野生動物とぶつかってしまった場合でも、通常の物損事故対応と変わらず、後続車に注意を知らせて、警察に連絡をする必要があるよ。
今回の記事では、野生動物と事故を起こしてしまった場合の対処法について、詳しく見ていこう。
目次
野生動物とぶつかってしまった場合の対応方法
山道などでは、道路上に野生動物が飛び出してきて、車と接触することがあります。
接触することが多い動物としては、タヌキ、キツネや鹿などが挙げられます。
昨今ですと、熊が人の生活地域に出没することが多くなっているので、熊との接触も更に増えていく可能性があります。
そして、野生動物が道路に飛び出てくる可能性のある場所には、「動物注意」の標識があります。
この標識は、黒枠、その枠の中が黄色で塗られており、動物のシルエットが描かれています。
描かれている動物は、タヌキ、キツネ、鹿や熊などがあります。
動物のシルエットは、その場所で出没することの多い野生動物が描かれているようです。
動物との事故は物損事故扱い
野生動物と事故を起こした場合、法律上、どのように扱われるのでしょうか。
法律上、動物は、物と同じ扱いとなっています。
ですので、車を運転して野生動物とぶつかって事故を起こした場合、物損事故と同じ扱いとなります。
ガードレールと接触したような物損事故(自損事故)と同じ扱いとなります。
事故を起こした場合にどうするか
野生動物と事故を起こしてしまった場合、運転者は何をすればよいのでしょうか。
基本的には、通常の物損事故と変わりません。
自分の車が自走できそうであれば、後続車両と事故を起こすことがないように、車を安全な場所に移動させましょう。
また、事故を起こした場合、運転者には警察への報告義務があります。
野生動物との事故といえども、交通事故であることには変わりはありませんので、警察に事故を報告する義務があります。
警察に事故を報告しておくと、自動車安全運転センターから交通事故証明書を発行してもらうことができます。
交通事故証明書は、任意保険の保険金を請求する際などの必要書類の一つですので、きちんと事故を警察に報告しておいた方が良いでしょう。
野生動物への対応方法

生きていて治療が必要な場合には、動物病院や、保護施設などに連絡をしよう。
野生動物が死亡した場合
野生動物が事故によって死亡し、道路上に残っている場合はどのように対応するのが良いでしょうか。
ちなみに、事故で野生動物を死亡させてしまうことをロードキルなどと呼びます。
死亡した野生動物は感染症を持っている可能性がありますので、むやみに素手で触るのは止めましょう。
高速道路の場合は、「#9910」に連絡して対応してもらいましょう。
また、一般道の場合には、市役所等の自治体に連絡をして、その指示に従いましょう。
道路の管理者や自治体が死亡した野生動物の対応をしてくれます。
野生動物が生きている場合
野生動物が事故後に生きている場合はどのように対応するのが良いでしょうか。
野生動物が感染症を持っている可能性があるのは変わりませんので、むやみに素手で触るのは止めましょう。
車の通行の妨げになるような場所に野生動物がいる場合、素手では触らずに、段ボールや毛布などを使って車の通行の妨げにならない場所に野生動物を動かすようにしましょう。
そのうえで、動物病院や野生動物の保護施設などに連絡をして、指示を仰ぐようにしてください。
動物病院に野生動物の治療をお願いする場合、その治療費は、動物病院に依頼をした人、つまりは車の運転者が負担することになります。
なお、無償で野生動物への治療を施す施設等もあるようです。
任意保険は使えるのか

人身傷害保険や搭乗者傷害保険、車両保険などが利用可能だね。
野生動物と接触した場合、野生動物に損害を賠償してもらうことはできません。
車の修理費や自分の怪我の治療費は自分で負担することになります。
では、任意保険を使用することはできるのでしょうか。
野生動物との事故も通常の物損事故と異なることはありません(自損事故に近い扱いになります。)ので、任意保険を使うことができます。
運転者が怪我をした場合には人身傷害保険を、同乗者が怪我をした場合は搭乗者傷害保険を、損傷した車を修理するために車両保険を使うことができます。
なお、運転者や同乗者が怪我をした場合でも、自賠責保険を使用することはできません。
自賠責保険は、人身事故を起こした場合において、自分の運転する車で怪我をした事故の相手の治療のためなどに使用する保険となります。
人が飼っている動物の場合は

ここまで、野生動物との事故について述べてきましたが、仮に、家畜やペットと車が接触した場合、どのようになるのでしょうか。
既に述べたとおり、動物との事故は物損事故であり、その点は変わりません。
しかしながら、人の飼っている家畜やペットについては、民法上、動物占有者の責任が定められています。
動物占有者の責任の規定を簡単に説明すると、動物を占有している人(家畜やペットを飼ったり、管理している人と理解してください。)は、その動物が他人に損害を与えた場合に、その損害を賠償する責任を負うと考えていただければ構いません。
法律上は、動物の種類や性質に従って相当の注意をもって管理した場合には免責されるという規定もありますが、交通事故に限っていえば、免責される可能性は極めて低いでしょう。
そもそも、家畜やペットが車の走る道路に出て行ってしまった時点で、相当の注意をもって管理をしたと評価することは難しいと考えられます。
ですので、人の飼っている家畜やペットと車が接触した場合、車の所有者は車の損傷などの損害を、動物を飼っている人に対して請求することができます。
車の運転者や同乗者が怪我をした場合も、治療費などの損害を、動物を飼っている人に対して請求することができます。
なお、この場合、家畜やペットが死傷していることもあり、動物を飼っている人が損害を被ったとして、車の運転者に対して、損害賠償請求をすることも考えられます。
しかしながら、家畜やペットが道路に出ること自体、動物を飼っている人の大きな過失となります(通常、家畜やペットが道路に出ることはないでしょう。)ので、動物を飼っている人から車の運転者への損害賠償請求は認められないか、仮に認められとしても、動物を飼っている人の過失が大きいために認められる損害は少額となると考えられます。
野生動物を避けて対向車と接触した場合の過失割合

熊や鹿などの大型動物と接触すると、車や運転者も大きなダメージを受けます。
では、運転者が熊や鹿などの大型動物を避けるために反対車線に飛び出し、その際に、対向車と接触してしまった場合、過失割合はどのようになるのでしょうか。
野生動物は、法律上、物であり、障害物などと同じ評価になりますので、基本的には、センターラインオーバーをしてしまった車の運転者が100%の責任を負う(過失100%)となると考えられます。
ただし、交通事故の状況によっては、熊や鹿を避けたことが緊急避難と評価され、センターラインオーバーをした車の運転手が損害賠償責任を負わないということもあり得ると考えられます。
その場合、自分の損害は自分で負担する(自損自弁)ということになります。
阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。


