交通事故の被害者は、加害者に対して損害賠償金という形で補償金の請求が行なえます。
損害賠償は交通事故に遭ったことによって被害者が被った損失を、加害者が埋め合わせるためのものです。
損害賠償の対象となる損害には下記の種類があります。
- 積極損害
入院費用や治療費など、事故に遭ったことによって発生した直接的な損害 - 消極損害
入院中に稼げていた分のお金や、障害を負わなければ稼げていたお金など、交通事故がなければ得られていたであろう利益を失ったことによる損害、休業損害や逸失利益など。 - 慰謝料
事故に遭ったことによって発生した精神的な損害 - 物損
自動車などの「モノ」が壊されたことによる損害
目次
過失割合は「交通事故当事者の過失(責任)の割合」
まずは交通事故の損害賠償を理解する上で非常に重要な、過失割合という概念について説明させていただきます。
過失割合とは、ある交通事故が発生したときに対する当事者の過失(責任)の割合のことです。
実は交通事故は、一方の過失だけで起こることはあまり多くありません。
例えば、信号機がない交差点で直進車Aと対向右折車Bが衝突した場合の基本過失割合はA2:B8となります。
道路交通法では、
「車両等が交差点で右折する場合には、直進や左折をしようとする車両の進行を妨害してはならない」
と定められているため、Bの過失が大きいのですが、一方で直進車にも交差点内を安全な速度と方法で進行する義務があるため、Aにも少しだけ過失があるとみなされます。
ただし、このA2:B8というのはあくまでも基本であり、個々の事情に応じて修正されることがあります。
例えば後でAが運転中にスマートフォンの画面を確認していたことがわかった場合、Aの過失割合は増えます。
過失割合は通常、警察ではなく交通事故当事者双方が加入している保険会社が決めます。
警察は民事不介入が原則なためです。
保険会社同士で合意に至らない場合は、裁判に発展することもありますが、割合としては多くありません。
「被害者」「加害者」の定義
交通事故において、「被害者」「加害者」の明確な定義はありません。
便宜上、過失割合が小さい方を「被害者」、そうでない方を「加害者」と読んだりしますが、あくまでも慣例です。
例えば、ある交差点で2台の自動車が交通事故を起こしたとします。
過失割合がA3:B7で、なおかつAの受けた損害が10万円、Bの受けた損害が100万円だったとします。
この場合、損害額だけ見ればBのほうが被害者ですが、過失割合だけ見ればAのほうが被害者です。
過失割合が10:0の事故
交通事故は双方に不注意が会って初めて起こることが多いため、過失割合が10:0になることはあまり多くないのですが、まったくないわけではありません。
ここではいくつか、基本過失割合が10:0となる交通事故をいくつか紹介していきます。
なお、あくまでも基本過失割合が10:0になるだけであって、修正が加わる可能性もあることには留意が必要です。
自動車と歩行者の事故の場合
- 青信号を渡っていた歩行者に自動車が追突した
- 信号機がない横断歩道を渡っていた歩行者に自動車が追突した
- 歩道を歩いている歩行者に自動車が追突した
歩行者と自動車の事故の場合、基本的には歩行者にとってかなり有利な過失割合が出てきます。
歩行者と自動車では自動車のほうが力関係が上であり、力の強い側がより大きな責任を負うべきという原則(優者危険負担の原則)があるからです。
例えば、歩行者が赤信号で横断歩道を横断し、自動車が青信号で進行して追突した場合、一見自動車に過失はないように思えますが、実際の基本過失割合は歩行者7:自動車3となります。
青信号を守っているだけでは、十分な注意とはみなされないのです。
自動車同士の事故の場合
- 赤信号で停止し、信号が変わるのを待っていた自動車に、後ろから走行してきた自動車が追突した
- センターラインが引かれている道路において、センターラインの内側を走行していた自動車(被害者)に、センターラインをオーバーした自動車が衝突した
