慰謝料は誰が交通事故にあっても、計算方法は一緒だよ!
でも、高収入の人はたくさんお金をもらえるって聞いたよ?
今回の記事では、職業によって異なる損害賠償額について、詳しく説明するね!
まずは、慰謝料とはどのような物なのか見ていこう。
交通事故の賠償金の金額は、被害者がどのような方かによって、異なります。
主婦の場合や高齢者の場合、子どもの場合など、それぞれどのくらいの賠償金を損害賠償請求できるものなのでしょうか?
今回は、被害者によって異なる交通事故の賠償金について、ご説明をします。
目次
交通事故の慰謝料と賠償金について
今は車社会ですから、どのような方でも交通事故に遭う可能性があります。
交通事故の被害に遭うと、さまざまな損害が発生します。
その中には、治療費などの積極損害、休業損害などの消極損害、それと精神的損害(慰謝料)があります。
一般的に、「交通事故が起こったら慰謝料を請求できる」と思われていることが多いのですが、実際には慰謝料だけではなく、上記のようなさまざまな賠償金(積極損害と消極損害)を任意保険会社に請求することができるので、まずは理解しておきましょう。
つまり、慰謝料は賠償金全体の中で一部に過ぎないのです。
示談が成立したときに受けとることができる示談金は、賠償金全体のことを指しますので、「示談金=賠償金」ですが、慰謝料はその中に一部に過ぎないので、「慰謝料<示談金・賠償金」となります。
そこで、加害者と示談交渉をするときには、慰謝料だけではなく他の項目(たとえば休業損害や逸失利益)にも目を向けておくことが重要です。
特に、逸失利益は慰謝料よりも高額になることが多いので、注意が必要です。
人によって変わる賠償金の項目とは?
なぜ高収入だと多くもらえるの?
だから収入が高い人の方が、高額になるんだよ。
冒頭でご説明をしたように、交通事故の賠償金は、被害者によって異なります。
ただし、すべての損害項目が被害者によって異なるわけではありません。
以下では、どの損害賠償の項目が、交通事故の被害者によって異なってくるのか見てみましょう。
慰謝料は、被害者が誰でも同じ
世間一般では、交通事故の慰謝料は被害者によって異なると思われていることが多いです。
たとえば、主婦や子どもの場合、収入のあるサラリーマンなどよりも慰謝料が減額されると思われています。
しかし、これは間違いです。
慰謝料は、基本的に被害者が誰であっても変わりません。
その理由は、慰謝料がどのようなものかを考えてみたらわかります。
慰謝料とは、精神的苦痛に対する賠償金です。
交通事故に遭ってケガをしたり、入通院をしたり、後遺障害が残ったり死亡したりすると、被害者は大きな精神的苦痛を受けます。
このような精神的苦痛について、被害者の収入による影響が無いことは明らかです。
収入が高い人の方が大きな精神的苦痛を受ける、などということはあり得ないからです。
事故で後遺障害が残ったら、大人も子どもも男性も女性も、若い人も高齢者も同じように苦痛を受けるはずです。
そこで、慰謝料については、一律に同じような基準で計算されます。
主婦や高齢者だからといって減額されることはありません。
治療費や交通費、介護費用などのお金についても同じです。
こうした損害は、被害者が誰でも同じように発生するものですから、実際に発生した分を相手に請求することができます。
休業損害・逸失利益は大きく異なる
それでは、被害者によって異なる賠償金にはどのようなものがあるのでしょうか?
