交通事故で車が全損した場合には、いくらの賠償金を受け取ることができるの?
全損となった場合には、今まで乗っていた車の時価相場分しか、補償はされないんだ。
そうなの?!
車が乗れなくなったんだから、新車を補償してもらえるんじゃないの?
いやいや、全損した場合でも、新車にする事はできないんだよ。
今回の記事では、全損になってしまった場合の賠償金について、詳しく説明するね!
交通事故に遭うと、自動車が「全損」してしまうことがあります。
全損とはどのような場合で、相手に対してどの程度の賠償金を請求できるのでしょうか?
全損事故の場合になるべく高額な賠償金を受けとるには、「自動車の時価を高めに評価する」ことが重要なポイントです。
また、自分が加入している自動車保険からもらえるお金も忘れてはなりません。
今回は、交通事故で自動車が全損したときに加害者に請求できる保険価額や、自分の自動車保険から受けとれる保険金がどのくらいになるのか、またできるだけ高額な支払いを受ける方法を解説します。
目次
全損事故とは
まずは「全損事故」がどのような交通事故なのか、確認しましょう。
全損事故は、自動車が物理的に破壊されてしまったり、修理費よりも買い換え費用が高額になってしまったりした場合の交通事故(物損)です。
自動車保険では、盗難事故も「全損」扱いとなります。
つまり全損事故となるのは、以下の3種類のケースです。
- 車体が物理的に破壊されて、修理できなくなった
- 車両価格の修理費用が時価よりも高額
- 車が盗難被害に遭って見つからない
全損というと「車が完全に壊れた」イメージですが、実はそれだけではありません。
古くて走行距離の長い車などでは、車の時価が修理費用を下回るケースも多いです。
そのようなときには、わざわざ修理するとかえって損になってしまうので、物理的には使える状態でも「全損」となります。
このように、物理的には利用を継続できるけれど、修理するほどの価値がないので全損扱いにする場合を「経済的全損」と言います。
全損事故扱いとなる基準
全損扱いには基準ってあるの?
その車の時価相場が基準になるんだよ。
全損事故扱いになるかどうかは、以下の基準で判断されます。
- 物理的に修理が可能かどうか
修理が不可能であれば、物理的全損となります。 - 修理費用が車の時価を超えるかどうか
たとえ修理が可能であっても、修理費用が車の時価を超えるならば経済的全損となります。 - 盗まれて帰ってくる見込みがない
この場合も価値が完全に失われるので全損となります。
全損事故で、相手に請求できる賠償金
全損の場合には、車両本体価格以外にも賠償金請求が可能なの?
レッカー代やレンタカー代、車の登録費用なんかも請求可能だよ。
詳しく見てみよう。
全損事故で発生するのは車に関連する「物的損害」です。
賠償については加害者の「対物賠償責任保険」に請求します。
以下では、全損事故で対物保険から支払われる賠償金の種類や金額を確認していきましょう。
車体費用
全損の場合、被害車両が使い物にならなくなるので、車体費用が損害となります。
車体費用は「買い換え費用」と言われることがありますが、実際に新車を買うための金額を全額支払ってもらえるわけではなく、「事故前の車の時価」が上限です。
修理可能で車両時価額が修理費用を下回る場合には全損事故とはならず、修理費用が支払われます。
車体費用を支払ってもらう場合、そのお金で別の車を買い換えることが前提となっているように思われますが、別の車を買うか買わないかは被害者の自由です。
お金だけをもらい、車を買わないという選択肢も可能です。
レッカー代、保管費用
交通事故で車が壊れたら、事故現場からレッカーで運び出し、その後破損車を保管する必要があります。
そのとき発生するレッカー代や保管費用についても、交通事故を原因として発生した費用と言えるので加害者に賠償請求できます。
登録手続き費用、廃車費用
車を購入したら、登録手続きにいろいろな費用がかかりますし、廃車にも費用が発生します。
- 車検の費用
- 車検代行費用
- 車庫証明の費用
- 車庫証明の代行費用
- 納車費用
- 廃車や解体にかかる費用
- 残存車検費用
- 自動車取得税
上記のように、交通事故がなければ不要であった廃車や登録手続きの費用は「交通事故によって発生した損害」と言えるので、加害者に請求可能です。