- 信号が設置されている交差点において、青信号で進行した自動車に赤信号で進入した自動車が衝突した
歩行者と自動車は弱者と強者という関係性が成り立つため、強者である自動車の過失割合が大きくなりますが、自動車と自動車は強者と強者、つまりお互いに互角であるため、純粋にミスがあったほうの過失割合が大きくなります。
過失割合が10:0の場合の注意点
過失割合は、双方が加入している保険会社が話し合って決めます。
実際には保険会社に過失割合を強制的に受け入れさせる力はない(それができるのは裁判所のみ)のですが、いちいち裁判をするのには手間もお金もかかります。
そこで双方の保険会社は過去の判例や、日弁連が発行する資料などから適切と思われる過失割合を割り出し、それを当事者に伝えます。
お互いが納得すれば、裁判を経ずして過失割合が決まります。
↑この方法を示談と言います。
どちらかが納得しなかった場合は、裁判となります。
そして、示談がすんなり行く保証はどちらにもありません。
双方ともに保険金を払いたくないので、なんとかして自分側は悪くない、相手側に過失があると主張することでしょう。
また、仮にこちらの言い分が通り、過失0と認められた場合でも、新たな問題が発生します。
過失0を証明するために
客観的に見て自身の過失が0だったとしても、相手側の保険会社はなんとかして被害者の過失を見つけようとしてくるでしょう。
そして、自身の過失が0であることを証明するのは簡単ではありません。
目撃者が誰もいなければ、真相を知るのは相手と自身の2名だけになってしまい、自身の過失が0であることを証明するのは非常に難しくなります。
過失0を証明する上で非常に役に立つのがドライブレコーダーです。
ドライブレコーダーとは自動車に設置するカメラのことで、タクシーなどでは搭載が進んでいます。
最近は低価格化が著しく、1万円程度でそれなりのものが買えるようになったため、個人で導入する人も増えています。
あまり安いものを選ぶと画質が悪くていざという時の証拠として使えなくなる可能性が出てきますので注意しましょう。
また、目撃者がいる場合は、彼らに証言してもらうという方法もあります。
車の破損状況などを記録した実況見分調書が役に立つこともあります。
ただし、これらの資料をすべて駆使しても、過失が0であることを証明するのは容易ではありません(過失が少ないことを証明することは出来ますが)。
過失0の場合保険会社が介入できない?
さて、仮に過失0が認められた場合でも、手放しで喜ぶことは出来ません。
過失0になると保険会社に示談を代行してもらうことができなくなるからです。
過失0の被保険者の示談を保険会社が行う行為は、非弁行為に含まれます。
非弁行為とは、弁護士だけに認められている業務を、弁護士以外の者が行うことで、違法とされています。
では、過失0の場合どうすればいいのかというと、基本的には自分で示談交渉を行うことになります。
しかし、示談交渉に慣れている相手側の保険会社と被害者では、示談交渉の経験にも知識にも差があります。
おそらく、相手側に有利な方向で話がまとまってしまうことでしょう。
そこで利用したいのが弁護士です。
非弁行為は弁護士以外には認められない業務なので、弁護士が行うことは全く問題ありません。
弁護士は示談行為を得意としているので、保険会社からより有利な条件を引き出せる可能性が高いです。
ただ、弁護士に依頼するには当然費用がかかります。
示談金の増額分よりも弁護士費用が高くなれば、得したのは弁護士のみということになってしまいます。
万が一の際の出費を抑えたい場合は、自動車保険の弁護士費用特約に加入しておいたほうがいいかもしれません。
弁護士特約とは、任意保険についてくる特約です。
自動車事故の被害者になった場合、追加費用無しで弁護士に相談・依頼し、弁護士回答を得る事ができるようになります。
特約の内容や保険料は保険屋によって異なりますが、基本的には加入をおすすめします。
加入によって増える保険料は最大でも月3000円程度と安く、万が一の際には通常300万円程度まで補償を受けられます。
