今回の記事では、妊婦が交通事故に遭ってしまった時の注意点や、慰謝料について、詳しく説明するよ。
目次
妊婦が交通事故に遭ってしまった場合には
必ず受診する
交通事故に遭った場合、傷害の部位によって病院を受診をします(骨折等なら整形外科、頭部を負傷しているのであれば脳外科)が、被害者の方が妊娠をしている場合には、必ず、産婦人科も受診してください。
なお、妊娠している可能性がある場合にも、同様に、産婦人科を受診することをお勧めします。
出産するまで示談はしない
妊娠中に交通事故に遭った場合、胎児や生まれてくる子どもに影響がある可能性があります。
そのことを考えると、被害者自身の傷害が治癒したり、症状固定となったとしても、子どもを出産するまでは示談をしない方が良いでしょう。
示談の仕方によっては、示談成立後も胎児や生まれてくる子どもの後遺障害等について、損害賠償請求ができますが、やはり、子どもの損害も確定した後に示談をする方が良いと考えられます。
休業損害の請求を検討した方が良い
妊婦の方も産休前には仕事をしている場合もありますし、主婦として家事をしている場合もあります。
仮に、交通事故によって仕事を休業したり、主婦としての家事に支障が出た場合には、加害者に対して、休業損害を請求することができます。
なお、主婦としての家事に支障が出た場合には、賃金センサス(毎年、厚生労働省が発表している賃金に関する統計です。)を基に算出します。
また、当初予定していた産休を早めた場合には、交通事故によって負った傷害と産休を早めたこととの因果関係や産休中に手当等をもらえる場合(会社ごとに異なります。)の損益相殺(実質的に、産休中の手当と休業損害の二重取りはできないので、そのことを調整するとお考え下さい。)も問題となるかと思いますが、交通事故による傷害によって安静にせざるを得ず、産休の取得を早めたといった場合には、一定程度の休業損害が認められると考えられます。
妊婦が交通事故に遭ったことによって受け取れる慰謝料
入通院慰謝料
妊婦以外の方と同様に入通院慰謝料をもらえる
妊婦が交通事故に遭った場合も、妊婦以外の方と同様、入通院慰謝料をもらうことができます。
慰謝料の基準としては、公益財団法人日弁連交通事故相談センターが発刊している赤い本が参考となり、入通院期間が長期化すれば、その分、慰謝料額は高額となる傾向にあります。
赤い本では、傷害の内容によって、別表Ⅰと別表Ⅱに分けて、入院期間・通院期間に応じて慰謝料を算出できるようになっています。
なお、赤い本は、裁判所も参考にしていますので、慰謝料算出の基準としては、大分信頼性の高いものとなっています。
妊婦特有の問題
治療方法について主治医とよく相談を
レントゲンやCTなどで用いられるX線検査の被ばくを気にされる方もいらっしゃるかと思います。
また、妊娠中ということで、強い薬を飲まれることを躊躇する方もいらっしゃるかと思います。
治療方法と胎児への影響については、ケースバイケースですし、治療の頻度や程度によっても異なるかと思います。
この点については、主治医とよく相談をして決められた方が良いと思います。
ただ、中には、妊娠をしていたために、最初の救急搬送をされた後、早期に治療を止めてしまったという方もいらっしゃいました。
治療を止めることについては、ご自身の判断ですので、それについては何もいえることはないのですが、交通事故の賠償の観点のみからいうと、症状が残っているにもかかわらず、治療を止めてしまうことは、適正な賠償を受けられないことにつながりかねないことですので、ご注意いただきたいと思います。
切迫早産等の危険性の考慮
最初に、早産、切迫早産とはどのようなことなのかを確認しましょう。
早産とは、正期産(妊娠37週0日から妊娠41週6日までの出産)より前の出産のことをいいます。
日本では、妊娠22週0日から妊娠36週6日までの出産を早産と呼び、妊娠22週未満の出産を流産と呼んでいます。
切迫早産とは、早産となる可能性が高いと考えられる状態、つまり、早産の一歩手前の状態のことをいいます。
交通事故によって、切迫早産となった場合(交通事故と切迫早産との間に因果関係がある場合)、医師からは安静にするように指示されることがありますし、場合によっては、入院等を指示されることがあります。
そのような場合、産婦人科への入院についても、入院通院慰謝料の対象となり得ます。
流産・死産となった場合の慰謝料
死産とは、妊娠12週以降に死んだ胎児を出産することをいいます。
上記で述べた流産(妊娠22週未満の出産)とも一部重複する概念となります。
不幸なことに、流産・死産となった場合、慰謝料はどのように評価されるのでしょうか。
胎児は、出生しなければ法律上、人と評価されません。