もっとも大きく異なるのは、休業損害と逸失利益です。
これは、交通事故の賠償金の中で「消極損害」と呼ばれているものです。
消極損害とは、交通事故が因果関係となって得られなくなってしまった収入のことです。
以下で、内容をさらに詳しくみてみましょう。
休業損害とは
休業損害とは、事故によって働けなくなった期間に発生するはずだった収入です。
たとえば、事故で入院すると、その休業日数は働けないので、本来得られるはずだった収入を得られなくなり、休業損害が発生します。
逸失利益とは
逸失利益とは、後遺障害が残ったり死亡したりしたときに、将来にわたって得られるはずだったのに得られなくなってしまった収入のことです。
後遺障害が残ると、その分身体が不自由になるので、労働能力が低下します。
すると、本来なら100%働いて得られるはずだった収入が、70%くらいしか働けなくなって収入が30%減になる、というような考え方です。
この30%のことを、「労働能力喪失率」と言います。
後遺障害の等級が高くなるほど労働能力喪失率が高くなって、逸失利益の金額が上がります。
また、死亡すると、当然働けなくなるので100%労働能力を喪失します。
このとき、将来にわたって得られるはずだった収入は、「死亡逸失利益」として相手に請求することができます。
休業損害・逸失利益の計算では、「収入の金額」が基礎となる
休業損害や逸失利益では、被害者の立場や収入による差が顕著に顕れます。
それは、これらの損害が「失われた収入」だからです。
そもそも働いていない人は「収入」がありませんので、交通事故で後遺障害が残ったり死亡したりしても、休業損害や逸失利益が発生しません。
たとえば、無職無収入の人は、交通事故で働けない期間が発生しても、休業損害を請求できませんし、後遺障害が残っても逸失利益を請求できません。
減額されるのではなく、0円です。
そこで、無職無収入の人は、サラリーマンなどの有職者と比べると、賠償金の金額が大きく下がります。
休業損害や逸失利益は、高収入の人ほど高額になります。
同じサラリーマンでも、収入が高ければ、その分休業や後遺障害などによって失われる金額も大きくなるからです。
高収入の人が交通事故に遭って重度な後遺障害が残ったり、死亡したりすると、億単位の逸失利益が発生することも珍しくありません。
主婦の場合の休業損害、逸失利益について
主婦の休業損害の計算方法について、チェックしてみよう!
それでは、実際に主婦が交通事故に遭った場合、どのくらいの休業損害や逸失利益が認められるのか、見てみましょう。
主婦にも休業損害、逸失利益が認められる
主婦は、実際に外で働いているわけではないので、現実の収入がありません。
そうすると、休業損害や逸失利益が認められないのでしょうか?
実は、そういうわけではありません。
主婦は、「家事労働」をしていると考えられているためです。
主婦がいなければ家政婦を雇わないといけないことからもわかる通り、家事労働には対価性があります。
そこで、主婦が交通事故に遭った場合には、休業損害も逸失利益も請求することができます。
主婦の基礎収入について
ただ、その場合、主婦の収入をいくらにすべきかが問題です。
現実の収入がないので、基準にすべき収入を算定できないからです。
このような場合には、「賃金センサス」による年齢平均賃金を使って計算をします。
賃金センサスというのは、国が調査している国民の賃金の統計資料です。
主婦の場合、全年齢の女性の平均賃金を基礎収入額とします。
たとえば、平成28年の全年齢の女性の平均賃金は、376万2300円です。
1日に直すと、だいたい1万円程度の金額となります。
兼業主婦の場合
主婦には、兼業主婦の方もおられます。
つまり、家事だけでは無く、外にパートなどに働きに行っている方です。
この場合、基礎収入をどのように計算すべきかが問題となります。
現実にパート収入があるのだから、パート収入の金額を基礎とすべきなのでしょうか?
実は、そのような扱いにはなっていません。
パート収入の金額は、非常に少ないことが多いです。
もし、パート収入を基準にすると、兼業主婦の休業損害や逸失利益は、専業主婦より大幅に低い金額になってしまい、不公平です。
兼業主婦は、家事をしながら外にも働きに行っているのに、それが原因でかえって損害賠償金を減額されることになってしまいます。
そこで、兼業主婦の場合には、現実の収入(パート収入など)と、全年齢の女性の平均賃金とを比較して、高い方の金額を基礎収入として休業損害や逸失利益を計算します。
主夫のケース
最近は、男性でも家事労働をする人が増えています。
中には、専業で主夫業を行っている方もおられるでしょう。
このような方が交通事故に遭われたら、基礎収入をどのようにして算定するのでしょうか?