弁護士費用特約を利用しても、その後の保険料には変化はありません(一緒に対人・対物賠償保険を利用すれば保険料は上がります)。
使える場面では使ったほうが良いでしょう。
現在は、ほとんどの自動車保険に弁護士特約が付帯しています。
ですので、自分が弁護士特約付きかどうかわからないという方は、まずは保険証券の内容を確認してみましょう。よくわからなければ、カスタマーセンターに問い合わせをすればご自身の加入条件について教えてくれるはずです。
また、仮に弁護士特約に加入していなかったとしても、慰謝料や損害賠償が発生するケースのほとんどは弁護士に交渉を依頼する方がもらえる金額が大きくなります。
弁護士費用特約は過失割合が10:0の場合はもちろん、そうでない場合でも利用できます。
場合によっては保険に加入している本人だけでなく、その配偶者や同居家族などが特約を利用できることもあるので、事故にあった場合は自動車保険に加入している家族に相談してみましょう。
弁護士に依頼するまでの手順
弁護士費用特約に加入している場合、保険会社から弁護士を紹介してもらうことも出来ますが、その弁護士に必ず依頼しなければならないという決まりはありません。
自分が前から付き合いのある弁護士や、インターネットを通じて見つけた弁護士などに依頼しても、全く問題ありません。
依頼したい弁護士が見つかったら、加入している保険会社に連絡し、弁護士費用特約を使いたいと伝えてください。
すると保険会社から専用の部署を紹介されるはずですので、担当者に依頼したい弁護士名、法律事務所名、法律事務所の連絡先などを伝えてください。
弁護士側にも保険会社の担当者名や担当者のいる部署名を伝えておきましょう。
あとは弁護士と保険会社が打ち合わせを進めてくれますので、彼らに任せておきます。
弁護士費用特約による保険金は、大抵の保険会社では最大で300万円までとされています。
賠償額がかなり高額に(概ね1500万円程度)ならない限り、限度額を超えることはないでしょう。
過失割合の決め方について
前述でも記しましたが、過失割合は基本的には保険会社が、過去の判例に基づいて決めます。
過去に発生した交通事故に関するデータは判例タイムズや日本弁護士連合会などが書籍にまとめて公表しています。
日本弁護士連合会の書籍の内、交通事故センター本部がまとめた書籍は「青い本」、東京支部がまとめた書籍は「赤い本」と呼ばれています。
青本と赤本についてはこちらの記事をお読みください。
どちらも弁護士ではない人でも購入可能です。
保険会社はこれらの資料を読み込み、当該事故と似たような事故を探し、その事故の過失割合を参考に当該事故の過失割合を決定します。
ただし、示談交渉をする場合は、この過失割合の基準が必ずしも適用されるとはかぎりません。
交渉次第で上がったり下がったりします。
過失相殺となる場合とは
過失相殺とは、双方に過失があった場合、裁判所が過失に応じて損害賠償額を減額することです。
損害を受けた側は通常、相手(の加入している保険会社)に対して損害賠償を請求することになりますが、損害を受けた側にも過失があった場合、請求できる損害賠償額が減額されてしまうのです。
例えば、損害額が100万円で、損害を受けた側に過失が2あった場合、80万円しか請求することが出来ません。
そして、過失相殺によって双方が相手に対して賠償をすることになった場合、その金額は打ち消すことが出来ます。
例えば、BはAに大して80万円を支払い、AはBに対して100万円支払う場合について考えます。
この場合は、お互いの80万円を打ち消し合い、差額の20万円をAがBに支払うという形で解決します。
A側の過失割合が大きくなれば、B側の支払う保険金額は少なくなります。
だからこそB側の保険会社は、自身の支払う保険金を減らすために、Aに対して「あなたの過失はもっと大きい」といってくるわけです。
A側の保険会社も全く同じことを考えるので、Bに対して「あなたの過失はもっと大きい」と言ってきます。
高級車や高所得者と事故を起こすと過失割合が低くても賠償を負う?