代車使用料
車が全損すると、買い換えまでの間、車を利用できなくなるので「代車」が必要になるケースがあります。
その場合には、「代車の必要性」が認められれば加害者の保険会社に代車費用を請求できます。
代車費用の計算方法は、レンタカー代を基準とします。
ただし代車費用が支払われる期間には限度があり、だいたい2週間~1か月程度となっています。
車の買い換えに長期間がかかり、保険会社が代車費用の支払いを打ち切ると、その後の代車費用は被害者自身が負担しなければなりません。
このようなとき、相手保険会社と交渉することにより、代車費用の補償期間を延長してもらえる可能性があります。
「会社に通勤するためにどうしても必要」「通院するために車でないと不便」などの日常的に車を必要とする状況であれば、代車使用の必要性を認めてもらいやすいです。
反対に、「趣味で乗るため」などの理由では代車使用の必要性が認められません。
また代車の車種は、事故車と同グレードのものを前提としません。
レンタカーの料金を基準にするとしても、国産車の小型車などの料金を基準にされる可能性が高いです。
かかった代車費用全額の賠償を受けたいのであれば、レンタカー屋で必要最低限のグレードの車を借りましょう。
慰謝料
全損事故の場合、加害者の保険会社に「慰謝料」を請求できないのでしょうか?
実は、基本的に物損事故では「慰謝料」は発生しません。
慰謝料は、交通事故によって受けた精神的苦痛に対する賠償金ですが、車などの「物」が壊れた程度では、金銭的に賠償が必要なほどの精神的苦痛は発生しないと考えられているのです。
このことは、どんなに思い入れの強い車や高級車、レアな車であっても同じことです。
国産車か外車かも関係ありません。
気に入っていた車が全損被害に遭うと、人によっては自分がケガをするよりも精神的にダメージを受けるかもしれませんが、その分の慰謝料請求は認められないと考えましょう。
ただし全損事故に遭って、被害者がケガをしたり死亡したりしていたら、それらの損害についての慰謝料が発生します。
後遺障害が残ったり死亡したりした場合には数千万円単位の慰謝料が発生しますし、減収が発生した分の逸失利益も請求可能です。
また、物損事故であっても大切にしていたペットに重大な後遺障害が残った事案などでは数万円~数十万円程度の慰謝料が認められたケース(裁判例)もあります。
ペットが死傷したら必ず慰謝料を支払ってもらえるという意味ではありませんが、どうしても納得できない場合などには弁護士に相談してみると良いでしょう。
相手に請求できない費用
全損事故では、加害者に請求できない費用があります。
それは以下のようなものです。
- 自動車税
- 自動車重量税
- 自賠責保険料
これらについては、交通事故に遭わなくても「車を所有している限り」支払いが必要です。
そこで「交通事故によって発生した損害」とは言えず、加害者に賠償義務が発生しません。
車の「時価額」の査定方法
車の査定額はどうやって出すの?
レッドブックと呼ばれる専門誌を参考に価格が決まるんだよ。
全損事故の賠償金としては、「車体費用」が大きな割合を占めます。
車体費用は「事故前の車の時価」を基準にしますが、時価額はどのようにして決定されるのでしょうか?
加害者の保険会社が車の時価を算定するときには、ほとんどのケースで「レッドブック」を根拠にします。
レッドブックとは、「オートガイド社」が毎月発行している「自動車価格月報」という雑誌です。
自動車業界や損害保険などのプロを対象とした冊子であり、保険会社はレッドブックに事故車と同等の車の価格が掲載されていたら、必ずと言ってよいほどその金額を提示してきます。
古い車などでレッドブックに記載がない場合には、中古車価格ガイドブック(通称:イエローブック)や財団法人日本自動車査定協会の査定結果、インターネット上で販売されている同車種同走行距離の車の価格などを参考に賠償金額を決められます。
しかしレッドブックに記載されている金額は、多くの場合、現実の中古車市場価格よりも低くなります。
被害者としては、相手の提示してきた金額に「納得できない」と感じるケースが多いです。
レッドブックに記載のない車の場合には、新車価格の10%程度の価格を査定されることもよくあります。
時価額をアップする方法
提示された価格を上げる事ってできるの?
