽い場合、自然治癒を待つケースが多数です。
痛みが強い場合には痛み止め、むくみが出たら利尿剤を投与、けいれんが生じる場合には抗けいれん薬を投与して対処療法をしながら様子を見て、回復を待ちます。
重度な場合
脳挫傷などを合併する重傷のケースでは、外科手術が必要となるケースが多数です。
脳内に血腫が溜まって脳を圧迫して命に関わるケースも多く、血腫を除去するため、穿頭血腫除去術などの処置を行います。
治療後に再度血腫ができることもあり、予後にも注意が必要です。
また手術をしても完全にはもとに戻らず長期間にわたるリハビリが必要となるケースも多いですし、リハビリ後も後遺障害が残ってしまう例が多々あります。
くも膜下出血になったときに受け取れる慰謝料
交通事故でくも膜下出血になってしまったら、どの程度の慰謝料を請求できるのでしょうか?
交通事故の慰謝料には入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3種類があります。
くも膜下出血で受け取れる入通院慰謝料の相場
入通院慰謝料は、事故でけがをした人が入通院した期間に応じて払われる慰謝料です。
入通院した期間が長くなると慰謝料額が上がります。
くも膜下出血でリハビリ期間が長期に及ぶと入通院慰謝料額が200万円を超えるケースもあります。
また慰謝料には複数の計算方法があり、どの基準を適用するかで金額が変わります。
弁護士が採用する弁護士基準を適用すると、保険会社が適用する任意保険基準や自賠責基準より大幅に金額が上がります。
くも膜下出血で受け取れる後遺障害慰謝料の相場
くも膜下出血の治療後も後遺症が残ってしまった場合、後遺障害認定を受けられる可能性があります。
後遺障害認定を受けて等級がつくと、認定された等級に応じて「後遺障害慰謝料」を請求できます。
後遺障害慰謝料の金額は等級によって変わり、等級が上がるほど高額になります。
くも膜下出血で認定される後遺障害等級
くも膜下出血で認定される可能性のある後遺障害等級は、症状によって異なります。
遷延性意識障害
いわゆる「植物状態」です。
後遺障害等級は1級1号となり、後遺障害慰謝料の額は弁護士基準で2800万円となります。
なお自賠責基準では1650万円です。
高次脳機能障害
びまん性軸索損傷などが原因で脳の認知機能が失われる傷病です。
認定される可能性のある等級は以下のとおりです。
- 1級1号
- 2級1号
- 3級3号
- 5級2号
- 7級4号
- 9級10号
慰謝料額は後にまとめて示します。
麻痺
麻痺症状が残った場合に認定される可能性のある後遺障害等級は以下の通りです。
- 1級1号
- 2級1号
- 3級3号
- 5級2号
- 7級4号
- 9級10号
- 12級13号
- 14級9号
てんかん
てんかん発作や脳波の異常を残したときに認定される後遺障害です。
- 5級2号
- 7級4号
- 9級10号
- 12級13号
目の障害
脳障害によって目に関する後遺障害が残るケースもあります。
視力が低下したり眼球の運動が制限されたり視野が狭まったり、複視の症状が出たりするものです。
認定される可能性のある等級は、1級~13級まで幅広くなっています。
等級ごとの後遺障害慰謝料の表
等級 |
弁護士基準 |
自賠責基準 |
1級 |
2800万円 |
1100万円(遷延性意識障害や高次脳機能障害、麻痺の場合1600万円) |
2級 |
2370万円 |
958万円(遷延性意識障害や高次脳機能障害、麻痺の場合1163万円) |
3級 |
1990万円 |
829万円 |
4級 |
1670万円 |
712万円 |
5級 |
1400万円 |
599万円 |
6級 |
1180万円 |
498万円 |
7級 |
1000万円 |
409万円 |
8級 |
830万円 |
324万円 |
9級 |
690万円 |
245万円 |
10級 |
550万円 |
187万円 |
11級 |
420万円 |
135万円 |
12級 |
290万円 |
93万円 |
13級 |
180万円 |
57万円 |
14級 |
110万円 |
32万円 |
任意保険会社が被害者と示談交渉するときに用いる「任意保険基準」は保険会社によって異なり公表されていないので表にはできません。
相場としては「自賠責基準より多少高い程度の額」になると考えましょう。