例えば、AとBが起こした交通事故によって、Aが100万円、Bが500万円の損害を被ったとします。
仮にAの過失が0ならば、AはBに対して100万円の損害賠償請求ができます。
一方、Bの過失は10なので、BはAに対して1円も損害賠償請求できません。
しかし、Aに過失が1あった場合、AはBに対して、100万円のうち9割=90万円までしか請求できなくなってしまいます。
逆にBはAに対して、500万円のうち1割=50万円を請求することができるようになります。
50万円の部分は打ち消し合うので、AはBに40万円を請求できます。
Aに過失が2あった場合は、Aは80万円、Bは100万円をそれぞれ請求できます。50万円の部分は打ち消し合うので、BはAに20万円を請求できます。
過失割合だけ見ればBのほうが大きいのですが、Bのほうが被った損害も大きくなるため、過失割合が少ないほうが支払うという理不尽な事態が起こるのです。
交通事故の相手が高級車に乗っていたり、高所得者でなおかつ後遺障害が残ったり死亡したりした場合=多額の消極損害が発生した場合は、自身の過失割合が少なくても賠償を追うことになります。
だからこそ任意保険は重要ですし、少なくとも対人・対物に関しては補償額が無制限のものを選ぶべきなのです。
過失割合が低いにも関わらず高額賠償を負った例
参考までに、今までの交通事故の死亡・後遺症賠償額のランキング1位は、なんと5億843万円です。
死亡したのは5年前に眼科を開業した41歳の眼科医で、事故直前4年間の平均所得が5500万円を超えていました。
そのため逸失利益(消極損害の一種。事故にあっていなければ稼げたはずの金額)が4億7850万円と非常に高額になり、このような桁外れとも言える賠償額が算出されたのです。
そして、この事故における死亡者の過失割合は6です。
被害者側は歩行者横断禁止規制のある国道を酩酊して横断を開始し第一車線中央付近で立ち止まっていたのです。
一方、これに衝突したタクシー運転手の過失割合は4です。
過失割合だけ見ればタクシー運転手のほうが被害者であるとすら言えるのですが、相手が高額所得者だったばかりにこのような事態になってしまったのです。
高額所得者でなくとも、死亡者が若い場合は将来稼げる逸失利益が高く計算されるため、賠償額は高額になる傾向があります。
誰と事故を起こすかわからない以上、対人・対物は必ず無制限にしましょう。
なお、このタクシー運転手が対人補償無制限の任意保険に加入していたかどうかは不明ですが(仕事で運転している以上加入している可能性が高いとは思います)、仮に加入していなかった場合は、損害賠償を自分で支払っていくことになります。
損害賠償は金融機関からの借金などと違って、債務整理(自己破産含む)でも原則として帳消しになりません。
任意保険は交通事故被害者の利益を保証するものであると同時に、加入者自身の利益をも保護するものです。
しつこいようですが、対人・対物は必ず無制限にしましょう。
過失割合が10:0の場合の慰謝料や示談金の金額とは
過失割合が10:0である場合は、上記の過失相殺は適用されません。
過失割合が10の方はどんなに損害を受けていても1円たりとも相手に請求できませんし、過失割合が0の方は損害賠償を満額を請求できます。
示談金と慰謝料の違い
示談金とは、前述の示談が成立した場合に支払われるお金のことです。
示談金=話し合いによって決まった損害賠償額の合計額、と考えればだいたい間違いないでしょう。
さて、前述の通り、損害賠償には
積極損害、消極損害、慰謝料、物損、の4つがあります。
式で表すと
示談金=積極損害+消極障害+慰謝料+物損
ということになります。
慰謝料は示談金を構成する要素の1つです。
そして、慰謝料は通常、他の損害と比べると計算が難しいとされています。
慰謝料は精神的な損害という、目に見えないものを対象にするからです。
精神的な苦痛をお金で解決するというのは決して上品とはいえませんが、お金以外の方法で解決するよりはよっぽど公平であり、わかりやすいといえます。
交通事故における慰謝料の3つの基準
精神的な苦痛の感じ方というのは人それぞれですので、例えば捻挫で1億円の慰謝料を請求することも不可能ではありません。