自分で車の中古車価格を調べて提示すると、価格アップが可能だよ。
保険会社がレッドブックなどに記載されている低い金額を提示してきたとき、車体費用の時価額(賠償金額)をアップさせることはできないのでしょうか?
この場合、いくつかの対処方法があります。
自分でネット上の中古車価格を調べて提示する
まずは、被害者自身がネット上の中古車販売サイトを確認し、自分の車と同車種、同走行距離、同グレードの車の販売価格を調べてみる方法があります。
実際に複数の車が相手の提示額よりも高く売られていたら、相手も提示額に固執する根拠がなくなります。
ネットで調べてみると、保険会社の提示金額と比べて5万~10万円程度高くなることもあるので、この一手間を惜しむべきではありません。
このとき、なるべく高額な価格の車を探すことが重要で、かつ複数の事例が必要です。
高額な事例が1つだけだと、相手から「たまたまその車が高額なだけで、相場はレッドブックが正しい」などと反論されてしまう可能性があるためです。
相手の提示額より高額な事例を最低でも5つは探しましょう。
中古車の売り出し情報はどんどん更新されていくので、示談交渉中も何度かネット情報を確認しつつ、より高額な事例を探すべきです。
サイトで「よく似たグレード」「走行距離」「登録年数」の車がヒットしない場合には、Googleなどで直接検索してみるのも1つの方法です。「初年度登録の年 車種 グレード」の情報を入力して探してみましょう。
車検残を考慮してもらう
次に事故車に「車検残」が残っているケースでは、その金額を考慮してもらえることが多いです。
車検には期間が設定されていてまとめて費用を支払っていますが、車検切れと同時に事故に遭うわけではありません。
事故から次の車検までの間の車検残がありますが、交通事故に遭うと、その車検残が無駄になります。
レッドブックに記載してある車体費用にはこうした車検残の費用は考慮されていないので、そのことを保険会社の担当者に告げて交渉をすると、多少上乗せしてもらえるケースがあります。
新車を購入してもらう事は可能か
加害者に新しい車を弁償してもらえる事はできないの?
車の時価価格だけしか補償されないから、新車を購入してもらう事はできないね。
だけど、自分で差額分を支払って新車を購入するのは問題なくできるよ。
全損事故に遭ったとき、加害者の保険会社に「車の買い換え費用」を請求できると言われています。
そこで、「新車への買い換え費用を支払ってもらえる」と考える方がいますが、それは誤りです。
全損事故で払ってもらえる「買い換え費用」は、先ほど紹介した「事故前の車の時価(=車体費用)」が限度となるからです。
事故車の時価が新車価格に足りない場合には、不足分は被害者が自分で用意する必要があります。
たとえば相手から支払を受けられた車体費用(買い換え費用)が100万円で、300万円の新車がほしければ、残りの200万円は自分で払わないといけないということです。
なおその際の車庫証明や登録費用、自動車取得税などは相手に請求可能です。
自分の保険会社から受け取ることができる費用
自分の任意保険ではどんなオプションをつけていれば、全損に対応してもらえるの?