男性なので「全年齢の男性の平均賃金」を利用すべきかが問題となります。
確かに、それが合理的なような気もしますが、全年齢の男性の平均賃金は、女性のものと比較してかなり高額になります。
平成28年の実績で言うと、男性の平均賃金は549万4300円にもなります。
すると、主夫の休業損害や逸失利益は、主婦よりも大幅に高額になってしまい、不公平です。
そこで、専業主夫が交通事故に遭った場合の基礎収入は、主婦と同様「全年齢の女性の平均賃金」を使って計算します。
男性でも、女性の平均賃金を使いますが、これは間違いではないのです。
高齢者の場合の休業損害、逸失利益について
すでに働いてないわけだから、休業損害は発生しないよね?
仕事をしていなければ、休業損害は発生しないね。
高齢者の場合、逸失利益も少なくなってしまうんだよ。
次に、高齢者が交通事故に遭ったときの休業損害や逸失利益について、みてみましょう。
高齢者は逸失利益が少なくなるって本当?
高齢者の場合、若い人よりも休業損害や逸失利益が少なくなる可能性が高いです。
そもそも、高齢者は、働いていない人が多いです。
年金生活者の場合、死亡逸失利益は認められますが、後遺障害逸失利益は認められません。
後遺障害が残っても、年金は減額されないからです。
同じ理由で、休業損害も認められません。
また、高齢者の場合、実際に収入があっても若い人より少ないことが多いです。
そのため、基礎となる収入が少なくなり、休業損害や逸失利益の金額が小さくなります。
加えて、高齢者の場合、すでに高齢となっているので、働ける期間が短くなります。
逸失利益は、就労可能年数に対応する分をもらえるものですから、働ける期間が短くなると、その分逸失利益は減額されます。
このようなことから、高齢者が交通事故に遭ったときに支払われる賠償額は、若い人と比べると少なくなってしまうことが多いです。
ただ、これは、休業損害額や逸失利益が減額されているのであって、慰謝料が減額されているのではありません。
高齢者でも逸失利益はもらえるのか
高齢者の逸失利益について、もう少し詳しく見てみましょう。
逸失利益は就労可能年数分を請求できますが、一般的に就労可能年齢の限度は67歳と考えられています。
そうなると、既に67歳を超えている人は、逸失利益を請求できないのでしょうか?
しかし、実際に67歳を超えても働いておられる高齢者の方はいるものですから、まったく認められる余地がないのは不合理です。
そこで、高齢者の場合、以下の2つの期間のうち、長い方を基準として逸失利益を計算します。
- 67歳までの年数
- 平均余命の2分の1
平均余命とは、その年齢の人があと何年生きるかという年数のことです。
もちろん、年をとればとるほど平均余命も短くなるので就労可能年数が短くなりますが、高齢者だからといって逸失利益を請求できない、ということにはならないので、覚えておきましょう。
子供の場合の慰謝料、休業損害、逸失利益
だから逸失利益や休業損害は受け取ることはできないよね?
次に、子どもが被害者となったときの賠償金はどのようになるのか、見てみましょう。
大人と子供の違い
子どもが交通事故の被害に遭ったとき、大人とどのような違いがあるのでしょうか?