ただし、当然そんな要求を相手側が飲むはずはないでしょうし、示談が不成立になった場合は裁判で適切な慰謝料が算出されるため、明らかに高すぎる慰謝料を請求しても得になることはありません。
慰謝料には基準があり、そこから離れた金額が裁判で出ることはまずないと考えてください。
さて、慰謝料の基準には自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の3つがあります。
自賠責基準:すべての運転者が必ず加入している(はずの)自賠責保険を基準とするものです。
任意保険基準や弁護士基準と比べてると金額は少ないですが、慰謝料算出の基本となります。
任意保険基準:運転者が任意で加入することになっている任意保険を基準とするものです。
自賠責保険と違い、内容は保険会社によってまちまちなので、そこから算出される慰謝料もまちまちということになります。
慰謝料の金額は自賠責基準よりは高く、弁護士基準よりは低くなることが大半です。
弁護士基準:過去の判例を基準とするものです。
自賠責基準や任意保険よりも高くなることが大半です。
被害者の立場から見た場合、当然弁護士基準が最も有利な基準と言えます。
しかし、弁護士に依頼して弁護士基準で計算された慰謝料を請求しても、加害者側が同意する可能性は高くありません。
弁護士基準はあくまでも裁判を行った場合の慰謝料の基準であり、示談における慰謝料の基準ではないからです。
実際には弁護士基準を元に計算した金額の80~90%ぐらいで手打ちとなることも少なくありません。
もちろん、相手に誠意が見られないと感じた場合は、それを蹴って裁判を起こしても構いませんが、相応の手間がかかることは覚悟しましょう。
算定基準についてもっと詳しく知りたい方はこちらの記事を併せてお読みください。
慰謝料の内訳
慰謝料はさらに入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3つに分類できます。
【入通院慰謝料】
入通院慰謝料とは、入院・通院して治療を受けたことによる精神的な苦痛に対する慰謝料です。
入院・通院期間が長引くほど金額は大きくなります。
自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準、どの基準を用いても良いですが、金額は当然変わってきます。
例えば、通院のみ6ヶ月の場合、自賠責基準に基づいて計算すれば47.8万円となりますが、弁護士基準だと116万円になります。
同じ交通事故であっても計算基準が変わるだけでこんなにも結果に差が出るのですから、当然弁護士基準を用いて計算すべきです。
【後遺障害慰謝料】
後遺障害慰謝料は、治療を続けても回復が見込めず、症状が固定されてしまった場合=後遺障害が残ってしまった場合に発生する苦痛に対する慰謝料です。
症状固定の目安は事故発生から6ヶ月程度ですが、あまり早い段階で症状固定してしまうと、その後の治療費が受け取れなくなってしまうため注意が必要です。
後遺障害があると認められるためには、診断書をもらった上で、損害料率算出機構の自賠責損害調査事務所の審査を受ける必要があります。
審査の結果後遺障害があると認められた場合は、相手方の保険会社に対して後遺障害慰謝料を請求することができるようになります。
後遺障害の等級は1級(重度)~から14級(軽度)の14段階となっています。
例えば両目の失明は1級、両手指の全損は3級、片手の人差し指、中指、薬指のいずれかの欠損は11級、局部的な神経症状は14級、といった塩梅です。
等級が重度の方が、後遺障害慰謝料も高くなります。
後遺障害慰謝料の基準は以下のようになっています。
等級 | 自賠責基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準 |
第1級 | 1100万円 | 1600万円 | 2800万円 |
第2級 | 958万円 | 1300万円 | 2370万円 |
第3級 | 829万円 | 1100万円 | 1990万円 |
第4級 | 712万円 | 900万円 | 1670万円 |
第5級 | 599万円 | 750万円 | 1400万円 |
第6級 | 498万円 | 600万円 | 1180万円 |
