今回の記事では、交通事故で多い怪我や、その怪我で受け取れる慰謝料の相場、後遺障害等級は何級を取得できるのかについて、詳しく見ていこう。
交通事故で多い類型・怪我とは
最も多い事故類型は追突
公益財団法人交通事故総合分析センターが毎年、「交通統計」を発表しており、それによると、最も多い事故類型は追突です。
追突の原因としては、前方不注視(よく前を見ていなかった、わき見運転をしていた等)や居眠り・飲酒・急病といったことが挙げられますが、このような最も単純ともいえる事故類型が最も多いです。
実務的に見ていても、赤信号で停止しているところに追突された、高速道路上で渋滞中に追突されたといった事案をよく目にします。
最も多い怪我は、いわゆる「むち打ち」
交通事故によって最も多い怪我は、いわゆる「むち打ち」です。
ただし、「むち打ち」というのは、正式な名称ではなく、病院では、「外傷性頸部症候群」、「頸椎捻挫」、「頸部挫傷」といった内容で診断されます。
症状も様々で、
- 首、頭、腕の痛み
- 首、肩、背中の凝り
- 首を動かせない、動かすと痛い
- めまい、目のかすみ
- 吐き気
- 頭痛
- 手や指先のしびれ
- 耳鳴り
といった症状が出るとされています。
被害者によっては、気温や気圧によって症状が変わる(気温が低い場合や低気圧の場合には、症状が悪化する。)という方もいます。
他にどのような怪我が多いのか
その他にも、ダッシュボードやフロントガラスに体をぶつけてしまうような事故も多く発生しているんだ。
腕や手の怪我も多い
交通事故によって、怪我をする部位としては腕や手も多いです。
腕や手の怪我は2番目に多いとも言われているようです。
もちろん、腕や手は、車両やバイクのハンドルを握っている部位ですので、交通事故で衝撃を受けた際に腕や手を怪我するということがあり得ます。
また、車両内で何らかの衝撃を感じた場合にとっさに頭や顔を庇うために腕や手で覆うことによって腕や手を怪我するといったこともあると思います。
加えて、バイクなどを運転していて交通事故に遭った場合には、他の部位を庇うためにとっさに手で衝撃を和らげようとして腕や手を怪我するということもあると思います。
腕や手の怪我の種類としては、骨折や脱臼、捻挫といったものが多いです。
骨折は、骨が壊れることを意味します。
皆さんが骨折と言われて想像する骨がぽっきりと折れている状態は、もちろん、骨折ですが、ひびが入ったり、一部が欠けたりすることも骨折といいます。
脱臼は、関節を形成している骨が完全に離れた状態のことをいいます。
ちなみに、亜脱臼は、関節の骨の位置が部分的にずれた状態のことです。
捻挫は、関節にかかった外部的な力によって関節を支えている靭帯や関節包が損傷することをいいます。
意外に多いのがダッシュボード・インストルメントパネルに関連する外傷
車両の前部には、車両の計器が収納されているインストルメントパネルや物を収納するダッシュボード(人によって、用語の使い方は異なるかとは思いますが。)があります。
交通事故が発生した場合、狭い車内で車内の様々なところに体をぶつけるということがあり得ます。
追突によって、ハンドルやインストルメントパネルに顔面や太もも部分をぶつける、ダッシュボードに顔面や太もも部分をぶつけるといった事故が発生します。
顔面の裂傷、鼻骨の骨折といった怪我もありますし、ひどい場合には、大腿骨骨折や寛骨臼の骨折、股関節の脱臼などを引き起こすことがあります。
簡単にいえば、交通事故の衝撃で太もも等が勢いよくダッシュボード等に当たり、その衝撃が股関節や腰にまで来るという感じです(ダッシュボードを突き破れればいいのでしょうが、人の体でダッシュボードを突き破れるわけもなく、その衝撃が体に跳ね返るという感じです。)。
フロントガラスを割ってしまう場合も
交通事故の衝撃によってフロントガラスに顔面や頭部を打ち付けてしまうという交通事故も発生します。
きちんとシートベルトを締めていれば起こりにくいのですが、子どもが車内で座っていてシートベルトが体に合っていない場合や、そもそもシートベルトを締めていない場合(後部座席のシートベルト着用は法律上、義務化されていますが、締めていない方もいらっしゃるかもしれません。)などは、交通事故の衝撃で体が吹き飛び、フロントガラスに接触して割ってしまうということが起きます。
なお、フロントガラスに衝突して車内に留まればまだ良いのですが、車外に飛び出してしまった場合は、二次的な被害に遭う(対向車に轢かれる等)こともあり得るところです。
症状別にみる認定される可能性のある後遺障害、慰謝料の相場
腕の怪我やダッシュボード、フロントガラスにぶつけたことへの外傷による怪我も同様、後遺障害等級が高くなれば、それだけ多くの慰謝料を受け取ることができるよ。
注意が必要な後遺症として、顔に傷跡が残ってしまった場合には、逸失利益は受け取れず、その分、後遺障害慰謝料を通常よりも増額できるという事を覚えておこう。
いわゆるむち打ちで受け取れる慰謝料
いわゆるむち打ちで通院等をした場合、通院日数や通院期間に応じて、通院慰謝料をもらうことができます。
通院慰謝料の目安は、『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(実務上では、赤い本と呼ばれています。)でも示されており、いわゆるむち打ちの場合には、入通院慰謝料の表のうち別表Ⅱを使用します。
あくまで例ですが、仮に、いわゆるむち打ちで6か月通院した場合、同別表Ⅱによると、通院慰謝料は89万円となります。