後遺障害慰謝料の金額は、弁護士基準で計算すると他の基準の2~3倍程度となるのが通常です。
くも膜下出血で被害者が死亡した場合の死亡慰謝料
頭部挫傷が重傷となると、被害者が死亡してしまうケースもあります。
その場合、遺族は加害者へ死亡慰謝料を請求できます。
死亡慰謝料の金額の相場は以下の通りです。
【弁護士基準の場合】
- 被害者が一家の支柱:2800万円
- 被害者が母親や配偶者:2500万円
- その他(未成年者や独身者、高齢者など)2000万円~2500万円
自賠責基準の場合、最大でも1350万円にしかなりません。
任意保険基準でも、弁護士基準から1000万円程度、低額になるケースが多数です。
慰謝料以外に受け取れる賠償金
その他にも、付添看護費用や介護費用、器具装具の費用、自宅の改築費なども請求可能だよ。
交通事故でくも膜下出血となった場合、慰謝料以外にも請求できる賠償金がたくさんあります。
治療関係費
交通事故と因果関係のある治療関係費は全額請求できます。
ただし必要かつ相当な範囲に限られます。
- 病院に支払った診察代、検査費用、投薬料、処方箋代、診断書作成費用、手術代、入院費用
- 通院交通費
- 入院雑費
- 入院中の付添看護費用
介護費用
後遺障害が残って介護が必要となった場合、介護にかかる費用を請求できます。
プロの介護士に依頼するか家族が介護するかで金額が変わります。
器具装具の費用
介護用ベッド、車いすや松葉杖、義眼やコンタクトレンズなどの器具装具が必要になった場合、そういった費用も請求できます。
自宅改装費、車の改造費用
自宅介護をするために自宅をバリアフリーへ改装する必要がある場合などには、自宅改装費用も請求できます。
車を障害者用に改造しなければならない場合、改造費用も請求可能です。
休業損害
交通事故の治療のため、仕事を休まなければならない場合には休んだ日数分の休業損害を請求できます。
会社員、アルバイト、パート、自営業者などの方であれば問題なく請求できますし、学生や失業者の方でも休業損害を払ってもらえる可能性があります。
逸失利益
後遺障害逸失利益
後遺障害認定を受けた場合、逸失利益という賠償金も請求できます。
逸失利益とは、後遺障害が残って労働能力が低下したことにより、得られなくなってしまった将来の収入です。
後遺障害が残ると身体が不自由になって従来と同じようには働けなくなるので、減収分を「逸失利益」として請求できます。
死亡逸失利益
被害者が死亡すると、将来の収入は0になるので逸失利益を請求できます。
ただし被害者の生活費がかからなくなるため、生活費の分は控除されます。
逸失利益の金額は、被害者のもともとの収入額や認定された後遺障害等級などの要素によって大きく変わります。
認定等級が高い場合や死亡した場合、1億円を超えるケースもあります。
等級が低くても数百万、数千万円などの単位となり、後遺障害慰謝料より高額な逸失利益が認められるケースが多数です。
くも膜下出血で後遺症が残ったら弁護士に相談を
その他にも、弁護士基準で慰謝料を計算できるから、受け取れる慰謝料の金額をアップする事も可能だし、後遺障害等級の認定もスムーズになるんだよ。
交通事故でくも膜下出血が生じたら、1人で対応するのはおすすめできません。
素人判断では適切な等級の後遺障害認定を受けるのも難しくなりますし、被害者が自分で交渉すると低額な任意保険基準を適用されてしまうからです。
それでは受け取れる慰謝料額が一気に下がってしまいます。
弁護士に依頼すると、より高い等級の後遺障害の認定を受けやすくなりますし、自分で対応する手間も省けます。
高額な弁護士基準が適用されて、自分で交渉する場合と比べると慰謝料額が2~3倍以上にアップするケースも少なくありません。
保険会社とやり取りする必要がなくなり、治療やリハビリに専念できるのもメリットとなるでしょう。
交通事故後の示談交渉は非常にストレスのかかる作業ですが、弁護士に任せれば煩わされずに済むので精神衛生上も良い影響があります。
交通事故で頭部を強く打って「くも膜下出血」と診断されたなら、まずは交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士に相談してみましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。