第7級 | 409万円 | 500万円 | 1000万円 |
第8級 | 324万円 | 400万円 | 830万円 |
第9級 | 245万円 | 300万円 | 690万円 |
第10級 | 187万円 | 200万円 | 550万円 |
第11級 | 135万円 | 150万円 | 420万円 |
第12級 | 93万円 | 100万円 | 290万円 |
第13級 | 57万円 | 60万円 | 180万円 |
第14級 | 32万円 | 40万円 | 110万円 |
後遺障害慰謝料は、3つの慰謝料の中でも最も自賠責基準と弁護士基準に差がつきやすいとされています。
正統な慰謝料を勝ち取るためにも、必ず弁護士基準で計算を行いましょう。
【死亡慰謝料】
死亡慰謝料は、その人が死亡したことによって本人及び遺族が被った精神的な苦痛に対する慰謝料です。
本人分の慰謝料
遺族はともかく本人はすでに亡くなっているのですから、精神的な苦痛はもはや発生しないように見えますが、例えば交通事故後ある程度の時間生きていた場合は、その間に精神的な苦痛を感じているはずです。
たとえ即死だった場合でも、事故が起きると全く同時に死亡するということはありえません。事故発生から死亡するまでには何秒か、あるいは何分かの時間があったはずであり、その精神的苦痛を慰謝料として請求できるのです。
最も、本人はすでに亡くなっているため、実際に請求をするのは遺族ということになります。
本人分の慰謝料は自賠責基準では350万円、被害者に被扶養者がいる場合は550万円となっています。
一方、裁判基準では被害者自身が一家の支柱である場合には2800万円、被害者が母親もしくは配偶者の場合は2400万円、その他の場合は2000~2200万円と、かなり差があります。(赤い本より抜粋)。
この金額には、後述する遺族分の慰謝料も含まれていると解釈されています。
遺族分の慰謝料
交通事故で本人が死亡した場合、その遺族が被る精神的苦痛も甚大なことから、遺族固有の慰謝料請求権が認められています。
遺族は原則として父母・配偶者・子のいずれかを指しますが、これらに匹敵するほど親しい関係性があることが明らかな場合は、上記のいずれに該当しなくても請求権が認められることがあります。
自賠責保険では、請求権者が1人である場合は550万円、2人ならば650万円、3人以上ならば750万円となっています。
一方、弁護士基準の場合、前述の本人分の慰謝料に遺族分の慰謝料も含まれていると考えられます。
過失割合が9:1や8:2になった場合とどう変わる?
過失割合が10:0ということになれば(自分の過失割合が0であることを証明できれば)、そうでない場合と比べて受け取れる示談金が多くなります。
だからこそ自身の過失割合が0であると証明することが大事になるわけです。
仮にそれが証明できなくても、8:2になりそうだったのを9:1まで押し込めれば受け取れる示談金は多くなります。
まとめ
- 過失割合とは交通事故当事者の責任の割合
- 過失割合が10:0になる(どちらかに全く過失がないと認められる)ケースはあまり多くない
- 自動車は強者であるため、歩行者と比べて過失割合が大きくなりやすい
- 過失割合0を証明するためにはドライブレコーダーが役に立つ
- 過失割合が0の場合、保険会社が示談に入れないので弁護士を雇うと良い
- 弁護士費用特約をつけていれば弁護士が追加料金無しで雇える
- 相手が高額所得者や若い人だった場合、賠償金額が跳ね上がる
- 慰謝料の基準には自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の3つがある
- 慰謝料はさらに入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料に分けられる
交通事故は運転手が気をつけていれば確実に防げる性質のものではありません。
万が一の際に備えて必ず対人・対物補償無制限の任意保険会社に加入し、なおかつ弁護士費用特約もつけておきましょう。
将来万が一事故に巻き込まれた場合に、自身を守ることができるはずです。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。