実務上は、流産・死産は、母親の慰謝料として評価されることが多いです。
過去の裁判例を見ると、
- 出産予定日4日前に胎児が死亡した事案について、胎児の母親に800万円の慰謝料を認めた事案(高松高等裁判所平成4年9月17日判決)
- 交通事故の衝撃によって妊娠2か月の状態で流産したことについて150万円の慰謝料を認めた事案(大阪地方裁判所平成8年5月31日判決)
- 交通事故によって妊娠18週の胎児が死産したことについて慰謝料として350万円を認めた事案(大阪地方裁判所平成13年9月21日判決)
- 交通事故による流産(妊娠12週未満)や救護義務違反等を考慮して慰謝料200万円を認めた事案(大阪地方裁判所平成18年2月23日判決)
などがあります。
流産・死産の原因は様々なことがあると考えられており、交通事故に遭ったからといって、必ず、交通事故が流産・死産の原因であると認定されるわけではありません。
過去の裁判例でも、流産・死産と交通事故との間の因果関係は争われています。
ただ、過去の裁判例の内容を見ると、交通事故の発生によって、シートベルト等が腹部を締め付けたことや他に流産・死産するような原因が見当たらないといったことを考慮して、流産・死産と交通事故との間の因果関係を肯定しているように思われます(医師が流産・死産と交通事故との間の因果関係を断定できない事案においても、流産・死産と交通事故との間の因果関係を肯定している事案もあります。)。
また、慰謝料額については、妊娠してからの期間(胎児の成長具合)、再度妊娠を希望しているか、初産であるか、母親の年齢等といった事情を考慮して決めているようです。
後遺障害慰謝料
妊婦も妊婦以外の方と同様、交通事故によって後遺障害が残存すれば、後遺障害の等級に応じて後遺障害慰謝料を請求することができます。
ちなみに、赤い本における後遺障害慰謝料は次のとおりです。
後遺障害等級 |
慰謝料額 |
後遺障害等級 |
慰謝料額 |
1級 |
2800万円 |
8級 |
830万円 |
2級 |
2370万円 |
9級 |
690万円 |
3級 |
1990万円 |
10級 |
550万円 |
4級 |
1670万円 |
11級 |
420万円 |
5級 |
1400万円 |
12級 |
290万円 |
6級 |
1180万円 |
13級 |
180万円 |
7級 |
1000万円 |
14級 |
110万円 |
死亡慰謝料
妊婦も妊婦以外の方と同様、交通事故によって死亡した場合、死亡慰謝料を請求することができます。
ちなみに、赤い本における死亡慰謝料は次のとおりです。
立場 |
慰謝料額 |
被害者が一家の支柱の場合 |
2800万円 |
被害者が母親又は配偶者の場合 |
2500万円 |
被害者が上記以外の場合 |
2000万円から2500万円 |
生まれてきた子どもが請求できる慰謝料は
傷害慰謝料
上記で述べたとおり、日本の法律上、出生しなければ人と評価されません。
出生後、交通事故を原因とする傷害によって子どもを治療しなければならない場合には、治療に要した治療費等を請求することもできますし、入通院に応じた入通院慰謝料を請求することもできます。
入通院慰謝料については、赤い本の別表Ⅰや別表Ⅱを参考とすることは、出生した子どもに関しても同じです。
なお、出生した子どもの傷害と交通事故との間の因果関係が認められなければなりませんし、その点は問題になることが多いと考えていただいた方が良いと思います。
後遺障害慰謝料
出生後、子どもに後遺障害が残存した場合、後遺障害慰謝料を請求することができます。
残存した後遺障害の等級に応じて、上記で記載した後遺障害慰謝料を請求することができます。
なお、後遺障害についても、傷害と同様、交通事故との間の因果関係が認められなければなりませんし、その点は問題になることが多いと考えていただいた方が良いと思います。
妊娠中の交通事故による示談を有利に進めるためには
妊娠中の交通事故による示談を有利に進めるためには、今まで述べてきたことを意識していただいた方が良いと思います。
具体的には、
- 交通事故に遭ったら必ず産婦人科を受診する
- 出産するまでは示談をしない、
- 胎児・子どものことは交通事故との間の因果関係が問題となることを意識する(流産・死産の原因究明。胎児や出生後の子どもに関する早期の検査等)
といった点を意識していただいた方が良いかと思います。
また、弁護士に相談することによって、結果的に損害賠償額が上がる可能性が高まりますし、精神的な負担を軽減できると思いますので、弁護士に相談することもお勧めします。
阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。