いわゆるむち打ちで認められる可能性のある後遺障害、後遺障害慰謝料は
いわゆるむち打ちでも、後遺障害が認定される可能性はあります。
いわゆるむち打ちの場合、手や指に神経症状(痺れ等)が残ることがあり、当該神経症状は、自動車損害賠償保障法施行令の別表第2の第14級9号又は第12級13号に該当するということがあります。
実務的にも、いわゆるむち打ちで別表第2の第14級9号に認定されるということは結構あります。
別表第2の第14級9号は「局部に神経症状を残すもの」で、同第12級13号は「局部に頑固な神経症状を残すもの」とされています。
『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(赤い本)には、後遺障害慰謝料の目安も記載されており、同第14級9号の場合には後遺障害慰謝料として110万円、同第12級13号の場合には後遺障害慰謝料として290万円が認められるとされています。
腕や手の怪我で受け取れる慰謝料
腕や手の怪我の場合も、『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(赤い本)に記載されている入通院慰謝料の表を参考にします。
腕や手の怪我が骨折といった場合(他覚的所見がある場合)は、入通院慰謝料の表のうち別表Ⅰを使用します。
あくまで例ですが、仮に、腕の骨折によって6か月通院した場合、同別表Ⅰによると、通院慰謝料は116万円となります。
腕や手の怪我で認められる可能性のある後遺障害は、後遺障害慰謝料は
腕や手の怪我によって認められる後遺障害は様々です。
いわゆるむち打ちで認められる可能性のある後遺障害でも紹介した自動車損害賠償保障法施行令の別表第2の第14級9号又は第12級13号に該当するということもあります。
その他に、例えば、
- 「1手のおや指以外の手指の指骨の一部を失った」場合には同第14級6
- 「1手のこ指の用を廃した」場合には同第13級6号に
- 「1上肢の3大関節の1関節の機能に障害を残す」場合には同第12級6号
- 「1上肢をひじ関節以上で失った」場合には同第4級4号
- 「両手の手指の全部を失った」場合には同3級5号
に該当し得るといったことになります。
もちろん、今挙げた例以外にも、指、関節(関節の可動域を含みます。)等を基準に腕や手に関する多くの後遺障害の等級があります。
後遺障害の慰謝料は、等級ごとに定められているものですので、級の部分が同じであれば、基本的には後遺障害慰謝料は同額となります。
ちなみに、『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(赤い本)で定められている同4級の後遺障害慰謝料は1670万円、同3級の後遺障害慰謝料は1990万円となっています。
ダッシュボードやフロントガラスを割ったこと等による外傷で認められる可能性のある後遺障害は、後遺障害慰謝料は
ダッシュボードやフロントガラスに接触したことによって外傷を負った場合の入通院慰謝料については、基本的に今まで紹介してきたとおりです。
他覚的な所見がある場合には、『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(赤い本)に記載されている入通院慰謝料の表のうち別表Ⅰで算出されます。
後遺障害については、脚や股関節についても、腕や手同様に様々な後遺障害が準備されています。
この項では、一つだけ、顔面の醜状痕について触れておきたいと思います。
醜状痕は、その文字のとおり、外傷等によってケロイド等が残ってしまうことをいいます。
例えば、「外貌に醜状を残す」場合には、自動車損害賠償保障法施行令の別表第2の第12級14号に、「外貌に相当程度の醜状を残す」場合には同9級16号に該当し得るといったことになります。
『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(赤い本)で定められている同9級の後遺障害慰謝料は690万円です。
ただし、後遺障害として醜状痕が残った場合、醜状痕は労働能力を喪失しない(つまり、将来の収入の減額分である逸失利益を賠償してもらえない)と評価される可能性があることもあり、後遺障害慰謝料が目安どおりではなく、目安よりも少し高くなるという可能性があります。
なお、後遺障害とまでは評価できない醜状痕が残った場合においても、後遺障害慰謝料に準じて慰謝料が認められた事案もあります。
頭部外傷によって重い症状が残った場合には
交通事故による頭部外傷によって、重い症状が残った場合には、自動車損害賠償保障法施行令の別表第1の後遺障害に該当する可能性があります。
同別表の第1の後遺障害は、介護を要する後遺障害として整理されており、労働能力喪失率は100%、交通事故以後、一切、働くことはできないと評価されるほど重い症状です。
同別表の第1の後遺障害は、第1級と第2級のみで、頭部外傷によって引き起こされる可能性があるものは、同第1級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」及び同第2級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」があります。
同第1級1号の典型例は、遷延性意識障害の状態でしょう。
阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。