まず、慰謝料についてはまったく同じです。
交通事故でケガをしたり後遺障害が残ったり、死亡したりすると、子どもであっても大人と同じように、精神的苦痛を感じるからです。
子どもだからと言って減額されたり増額されたりすることは、ありません。
治療費や通院交通費などの実費についても、子どもと大人で区別する必要がないので、同じです。
違いが生じるのは、やはり休業損害や逸失利益です。
まず、子どもの場合、休業損害が認められません。
子どもは現実に働いていない以上、事故で入院などをしたとしても「休業」を観念することができないためです。
ただし、逸失利益は認められます。
確かに、子どもは現時点においては働いていませんが、将来大人になったら働いて収入を得る蓋然性が高いからです。
交通事故で後遺障害が残ってしまったら、その分将来得られるべき収入が目減りしてしまうことが考えられますし、死亡してしまったら、将来得るはずだった収入が0円になります。
そこで、子どもの場合、就労可能年齢である67歳までの分の逸失利益を請求することができるのです。
男児と女児の違い
子どもが被害者の場合、男の子か女の子かで逸失利益の計算方法に違いが生じるので、注意が必要です。
男の子の場合には男性の平均賃金、女の子の場合には男女の平均賃金を使って計算するからです。
まず、男の子の場合に男性の平均賃金を使って計算することは、わかりやすいでしょう。
女の子の場合には、なぜ女性では無く男女の平均賃金を使って計算すべきなのでしょうか?
それは、男性と女性の平均賃金に格差があるためです。
女の子の場合に女性の平均賃金を使って計算すると、男の子に比べて逸失利益の金額が大幅に少なくなってしまいます。
子どもが同じように事故に遭ったにもかかわらず、女の子だという理由で逸失利益を減らされるのは不当だということは、誰にとってもわかりやすいでしょう。
ただ、女の子の場合にも「男性」の平均賃金を使うべきだとする根拠はありません。
そこで、男女合計の平均賃金を使うことによって、可能な限り、格差を小さくしているのです。
それでも男性の平均賃金よりは少ないので完全に問題が解消されるわけではないのですが、現時点ではこれが限度の対応となっています。
同乗者が被害者の場合の賠償金
交通事故が発生したとき、自動車に同乗していた人が死傷することもあります。
このような場合、同乗者も加害者に対して賠償金の請求をすることができます。
この場合の賠償金の金額は、通常一般の交通事故の被害者の場合と同じです。
同乗者だからと言って、慰謝料やその他の賠償金が減額されることはありません。
同乗者が有職者であれば、休業損害や逸失利益を請求することも認められます。
家族(近親者)が受け取ることができる慰謝料
本人がなくなってしまった場合には、慰謝料は発生しないの?
最後に、近親者の慰謝料について、説明をします。
交通事故が起こったとき、賠償金の請求ができるのは、基本的に被害者本人です。
家族は当事者でない以上、損害が発生しないと考えられています。
ただし、被害者が死亡した場合には、近親者も大きな精神的苦痛を受けるものです。
たとえば、子どもが死亡したら、親は自分が死亡するよりも大きな精神的苦痛を受けるかもしれません。
そこで民法は、親子や配偶者には固有の慰謝料請求権を認めています(民法711条)。
これは、被害者本人の慰謝料とは別に認められる、「遺族固有の慰謝料」です。
また、兄弟や祖父母であっても、被害者が死亡した場合には強い精神的苦痛を受けると考えられるので、固有の慰謝料が認められる例があります。
民法711条の文言上では「親子、配偶者」に限られていますが、実際には拡大解釈されているのです。
さらに、被害者に重度な後遺障害が残った場合、やはり近親者は強い精神的苦痛を受けると考えられます。
そこで、民法711条は「死亡」のケースに限っていますが、交通事故で被害者が植物状態になるなど重大な後遺障害が残った事案においても、親子や配偶者などの近親者は、相手に固有の慰謝料を請求できる可能性があります。
まとめ
逸失利益や休業損害について、良く分かったよ!
弁護士に依頼しないと、自賠責基準や任意保険基準での計算となってしまうんだ。
弁護士費用を心配する人が多いけれど、自賠責保険での基準よりも賠償金がアップするから、弁護士費用が払えるようになる人が多いんだよ。
今回は、被害者によって異なる賠償金である休業損害や逸失利益の問題について、説明を行いました。
交通事故の賠償金の計算では、一般には知られていないことがたくさんあります。
わからないまま示談をすると損をしてしまうおそれがあるので、困ったことがあったら、気軽に弁護士に相談してみると良いでしょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。