車両保険に入っていると、全損の場合には、補償を受けることが可能だよ。
全損事故に遭った場合、加害者の保険会社だけではなく自分が加入している自動車保険からも保険金を受け取れるケースがあります。
以下で、順番にご紹介します。
車両保険
車両保険とは
1つは「車両保険」です。
車両保険は、自分の車が破損したときに適用される保険です。
全損の場合、同車種の中古車を購入した場合に必要な市場価格(事故車の事故前の時価)をもとにして、全額の支払いを受けられます。
また、全損のケースでは、車両保険の基本の補償金額だけではなく、それに10%~20%程度上乗せした「臨時費用保険金」の支払いを受けられることが多いです。
臨時費用保険金の金額や計算方法は、自動車保険の契約内容で定まっています。
どのような取り決めになっているのか不明な場合、加入している保険会社に尋ねてみると良いでしょう。
さらにレッカー代や保管費用等も車両保険から出してもらえます。
車両保険が有効なケース
車両保険が特に有効なのは、以下のようなケースです。
- 事故の相手がいない自損事故の場合
自損事故の場合には加害者がいないので、加害者の保険会社から車体の時価や買い換え諸費用の支払いを受けることができません。
そこで車両保険を使い、車体費用の支払いだけでも受けるメリットが大きくなります。
- 被害者の過失割合が高い場合
物損事故でも被害者の過失割合が高いと、その分過失相殺によって賠償金が減額されます。
たとえば被害者の過失割合が40%の場合、時価額の60%の支払いしか受けられません。
このようなとき、車両保険であれば、過失割合に関係なく支払いを受けられるので、メリットが大きくなります。
車両保険の注意点
車両保険を利用するときには、1点注意すべきことがあります。
それは保険の等級が下がることです。
だいたい3等級下がることが多いので、次年度からの保険料が高くなります。
また「免責額」が設定されていて、5万円までは補償を受けられないことも多いです。
たとえば車の時価が20万円の場合、5万円を差し引いた15万円しか支払ってもらえないことになります。
そうなると、車両の時価額が低い場合には、あえて車両保険を利用しない方が得になる可能性も出てきます。
新車特約
車両保険には「新車特約」をつけることが可能です。
新車特約とは、車の時価ではなく「新車購入費用」の支払いを受けられる保険特約です。
限度額はありますが、その範囲であれば新車を購入するための費用が全額支払われます。
また、新車購入の際に必要になる登録費用についても、セットで支払いを受けられるケースが多いです。
そのお金のことを「登録諸費用保険金」と言います。
買替時諸費用特約
車両保険に「買替時諸費用特約」という特約をつけているケースもあります。
これは、車の買い替えをするときに必要な諸経費の補償を受けられるものです。
認められる買い替え費用は、車両保険満額の15%に相当する金額で、上限は40万円となっています。
全損超過修理特約(車両超過修理費用特約)
さらに「全損超過修理特約(車両超過修理費用特約)」という特約もあります。
これは、経済的全損のケースで、時価額よりも高額な修理費用が発生するケースで利用できる特約です。
車両保険の金額にプラスして、30万円~50万円の修理代を支払ってもらうことが可能です。
ただしこの特約を適用するには、実際に車を修理する必要があります。
修理を前提にお金だけをもらうことはできません。
代車費用特約
全損事故に遭うと、必ずしも加害者の保険会社から全額の代車費用を支払ってもらえるとは限りませんし、自損事故の場合には、加害者が代車費用を負担してくれません。
そのようなとき「代車費用特約」をつけていれば、修理や買い換えのために車を使えない期間のレンタカー代を保険から支払ってもらえます。
1日のレンタカー代には上限がもうけられており、代車使用期間は30日間とされていることが多いです。
また、保険会社によっては「レッカーによって搬送したときのみ」などの条件がついていることもあるので、契約内容をしっかり確認しておきましょう。
まとめ
全損で受け取れる賠償金額は、自分が乗っていた車によって変わってくるんだね。
物損事故の場合、多くの人が相手の保険会社から提示された金額で示談を交わしているんだ。
だけど、物損でも賠償金のアップは可能なわけだから、中古車の情報をしっかりと収集して、受け取れる賠償金アップを目指そう。
今回は、全損事故で支払いを受けられる補償内容について解説しました。
全損でも、必ずしも新車買い換え費用が認められるわけではありません。
また、車体費用の評価について、加害者の保険会社との間でもめてしまうケースも多いです。
お困りの際には、交通事故トラブルに注力している弁護士に相談してみることをお勧めします。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。